胃と腸 10巻6号 (1975年6月)

今月の主題 消化管憩室

主題

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 消化管憩室症は,食道から直腸まで発生する可能性がある.そして,単発性から多発性,型も真性,仮性とあり,その発生部位によりいろいろと異なった様相を呈している.そして欧米人と日本人では,その性質,発生部位,重症度など必ずしも同一ではない.ただ最近,日本でも生活の西欧化につれて欧米人と同じように憩室症に悩む時代が到来するのではないかと案じている.

 昨年,シカゴの国際消化器外科学会の結腸憩室症のシンポジウムに出席の際,Welchが私に,“日本の結腸憩室症は大問題ではないであろう.しかし,米国では5歳の小児にも憩室が発生して,現在疫学的にも大問題であり,日本も近い将来同じような運命をたどるであろう”といったことを思い出す.このように,全世界的に,現在――さらに将来にかけて,憩室症は大きな問題であると思う.

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 十二指腸憩室に関してはCaseらがレ線的に診断してから,諸家により多くの報告がみられるが,近年,膵,胆道疾患への関心が高まるとともに低緊張性十二指腸造影(以下HDG)が日常検査として行なわれるようになり,十二指腸憩室に遭遇する機会も増加してきている.十二指腸憩室の大部分は無害であると考えられ,従来等閑視される傾向にあったが,傍乳頭憩室についてLemmelはPapillensyndromの呼称のもとにparapapillären Divertikelの臨床的重要性を指摘している.本邦においても第14回日本消化器病学会秋季大会で「十二指腸憩室の臨床」と題するシンポジウムがもたれて討論されたが,憩室の臨床的意義が十分把握されたとはいいがたい.その理由の1つとして憩室が解剖学的にきわめて複雑な位置にあり,近接する諸組織の変化を的確につかむことが容易でないことがあげられる.また,憩室に遭遇する機会が多い割には臨床家の関心がうすかったことも一因であろう.

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 近年,大腸疾患に対する興味の高まりとともに,大腸憩室病の発見頻度も上昇する傾向にある,大腸憩室病に関する総説的論文は数々あるが,それらの内容を総合すると大腸憩室病の最近の考え方を以下のように要約できよう.

 種々の原因によって,大腸固有筋層のmortor activityが上昇し,筋層肥厚などのmuscle abnoromalityが生じるとともに腸管内の圧上昇がもたらされる.この圧上昇のために腸管壁のweak spots,主として血管侵入部において粘膜の腸壁外へのherniationが生じる,これが憩室であり,diverticulitis,peridiverticulitisなどはこの憩室に派生的に発生する合併症の1つである.

 このような考え方が生まれるに至るには,X線学的研究,組織学的研究,生理学的研究の積み重ねが必要であった.ここにこれらの研究の足跡をたどりつつ,大腸憩室病の病理,病態を浮き彫りにしたいと思う.

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 本邦における大腸憩室病は,現在,欧米並みの頻度で報告されている.欧米とは異なり,右側大腸に多いこと,および欧米の成書,報告(文献)にみるような重篤な合併症が少ないことが周知になっている.

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 与えられた主題は十二指腸球部以下で憩室様所見を呈する病変ということであるが,憩室については本誌の中で他の著者により詳しく述べられることと思うので,本稿では憩室ないしそれとの比較には触れず憩室様膨出を示す病変についての考察と,いくつか代表的症例を供覧することにより,その責を免れたい.

 憩室様所見は,所見そのものが病変である場合と,局在病変の周辺間接所見としてあらわれる場合および系統疾患の一部分所見としてあらわれるものとがある.したがってここでいう憩室様所見は,真の憩室とは臨床的意義を全く異にする.すなわち異常な憩室様膨出所見が認められた場合,その原因を十分検索することが大切であり,そのことのほうが憩室(真性,仮性)自身をみつけるよりも臨床的意義は大きいといえる.

