胃と腸 39巻12号 (2004年11月)

今月の主題 消化管の画像診断―21世紀の展開

序説

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は じ め に

 消化管の内腔を描出する診断学において,早期胃癌に代表されるように,わが国のX線と内視鏡診断が果たした役割は大きく,世界をリードした.これはあくまで病理組織像に立脚した実証主義を,追求してきたことによる.その後,超音波内視鏡,CT,MRIの登場は,壁内や壁外の診断に力を発揮し,CT colonography,MR hydrographyとして実用化され,小腸のカプセル内視鏡やダブルバルーン法も開発され,実用化されている.さらには,非可視光内視鏡,超拡大内視鏡による生体内細胞診断,PET(positron emission tomography)などによる形態と機能診断も,注目を浴びている.21世紀には,これらの検査による集学的な診断学が,必要となるであろう.そこで,これまでの消化管診断学の歴史と,現在行われている消化管の画像診断の現況を踏まえて,新展開しつつある21世紀の診断学のありかたについて述べる.

 ところで,消化管の疾患の中で腫瘍,特にがんの研究は,21世紀でも最も重要であることには変わらないと思われる.今年度から第3次対がん10か年総合戦略(2004~2013年度)の研究事業が,新たに開始された.この戦略はがん研究において,わが国が進むべき方向性を示している.世界で最も進んでいる消化管の診断学における今後のあり方にも,関連する面が多いので紹介する.

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要旨 平面検出器をCアーム式装置に搭載して斜入撮影法を行ったところ,従来から消化管X線検査が抱えていた弱点の多くが解決できることがわかった.そこで,胃X線検査について斜入撮影法の有用性を臨床的に検討した.斜入撮影は角度が強くなるとSIDが大きくなり,空間分解能が低下するが,30°以内であれば許容範囲と考えられた.胃スクリーニング検査で斜入撮影法を使用した頻度をみると,5°以上の角度で撮影したものは全画像の54.8%であった.胃の精密検査を行った147病変中,斜入撮影法が診断に寄与したのは58病変(39%)であった.平面検出器をCアーム式装置に搭載して斜入撮影法を行うことによって,これまでには撮影できなかったような体位の画像や,熟練した検査技術がないと撮れないような良好な画像が簡単に得られるようになった.また患者への負担も大幅に軽減できるので,今後,消化管X線診断に新しい展開をもたらすものと考えられる.

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要旨 造影超音波を含めた体外式超音波法(以下US法)の各種消化管疾患に対する診断的意義について述べた.US法による消化管の診断にはスクリーニングとしての場合と精査手段としての場合の2つがあり,それぞれ少しずつ見かたが異なっている.しかしながら,いずれも異常像を描出した場合には,その病理像あるいは病態生理を類推しながら,できる限り分析的に解析する点は共通するところである.US法により消化管における炎症から腫瘍まで幅広く診断可能であるが,さらに近年の超音波造影剤の開発や低音圧モニター下間欠送信を用いたflash echo imaging法の開発により従来のドプラ法では評価できなかった細径かつ低流速の血流評価が可能となってきた.これらの技術の進歩により生体下での腫瘍性病変のvascularityの評価,瘢痕性狭窄と炎症性狭窄との鑑別,炎症性腸疾患における活動性の指標などが非侵襲的に評価可能であり,臨床的有用性が大きい.内視鏡やX線診断等の従来の診断法にこれらのUS法を加えることで,より適切な治療方針の決定や病態生理の把握に役立つものと考えられる.

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要旨 MRIの高速化により,1枚あたり1秒もしくはそれ以下で撮像できるようになった.この結果,消化管の蠕動運動を診断情報として用いる手法(cine MRI)が出現した.また,MRCPと同じ撮影原理によって,消化管内の液体を描出する画像(MR hydrography)が取得できるようになった.さらに,脂肪抑制T1強調画像において,小腸閉塞における小腸内容や,大腸内容を高信号に描出して診断情報に供したり,逆に,これらの信号を抑制する工夫を行うことによって,MR colonographyを得ることができる.また最近では拡散強調画像を利用した新しい画像診断も得られるようになった.これらの新しい道具により,小腸閉塞の診断や,癒着の診断,放射線被曝のないvirtual colonoscopyなどが可能になっている.本稿では,その具体的な撮影方法や,臨床応用について詳説する.

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要旨 マルチスライスCT(MSCT)により,高速でより詳細な画像が得られるようになった.そこで胃癌,胃粘膜下腫瘍,大腸癌等の消化管病変に対してvirtual endoscopy(VE)がどの程度診断に寄与できるか検討した.胃癌ではVE所見を3群に分類し深達度診断を試みると,そのT stage深達度正診率はMSCTで90.9%であった.VE所見と内視鏡診断,X線二重造影像を比較検討すると,これらはお互いに補い合うmodalityと考えられた.また,小腸でも病理所見を反映するVE所見を得た症例を経験した.大腸ではMSCTにより全大腸が短時間で正確に描出された.MSCTによるVEでは従来に比しより精細で高い解像度を持ち,さらなる発展と応用が期待された.

