胃と腸 30巻9号 (1995年8月)

今月の主題 胃の平滑筋腫と平滑筋肉腫―新しい視点を求めて

序説

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 胃の非上皮性腫瘍のうち平滑筋原性腫瘍は約40%を占め,最も頻度の高いものだけに日常臨床上遭遇することが多い1).この平滑筋由来の腫瘍は,その発生部位のいかんにかかわらず,臨床的にも病理形態学的にもまれに良・悪性の鑑別困難な症例が存在する.この平滑筋原性腫瘍の悪性度判定に際しては,腫瘍の大きさ,肉眼的性状に加え,腫瘍細胞密度,細胞異型性,核分裂像の頻度など種々の形態学的指標が用いられてきた.これらの指標の中でも核分裂数が最も重要視され,Stout2)は200倍率の視野から無選択に10視野を検鏡し,その腫瘍組織内の核分裂像の数によって悪性度を4段階に分け,毎視野に1個程度か,2~5視野に1個程度以上の核分裂像のあるものを悪性としている.

 しかし,実際には必ずしもこれらの条件を満たさない平滑筋肉腫症例が報告されている.筆者ら3)4)も核分裂像のほとんどみられない胃平滑筋肉腫症例を経験している.58歳,女性にみられた平滑筋肉腫で,胃角部を中心に発生し,大きさ7×5×3cmで胃内型発育を示していた(Fig.1).本例は,組織学的に細胞異型はなく,核分裂像も極めて少数で明らかに悪性と判定しえなかった(Fig.2,3).しかし手術を施行したところ,小網内の胃領域リンパ節(No.3)の灰白色,充実性の腫瘤を認め(Fig.4),組織学的に胃腫瘍と同一の形態を示し,小網腫瘍の一部にリンパ節構造が認められた(Fig.5)ことから,リンパ節転移を伴った低悪性度の胃原発平滑筋肉腫と診断した.このように消化管の平滑筋原性腫瘍においては,従来から強調されてきた核分裂像をはじめとする組織像のみからの悪性度判定には限界があり,個々の症例の臨床像や肉眼所見を含め,総合的に判断すべきであろう.

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要旨 胃筋原性腫瘍164病変を用いて,核分裂数による良・悪性の鑑別指標,腫瘍の組織型と筋原性マーカー(デスミンとMSA)の発現頻度・発現程度の相関,および肉腫の発生母地・増悪化を検討した.Ki-67標本が核分裂像判定では客観性・再現性に優れ,同標本による核分裂数の測定が迅速・簡便であった.胃平滑筋肉腫はKi-67核分裂数0.68以上/10HPF,と定義された.Ki-67細胞数21以上/10HPFも悪性判定の補助指標となりうると考えられた.デスミン・MSAは平滑筋腫の70.2%(59/84)で腫瘍全体にびまん性に出現したが,細胞性平滑筋腫や平滑筋肉腫では部分的に出現していた.逆に,ビメンチンは後者の病変でびまん性に出現する傾向にあったが,高異型度肉腫ではビメンチンも陰性化する傾向にあった.平滑筋肉腫のうち,低異型度→高異型度へ移行した例では,ビメンチンが後者で高度に陰性であった.筋原性マーカーは腫瘍細胞が幼若型であるほど,腫瘍の組織学的悪性度が高いほど,減少した.平滑筋肉腫の発生は,同一腫瘍内に平滑筋腫と平滑筋肉腫の共存がないことから,低異型度の形でde novo発生か(8mmと13mmの低異型度肉腫が認められた),あるいは細胞性平滑筋腫に由来と推察された.そして,肉腫の増悪化(低→高異型度)は癌腫のそれに比べて低率と考えられた.話題の的となっているGST(gastric stromal tumor)のほとんどは,幼若な細胞や悪性細胞から成る筋原性腫瘍と考えられた.

