胃と腸 10巻7号 (1975年7月)

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 腫瘍病理学では,腫瘍を良性,悪性に分け,またその発生母地によって上皮性と非上皮性に分類している.本主題の非上皮性腫瘍は,すなわち,上皮性腫瘍でない腫瘍を一括して呼称する名称ということになる.当然,非上皮性腫瘍の中に,良性と悪性が分類される.上皮性悪性腫瘍が癌であり,非上皮性悪性腫瘍は肉腫である.上皮性良性腫瘍としては,ポリープ,腺腫,乳嘴腫などが含まれるが,胃においてはこれらの存在は疑われており,胃ポリープの本質がいわゆる腫瘍ではないとする考え方が強くなっている現在,胃において上皮性良性の真性腫瘍の存在は少ないことになる.一方,非上皮性良性腫瘍としては,消化管のいずれの部位においても平滑筋腫,脂肪腫,線維腫,神経線維腫,血管腫などの存在が,頻度の多少はあれ認められている.このような腫瘍の発生母地による分類のほかに現在,特に胃において臨床的に一般に用いられている“粘膜下腫瘍”という名称がある.本稿においては,まず胃における非上皮性腫瘍と粘膜下腫瘍の関係について考察を加え,ついで各臓器における非上皮性腫瘍の臨床像を分析したい.

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 消化管に発生する非上皮性腫瘍は,比較的稀な疾患である.非上皮性腫瘍の発生頻度は消化管腫瘍の1~5%程度といわれているが1),本腫瘍に関する統計的報告は少ない.今回,悪性リンパ腫を除いた消化管の非上皮性腫瘍について自験例をのべ,あわせて内外の文献を中心に統計的事項を述べてみることにする.

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 レックリングハウゼン病(以下レ病)に伴なう内臓病変,ことに消化管病変についてはGrodsky & Francisco1),Williams & Pollack2)等何例かの症例に接し,Palmer3)も同症に生じた28例の胃神経鞘腫例を蒐めているが,比較的稀な症例である.レ病は1882年von Recklinghausenにより皮膚のcafé au lait spotと皮下神経線維腫の多発を主徴とする疾病として記載されたが,メンデル優性型遺伝を示し,屡々内臓の神経系の異形性,時に内分泌腺の腺腫形成を伴なうことから先天性(遺伝性)全身性母斑症として理解されるようになった.Stout4)は更にSturge-Weber病,Hipple-Lindeau病も一括し,その中に中枢神経型,末梢神経系型,内臓神経線維腫症型及び少数の特殊型の四亜型を設けて論じている.

 最近定型的な経過を示したレ病の胃に巨大なポリープ状の神経肉腫を形成し,切除後広般な肝転移を来して死亡した興味ある1例を経験した.Stout4)によれば内臓神経線維腫症に含まれるべき病像を示しており,その悪性化,併存した膵β細胞腫等なお検討の余地を残しているが,胃病変を中心に報告したい.

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 胃疾患診断学の進歩は著しいが,非上皮性胃疾患の確定診断には今なお困難なところを残しているように思われる.筆者らは短期間に著明な変化を呈した胃の好酸球性肉芽腫の症例を経験したので,2カ月間に4回経過観察をしえたX線像内視鏡像を呈示し,若干の考察を加えてここに報告する.

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 Carcinosarcomaは,いまだ混乱した,議論の多いentityである.同一腫瘍内にepithelial(carcinomatous)およびnon-epithelial(sarcomatous)の両組織成分を混ずる悪性腫瘍に名づけられ,稀なものであるが,子宮,呼吸器系,乳腺,食道,甲状腺等によく記載をみる.胃におけるcarcinosarcomaの記載は極めてまれであり,Tanimura and Furuta1)によれば,1904年のQueckenstedtの第1例報告以来,1967年の彼らの報告を含め24例を数えるにすぎない.24例中14例は本邦例である.しかし,この24例の収載にはcollision tumorも含まれており,carcinosarcomaに対する考えいかんによっては,より少数となり,あるいは胃に関してその存在自身も疑われさえする.著者らの経験した胃のいわゆるcarcinosarcomaの1例を報告し,検討を加えたい.