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 高木(司会) 消化管の憩室が特集になったきっかけは最近,検査で食道・胃・腸,全体を通して消化管の憩室が多くみつかるようになったことと,欧米との比較で,少し日本の憩室が違っているのではないかということがいわれている点にあると思います.憩室というものの考え方,あるいは憩室の定義について…….

一冊の本

Crohn's Disease 竹本 忠良
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 Aberdeenといえばつい香港の水上レストランのある一帯を思い出すわけであるが,この本はScotlandの北東部にあるAberdeenのDr. James Kyleの著者である.Kyleの経歴とか年齢などもまったく知らないが,扉には肩書がConsultant Surgeon,Royal Infirmary,Aberdeen; Honory Clinical Senior Lecturer in Surgery,University of Aberdeenとある.

 本の扉にはDr. Burrill B. Crohnの写真がのっているし,序文もCrohnが書いている.それによると,1932年にこの疾患がはじめて記載されて以来,この疾患は全世界のあらゆる気候風土,国そしてすべての社会階層にみられることが認められたし,おびただしい内科,外科ならびに疫学上の文献が発表されてるが,断片的な満足が得られるにすぎない.クローン病についてはregional enteritisとcolitisを包括した広汎な研究が必要であったが,20年来これが欠けていた.このneedに十分応えたのがこの本であるとほめている.

胃と腸ノート

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 症例 7 39歳 男(O-13518)

 切除胃の肉眼像(Fig.1)では幽門部に小彎を横切る線状潰瘍が認められ,このために小彎は非常に短縮している.また,潰瘍のoral側にはくびれを有した粘膜の限局性隆起が認められる.幽門部の線状潰瘍には前,後壁より著明な粘膜ヒダの集中が,さらにその先端には明瞭なⅡcの蚕喰像が認められる.このⅡcの蚕喰像はシェーマ(Fig.2)に示す範囲にみられ潰瘍の偏側性である.また,前壁の粘膜ヒダの2本が先端でH型に融合し,この部分で癌細胞が粘膜下層以下に浸潤していることがうかがえる.組織学的には本病変はUl-Ⅳの潰瘍を伴い前述した粘膜ヒダの融合部分で固有筋層内に浸潤したⅡc進行型の胃癌であった(大きさ5.4×2.2cm,リンパ節転移なし,0/17),本病変の口側の限局性粘膜隆起は体部腺領域に存在している.体部の粘膜ヒダが限局性の肥厚を来たし,その表面の性状は乳頭状または顆粒状を呈している.この所見より限局性肥厚性胃炎が最も考えられる.この部分の割面像ではFig.3に示すように固有粘膜はanal側の粘膜に比較して著しく肥厚している.さらにその表面は顆粒状の変化を呈している.この部分の拡大では(Fig.4)組織学的に単純な体部腺粘膜の肥厚を示すSchindlerの言うGlandular hypertrophic gastritisまたはSimple hypertrophyの像に相当する.

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 膵癌の血管造影診断には,動脈だけでなく静脈もよく造影することが大切である.静脈は動脈より膵癌の影響による変化が現われやすい.頭部癌では上腸間膜静脈,体尾部癌では脾静脈に圧排像,閉塞像がみられることが多い.

 図1は膵頭部癌の症例で,上腸間膜静脈から門脈にかけて狭窄がみられ,癌の浸潤が門脈におよんでいることが判る.図2は膵体部癌で脾静脈は閉塞され(↑印),造影剤はshort gastric vein(↑印),coronary vein(↑印)を通って門脈(↑印)に流入している.

