胃と腸 3巻12号 (1968年11月)

今月の主題 多発胃癌

綜説

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Ⅰ.はじめに

 胃癌の発生と,発育様式の解明には生体内に於ける1個の進行胃癌からよりも,早期の多発癌からの方が,より有力な手がかりが得られる場合が多いであろうし,更に,単発癌から多発癌への移行,進展の病態の究明には同一胃内に於て癌と併存する関連病変に注目して1例ずつを丹念に検索することがよりよいアプローチと考え,多発胃癌及び癌と共存する関連病変,特に癌とのborderline caseについて,外科臨床上にみられる関連性を中心に検討を試みた.

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Ⅰ.はじめに

 胃癌の大部分は単中心性の病巣を示すが,ときに2個以上の癌病巣がそれぞれ独立して存在するいわゆる多発胃癌に遭遇することがある.多発胃癌は1855年Barth1)によってはじめて報告されて以来,病理組織学的立場から注目されていたが,近年臨床の実際においても遭遇することが必ずしも少なくないことが,諸家の研究により明らかにされ,胃癌の予後の上から重大な問題として,臨床的にも重視されている.

 そこで本稿では,まず多発胃癌の概要について述べ,ついで多発早期胃癌に重点をおいて記述することとする.

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1.はじめに

 多発胃癌の問題点としては,1)術前診断上の問題,2)治療上の問題,3)病理組織学的な問題の3点が考えられる.われわれは,術前診断を行なうものとしての立場から,術後,病理組織学的に多発胃癌と診断された症例のうち,特に多発早期胃癌例に重点をおいて考察を加えた.

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Ⅰ.はじめに

 多発胃癌の病態を明らかにすることは,臨床的見地,或いは,病理的見地から,いろいろの問題点を提供してくれるという意味で興味ある問題である.即ち,臨床面では胃の多発病変中に存在する癌病巣を,如何にして把握すべきかという診断面から,手術中如何にして残胃に癌の遺残を起させない様にすべきか,等の示標を与えるであろうし,又,病理面では癌の発生母地に関する検討に,論拠の一つを与えてくれるのではないかと推察されるわけである.

 この様な観点から胃における多発病変の中に占める一項として,多発胃癌の病態を解析してみたいと思う.

 検索対象は,九大病院において切除せられその肉眼所見が検討し得て,しかも,病変の組織検索が十分に行なわれた1,650症例である.

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Ⅰ.はじめに

 著者等は昭和38年1月から42年12月までの5年間に,きわめて類似した臨床的病理学的特徴を有する6例の小腸病変を経験した.この一群の疾患は主として若年者を侵し,臨床的には長年月に亙る潜出血と,それによる二次性貧血を主症状とし,低蛋白血症,発育障害,種々の程度の腹痛を伴っている.病理学的には主として回腸中~下部に形成された浅い潰瘍と潰瘍中心性にみられる非特異性炎症像が基本的な病像であった.

 1932年,Crohn1)等によって提唱された新らしい疾患概念が,その後いくつかの曲折を経つつも,現在限局性腸炎として病理学的にも一疾患単位として認められている所以は単に腸管を局所性に侵す非特異性炎症群という雑多なものの総合としてではなく,そこに出現した所見の組合せや,所見の強弱の間に,本症を貫ぬく一連の特徴像があるからにほかならない.

 かかる基本的観点から,著者等は経験6例の小腸潰瘍性病変につき,その臨床像,病理像を記載するとともに,限局性腸炎との差異を比較し,本疾患の位置づけを試みるのを本稿の目的とした.