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要旨 胃原発平滑筋肉腫61例を対象として,悪性度診断の客観的指標について検索を行った.予後との関係では,すべての検索因子の中で最大腫瘍径が最も信頼性が高く,最大腫瘍径の値が30mmにおいて有意差を認め,治療上意義のある数値と考えられた.核DNA量の検索のみでは有意な差は得られなかった.抗p53産生蛋白陰性反応群と陽性反応群との間には生存曲線の比較のうえで有意差を認めた.核分裂指数は3.0/25mm2においても最も小さいp値が得られた.MIB-1ラベリング・インデックスは核分裂指数と相関性を示した.核分裂指数とMIB-1ラベリング・インデックス,核DNA量,p53産生蛋白はそれぞれ独立した検索因子であることが示唆された.

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要旨 手術で確定診断が得られた平滑筋腫瘍44例45病変のEUS所見を検討し,以下の結論を得た.①EUSによる内部エコー像は,病理組織所見をよく反映し,高エコー域は滲出液の小さな貯溜,最小血管腔,小さな出血巣の混在に,無エコー域は,滲出液やフィブリン析出物の大きな貯溜,大きな血管腔による囊胞様構造物に相当した.②EUS上,A型(均一低エコー型)は平滑筋腫,B型(高エコー域混在型),C型(高エコー域,無エコー域混在型)は平滑筋肉腫危険群であり,高エコー域の混在が悪性を示唆する重要な所見であった.③EUSによる経過観察例において,内部エコー像の変化,および急速な発育は悪性を示唆した.④以上,EUSは胃平滑筋腫瘍の良・悪性の鑑別に有用と考えられた.

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要旨 Boring生検や外科手術により病理組織診断を得た胃平滑筋腫瘍127例(平滑筋腫91例,平滑筋肉腫29例,平滑筋芽腫7例)を対象として臨床像,発育形式・発育経過の検討を行った.腫瘍径の増大を経時的に計測できた52例に対しては,遡及的に発育速度(DT)を計算し,DTによる良・悪性の鑑別診断の可能性を検討した.平滑筋腫36例のDTは平均約3年だが,症例差が大きかった.悪性例のDTは平滑筋肉腫10例で平均7.7か月,平滑筋芽腫6例で平均9.0か月で,良性例と有意差があり,DTは良・悪性の鑑別に有用であると考えられる.組織診断の得られていない場合,平滑筋腫瘍に対する安易な経過観察は慎むべきであり,初回腫瘍径によっても経過観察期間を考慮すべきである.

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要旨 X線検査による経過観察が6か月以上あり,手術または生検によって病理組織学的診断の得られた胃平滑筋腫瘍22症例23病変(平滑筋腫11病変,平滑筋肉腫9病変,平滑筋芽細胞腫3病変)を対象に形態変化の推移を分析した.結果は23病変中21病変が増大し,2病変が不変であった.経過中潰瘍形成が見られたのは8病変あったが,潰瘍の有無は良・悪性の鑑別の指標にはならなかった.表面性状は初回検査時平滑なもの19病変,結節状のもの4病変で,経過中表面性状が変化したものは1例のみであったが,表面性状も良・悪性の鑑別点にはならなかった.EUS所見でretrospectiveに良・悪性の鑑別を試みたが満足すべき成績は得られなかった.増大群の年齢,腫瘍径(初回および最終),観察期間, doubling time(以下DT)について組織型別に分け検討した.観察期間,DTの2項目で平滑筋腫群(平均観察期間79.1±25.7か月,平均DT51.0±36.8か月)と平滑筋肉腫群(平均観察期間38.2±24.8か月,平均DT15.5±18.1か月)の間に有意差を認めた(p<0.05).またDTが20か月以上のものはすべて良性,18か月未満のものは1例を除きすべて悪性であり,DTは胃平滑筋腫瘍の良・悪性の鑑別に有用と思われた.

