臨床検査 51巻8号 (2007年8月)

今月の主題 ヒト乳頭腫ウイルス(HPV)と子宮頸癌

巻頭言

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 ヒト乳頭腫ウイルス(human papillomavirus:HPV)と子宮頸癌,異形成との関連が明らかにされ,その認識のもとに実地臨床が展開されるようになって久しい.臨床検査という視点からみると,病態の原因がわかっている場合には,その原因因子の人体への関与を具体的に調べあげることが臨床検査にまずは要請される事項である.

 子宮頸癌,異形成の検出には,従来より形態学的手法,すなわち細胞診,コルポスコピー診(コルポ診),組織診の3者の連係のもとに行われてきた.この基本は現在でも変わりがない.しかし,加えて近年HPV DNAテストが登場してきた.これを従来の方法とどうからませて運用するかが,今後の大きなテーマとして登場してきている.

総説

HPVの生物学 白澤 浩
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 パピローマウイルスは,脊椎動物の上皮細胞に増殖性の病変を引き起こすDNA腫瘍ウイルスであり,ヒトパピローマウイルス(human papillomavirus;HPV)には100以上の遺伝子型が知られている.粘膜に感染するhigh risk型HPVは,子宮頸部前癌病変の病因であり,子宮頸癌の発癌因子である.近年,子宮頸癌予防を目的としたHPVワクチンが開発され注目されている.本稿ではパピローマウイルスの生物学的特徴について概説する.

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 子宮頸癌の発症因子であるhuman papillomavirus(HPV)は,現在100種類以上が知られているが,高リスク型と低リスク型に分類され,高リスク型の持続感染が頸癌の発生に密接に関連する.頸癌検診の際,高リスク型HPVの有無をチェックすることは,前癌病変の管理や治療方針の決定に非常に役立つ.本稿では子宮頸癌発生の自然史におけるHPV感染の意義,集団検診や術後再発予知におけるHPV-DNA検査の有用性等について,文献的考察を交えて概説する.

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 子宮頸癌は検診によって前癌状態を検出し,早期発見することによって,予防が可能な癌腫である.現在,わが国で行われている前癌病変検出のための検査手順とその後の取り扱い(トリアージ:triage)や予防的治療法について概括した.欧米では既にHPV-DNA検査が子宮頸癌検診に導入され,成果を上げている.HPV-DNA検査を日本の検診システムに導入するために,これに対応した細胞診の報告様式であるベセスダシステムや,細胞診検査後にHPV-DNA検査を追加可能な液状処理細胞診を同時に導入することが望ましい.HPV-DNA検査を補助診断法として用いると,細胞診で評価が困難なASC-USについても高度病変存在のリスク評価が可能となる.一次スクリーニングにおいて細胞診とHPV-DNA検査を併用すると,子宮頸部高度病変に対する感度が向上し,特に陰性適中率が向上するため検診間隔を延長できることが示されている.

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 子宮頸癌の主な原因は,高リスク型ヒトパピローマウイルス(human papillomavirus;HPV)の持続感染である.したがって,HPVの感染を予防できれば,その発症を抑えられることにつながる.子宮頸癌は他の癌と異なり,定期的な検診で前癌病変のうちに発見することが可能であるため,細胞診やHPVテストといったスクリーニングによる早期発見が重要である.さらに,最近,原因となるHPV感染そのものを防御するワクチンによるHPV感染予防が臨床応用された.

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 HPV感染における細胞所見については多くの報告がある.Meiselsらが報告したkoilocytotic atypiaはHPV感染に特異的な所見として紹介されているが出現頻度が低く,またそれ以外の細胞所見は,HPV以外の感染症にも出現するためHPV検出を目的としたスクリーニングとして有用ではない.しかし細胞診は形態学的変化の観察に有効であることから,HPV-DNA検査を併用することでより確実に異形成病変および子宮頸癌を診断することができると考える.