展望

Gastrin 松尾 裕
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Ⅰ.緒言

 Gastrinは1964年Gregory&Tracyらによって始めて純粋に抽出されそのアミノ酸構造が明らかにされ,その全合成にも成功し,さらに生理的活性基(active site)であるC末端tetrapeptideが決定されるという画期的な業績が発表された.ここにいたってEdkins(1905年)以来,60年におよぶgastrinの歴史は新しい時代を迎えた.gastrinの持つ強力なしかも生理的な胃酸分泌刺激作用はhistamineに代る新しい胃酸分泌刺激剤として登揚し,またGastrinの持つ多方面にわたる生理作用は消化器疾患の治療に新しく導入されるであろう.またgastrinのbioassayあるいはimmunoassayが確立されるならば,生体内におけるgastrinの動態が明らかにされ,消化器疾患の病態生理の解明および診断に新しい分野が開拓されようとしている.著者は1965年以来鯨の胃のgastrinの研究に従事し,1967年gastrinのbioassay法を確立し現在手術胃材料よりgastrinの抽出量を測定し若干の知見を得,一方immunoassay法についても検討を重ねているので,この方面の解説を試みることにした.

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Ⅰ.症例

 早期胃癌の報告は多いが,大部分のものが胃体部以下に存在するもので,噴門部早期胃癌の報告は少い.今回噴門部早期胃癌を経験したので供覧するとともに,現在迄に私共が経験した6例につき検討し報告する.

 患者:M.M.62歳,男性.

 主訴:心窩部痛.

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Ⅰ.症例

 集団検診で胃病変を指摘され,よく検索してみると,組織学的にも良悪性の境界領域にある隆起性異型上皮病変であり,しかも,患者自身も気づかなかった血友病を合併した症例を経験し,この手術を異常なく行なったのでこれを報告する.

患者:小○忠○ 55歳 ♂ 会社員

主訴:集検で胃病変を指摘され手術希望

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Ⅰ.まえがき

 最近多発早期胃癌の症例報告が散見されるようになった.我々も胃癌の多中心性発生の問題を考えるのに興味深い11個の隆起性早期癌を多発した症例を経験したので報告する.

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Ⅰ.症例

 患者:76歳,女,無職

 家族歴:特記すべきものなし.

 既往歴:左眼白内障現在保存的に加療中.

 現病歴:約1年前より食後に下痢を来たす様になり,某医により慢性胃腸炎として加療を受けていたが,1カ月前て軽度の上腹部痛並びにるいそうも加わり,精査を希望し当院に入院す.全経過を通じて粘血便,発熱或いは黄疸は認めない.

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Ⅰ.はじめに

 近年日本に於ける早期胃癌診断学の進歩は驚異的なものである.後ればせながら,台湾にいる私たちも,1965年2月に町田製ファイバースコープ,FGS-A型,1967年7月にはFGS-B型及び胃カメラGT-V,GT-Va,本年はFGS-S型等を相次いで手に入れ,爾来,全部員の努力に依り現在迄にファイバースコープ検査約500例,胃カメラ検査約540例施行してきた.特に去年七月初旬より,早期胃癌発見を目ざしてできる限り外来患者には,Chest P-A X-ray検査が既にルーチンであると同様に,胃部症候主訴の有無にかかわらず胃内視鏡検査(主に胃カメラ,それから精検としてファイバースコープ)をルーチンとして提唱してきた.次に示す症例は斯くして得られた貴重な胃前庭部前壁2個(Ⅱa+Ⅱc,Ⅱa+Ⅱc),胃前庭部後壁1個(Ⅱc)の多発早期胃癌例(Multicentric Early Cancer,Ⅱa+Ⅱc,Ⅱa+Ⅱc,Ⅱc)の1例である.

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 常岡 きょうは,多発胃癌ということでいろいろお話を伺いたいと思います.多発胃癌については,過日,内視鏡学会でシンポジウムがもたれ,また本誌にもこのたび執筆をお願いしているわけです.従前では,胃癌というものは,胃癌の診断がつくということで終わっているケースも多かったわけだがだんだん診断法が発達してきて,あるいは病理検索も進歩してきて,胃癌が同一胃に1つだけでなくて,2つあるいは3つ,4つ,さらには数個あるということがだんだんわかってきました.しかも,そういった多発胃癌の頻度というものは,従前に比べて,検索材料の上でだんだん頻度が増してきているような傾向もあるように伺っています.