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要旨 胃平滑筋腫瘍に対する内視鏡的治療,特に腹腔鏡下手術について述べた.腹腔鏡下の胃平滑筋腫瘍摘出術としては,胃の漿膜側からアプローチする方法と粘膜側からアプローチする方法(腹腔鏡下胃内手術)がある.漿膜側からの胃平滑筋腫瘍摘出術には,漿膜を切開して腫瘍を核出する方法と胃壁全層を部分切除する方法とがある.前者は粘膜を損傷しないように摘出する手技であり繊細なテクニックを要するが,全層切除と異なり切除後の管腔の狭窄を来す可能性が低い.後者は胃壁を全層にわたって切除できるため腫瘍の完全摘出が容易にできるという長所がある反面,噴門近傍および幽門輪近傍は切除後の狭窄を来す可能性があり,適応を慎重に決定する必要がある.胃内からの腹腔鏡下胃粘膜下腫瘍摘出術は,腹腔鏡下胃内手術のテクニックを応用して胃内腔から腫瘤を切除するもので,胃平滑筋腫瘍でも胃内腔に向かって発育したものが適応となる.

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要旨 胃の平滑筋腫瘍は組織生検で良・悪性の鑑別が困難であり,3cm以上の腫瘍は治療の対象と考えられる.また,それ以下の大きさでも,超音波内視鏡で内部構造が不均一であったり,腫瘍の頂点に潰瘍形成が見られる場合には治療の対象となる.転移については,リンパ節転移がまれで,肝転移と腹膜播種転移が主である.予後因子としては,遠隔転移の存在,高度の核異型度,細胞分裂指数が最も重要で,腫瘍径や潰瘍の有無はそれらとの相関が強く,肉眼的に予後を判断する材料となりうる.リンパ節郭清は予後に寄与せず,胃体部や穹窿部が好発部位であることを考え合わせると,噴門・幽門機能を完全に温存した胃の局所切除が第一選択術式である.本腫瘍は切除中に破裂させると腹膜播種再発が必至であり,注意深い操作が必要である.

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要旨 患者は77歳,男性.1993年7月ごろから腰痛のため,近医から鎮痛剤の投与を受けていた.8月17日からタール便が出現し,8月21日当院を受診し入院となった.同日の内視鏡検査では,胃角前脚にいわゆる“そなえもち”様の形態を呈した巨大な隆起性病変を認めた.病変の基部は表面平滑で,頂部には小隆起の突出を認めた.第4病日には頂部の小隆起は更に突出し,第11病日には突出部は内腔に伸び出すように形態変化が認められた.突出部の生検では,肉芽組織のみであったため,同部の一部をポリペクトミーしたところ,平滑筋腫であった.その後も腫瘍からの出血が持続したため,9月25日幽門側胃亜全摘術を施行した.腫瘍は7.5×4.0×3.5cm大の弾性軟,表面分葉状を呈した平滑筋腫であった.短期間に形態変化を呈した胃平滑筋腫はまれであり,若干の文献的考察を加え報告した.

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要旨 患者は47歳,女性.集団検診(胃X線および内視鏡検査)で胃粘膜下腫瘍が指摘され,CTでも径35mmの粘膜下腫瘍が認められた.以後,1回/年,胃X線および内視鏡検査が施行された.生検診断は毎回陰性であった.3年後,胃X線およびCT検査で径48mmまでの増大が観察された.潰瘍形成も認められたが,生検診断は陰性であった.増大傾向から胃平滑筋肉腫を疑い,局所切除術を施行した.組織学的に平滑筋肉腫であることが確認された.術前,生検診断による平滑筋腫と平滑筋肉腫の鑑別には限界があり,増大傾向が認められたものは悪性を疑い,外科的治療(局所切除術)を行うべきであると考えられた.

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要旨 患者は65歳,男性.胃集団検診で,胃の変形を指摘され,精査目的で来院した.X線および内視鏡検査で,胃体上部小彎前壁に巨大な胃粘膜下腫瘍を認めた.1年7か月後の内視鏡検査では,特に変化を認めなかった.しかし,初診から約5年後の内視鏡検査では,腫瘍は増大し,2こぶ状を呈していた.病理切除標本では,2つの腫瘍に連続性はなく,肛門側の腫瘍が増大したものと考えられた.