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 まず第1回は,消失型Gastritis erosivaである.本病変の内視鏡及び切除胃による形態的特徴は,“隆起の立ち上りはなだらかで背は低く,中心の陥凹は浅く周堤に比べ大きな面積比を占める”ことである.この特徴は図1,2,3のようにX線像としても比較的忠実に描出可能である.図1(58歳♂):前壁薄層法.胃角部前壁にFaltenの上にのった“へびたま”所見を有するタコイボ状隆起の多発を認め,隆起の背は比較的低く,中心陥凹(Delle)は周堤に比べ大きな面積比を占める.前壁薄層法はGastritis erosivaの描出に有利な方法である.また,一般に多少とも圧迫の加わった腹臥位の粘膜像が“びらん”病変を描写ししやすいことは,熊倉のいう通りである.図2(42歳♂):小伸展の二重造影像.図3(39歳♂):中伸展の二重造影像.本病変の描出には,過伸展にならぬよう心掛けることを第一とし,空気量の少ない小伸展ないしFaltenを出す粘膜像に近い状態で,体位変換の精力的な繰り返しにより病変部にのせるバリウム量を数段階に分けて撮影する努力が必要となる.

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 いうまでもなく,上十二指腸角(Superior duodenal angle, SDA)は,十二指腸内視鏡検査において,球部およびそれ以降の部位観察の上で大切な目標となる.球部内観察の場合(特に,側視鏡で)SDAは,一視野でとらえたとき視野の左上方から右下方にアーチをつくり,胃角に類似した像をつくっている.多くは,この肛門側にKerckring皺襞が出現する.しかし,この言葉は,ふるくから解剖学,X線学上使用されている上十二指腸曲(Flexura duodeni superior)と類似しているし,名称の定義が十分に理解されなかったため,球部内のオリエンテーションの実際にまだ誤解を生じているのが現状である.いまさらという感もあるが,球部内の唯一のオリエンテーション指標となるSDAについてもう一度考えてみよう.

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 胃疾患診断学の進歩は漸次,微細な病変へと目を向けさせ,胃癌についていえば,癌巣の拡がり,深達度ともに極めて軽微な微小癌と称されるものが臨床診断の対象となるに至った.しかし,微小胃癌の診断には従来の早期胃癌の診断の要点をそのままあてはめることが無理な例が多く,未解決の課題は多い.

 筆者らは,胃体部に良性の接吻潰瘍を合併した,角上部前壁の微小胃癌(4×5mm)を経験したので,臨床診断の要点に若干の考察を加えて報告する.

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 症例

 患者;64歳 主婦

 主訴:心窩部重圧感

 家族歴・既応歴:特記すべきことなし

 現病歴:昭和47年3月に当科を初診し,胃X線険査にて前庭部の胃炎をチェックされ,胃ファイバースコープを施行,胃生検も行なったが悪性病変の診断はなされず経過観察を指示された.

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 消化管より著明な蛋白漏出を示し,術前Borrmann Ⅰ型進行癌と診断,手術により広範なⅠ+Ⅱb型早期胃癌で,しかもⅠ型の部分は見事な絨毛状発育を呈した興味ある症例を経験したので報告する.

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 胃結核は数ある胃疾患でもきわめて稀な疾患である.われわれは胃癌の診断の下に手術を行ない,術後病理学的に胃結核と診断した症例を経験したので報告する.

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 Palmer,Jones,Hirschowitz,川井らパイオニアたちの努力によって,現在上部消化管出血に対しては緊急あるいは早期内視鏡検査を行ない,出血部位と出血源を確認し最も適切な治療に努めるのがルーチンとなってきた.しかし,緊急事態下で再出血の危険性や血液残溜による診断能の低下といった制約もあり,出血部位と出血源を確診するのが困難な場合もときには経験する.さらに内視鏡検査を行なっても全く確認できないか,あるいは出血部位が十二指腸以下であり,出血が続いていると考えられる徴候がある時,その取り扱いには苦慮せざるを得ない.筆者らは感冒様症状に続いて起きた下血を訴えた患者で,初回消化管出血時には出血源不明のまま止血し,第2回目の出血時には内視鏡的に出血部位を確認し手術,切除胃にて放射状および線状の粘膜出血を認めた.病理組織学的にMallory-Weiss症候群や一般の出血性びらんなどとの異同も論じられたが,結局この粘膜出血の本態について明らかなことは知られなかった.文献を種々渉猟したが本例のような報告は見あたらず,新しい病像である可能性も考えられたのでその概要を報告する.