 そういうことで,臨床的にも,あるいは病理学的にも,いろいろ新しい観点から検討しなければならないと思います.その意味で,きょうはご出席の先生方にいろいろ有益なお話を伺いたいと思います.

技術解説

バリウムの作り方・飲ませ方 青山 大三
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Ⅰ.バリウムのよいもの

 Ba.は今日本で約60種位あるといわれている.しかし,よいとおもわれるものは次のような条件が必要であろう,

イ)Ba.粥のW/Vが100%以上のものがよい.

ロ)流動性の高いもの.

ハ)壁附着性に富んでいるもの(うすくつく).

二)塩酸によるBa.自身の凝集力がないもの.

ホ)発泡性がないもの(嚥下後に).(製剤時ではない).

へ)価格が普通か,普通より少したかい.

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 P型胃カメラは被検者の苦痛をできるだけ少なく,危険を伴わないようにと作られた.多数の被検者に能率よく,無麻酔でも検査できることが特徴である.Pはpopularからとったとされている.二回の試作と多数の臨床テストを経て今日のP型胃カメラ,すなわちGT-PおよびGT-Pが,昭和41年1月発表された(第1図).

印象記

国際細胞学会 奥井 勝二
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 南米ブラジル・リオディジャネイロで,昭和43年5月19日から22日までの4日間に開催された第3回国際細胞学会に出席する機会を得た.日本からは日本臨床細胞学会々長福田保教授,癌研婦人科部長増淵一正先生,村上忠重教授,綿貫重雄教授等約30名が参加した.

 まずはじめに今回の旅行の日程をのべると,5月12日に羽田を発ち,米国に4日間滞在し,Colombia大学,ワシントンのNIH(National Institute of Health),ボストンのMass. General Hospital等の各施設を訪問し,主として癌研究部門を見学し,5月17日リオディジヤネイロに到着,学会に出席した.学会終了後ブエノスァィレス,ペルーのリマ,インカ帝国の遺跡,一部の人はチリーのサンチャゴ,次いでメキシコ市を訪問,同様各地の大学,癌研究施設を訪問,見学し,6月4日帰国した.短期間ではあるが,この旅行をふり返ってみると,学問上のことは勿論,それ以外のことすべて,見るもの,聞くもの珍しく,非常に貴重な経験をしたことは確かで,日本に帰って,我が国の現状と比較して,いろいろ参考になる点が多かった.

研究会紹介

新潟胃内視鏡同好会 原 義雄
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 昭和34年8月新潟市イタリヤ軒において,芦沢真六,内海胖の両先生を講師として,胃カメラ研究会が行なわれたのが,当地区におけるこの様な会合の最初であったが,新潟県の内視鏡学の開発に大きく貢献されたのは,小黒忠太郎先生(現在新潟逓信病院副院長)である.昭和30年9月頃,当時,新潟大学鳥飼内科助教授であられた先生を中心に,高須靖夫,太田喜昭,斎藤素一の諸先生,次いで,笹井,金原先生らによって,その黎明期が始まっていた.県下の殆んどすべての胃内視鏡学に志したものが,先生方のグループの指導を受けて,今日までに至ったのである.

 昭和38年暮,村上忠重,白壁彦夫,信田重光の諸先生の講演会が,東映ホテルで催され,当地区における早期胃癌についての関心がよび醒された.昭和39年2月角田弘先生と私とが,第1回の国立がんセンターにおける研修会に出席して,大いに刺激,教育され,早期胃癌発見への意欲を燃しはじめた.