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要旨 患者は64歳,男性.1992年4月の胃X線検査で体上部後壁大彎寄りに23×17mmの粘膜下腫瘍を認めた.超音波内視鏡検査では筋原性腫瘍と診断された.患者は検診の受診歴があり,遡及的検討を行った.1990年4月の胃X線検査では同部位に最大径が10mmの隆起性病変を認め,腫瘍発育速度(doubling time,以下DT)は6.6か月であった.腫瘍の急速な増大により,悪性と診断し胃局所切除術が施行され,組織学的に胃平滑筋肉腫と診断された.筋原性腫瘍の良・悪性の鑑別診断は困難であることが少なくなく,特に本症例のような小さな筋原性腫瘍は外科的切除を含めた臨床的取り扱いが問題となる.このような場合,腫瘍のDTは良・悪性の鑑別診断に有効であると考えられた.

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 〔患者〕68歳,男性.検診で便潜血検査陽性.精査目的で本院受診.

 〔大腸X線所見〕脾彎曲部寄りの横行結腸に丈の低い隆起性病変を認める(Fig.1).その肛門側の隆起はやや高く,中心部が陥凹し(Fig.2),陥凹に対する軽度のひだ集中が認められる(Fig.3).

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 〔患者〕26歳,男性.会社員.1990年12月ごろから心窩部痛,全身倦怠感が出現した.1991年2月初旬,黒色便,下肢脱力感のため当科を受診した.上部消化管緊急内視鏡検査により開放性の十二指腸潰瘍を指摘され,高度の貧血を伴っていたため緊急入院となった.家族歴ではFig.1に示すごとく,母,叔母に大腸癌,兄にポリポーシスおよび大腸癌の既往があった.

 〔注腸造影所見〕直腸から盲腸に有茎性および亜有茎性ポリープが多数見られた(Fig.2).特に直腸およびS状結腸では比較的大きなポリープの集簇傾向が見られた(Fig.3).

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症例 患者は71歳,男性.高血圧のため近医に通院していた.1日2~3行ほどの軟便が持続するため,精査目的で当科に紹介となった.大腸内視鏡検査では,盲腸に細長く丈の低い隆起を認め,その中央部にわずかに発赤した陥凹を認めた(Fig.1).肛門側を見るため角度を変えると,腸管肛門側の隆起は結節状であり,そこに向かってひだの引き込みを認めた(Fig.2).色素内視鏡所見では,辺縁隆起と中心部の陥凹が明瞭となっている.辺縁の隆起は腫瘍性であり,陥凹部分は軽度発赤している(Fig.3).次に注腸X線検査を行ったところ,二重造影像でBauhin弁の対側のひだ上に軽度の隆起を認めた(Fig.4).軽い圧迫像では細長い隆起性病変を認める.よく見ると,丈の高い隆起に連続して丈の低い隆起があり,中央部にはわずかなバリウムの溜まりを認める(矢印).隆起の辺縁は不整で,肛門側からわずかなひだのひきつれを認めた(Fig.5,矢印).強い圧迫像では軽い圧迫像に比べひだのひきつれ(Fig.6,矢印)が目立ち,隆起の境界が明瞭となった.注腸X線検査では陥凹成分がほとんどない,丈の低い隆起性病変としかとらえられなかったが,内視鏡所見からⅡa+Ⅱc型大腸癌でsm浸潤と考え手術となった.回盲部切除の標本では,37×13mmのⅡc+Ⅱa型と診断した.発赤したやや広い陥凹を認め,陥凹周囲には腫瘍性の隆起を伴っている.腫瘍の辺縁はやや不整で色調は周囲粘膜とほぼ同じである.伸展した状態の固定では陥凹成分が強調されている(Fig.7).病理組織学的には高分化腺癌であり,わずかに1腺管のみが粘膜下層に浸潤したsm癌で,深達度はsm1であった(Fig.8,9).