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 胃が嵌入部あるいは夾鞘部として関与する胃重積症はきわめて稀な疾患で,1888年Chiariにより初めてその剖検例が報告された.1946年Hobbs&Cohenは,45例を文献的に集めて報告し,考察を加えているが,本邦ではわれわれが調べえた範囲では水野,磯貝,山中,増田らの4手術治験例の報告を見るに過ぎない.最近われわれは,胃体部に対称性にみられたⅠ型早期多発胃癌による胃重積症の1例を経験し,選択的腹腔動脈造影にて興味ある所見を得たので,診断の面でいささかの考察を加えて報告する.

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 欧米では消化性潰瘍の穿孔例を多数(1施設で256例,他施設の集計では1,102例も)内科的に治療して,よい成績を得たという報告がある.消化性潰瘍穿孔の内科的療法は欧米ではほぼ確立された治療法らしく,Bockusのtext bookにも数ページにわたって詳細に記載されている.これに反し本邦では,潰瘍の穿孔は手術の絶対的適応とされ,内科的に治療したという報告は,現在までのところ見当らない.ただ常岡教授はこのような治験例を持っておられるとのことである,著者らは特殊な事情のため胃潰瘍穿孔の1例を内科的に治療するという経験をしたので報告する.

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欧文目次

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 非常に要領よく書かれた上部消化管疾患診断概観(アトラス)(200頁)であり,特に内視鏡所見に重点をおいて明快に解説されている.

 わが国では胃疾患についてすでにすぐれた数多くの著作が出版されているが,欧米ではこの手の書籍は珍しい.著者のKlaus Krentz教授はAachenのLuisen病院内科のchef-Arztである.一読,胃癌・胃炎などの項に関してはややものたりなさを感ずる点もあるが,欧米の実態に応じてバランスよく上部消化管各種疾患を網羅してあり,文献もわが国のものも含めて最近のものまで比較的よく集録されている.

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 「新臨床内科学」がこのほど出版され,一読する機会を得た.これはその序文に発刊の意図が述べてある通り,従来の内科学書の型を全く破ったものであって,今日の内科学の最新の知識をきわめて要領よくとりまとめたものである.そしてそこにこめられた「年と共に進展して行く内科臨床の知識を簡単明瞭に記載して実地診療に役立てたい」という編集者諸氏の願いがよく達成されていると思われる.

 本書の執筆には内科以外の専門家も含んだ133名の方がたが当っておられ,それぞれお得意の領域を分担されていて,要領よく筆を運んでいる.しかも全体の流れがうまく調節されている中で,万遍ないくらい内科学の最近の知識が盛り込まれているようである.

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 竹本・川井両教授編の本書を一読して,深い感慨に打たれました.

 もう10年も以前のことになりますが,著者の1人津田君と彼の同僚,青木君が,私と職場を共にしておられました.そこで,色素撒布による内視鏡検査の研究に取り組んで,苦闘しておられるのを眼のあたり見ていたのです.

編集後記 高木 国夫
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 本誌は,消化管疾患では,従来から悪性疾患を中心に扱ってきたが,今回は少し趣を変えて,日常診療で見いだされても,簡単に扱われる傾向にあった消化管の憩室について特集を試みた.特にわが国の憩室の特徴,十二指腸および大腸の憩室の新しい見方,さらに憩室様病変をも加えて詳細な検討がなされている.座談会は,宮城先生を迎えて,憩室症の意義を討論していただいた.

 消化器疾患について,従来から欧米の報告に基づいて研究がなされてきたが,早期胃癌に始まり,X線,内視鏡検査に基づいてわが国独特の検討がなされるべきであり,現在なされているが,憩室の特集もかかる意味で,さらに解明が必要であろう.

基本情報

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胃と腸
10巻6号 (1975年6月)
電子版ISSN:1882-1219 印刷版ISSN:0536-2180 医学書院

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