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 「私達が日常遭遇する消化器疾患の諸問題並びにX線,胃カメラの読影などについて気軽に話し合えるミーテングがあればとの要望が各病院からあり,この機会に東海地区の同好の士の懇談会を……(原文のまま)」.これは昭和37年6月初め私ども発起人が各方面へ発送した東海地区「胃疾患研究のつどい」(仮称)のお知らせである.

 当時名古屋大学青山内科にいた春日井が中心となり,名大日比野内科,山田内科,橋本外科,今永外科,放射線科より,それぞれ発起人が出て協議し,早期胃癌など胃疾患に関する各種問題を研究する地区の研究会結成を申し合せ,大学の研究者,病院の勤務医,開業医等広く同好の士に呼びかけ,同年6月18日(月)午後5時より当時のホテル丸栄の集会室において第一回の研究会が会員約70名の参加のもとに開かれた.

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欧文目次

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 看護婦,看護学生を主たる対象として書かれた本は今迄少なく,ときに胃腸疾患についての講義を依頼される時など2,3の書を見ても.内容が簡単すぎたり,またあまりに古すぎたりということで,これはと推せんできるようなものが出版されないものかとかねてから考えていた.

 たまたま本書を開いてみると,巻頭の別図にわが国でつくられ,わが国で発達し,いま世界にも広がりつつある胃カメラの美麗なカラー写真が適確なシェーマと共に取り入れられついで第1の解剖,生理の項にはガストリン,第2の病態生理の項では胃全摘後の病態生理とそれに対する対策,そして第3の診断に必要な検査と看護婦の役割の項では,新しい胃液検査としてのヒスタローグ法,エックス線検査での病変が描写される理屈や,また生検,細胞診についても,わかりやすくその意義や方法などが説明されており,これらの新しいことをも取り入れた前半を通読することにより,たくさんある胃腸疾患の検査がいかなる理由で,どういうことを目的として行なわれるものであるかが理解されよう.検査に際してただ誰かに言われるままに理由も知らずに機械的に行なうのと,なぜということを知って行なうのとではたいへんな違いであり,そこに今後の進歩も期待されることになる.

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 In Japan ist der Magenkrebs besonders häufig, so dass Anlass besteht, die Früherfassung und Differentialdiagnostik intensiv zu betreiben. Tatsächlich ist es japanischen Ärzten und Technikern gelungen, die Diagnostik des Magenkrebses wesentlich zu verbessern. Die Entwicklung optischer Instrumente ― des Fiberskops und der Gastrokamera ― ging der Verfeinerung der Rontgendiagnostik paralle. Damit war es zum ersten Male möglich, an einer grösseren Zahl von Kranken die Röntgenzeichen des frühen Magenkrebses zu studieren und mit den gastroskopischen, endophotographischen sowie pathologisch-anatomischen Befunden zu vergleichen. In Japan wurden diesem Wichtigen Thema bereits zahlreiche Vorträge und Veröffentlichungen gewidmet, die jedoch wegen der sprachlichen Schwierigkeiten ausserhalb des Landes unbekannt oder mindestens unbeachtet blieben.