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要旨 患者は67歳の女性.既往歴として1992年7月に膵粘液嚢胞腺癌で膵体尾部,脾合併切除術を受けている(stageⅠ).1993年12月,検診目的で施行した大腸内視鏡検査で,盲腸前壁に表面が発赤調で,一部にわずかな褪色面を有する約15mm大の扁平な隆起性病変を認めた.注腸X線検査では病変は明らかな陥凹面を有し,一部はなだらかに隆起し,sm浸潤癌を考えた.更に細径超音波プローブ検査でも粘膜下層への中等量の浸潤所見を認め,Ⅱc+Ⅱa型の表面型大腸sm癌と診断し,回盲部切除術を施行した.病理組織学的には,粘膜内では高分化腺癌と印環細胞癌が混在し,粘膜下層では印環細胞癌が線維化を伴って中等量浸潤していた.本症例は術前の画像診断からsm中等量浸潤との診断が可能で,更に,内視鏡的に腫瘍表面のわずかな腿色面から印環細胞癌の可能性も考えられ,興味ある症例として報告した.

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要旨 患者は31歳,女性.15年来の痔瘻と8年にわたるCrohn病の病歴を有し,肛門部痛,肛門出血を主訴に来院した.肛門部には通常のskin tagとは様相の異なる褐色調の巨大な結節状隆起を認め,腫瘤近傍の正常と思われる皮膚にも圧痛を伴う硬結が見られた.注腸X線検査では,肛門輪から約10cmにわたり全周性の狭窄を認め,3型大腸癌と診断した.肛門部腫瘤および大腸病変部の生検で粘液腺癌と診断し,骨盤内臓器全摘出術を施行した.切除標本の病理学的検索と病歴,臨床所見から,本例はCrohn病の痔瘻から発生した粘液腺癌と考えられた.本邦におけるCrohn病に合併した大腸癌の報告は本例が4例目である.

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要旨 患者は48歳,男性.1990年4月ごろから糖尿病が悪化し.同時に粘血便.下痢が始まり6月8日入院.注腸造影所見では盲腸の変形,狭小化を認め,虫垂の辺縁は不整であった.同部の大腸内視鏡所見ではpunched outの潰瘍が計3個見られ,更にアフタ様病変も散在していた.潰瘍底の生検で赤痢アメーバが検出され,糞便からも栄養型虫体を認めたため,アメーバ性大腸炎と診断した.また,アメーバ血清反応も高値を示した.metronidazole 1,500mg投与により症状は完全に消失し,治療後約7週目のX線・内視鏡所見でも潰瘍とアフタは完全に消失した.なお,治療前後の虫垂の変化をX線学的に経過観察できた症例は極めてまれであり,その所見は診断上重要であると考えられた.

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欧文目次

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 この度,医学書院から早川直和・二村雄次両博士の執筆による「前立ちからみた消化器外科手術」が刊行されました.筆者は,初めてこの書を手にして,頁をめくるうちに,大きな感動を覚えました.従来の成書には全くなかった,助手側から見た術野の展開や助手の役割,なすべきことが実に詳細に書かれているからであります.ほぼ全頁にわたり,正確な局所解剖と,術者の手,鉗子やはさみなどを具体的に表示して,手術の進め方が記載されています.

 二村博士は,卒後3年目には既に故梶谷先生(癌研)の教えを請うて,その門を叩き,強烈なカルチャーショックを受けたこと,また手術はチームプレーでするもので,いくら術者が達人であっても助手の協力がなければ技を発揮することはできないといったことを教えられ,自分自身体験してみて,これが手術の基本であることを悟ったと述べています.

