胃と腸 39巻10号 (2004年9月)

今月の主題 大腸sm癌の深達度診断―垂直浸潤1,000μm

序説

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はじめに

 大腸の粘膜下層浸潤癌(以下,sm癌)のうち,どのような状態のsm癌であれば内視鏡切除が可能か,または内視鏡切除された大腸癌のうち,どのような状態のsm癌であれば外科追加切除の必要性はないのか,という課題は長きにわたって病理形態学的見地から検討されてきた.種々の病理形態学的因子のうち,最もわかりやすく,単純な因子として,sm垂直浸潤長(距離)が有用であることが明らかになってきた.

 すなわち,“粘膜筋板下端からのsm垂直浸潤長が1mm(1,000μm)未満のsm癌で,リンパ管や血管浸潤が陰性の癌”は内視鏡切除の適応であり,内視鏡切除された同様のsm癌は追加外科切除が不要であろうとの意見が病理側から提示され,それが次第に賛同を得つつある.

 このような背景から本号ではsm垂直浸潤長が1mmまでのsm癌について,その術前診断の現況,効率の良い診断体系,診断精度向上のための問題点を明らかにし,日常診療の中で,大腸sm癌の内視鏡治療と外科手術の適応を効率よく鑑別することを目的としている.

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要旨 大腸癌研究会sm癌取り扱いプロジェクト研究委員会では,多施設から集積された腸管切除大腸sm癌865例を対象に,sm浸潤度判定を含めた臨床病理学的因子とリンパ節転移の関係を解析した.その中で,浸潤度判定については,粘膜筋板からのsm浸潤距離による絶対分類で表現したが,粘膜筋板が想定不可能な場合は,非有茎型sm癌では病変の表層から測定し,有茎型sm癌の場合は基準線を設定したうえで測定した.その結果,非有茎型sm癌では,sm浸潤距離1,000μm未満,有茎型sm癌では,リンパ管侵襲陰性である頭部限局(head invasion)例にはリンパ節転移を認めなかった.この条件を満たす大腸sm癌は,局所切除術により根治が可能であることが示唆された.

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要旨 注腸X線検査で大腸粘膜下層(sm)への相対的な深い癌浸潤(相対分類のsm2,3に相当)を認めた病変に特異的に出現するX線学的伸展不良所見が,垂直浸潤距離1,000μmを臨床的に区別できる所見になりうるか否かを知るために垂直浸潤距離1,000μmに対する伸展不良所見の診断精度を検討した.結果,垂直浸潤距離1,000μm以上の深い浸潤を診断する際の X線学的伸展不良所見の診断精度は,隆起型:感度77%,特異度100%,陽性的中度100%,表面型:感度79%,特異度100%,陽性的中度100%だった.X線学的伸展不良所見は,垂直浸潤距離1,000μm以上の深い浸潤のsm癌を診断できる臨床的指標になると考えられた.そして,X線学的伸展不良所見で垂直浸潤距離1,000μm以上の深い浸潤を診断する際と相対分類のsm2,3を診断する際の診断精度に違いがあるか否かを知るために,両診断精度を比較検討した.結果,隆起型,表面型ともに差を認めなかった.X線学的伸展不良所見を指標として垂直浸潤距離1,000μm以上の深い浸潤を診断する場合,従来どおり相対分類を指標とした診断を行えばよいと思われた.

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要旨 大腸sm癌に対する新しい内視鏡的根治基準として大腸癌研究会におけるsm癌取り扱いプロジェクト研究委員会から提唱された“sm垂直浸潤距離1,000μm未満で脈管侵襲を認めない病変”との試案に従って,sm浸潤距離の測定が可能であった290病変について通常内視鏡によるsm浸潤距離1,000μmの診断精度を検討した.隆起型sm癌156病変においてsm浸潤距離1,000μm以上の病変で出現する通常内視鏡所見は,①陥凹を認める,②緊満所見を認める,③立ち上がりが正常粘膜(Is 型)であり,Ip・Isp型では62.3%,Is型では80.5%でsm浸潤距離1,000μmの鑑別が可能であった.表面型134病変のうち,表面隆起型では,①皺襞集中を認める,②緊満所見を認める,でsm浸潤距離1,000μmの診断精度は76.9%,表面陥凹型では,①緊満所見を認める,②深い陥凹,③陥凹底に凹凸を認める,で診断精度は84.1%であった.現状では sm浸潤距離1,000μmの鑑別は通常内視鏡のみでは不十分と考えられ,正確な診断には所見の再検討または他の検査の付加が必要と考えられた.