Der Internationale Kongress für Endoskopie und der Weltkongress für Gastroenterologie im Herbst 1966 in Tokio gaben vielen Ärzten Gelegenheit, sich von den fijhrenden Leistungen der japanischen Magenkrebsdiagnostik zu überzeugen. Dieses Buch kommt deshalb gerade zur rechten Zeit, um einem aufnahmebereiten Publikum in aller Welt die Möghchkeiten einer röntgenologischen Früiherkennung der Magentumoren zu zeigen. Ein Kallektiv von Klinikern und Röntgenologen, die an der Chiba-Universität arbeiten oder tätig waren, hateinen sehr gut ausgestatteten Atlas geschaffen, in welchem die Rontgenaufnahmen den Farbhotographien mittels Gastrokamera oder Fiberskop und den morphologischen Befunden an die Seite gestellt werden. Es gibt sehr wenig Bücher, in denen bessere Röntgenaufnahmen zu finden sind. Die Qualität der Abbildungen ist aber nicht der einzige Vorzug des Werkes. Es findet sich darin eine sehr sorgfältige statistische Analyse der Beobachtungen an einer grösseren Zahl von frühen, d.h. auf Mukosa und Submukosa beschränkten Krebsen. Dabei ergeben sich neue Gesichtspunkte zur Morphogenese und Klassifikation des beginnenden Magenkarzinoms. Es ist hervorzuheben, dess die gründlichen und statistisch belegten Studien der Japaner ganz und gar bestätigen, class R. Gutmann mit seinen Ausführungen zur rechtzeitigen Diagnostik des Magenkrebses vollkommen im Recht ist. Gutmanns Auffassungen entbehrten der überzeugenden morphologischen und statistischen Belege. Sie wurden in Deutschlancl bisher zuwenig beachtet und nutzbar gemacht. Dieses japanische Buch kann allen an der Früherkennung und Differentialdiagnose der Geschwülste des Magens Interessierten uneingeschrônkt empfohlen werden. Das Studium und die Auswertung der japanischen Erfahrungen dürften wesentlich zur Verbesserung der Erfassung und der bisher deprimierenden Ergebnisse der Behandlung des Magenkrebses in unserem Lande beitragen.

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 佐藤,吉田,本島の諸博士による“急病”が人間の医学シリーズの第8集として刊行された.小生は勤務医として15年間,救急疾患を診断さ

せられる立場にあったが,勤務医にとって大切な仕事の大部分は急患処理に終始するものであるが,また開業の医師による緊急処置の予後におよぼす影響がはなはだしく,しばしば考えさせられる点が多いが,医学書や雑誌のなかに,これを単独に取り上げたものは少なく,第一線の医師は患者の生命の保持ばかりでなく機能の保全の意味でも独立して,その処置なり方法なりを成書によりふだんから十分に考究しておく必要がある.

 救急の場合,専門医の施術以前の問題で主体に加えられたその場での障害の程度と機能の維持のために共通の医師としての立場があり,その処置の順序付けや処置法が考慮からのぞかれたならば後の処置への影響ばかりでなく,あとあとの障害の発現への危険をも内蔵することになる.それゆえ,急患に対しては内科とか外科とか眼科,耳鼻科を問わず,ふだん冷静に考察しておくべき事項であり,他科に依頼する以前の処置を十分かつ細心に考慮しておかねばならない.かつ急患に関する記載は成書によるも簡略に取り扱われ,核心をついていないものが多く,諸種の報告を見るに,むしろ偶然に支配され着実にして自信をもった記録に乏しい.前線の医師が常に困難を感じながらも,これらの技術的なものを成書化する機転にかけている.このような折に多年,各科を専門としておられた諸博士がこれを正面より取り上げ,体質からにじみでる記録をされたことは意義深いことであり,常にその方法に悩まされている医師諸君に一読をすすめたい書である.

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 善養寺さんはこの道の苦労人である.この人と話をしていると,折にふれて聞く失敗談だの苦労話だのにしみじみと長年の経験と努力のあとを感じる.よき協力者坂井千三氏をえて完成された本書,これは角力でいうならば長年土俵の砂をかぶってきた行司が綴った角力の得技総覧とでもいうところだろうか.ハデな勝負をしているお角力さんに書ける代物ではないと同じように,この書は診療の表面に立って仕事をしているお医者さんに書ける内容ではない.病原菌検索一筋に仕事をしてこられた著者が,染色液でよごれた手で培地の臭のしみこんだ原稿用紙に日々の検査術式を丹念に書きつづられた生々しさにあふれた本である.

