胃と腸 3巻13号 (1968年12月)

今月の主題 陥凹性早期胃癌の経過

綜説

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Ⅰ.はじめに

 胃潰瘍は,加療によってよく癒る.少くとも入院させて食餌療法と薬物療法を行うと,とにかく瘢痕の状態まで,ひとまず到達させ得ることが多い.しかし,中にはどうしても癒らないものもある.そういうときは一応癌の疑いをかけよう.胃癌のクラーテルは小さくならないのが普通である.―こういういい方は,一般的には正しい,が例外もあるようだ.胃癌のクラーテルが小さくなったという報告は,古くからある.例外を集めてみると,そこに何か真理を明かす糸口を発見できることがあるのではなかろうか.

 最近トピックになっている胃癌内潰瘍の消長について自験例の検討をしたので,以下にその概略を記述する.

胃癌病巣内の潰瘍の経過 中島 哲二
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Ⅰ.まえがき

 胃癌はよく知られた疾患である.わが国の1965年の統計では,胃癌の死亡率は10万に対し男59.2女35.5で,男女ともに世界で1,2位をあらそう胃癌国である.であるから医師にとっては勿論のこと,一般の人々にとっても良く知られた疾患であり,常に関心の最大の対象となっている.

 ところが衆知であるということと,その疾患がよく認識されているということとは全く別の事柄である.

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Ⅰ.はじめに

 胃癌病巣内潰瘍は従来縮小しないのが常識で,まれに縮小することがあってもその縮小率は50%を越えることはないとされ1),これが潰瘍の良悪性判定に際してのかなり有力なてがかりとなっていた.しかしながら,近年わが国における胃診断学のめざましい進歩により,数多くの早期胃癌が臨床のレベルで発見されるに至り,潰瘍の縮小もしくは消失を示す胃癌症例も少なからず報告されるようになってきた.そしてこのような報告は,臨床的にtrial treatmentに対する警鐘として注目をあびる一方,胃潰瘍癌判定基準をめぐる論争にも新たな問題を提起し,昭和40年,村上教授の“潰瘍癌における悪性サイクル説”をもたらしたことは周知のごとくである,われわれは昭和40年3月,第7回日本内視鏡学会総会の席上,“悪性潰瘍の表面変化”と題して2),われわれの経験した第1例の胃癌病巣内潰瘍縮小例を報告したが,以来昭和42年12月末日までにかかる例を15例経験している.いずれも確かな臨床データを備えたもので,かつ切除胃の詳細な病理組織学的検索をなし得たものである.ここではこれら各例の術前の経過と切除胃の組織像の検索とを併せ行ない,各例がたどったと思われる術前の経過を推定し,更にこのような潰瘍縮小を示す胃癌症例の頻度について2~3の考察を行なってみる.

 なお,これらの症例は,われわれが昭和38年より行なっているところの,胃癌患者の過去の検査資料を遡って集めるという方法で,結果的にその経過を観察し得た症例および良性潰瘍と診断して,経過観察中に癌と判明し胃切除を行なつた例とからなっており,当然のことながら,癌と確診後故意にその経過をみるごときことは行なってないことをあらかじめ断っておく.

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Ⅰ.はじめに

 胃癌の唯一の治療法が早期発見と早期胃切除にある現在,早期胃癌といえども経過を観察する機会は極めて少ない.したがってこのような検討の対象は確診のつかぬままにやむを得ず経過を観察した症例と,他には少数例ではあるが遡及的に胃カメラフィルム又はX線フィルムを探し出し,あらためてこれらのフィルムを読みなおした逆追跡例の検討が含まれる.

 そのため早期胃癌の経過としてとりあげられる対象は,はじめから一定の規準で観察検討されたものではなく,前にも報告したスキルスの逆追跡1)と同様いわば偶然観察された断面的な所見の組み合わせにすぎず,資料として不完全のそしりを招くことを銘記したい.

 その他胃切除を拒否して経過を観察した僅かな症例も含まれているが,この場合切除の時期になお早期胃癌であった症例は少ない.

 教室で経験した早期胃癌は昭和42年12月末迄に73例を数えているが,このうち6カ月以上経過の追求できている症例は12例である.その内訳は1年以内:3例,2年以内:3例,3年以内:2例,4年以内:3例,約8年:1例となっている.