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 いわゆるgranular cell myoblastomaは腫瘍か否か,またその発生についても諸説があり,興味ある病変である.1926年Abrikossoff1)が13例を報告して以来,多数の文献があるが,その発生部位としては舌が最も多く,(Strong2);39/110病変,小林3);5/46病変)その他皮膚,口唇,四肢の筋肉などに多く,稀に脳下垂体茎部4),乳腺5),膀胱6)7),迷走神経8)にもみられる.舌以外の消化管に発生するものは比較的稀であるが,食道9)~12),胃,十二指腸13),虫垂14),結腸15),胆道16)~18)など約二十数例の報告がある.このうち胃に発生したものは8例にすぎず,著者らも胃癌で切除された胃に,平滑筋腫とともに合併したgranular cell myoblastomaを経験し,電子顕微鏡的にも観察し得たので報告する.

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 悪性黒色腫は稀な疾患であるが,短期間に広汎な全身への転移を起し極めて予後の悪い腫瘍である.胃への転移も少なくない1)2).転移性胃悪性黒色腫について,従来は剖検や手術により確認された報告が多かったが,最近では消化管診断技術の向上もあって臨床的にも診断されるようになってきた2)3)4).今回われわれは転移性胃悪性黒色腫を臨床的に診断し,そしてその経過を1年4カ月間にわたって観察することができたので報告する.

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 胃粘膜腫瘍のうちでも,胃神経性腫瘍は比較的稀な疾患であり,著者らの調査したかぎりにおいてはレックリングハウゼン病に合併しない孤立性の胃神経肉腫例は本邦においてみあたらない.

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 近年,胃の内視鏡およびX線診断技術の進歩により,容易に胃疾患を術前に確定診断することが可能となった.著者らは,胃透視と内視鏡の生検所見から,術前に胃平滑筋腫と診断し,幽門側胃切除術を施行した1例を経験したので報告する.

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 1960年Martinらは,円型細胞で核周囲に透明帯のみられる特異な細胞形態をとる胃の平滑筋肉腫をmyoid tumorという名称で初めて記載した.1962年Stout1)は同様のbizarreな組織像を示す69例を報告し,それら一群の腫瘍をleiomyoblastomaと呼ぶことを提唱した.

 本症は比較的まれなものであり,予後は一般に良好であるが,ときに転移をおこすことがあるといわれ1)2)5),組織像とともに悪性度または予後という点でも興味深い.胃に原発することがもっとも多いが,胃以外にも小腸,後腹膜,子宮などに発生することがある.

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 十二指腸細網肉腫は比較的稀な疾患であるが,最近われわれは免疫グロブリンの異常と小腸全体におよぶ良性のNodular Lymphoid Hyperplasiaを合併した稀有な症例を経験したので,文献的考察を加えて報告する.

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 消化管の血管腫は,稀な疾患であり,特に大腸には少ないとされている.今回,われわれは腹痛を主訴として来院した患者で,腹部単純X線検査にて,著明な石灰化像を呈した,上行結腸の良性海綿状血管腫を経験したので,多少の文献的考察を加え報告する.

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 形質細胞腫は,その多くは骨に発生する多発性骨髄腫として知られている.一方,骨髄以外の軟部組織に原発する形質細胞腫は,髄外性形質細胞腫(Extramedullary plasmacytoma)と呼ばれ,稀な腫瘍であるが,その多くは上気道,口腔内に発生する1)2)3)4)5).消化管に発生する形質細胞腫は少なく,Hampton(1957)6)は180例の髄外性形質細胞腫中21例(12%)に消化管原発のものがみられ,そのうち小腸が12例,ついで胃が9例と上部消化管に多く,大腸に発生した症例は1例に過ぎない.近年Nielsen8)ら(1972)は大腸に原発した形質細胞腫1例を報告し,文献的に7例を合せて集録して報告しているに過ぎない.私共も62歳の男子で直腸に原発した形質細胞腫を経験したのでここに報告し,併せて文献的に考察を試みた.

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 近年,吐血症例に対する緊急内視鏡検査の進歩と普及に伴い,内視鏡的に発見・診断されるMallory-Weiss症候群の症例が増加してきている.

 最近,われわれは暴食後に持続性の悪心・嘔吐と頻回の吐血をきたし,緊急内視鏡検査で食道下部から胃噴門部へ達する長い線状の粘膜裂創に,多発性出血性胃十二指腸ビランや食道胃噴門接合部潰瘍を伴ったMallory-Weiss症候群を経験したので,文献的考察を加えながら,本症候群の幾つかの問題点をとりあげてみた.