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要旨 拡大内視鏡を用いたpit pattern診断によって内視鏡診断は病理組織診に近づいてきた.また内視鏡治療の機器,技術の進歩に伴い内視鏡治療の適応範囲を決めることがますます重要になってきている.われわれの施設では工藤らの相対分類を用いて良い成績をあげているが,今回は大腸癌取扱い規約に今後掲載予定となっている垂直浸潤距離1,000μmという基準について拡大内視鏡の視点から検討した.結果,平坦型および陥凹型についてはVN pit pattern が垂直浸潤距離1,000μm以上のsm癌の指標になると思われたが,隆起型の病変についてはVN pit patternではない病変でも1,000μmを超えて浸潤しているものが多数認められたためVI型の中でsm深部浸潤している病変の指標については今後検討を続けていく必要があると思われた.

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要旨 隆起型早期大腸癌210病変,表面型早期大腸癌188病変,結節集簇型早期大腸癌84病変を対象に,sm浸潤実測値1,000μm以深に浸潤した大腸sm癌の内視鏡的浸潤度診断指標について,拡大内視鏡所見を中心に検討した.VN型 pit の定義は「箱根コンセンサス」に基づき,明らかな無構造領域を呈するものとした.VN型pit,VI型pit,Non-V型pitによるsm浸潤実測値1,000μm以深癌の診断能は,肉眼型に関係なく,VN型pitはVI型pit,Non-V型pitに比べ有意に高かった.VN型pitによるsm浸潤実測値1,000μm以深癌の感度・特異度は,隆起型で感度88.9%,特異度96.7%,表面型で感度92.3%,特異度96.9%,結節集簇型で感度96.4%,特異度100%であった.通常内視鏡有意所見2項目以上の拾い上げによる通常観察と VN型pitを指標とした拡大観察によるsm浸潤実測値1,000μm以深癌の診断能の比較検討では,いずれの肉眼型においても,通常観察よりもVN型pitによる拡大観察の診断能が有意に高かった.

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要旨 早期大腸癌146病変(m癌76病変,sm癌70病変)を対象とし,sm浸潤距離1,000μm未満・以深の鑑別に関するEUSの深達度診断精度について検討した.病変描出率は隆起型77%,表面型90%,EUS描出例での深達度正診率はそれぞれ83%,93%,描出不能例を含めた場合63%,84%といずれも表面型で高率であった.EUS像から計測したsm浸潤距離(n=30)は組織浸潤距離との間に有意な正の相関を認めた(R=0.764,p<0.0001).EUS像で第2層下縁が描出可能であったものは6病変(20%)で,うち5病変の組織像は粘膜筋板が比較的保たれ,筋板最下端よりの距離計測が可能であった.しかし,いずれも腫瘍エコー内に筋板と思われる層構造を認識することは困難であった.1,000μm未満・以深の浸潤の鑑別は特に表面型で高率に行えるが,実際の臨床の場でEUSによる浸潤距離計測を内視鏡治療の適応決定に活用するにはEUS空間分解能の更なる向上が必要と考える.

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要旨 早期大腸癌の深達度診断における通常内視鏡,拡大内視鏡,超音波内視鏡の効率的な組み合わせによる診断法の確立を目的として,各検査法での肉眼型別(隆起型,表面型)の深達度診断能とその特徴を検討した.①診断不能病変はいずれの形態においても超音波内視鏡に多くみられた.②診断不能病変を含めた深達度診断能は,隆起型では通常内視鏡は全体正診率,深達度1,000μm以上診断の特異度,陽性的中率が高く,拡大内視鏡は感度が高く,超音波内視鏡はいずれも劣っていた.表面型では全体正診率は圧倒的に通常内視鏡が高く,拡大内視鏡は深達度1,000μm以上診断の特異度,陽性的中率が低く,超音波内視鏡は感度,陽性的中率が低かった.以上の結果をもとにより正確で効率の良い検査のフローチャートを作成し,これに沿って検査を進め治療を行ったと仮定すると,誤治療率は隆起型11.6%,表面型4.8%であり,いずれも通常内視鏡のみで診断した場合の誤治療率(隆起型20.9%,表面型7.1%)より低かった.

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要旨 患者は60歳,女性.便潜血陽性にて大腸内視鏡検査を行い,全大腸に12個のポリープを指摘された.上行結腸の25mm大IIa病変は,生検にてmetaplastic polyp(MP)に高分化型腺癌を合併していた.一部に粘膜下隆起を認めたが,smの確定診断が得られなかったため,切開剥離でのEMRを施行した.組織所見はcancer in MPで深達度sm2,sm浸潤部で中~低分化型に変化していた.追加切除を施行し,癌の遺残はなく,リンパ節転移陰性であった.その他の11個のポリープのうち,3個に粘膜内癌を認め,hyperplastic polyposisの定義に合致する症例であった.