 これら症例を診断の過程からみると比較的短期間の観察症例は癌と診断しながら患者の都合で胃切除の時期が遅れたものであるのに対し,比較的長期間観察を行なっているものは初回良性と診断し,経過の途中で癌を疑い胃切除にふみきった症例が多い,

 経過の観察できた12例を肉眼所見にしたがって型別に分けてみると(Fig.1),1:1例,Ⅱa+Ⅱc:4例,Ⅱc:3例,Ⅲ+Ⅱc:2例,Ⅲ:2例となり,Ⅱa+Ⅱcを隆起に伴うⅡcと考えて陥凹型に含めれば1型1例を除きほとんどすべてが陥凹型といえる.この陥凹型11例のうち4例(Ⅲ:1例,Ⅲ+Ⅱc:1例,Ⅱa+Ⅱc:2例)は所見にほとんど変化をみていない.ことにⅡa+Ⅱcの1例は3年2カ月の経過にもかかわらずほとんど変化がみられない2)

 検査密度,至適条件下でフィルム撮影がなされているかが問題になるが,長期間にもかかわらずほとんど発育をしていないかのようにみえる早期胃癌症例のあることは興味深い.長期間観察された早期胃癌症例のパネルディスカッション(第5回日本内視鏡学会:京都昭38)3)でも既にこのことは指摘され,他にも多くの報告がみられる4)が,注目に値しよう.

 このような症例の存在が,また現在私たちの扱っている早期胃癌を進行癌の早期のものと位置づけせずに,別個の発育パターンを示す特殊の癌ではなかろうかと考えさせることにもなる.この問題についての詳細は別紙に記載するので割愛する5)8)

 以下陥凹型早期胃癌の経過をⅡaの隆起に伴った陥凹(Ⅱa+Ⅱc)と,Ⅱc,Ⅱc+Ⅲ,Ⅲの経過にわけて,特に臨床的に興味のある問題をとりあげながら述べていきたい.

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Ⅰ.はじめに

 胃潰瘍の治療を内科的に行なうか,外科的療法によるべきかは永い間の論点であり,なお未解決の問題である.

 一つにはその治療法に対する根本的な概念の相違があり,またそれぞれの取扱っている症例の違いもあって厳密な意味での結論にはなかなか到達しない.

 山岸1)は現在の内科医の考え方を痛烈に批判し,“難治性”という言葉自体に問題があり,多くの内科医が3カ月または4カ月間を観察期間としているが,このような長期間にわたって内科的療法が厳守しうるか否か疑問であるとのべ,さらに内科的療法とは一体どういうものかよく分からないものがあるとし,観察期間を短縮して手術適応範囲を大幅に拡大すべきだといっている.

 また大井2)は有名な二重規制機構学説をもとにして局所性発生因子を対象とした内科治療には大きな期待はおけないことを強調している.

 一方,常岡ら3)は潰瘍発生直後から理想的に治療が行なわれるとすれば,そのほとんどすべては治しうる病変であると考え,内科的治療をさまたげるような合併症のないものに対しては外科的な切除治療を行なう方がよいという理由はないとのべている.

 現実に何例かの症例は潰瘍治癒後5年以上の経過観察で全く再発をみていないし,1カ月以内の短期間に治癒する急性潰瘍が存在することは事実である.

 反面1年間毎日服薬しながら,穿孔を来して緊急手術を行なった症例も経験している.

 胃潰瘍の成因は多岐にわたりいくつかの因子がほぼ同時に働いて胃粘膜に炎症を起し,血管の変調を起して二次的に潰瘍が発生するものと考えられている4)

 従ってこれらの原因をすべて除去することは到底不可能であり,原因の除去のみで治療目的が達成されるものでもない.

 このような観点からすれば,胃潰瘍の治療法も結局,case by caseで考えていかねばならないと思うし,誰しも現在行なわれている薬物療法に決して満足しているものではない.

 このようなことを考えながら,従来の胃潰瘍に対する薬物療法を顧みるとともに最近開発された2,3の薬剤と最近の治療法に対する考え方を紹介してみたいと思う.

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Ⅰ.症例

 患者:58歳 男

 主訴:2年来の心窩部重圧感

 手術:昭和43年4月

 胃液酸度:無酸(Katsch-Kalk法)

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Ⅰ.はじめに

 同一の基部より茎が樹枝状に分岐し,更に多数の腫瘤に分かれ,珊瑚状を呈した比較的まれな形状の胃ポリープと,その附近に平盤状のⅡa型早期胃癌が共存し,又門脈圧亢進による静脈瘤も合併し,複雑な所見を示した1症例を経験したので報告する.

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Ⅰ.はじめに

 異型上皮病巣はしばしば隆起性病変やⅡ型早期胃癌の疑われる病巣に出現して,早期胃癌診断の1つの重要な課題となってきた.

 胃生検が現在のところ最も確実な診断法とされるに至って,この異型上皮は一層組織診断の対象となり,その悪性度が種々論じられている.