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要旨 FDG-PETでは,腫瘍細胞の糖代謝活性が亢進することを利用して,癌病巣の検出を行うことができるため,消化管腫瘍の病巣の検索にも応用されている.わが国には,二重造影検査,内視鏡検査の優れた技術があるため,早期癌の発見に果たす役割は小さいが,転移・再発病巣の検索,化学療法・放射線療法の効果判定などに有用性を発揮する.しかし,FDGは炎症性疾患,腺腫などの良性腫瘍にも集積するので読影には注意を要する.Helicobactor pyloriの感染を認める胃や便秘傾向の大腸には高頻度で生理的集積を認めることも経験している.

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要旨 電子内視鏡による消化管診断の今後の展開について概説した.スクリーニング検査では,患者の苦痛軽減の観点からも細径化を追求する方向にある.観察性能,処置能力を維持しながら挿入部が細くなり,最終的にはワイヤレスカプセル型の内視鏡へと進歩するものと推測される.診断性能の向上については,ハイビジョン対応内視鏡システムなどにより,観察時の解像性能と撮影された画像の解析技術の向上,さらに超音波内視鏡,蛍光内視鏡,超拡大内視鏡に代表される内視鏡を介して行う機器の発展が相まって総合的に向上していく.今後は,従来の内視鏡検査による形態学的診断に加えて超拡大内視鏡検査による細胞レベルの診断に機能診断が加味されて疾患の病態生理をも明らかにしていく“Bioendoscopy”の時代が訪れるものと予測される.

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要旨 通常の可視領域の白色反射光をとらえて画像化する内視鏡装置に対して,照射光に紫外光・近赤外光などの非可視光やレーザー光を用いたり,励起光を照射した際に生ずる肉眼では見えない微弱な自家蛍光を診断に応用する試みは古くから行われてきたが,研究的色合いの濃いものであった.しかし,最新の電子機器技術の進歩とともに,それら画像装置の操作性や画質は飛躍的に向上している.新しい自家蛍光電子内視鏡装置(AFI)では大腸ポリープの色調差により内視鏡治療の要否の基準となる腫瘍・非腫瘍の鑑別をリアルタイムにできる可能性がある.2波長赤外線電子内視鏡では,超音波内視鏡での深達度診断が困難な潰瘍性変化を伴う早期胃癌の深達度診断に対する有用性が示唆された.非可視光を利用した内視鏡装置は高解像度電子内視鏡システムの導入により臨床応用への可能性が一気に高まっており,21世紀の消化器内視鏡領域においては,これまでの白色光観察とは全く異なった視点での診断体系が確立されてくるものと思われる.

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要旨 1980年の超音波内視鏡(endoscopic ultrasonography;EUS)の開発以来,その臨床応用,進歩には目を見張るものがあり,胆膵疾患のみならず消化管疾患への適応の拡大がなされてきた.超音波内視鏡の今後の展開として考えられるのは,三次元超音波内視鏡(3D-EUS),超音波内視鏡下穿刺術(EUS-FNA),電子ラジアル超音波内視鏡,集束超音波などが考えられる.まず現在の3D-EUSは,本質的に超音波プローブであるため十分なpenetrationが得られず,ストロークも短いため大きな病変が対象とならない.やはり,通常型EUSによる三次元超音波内視鏡の開発が望まれる.次にEUS-FNAは,本邦においても汎用されるようになったが,今後進むべき方向は,膵仮性嚢胞ドレナージ,腹腔神経叢ブロックのみならず,遺伝子治療,樹状細胞等による免疫療法などのEUS-FNIと思われるが,局注する薬剤,ウイルスベクター,アンチセンス等の基礎的研究の進歩を待たざるを得ないのが現状である.電子ラジアル式EUSは,超音波造影剤の進歩と相まって今後汎用されると思われる.また集束超音波は,膵癌等の低侵襲的治療の可能性を秘めており,今後の発展が期待される.

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要旨 “生体内で生きている消化管粘膜上皮を細胞レベルで観察したい”という願いから,1996年より産学共同研究による超拡大内視鏡の開発に着手した.その結果これまでに2種類の器械の開発に至った.その1つは“Endo-Microscopy”であり,レーザー共焦点顕微鏡を応用したカテーテル型プローブで“無染色”での細胞レベルの画像の獲得に成功した.これによりpitのみならず,細胞や核などの観察が可能となった.そして癌における“輝度の逆転現象”も確認された.もう1つは“Endo-Cytoscopy”であり,通常の光学レンズ系による超拡大内視鏡でcontact endoscopyの原理に基づきカテーテル型プローブを作製した(多施設共同提案).このEndo-Cytoscopyは“染色下”に施行する.メチレンブルー染色で核のみならず核小体の観察も行え,現在のgold standardである細胞診と同様の高解像の明瞭な画像での観察が可能であった.両技術ともにそれぞれの特色を有しており,今後のさらなる展開が期待される.いずれにしても現在,生きた細胞の生体内での内視鏡観察は既に可能な時代に突入した.