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 本論文は炎症性腸疾患(IBD)発症における血小板の役割と,抗血小板剤による新しい治療の可能性についての総説である.血小板は炎症反応を修飾する様々なメディエーターを有すること,IBDでは血小板機能の充進,生体内での血小板活性化の指標となるβ-TGやPF-4の増加が報告されていること,Crohn病の病理学的検討で固有筋層レベルでの血管障害,巣状に認められる動脈炎・フィブリン沈着および多発する微小梗塞の存在が報告されていることなどから,IBDの発症に血小板が関与している可能性は高いと考えられる.IBD患者で血小板が活性化される機序としては,腸間膜の血管内皮障害や,活性化好中球や単球による影響などが主に考えられている.血小板がIBD発症に重要な役割を果たしているとすれば,抗血小板剤が有効であるはずである.実際,腸炎の動物モデルにおいて選択的な抗トロンボキサン(TX)剤は有効であった.既にヒトにおいても特異的TX合成阻害剤Ridogrelが潰瘍性大腸炎に対して有効である可能性を示した報告や,現在進行中の別のトライアルもある.これらの検討で良い結果が出ればIBDの治療に新しい可能性が拡がるであろう.

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 十二指腸潰瘍患者のほぼ全例に,そして胃潰瘍患者の75%以上にHelicobacter Pylori(HP)が検出されることはよく知られており,HP感染が消化性潰瘍の発症と治癒に深く関わっていると考えられるが,そのメカニズムについては不明な点が多い.過去の可溶性粘液やそのコンポーネントを用いたinvitroでの研究結果から,HPは胃粘液ゲル層に傷害を与え,酸やペプシンの逆拡散を許すため,組織障害を引き起こすといった仮説が考えられてきた.今回著者らは,HPの胃粘液の粘性に及ぼす影響につき,invivoの系で検討した.

 urea breathテストでHPの存在を確認した19例の消化性潰瘍患者を対象とした.3剤(tetracycline,metronidazole,bismuth製剤を2週投与)で除菌を試み,薬剤投与終了後4週以上urea breathテスト陰性で除菌を確認した.胃管を留置し,ペンタガストリン投与前後で15分ごとに4回,計8回胃液を採取した.粘液の粘度は,microvisco・meterを用いshearrate1.15~46(/s)で測定された.

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この度,NIM Lectures seriesの1つとして,戸田剛太郎,大原毅両教授の編集による「消化器病学」第4版が,医学書院から出版された.

 最近の医学の進歩は著しいものがあり,なかでも分子生物学,特に遺伝子工学,サイトカイン,癌抑制遺伝子をはじめとする様々な生理活性物質の発見とその同定は,各種疾患の病態に迫るものであり,教科書の少なからぬ部分が書き換えられようとしている.消化器病の分野も例外でない.

編集後記 下田 忠和
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 胃の平滑筋肉腫はその良・悪性をめぐって随分と議論されてきた.その初期には,腫瘍の大きさが5cm以上であることや,表面に潰瘍を伴うことが,良・悪性の目安となっていた.また,組織学的には核分裂や細胞成分の多寡などが良・悪性の鑑別点とされてきた.しかし最近では,平滑筋肉腫であってもその悪性度が問題とされるようになってきている.悪性度の判定には従来,細胞分裂数が指標とされてきたが,これは観察する病理医によりその判定が異なったり,あるいは固定条件の違いにより分裂数に変化があるなどの問題が指摘されてきた.その点,本特集では病理学的に新しい悪性度の判定として細胞増殖活性の検索などが役立つことが示されている.これは今までの判定からみれば更に客観的指標となるものである.

 また,臨床的には腫瘍のdoubling timeがおおよそ2年を境として良・悪性の鑑別ができることがほぼ一致した意見として示された.それを裏付ける主題症例の呈示もあり,読者にとって今後の日常診療に役立つと思われる.

基本情報

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胃と腸
30巻9号 (1995年8月)
電子版ISSN:1882-1219 印刷版ISSN:0536-2180 医学書院

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