 今回の症例は比較的短期間に病巣の著明な進展がみられたことと,広い異型上皮病巣の中に,顕微鏡的な微小瘤が含まれており,異型上皮の悪性度についての判定が問題となったもので,早期胃癌の進行度と異型上皮の悪性度判定上興味ある症例と考え報告する.

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Ⅰ.はじめに

 消化管の結核症は腸に比較的多くみられるのに反し,胃結核症は稀であり,わが国で臨床的に報告されたのは,1917年愼の例以来40数例にすぎない.しかも臨床的特徴がないため,胃癌や胃潰瘍の診断のもとに手術をうけ,切除胃の組織所見によりはじめて発見されているのが現況である.

 われわれも胃腫瘤を触れ,胃X線像及び胃内視鏡所見で確診し得ず,開腹試験切除で本症と判明し,その後化学療法により約2年間観察した症例を経験したので報告する.

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Ⅰ.はじめに

 胃の内視鏡検査は,胃カメラおよびファイバーガストロスコープの驚異的な進歩により,臨床的にX線検査と共に欠くことが出来ないものになっている.胃内視鏡検査はさらに細胞診,胃生検も可能になり臨床的に用いられている6).十二指腸の内視鏡検査については,HIRSCHOWITZ2)は1961年にGastroduodenal fiberscopeを用いて十二指腸球部の観察も出来,さらに十二指腸下行部に挿入して,十二指腸下行部の観察に成功したと報告している.本邦では田中ら7)により,胃カメラを用いて,十二指腸球部の観察が検討されているが十二指腸下行部以下の検討はなされていない.

 十二指腸下行部の観察について,BURNETT1)(1962)は,HIRSCHOWITZの十二指腸観察については,部分的に支持しているが,KEMP4)(1962)は疑いを持っていた.WATSON8)など(1966)は,HIRSCHOWITZのGastroduodenal fiberscopeを用いて,十二指腸下行部に挿入して,Vater氏乳頭の観察を報告した.RIDERなど5)(1967)は,Fiber Duodenoscopeの試作を発表している.一方,十二指腸のX線検査については,古くから多くの報告があるが,近年では,JACOUEMENTおよびLIOTTAら3)が,いわゆるHypotonic Duodenographyによって,十二指腸の形態を分析し,膵臓およびVater氏乳頭の疾患に,検討を加えた報告をしている.

 われわれは,始めにいわゆるHypotonic Duodenographyで,十二指腸の形態を検討して,X線テレビのコントロールにより,生検用Fibergastroscope B(MACHIDA)を十二指腸に挿入することに成功し,十二指腸下行部の観察が可能で,十二指腸下部に狭窄をおこした膵臓癌を診断しえたので報告する.

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観察症例

 村上(司会) ちょっとご挨拶を申し上げます.

 きょうは,夏休み中にもかかわらず,皆さんにお集まりいただきまして,ありがとうございました.ことに,遠いところからお集まりいただいた方も多数ございますが,ご苦労さまでございました.

技術解説

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Ⅰ.腹厚の計り方

 撮影する部位に適したX線量をあてなければ良い写真はできない.至適X線量は被写体の腹厚により違いがあるので,腹厚による撮影条件を出さなければ良い写真ができない.透視中に被写体の厚さが変動しても撮影条件を変えなければならない.条件を決めるための腹部の厚さの計り方は,立位で臍の上下とその中心部とを計るが,被写体には細い人,普通の人,太い人など三様で,細い人は臍の中心と上下で2cmから3cm位の違いがある.太っている人は,一番突き出している所と臍の中心部でかなり違いがある.普通の人は,中心部と上下とであまり違いはない.差のありすぎる人では仰臥位及び腹臥位でもう一度計りなおす必要がある.つまりできた写真は同一被写体でも,立位像と仰臥位二重造影像とではかなり違いができるので,撮影条件は撮影する時の体位にあわせてさらに計り変えなければならない.