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要旨 近年のME機器の進歩については目覚ましいものがありCTにおいてもヘリカルCT,マルチスライスCTの新しい機器が登場しコーンビームCTや光CT等の開発が行われている.今回われわれが開発を行っている超拡大CT(マイクロCT)では静止物で10μmの分解能を得ることができる.このマイクロCTを用いて正常胃,胃癌,正常回腸および大腸癌に対しての撮影実験を行った.結果は消化管表面の微細な構造を描出することは可能であったが消化管壁の層構造および癌部と非癌部の境界を描出することはできなかった.これはマイクロCTが優れた空間分解能を有するが密度分解能が不十分であることが原因と考えられた.また,病理標本の顕微鏡検査では染色により組織構造を明らかとしているものであり,マイクロCTにおいても造影剤等による組織間のX線透過性に変化を生じさせる処置が必要と考えられた.マイクロCTによる消化管表面の解像度には優れたものがあり,今後,体動に対する対策とマイクロCTによる拡大virtual endoscopy systemの開発を行うことによって精細な消化管表面の情報が得られるものと考える.

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 牛尾(司会) 本日はお忙しいところお集まりいただきましてありがとうございます.座談会「消化管の画像診断―将来を予測する」を始めさせていただきます.消化管の内腔を描出する診断学において,早期胃癌に代表されますように,わが国のX線および内視鏡診断は世界に誇る大きな業績を上げました.しかも,ただ画像だけではなくて精神的にもと言いましょうか,哲学,思想的にも病理組織,切除標本と対比を行ったというところに真髄があるのですね.先達の先生方が行ってこられた画像と病理組織との比較とその実証主義がこの発展を支えたのです.その後,超音波内視鏡,CT,MRIが登場して,消化管の壁内のみならず壁外の診断法が出てきた.いわゆる断層像の診断が確立してきたのです.一方,コンピュータ技術,医用光学,さらにはネットワーク環境が整って,ヘリカルCTを応用した消化管診断が,例えばCT colonographyとかMR hydrographyとして実用化されてきたわけです.さらに最近ではカプセル内視鏡,ダブルバルーンによる小腸内視鏡が現れてきました.その他にもいろいろな技術の革新がありました.この座談会ではそういうところを先生方に評価していただき,その問題点とか将来展望なども論じていただきたいと思います.それからもう1つ,ご存じのように,2004年から日本で第3次の対がん10か年総合戦略が始まりました.その中で癌に関して見ると,予防が重要視されています.その第2次予防として病変の早期発見や早期診断,さらにQOLの向上を目指した早期治療が重要なテーマとして挙がってきています.私はその第3次対がん総合戦略の企画・評価・運営会議の委員をしております.今日は先生方から話をうかがいまして,政策の中に反映させていきたいと思っています.よろしくお願いいたします.

 まず最初に画像診断の現状について述べていきたいと思います.今井先生は放射線科で,熊倉賢二先生(慶應義塾大学)のもとで二重造影をずっとされておられました.その後現在ではフラットパネルの診断もされて,最近ではMRI,CTの権威でいらっしゃいます.出発点は二重造影ですから,まず先生から現状の粘膜面の診断に関してお話ししていただけませんか.

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欧文目次

編集後記 長南 明道
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 早期胃癌,早期大腸癌に代表されるわが国のX線・内視鏡による緻密な診断学は,切除標本の肉眼像を仲介として病理組織所見とX線・内視鏡所見を可能な限り1対1に対応させる手法の積み重ねにより確立されてきた.本号では,新しい診断法の現状と展望につき述べていただいた.

 X線診断では,デジタルX線撮影装置(フラットパネル),Cアーム装置の開発に伴い,診断価値のある写真が容易に撮れるようになりつつある.内視鏡診断では,CCDの性能向上により,電子スコープは細径かつ高画素数化し,診断能が向上している.また,拡大機能はこれまでのpit pattern診断,微細血管模様の観察を超えて,Endo-MicroscopyやEndo-Cytoscopyの開発により生検することなしに,組織診断がなされつつある.さらにこれまで暗黒大陸とされてきた小腸内視鏡の分野では,ダブルバルーン式小腸内視鏡・カプセル内視鏡の登場で小腸全体を視られる時代となってき.

基本情報

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胃と腸
39巻12号 (2004年11月)
電子版ISSN:1882-1219 印刷版ISSN:0536-2180 医学書院

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