 総論は腸管系病原菌の種類,感染像,菌の分類を各章に,血清学的検査法と薬剤感受性試験の各章,それに主体は第3章病原菌検索法で占めている.各論はコレラ菌,赤痢菌,サルモネラおよびアリゾナ,ウイダール反応,腸炎ビブリオ,病原大腸菌,ウエルシュ菌,ブドウ球菌の8章に分かれている.特定の病原菌の発見を目指して検査を進める場合は各論,1つの検体について総合的に検査を行ない,なんらかの病原菌を見つけだそうとする時は総論がそれぞれの目的に誘導してくれる.筆者のみるところでは,本書の最も秀れている点は諸培地および生化学試験の詳しい解説と意味づけである.筆者はかつてある培地製作会社の発行する宣伝雑誌の編集委員をしていたことがある.委員の仲間には細菌学特に臨床細菌,培地関係の当代一流の人たちがいた,編集会議の席上,培地の上で何菌が何故にどのような集落を作るものか,というような分り易い解説がほしいのだ,と私が度々言ったが,権威の先生方は“シロウトの言うようにカンタンにはいかないんだよ”ということでなかなか取上げてもらえなかった.そのシロウトの希望は本書にほぼ100%に果されている.毎日の検査,その意味をトコトンまで理解して仕事をするとしないでは能率も興味も著しく違ってくるはずである.本書はある培地のチョッとした色の変り方に至るまで,その理由と意味を親切に教えてくれる.培地の製法,保存,使用方法についてもただ一通りの記述ではない.こうすればこうなる,ああすればああなる,という風に正しい場合,ミスのおこり方が毎常書き加えられてある.この本を読んで,ああそうだったのか,と自分の失敗の原因をはじめて知る人も出てくるだろう.

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 輸血検査は患者の生命に直接関係のある検査であるから,他のいずれの検査よりも正確に,しかも迅速に行なわれなければならない.しかしわが国では医師にしても技師にしても輸血検査の教育が十分に行なわれているとはいいがたい.輸血検査を病院側で行なわずに民間血液銀行のサービスにまかせているところが多いのではなかろうか.このように誤った形で輸血検査が行なわれている原因の一つは,医師が輸血検査をよく理解しておらず,ひどく面倒なものと思いこんでいるからである.

 このようなときに徳永栄一博士の「輸血検査」が出版されたことは,まことによろこばしいことである,徳永博士は永年日赤中央血液センターで輸血検査の実務に従事され,現在同センターの副所長の要職におられる.したがって,僅か38頁のこの本の中に実際に必要な事項が非常に要領よくまとめられている.

編集後記 春日井 達造
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 本年は消化器関係の国際学会が多く,5月ブラジル・リオデジャネイロにおける第3回国際細胞会議をかわきりに,7月のチェッコスロバキヤ・プラハにおける第8回国際消化器病会議及び第1回ヨーロッパ内視鏡学会,9月のベルギーにおける癌発見シンポジウム,10月はオーストラリヤ・メルボルンにおける第3回アジア太平洋消化器病会議,東京及び京都における国際外科学会等誠に盛沢山で,「胃と腸」読者の多数がそれぞれ参加,多年の研究成果を発表し,我が国のこの方面の研究は高く評価され,その反響も大いにあったようで慶ばしいことである.特に早期胃癌の診断に関しては,X線,内視鏡,細胞診及び生検の全部門にわたって欧米をはるかに抜いて,文句なしにトップにある.しかしこの優位が今後どこまで維持出来るかは一に我々「胃と腸」読者の双肩に掛っていると云っても過言ではないと思う.尚一層の精進が望まれるわけである.

 本号は多発胃癌をテーマとしてとりあげた.吉葉,久保,早川,副島各博士の綜説並びに常岡教授司会の座談会は本テーマに取組みあますところなく探究された.熟読玩味されたい.腸疾患をあつかった岡部博士らの研究はまたユニークな論文である.

基本情報

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胃と腸
3巻12号 (1968年11月)
電子版ISSN:1882-1219 印刷版ISSN:0536-2180 医学書院

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