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 存続型または疣状胃炎Gastritis verrucosaは,内視鏡的及び切除胃肉眼的形態の多彩さから4型に分類されている.即ち,タコイボ型,ポリープ型,こん棒型,蛇行型である.

 図1(48歳♂):立位圧迫像.幽門前庭部に多発する立ち土り比較的急峻で背の高い隆起を認め,隆起表面に周堤と比べ面積比の小さい辺縁シャープな中心陥凹(Delle)を認める.隆起はFaltenの上にのったいわゆる“へびたま”Kaliberschwankungの所見を呈している.中心陥凹(+)が,この型の条件である.典型的なタコイボ型verrucosaの像である.

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 前号で限局性肥厚性胃炎(Localized hypertrophic gastritis)について述べた.今回は本疾患と紛らわしい像を示す隆起性胃癌を供覧し,その鑑別点について述べる.

 症例8 40歳 女(名大内科,中野浩氏例)

 胃体部の後壁,幽門腺境界に接して粘膜ヒダが限局性に肥厚し,迂曲蛇行している.その表面は乳頭状または顆粒状を呈している,また,幽門部には急性ビラン,顆粒状変化(慢性胃炎性変化)および胃角上小彎に潰瘍瘢痕を認める(Fig. 1).組織学的にはこの肥大した粘膜は単純な体部腺の肥厚である.また,幽門側の粘膜は萎縮性変化を示している(Fig. 2).すなわち,本例は限局性肥厚性胃炎である.

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 消化管内視鏡検査は昔から絶食状態で行なうのがあたりまえになっている.もっとも午後まで検査がのびるような時には朝オレンヂジュースぐらい飲ませて検査したことはある.多少常識をずれるうしろめたさを感じながら,この程度のことは慢性胃炎の内視鏡診断にもさほど影響はないだろうと思ってきた.

 ところが,最近は意識的に摂食させたのち,内視鏡検査も行なってみることがある種の研究領域では必要になってきたようだ.もっともずいぶん以前のことであるが食物の胃排出を調べる目的で,朝食をとらせてから数時間後に胃をみたことがあるが,残渣の量が内視鏡的にはうまくつかめないので,中途でよしてしまったことはある.

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 学会印象記というものは1人で書くものと大体きまっているが,そうした類型を破って2人で分担することに予めきめて,日本消化器病学会第61回総会に出席するため京都に旅立った.

 3月31日(月)が学会の第1日で,本庄一夫会長の明快,懇切な開会のことばとともに総会の幕はきって落された.続いての第1席が国立がんセンターの「胃粘膜壁細胞のレセプター」で,ラットの遊離壁細胞にはガストリン受容体とヒスタミンH2受容体がともに存在し,それぞれが独立して医分泌系とリンクしているという最初から興味深い発表であって,まったく好調なスタートぶりをしめした.

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 近年,内視鏡的膵・胆管造影法は手技の向上,器械の普及により広く日常臨床に用いられ,膵・胆道疾患の有力な診断法となった.しかし,Billroth Ⅱ法切除胃例においては,その特殊性のため造影成功例の報告は少ない1)~6).しかし,臨床的にはBillroth Ⅱ法切除胃例においても,内視鏡的膵・胆管造影が必要な場合もあり,このような例に本法を安全かつ容易に実施するため,その手技について検討を加えた.

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欧文目次

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 X線検査によって得られる情報は,診断・治療のうえで欠くことのできない貴重なものであり,その必要性については,あらためて述べるまでもない.また,癌の早期発見という観点からも数mmの病変を把える精密度も要求されるようになったし,技術的に可能でもある.しかし一方,消化管造影に際して,初心者でも比較的容易に行える反面,このような要求度からみると不適当なものであったり,逆に誤診の原因となったりすることさえある.