研究会紹介

新潟消化器病同好会 大森 幸夫
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 新潟消化器病同好会の活動状況を御伝え致します.この同好会の濫觴は昭和30年に遡る.即ち,昭和30年9月,田坂定孝先生の御肝入りで,当時の鳥飼内科の高須靖夫先生,太田嘉昭両先生が胃カメラの臨床応用に取りくまれたのが,本同好会発足の第1歩である.ついで小黒忠太郎先生もこれに加わって,昭和34年8月,東京より芦沢真六,内海胖先生をお迎えし第1回新潟地区胃カメラ同好会がもたれるに至った.38年末には東京より村上忠重,白壁彦夫,信田重光の諸先生がお出になり,市内東映ホテルにて講演会が開催され,大いに刺戟をうけたのである.このような気運のもとで昭和39年8月,新潟大学内科,外科,放射線科,病理,それに市医師会の諸先生方のなかで,消化器疾患に興味をもたれる助教授,講師の方々が中心となり,新潟消化器病同好会,新潟内視鏡同好会が設立された.この間の経過,或いは日本内視鏡学会甲信越地方会,更には新潟県医師会における胃カメラ普及に対する意慾的な努力等々との関係については既に笹川博士によって本誌(中越消化器病同好会,本誌,3巻,5号,628頁)に紹介済みであるため重複をさける.前述の如く本会は新潟地区胃カメラ同好会と不可分の関係で発足したのであるが,胃カメラ同好会が主として読影,診断を中心とした症例検討会の形式で隔月に行なわれるに対し,本同好会は学会形式として年2回,2月,7月に例会を開催することにしている.発足以来本年の7月例会で既に8回の研究集会を持ち,毎回150~200名の出席者をみている.内容は胃疾患に関する発表が最も多いが,その他,腸管,膵,肝,胆道系のすべてに及び,又毎回特別講演やシンポジウムを企画し,或いは会員よりのアンケートに基いて演題の焦点をしぼったり,極めて多彩な運営が為されている.特別講演の演者として,時に中央より市川博士,城所先生等をお招きしたり,又新大内科市田教授,或いは北畠教授等に御願いし,胃癌のレ線,内視鏡診断に関する綜説をお聞きしたり,或いは急性肝炎の病理,食道癌の放射線治療,吸収上皮の微細構造からみた消化吸収の問題,等,今日消化器疾患に於て最もトピックスとみなされる領域についてのお話しをして頂いております.毎例会の出席者は新潟市内,近郊はもちろん県内各地から参集され,而も何れもこの領域の疾患に興味を持っておられる諸先生とて,演説の内容,討論の活溌さなど,一地方の同好会のトップレベルではないかと自負する次第であります.なお,第6回同好会より演説内容の抄録を新潟医学会雑誌に掲載することに致しております.新潟県は本邦でも有数の胃癌発生地でもあり,又肝疾患を始めとした消化器疾患も多く,本会の活動を通じて一人でも多くの早期胃癌が発見され,又多数の消化器疾患の解明と治療とが推進されれば幸いと思っております.

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 久留米市を中心に南は大牟田市,東は甘木市に,西は佐賀県多久市に及ぶ先生方の集いによって成立した筑後地区胃研究会は,洋々と流れる筑紫次郎を背景に新装なった久留米大学筑水会館の1室で行なわれている.

 昭和34年胃カメラ研究会として発足し,その当時松藤教授(現福岡県立柳川病院長)の並々ならぬ努力と,同好の士の熱意,そしてE社の熱心な御世話もあり,小さな地下研究室で討議がなされていた.

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欧文目次

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 Theodor Billrothが胃癌患者の胃切除に成功したのは1881年,今から87年前のことであるが,現在では胃切除は本邦の津々浦々で毎日行なわれるもっともpopularな手術となってきている.従って胃の手術に関する解説書も数多く出版されているし,今後も出版される傾向にある.このHolle編の胃の手術書はそれらの中の白眉といえると思う.内容はきわめて詳細でために約1000頁に及ぶ大書であるが,それは現代の世界の一流学者と目される専門家によって分担執筆されているためでもある.その中には私たちになじみの深い著者としてDragsteat,Harkins&Nyhus,Henning,Re Mine,Wargeusteen,Welchらがあり,またわれわれに親しみ易い点としては本邦の久留(抗癌体の代謝)中山ら(全剔後の吻合及び胃瘻造設術)佐藤ら(食道癌切除後の胃のつり上け術式)大島などがKommerterとして登場する.

 本書は第1編の解剖・生理・診断・麻酔,第2編の手術手技の編に分れているが,第2編が本書の8割を占める.

編集後記 常岡 健二
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 本号は陥凹性早期胃癌の経過の特集である.春の消化器病学会・内視鏡学会の合同シンポジウムでとりあげられたテーマである.これも近年胃病変の診断が発達し,ことに癌病変を早期にとらえることが可能となり,胃癌の発育の様相に種々な問題が提示されたためである.

 胃癌巣内の潰瘍は縮小しないというのが従来の常識であり,これが良性潰瘍との経過観察上の一つの大きな鑑別点とされていたわけであるが,最近諸家の研究は癌巣内の潰瘍の縮小・消失するもののあることを明らかにし,これらから村上教授,佐野博士の潰瘍癌の分類とそれらの関係一悪性サイクルを説明する考え方が生れた.

基本情報

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胃と腸
3巻13号 (1968年12月)
電子版ISSN:1882-1219 印刷版ISSN:0536-2180 医学書院

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