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要旨 症例は51歳,男性.主訴は下痢,便潜血反応陽性であった.大腸内視鏡検査にてS状結腸に管腔の約2/3周を占めるIIa型病変を認めた.通常内視鏡検査では病変中央に周囲よりやや丈の高い部分が存在したが,腫瘍の表面構造はほぼ保たれており,明らかなsm深部浸潤を疑う所見は認めなかった.注腸X線検査でも明らかな浸潤所見はみられなかった.しかし,超音波内視鏡検査にて病変中央部のやや隆起した部分に一致して腫瘍最深部が第4層に接しており深達度 sm3と診断した.腹腔鏡下腸切除術を施行し,病理組織結果は高分化型腺癌,深達度 sm3(垂直浸潤距離3,000μm),ly1,v0,n(-)であった.本例は通常内視鏡観察でsm深部浸潤を疑う所見が乏しく,sm浅層までの病変と考えられたが,超音波内視鏡にて深達度sm3と確診しえた.

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要旨 患者は59歳,男性.大腸ポリペクトミー後の経過観察にて直腸病変を指摘された.大腸内視鏡にて直腸S状部に10mm大の境界明瞭な陥凹性病変を認めた.肛門側には辺縁隆起を伴い,陥凹内部にさらに一段深い陥凹を認めた.拡大内視鏡では陥凹内部はVI型,一段深い陥凹部はVN型を呈し,藤井らのInvasive patternと診断した.術前深達度SM2と診断の上,腹腔鏡補助下高位前方切除術を施行した.病理診断は高異型度高分化~中分化腺癌,深達度m,ly0,v0,n(-)であった.VN型を呈した理由として同部は中分化腺癌から構成され,表層は被覆上皮が脱落し,びらんを形成していたためと考えられた.

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要旨 患者は76歳,女性.下部消化管内視鏡検査でS状結腸に径1.5cmの無茎性隆起を認めた.隆起表面に易出血性の陥凹面を認めたことからsm浸潤癌を疑い高周波超音波細径プローブ検査(HFUP)を行った.HFUPで病変は第1層から第3層深部に達する低エコー領域として描出され,内部エコーは不均一で最深部および辺縁部にcystic echoを示す部分が認められた.深達度sm3,sm垂直浸潤距離2,600μm,一部にmucinous componentを有する浸潤癌と診断した.病理組織学的には,大部分が粘膜内にとどまる高分化型腺癌で,ごく一部でsm微小浸潤を認めるのみであった(sm垂直浸潤距離100μm).粘膜下層に著明な血管増生および線維化を認めたことから,HFUPではこれらの組織所見を癌浸潤と見誤ったものと考えられた.今後,内視鏡治療の適応基準をsm垂直浸潤距離1,000μmへと拡大するにあたって,より精度の高い深達度診断が要求されるなか,本症例のように線維化を伴う例にどのように対応していくかが今後の課題であると考えられた.

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要旨 深達度を過大評価したS状結腸のIIa+IIc型腫瘍症例を供覧する.通常内視鏡所見で深い陥凹および不自然なひだ集中が認められたこと,超音波内視鏡検査で第3層の菲薄化所見が認められたことから粘膜下層深層までの浸潤を疑った.EMRを試みたがnon-lifting sign陽性であったため外科的切除を行った.組織学的検査の結果,深達度mの高分化型腺癌であった.拡大内視鏡では粘膜下層深層への浸潤を示唆する所見はなく,通常内視鏡および超音波内視鏡所見で粘膜下層深層への浸潤を示唆する所見が認められた原因は,腫瘍直下粘膜下層の線維化であると考えられた.

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欧文目次

編集後記 八尾 隆史
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 主題の喜多嶋論文で記載されているように,大腸研究会の sm 癌取り扱いプロジェクト研究において,非有茎型の場合リンパ管浸潤の有無にかかわらず深達度が垂直浸潤距離 1,000μm 以下の sm 癌ではリンパ節転移を認めないという結果が得られた.多施設から収集した材料をもとにプロジェクト研究が行われこのような結果が得られことに大変意義があり,sm 癌の取り扱いに有用な指標が示された.ただし,この 1,000μm という距離が切除前に診断可能かということが最も大きな疑問であった.いくら有用な基準値であっても切除前に診断できないとなると,深達度診断は切除可能かどうかさえ判断できればあとは内視鏡切除後の病理検索に基づき治療方針を決めればよいということになりかねない.

 今回のそれぞれの解析で少なくとも 70 % 以上,施設あるいは診断方法によっては約 90 % の症例で深達度 1,000μm 以上の診断が可能であるという結果が得られ,病理学的解析により得られた“sm 深達度 : 垂直浸潤 1,000μm"が臨床的にも意義のある値であることが判明し,日本の消化管診断学のすばらしさを改めて感じる次第である.そして,病変の形態の違いや検査法の違いにより正診率が異なることや主題症例で示された問題点を熟知することにより深達度診断精度がさらに向上していくものと思われる.今後,“sm 深達度 : 垂直浸潤 1,000μm"をキーワードとして,早期大腸癌の診療・研究の新たな展開を期待したい.

基本情報

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胃と腸
39巻10号 (2004年9月)
電子版ISSN:1882-1219 印刷版ISSN:0536-2180 医学書院

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