 本書の特色は,臨床医がより精度の高い結果を得るための努力をする際に,よきアドバイザーとなるように書かれていることである.ことに,初心者にとって,最も必要な実施手技上の注意が細部にわたって述べられており,各検査法における要点が適切にまとまっている.検査前の準備や併用薬剤使用上の注意,造影剤の選択の基準,撮影のタイミングなど,具体的な事項について,十分な配慮がうかがえる.新入局員で,はじめてX線検査をする者にとって,本書の記載どうりの手順で,相当よい写真が可能と考えられるし,X線検査法について,無駄なく上達しうると思われる.また,イレウスなど全身状態の悪い患者の造影法を行うかどうかについて,日常よく判断にまよう場合があるが,その造影法の適否について,明快な解答が用意されており,各種造影法施行後の合併症に対する処置の問題にまでふれている.この点では,各種検査法についてのベテランといえども大いに参考となるところである.より多くの精密な情報を得るための工夫のほかに,患者と対面している臨床医にとって,X線検査がスムーズにいくように配慮されている.常にハンドブックとしてそばに置いておきたい本である.

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 電子顕微鏡による医学生物学領域の図譜は幾つか出版されているが,消化器専門のものは珍しく,特に走査型と透過型の電子顕微鏡所見をあわせて載せたものは本書が初めてである.

 著者の3名のうち,Pfeiffer氏は米国生まれ,Rowden氏は英国生まれの,いずれも動物学者で,カナダの医学校に奉職している.Weibel氏はスイス生まれの電子顕微鏡技師でフィラデルフィアで働いている.

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Intestinal Mucosal Disaccharidases in Chronic Pancreatitis: C. Arvanitakis, W. A. Olsen (Amer. J. Digest. Dis. 19: 417~421, 1974)

 慢性膵炎や糖尿病の際の腸粘摸2糖類分解酵素活性について数々の研究があるが,人間と動物では異なる成績が報告されている.そこで著者らは,慢性膵炎,糖尿病患者での腸粘膜のSucrase,Maltase,Lactaseを測定し,対照群のそれぞれの値と比較を試みた.対象は,慢性再発性膵炎患者9人,インスリンを要しない成人発症の糖尿病患者6人および対照群6人で,一夜絶食させた後,小腸生検鉗子を透視下に挿入し,十二指腸空腸接合部から組織を採取し,ホモジネートの後,Sucrase,Maltase,Lactaseを測定した.

 SucraseとMaltaseの活性は,対照に比し慢性膵炎では有意の差をもって高かったが,Lactase活性は差を示さなかった.

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 1800年代の終りから,今世紀のはじめにかけて,現在行なわれている胃疾患に対する診断学の基礎はほぼ確立されたが,その際中心的な役割を演じたのがドイツ医学であったことは周知の事実であろう.

 しかし,その後消化管ホルモンの抽出,合成または胃内視鏡機種の開発など消化管をめぐるトピックについては,西ドイツは米国,北欧諸国,日本等に多少遅れをとって来たと言わざるをえない.19世紀から20世紀の前半にかけての華やかさの故に,その断層を一層強く感じるのである.とくに胃疾患の病態生理学的な診断法に関してはNöllerが,ラジオ・カプセルで胃内pHのテレメータリングを実用化した以外みるべきものがなかったのである.

編集後記 常岡 健二
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 本号は,消化管の非上皮性腫瘍をとりあげ,主題として臨床と病理の2つにしぼり,これに関係した症例報告を加えることにした.臨床面からは,かねてよりこの方面に関する業績の多い信田教授に各腫瘍の頻度,臨床的事項等の綜説をお願いした.従来よりよくつかわれている粘膜下腫瘍と非上皮性腫瘍との関係,語義のみならず,臨床面でもこの両者を明確に区別したい主旨が述べられた.この種の文献としてPalmerのReviewが有名であるが,信田教授らのものは国内文献として今後大変役立つものと考えられる.また病理面からは,下田・佐野博士らに非上皮性良性・悪性腫瘍の病理の解説,ことに自験例のうちから,最近免疫学的に注目されている形質細胞腫,とりわけ消化管細胞浸潤を主体としたIg-G増加のheavy chain病の最初の例と思われるものの発表と,併せてIg-Aのheavy chain病にも触れていただいた.悪性リンパ腫ないし類似病変の免疫学的研究は今後の課題の一つであり,大変興味深い.主題担当の先生方の御努力に感謝します.

 また症例報告は,主として胃に関するものであるが,診断学的にも,病理学的にも,それぞれ貴重なもので,教えられるところが多い.

基本情報

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胃と腸
10巻7号 (1975年7月)
電子版ISSN:1882-1219 印刷版ISSN:0536-2180 医学書院

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