組織診 本山 悌一
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 HPVの感染から子宮頸癌の発生に至る過程において,感染に伴う細胞・組織異型なのか,腫瘍化を意味する細胞・組織異型なのかという問題は古くから指摘されてきたことである.既に扁平上皮癌となってしまったものに関しては,この区別に重要性は見いだせないが,いわゆる前癌病変ではこの区別は重要であり,今日的知識と技術で可及的速やかに解決されるべき問題である.

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 in situハイブリダイゼーション(ISH)法は,DNAやRNAの局在を細胞レベルで検出・可視化するためのテクニックである.DNAやRNAを抽出せずに,in situ(それらが存在する本来の場所で,すなわち細胞中もしくは組織中で)ハイブリダイゼーションによって検出することにより,形態所見と対比できる点が,すぐれている.特にDNA-ISHはヒト以外のゲノム,感染症病原体が主な観察対象であり,HPVなどのDNAウイルスの検出には適している.シグナルの可視化も,非放射性プローブ標識で,放射性標識にほぼ匹敵する結果を得られるようになり,より簡便に検出できるようになった.ISH原理や方法ならびに,ISHによるHPVの観察などについて具体的に解説する.

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 子宮頸部などの粘膜上皮に感染するhuman papillomavirus(HPV)は40タイプ以上存在し,そのうち10数タイプは癌を誘発すると考えられている.HPV感染の診断はHPVのDNA配列によって行われ,研究分野ではPCR法がよく用いられている.PCR法はHPV-DNAを増幅して検出するため高感度であるが,PCR産物のcarry overに十分注意する必要がある.これまで一度に多種類のHPVを検出できるconsensus primerを用いたPCR法がいくつか開発されており,疫学調査に用いられてきた.しかし,これらのPCR法によるgenotypingでは,HPVタイプによって検出感度に差がみられることがある.筆者らはそのようなHPVタイプによる検出感度の差をできるだけ少なくしたLCRE7-PCR法を開発して疫学調査を行ってきた.筆者らの研究とsouthern blot hybridization法を用いた他の研究結果から,HPV16,18型は子宮頸癌の53%であること,HPV18型は扁平上皮癌では少ないこと,扁平上皮癌ではHPV31,52,58型が多いことが明らかとなった.また,HPV16,18,31,33,35,39,51,52,56,58,59,67,69,82型は高リスク型HPVであると考えられた.

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 子宮頸癌はわが国の女性性器癌で最も頻度が高く,原因はヒトパピローマウイルス(human papillomavirus;HPV)感染症によることが明らかとなっている.頸部癌検診および異形成病変における本感染症の診断は重要で,検索法は現在様々あるが,キットとして現在最も用いられているのはハイブリッドキャプチャー法であり,わが国では唯一体外診断医薬品として認可を受けている.米国では30歳以上の頸部癌スクリーニングにおいて,細胞診とHPV検査を併用することが推奨されており,わが国においても頸部癌検診の方法が見直されつつあり,今後この方法が有用となってくると考えられる.

トピックス

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1.はじめに

 ヒトパピローマウイルス(human papillomavirus;HPV)は現在までに100型以上同定され,40型以上が性器に感染し1),Munozらによると少なくとも15の型(16,18,31,33,35,39,45,51,52,56,58,59,68,73,82:高リスク型HPV)が子宮頸癌発生に関与するとされる2).これまでの基礎的研究,疫学的研究から,HPV感染が子宮頸癌発生に強く関与することには異論がない.ただし,一方でHPV感染はありふれたもので,不顕性感染のままのウイルスの消失,自然治癒が多いのも事実である.また,2006年6月にはHPV6,11,16,18の予防ワクチンが米国で認可され,本邦でも数年後には認可されることが期待されているが,本邦でのHPV16,18型陽性子宮頸癌の割合が欧米と比較して少なく約60%であること,ワクチン接種の対象が10代前半で癌検診の対象者と異なることから,少なくとも15~20年は子宮癌検診の担う役割は大きいと考えられている3)

HPVワクチン開発の現況 井上 正樹
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1.はじめに

 子宮癌は古くから性との関連が強いことが疑われ,ビーナス病の1つとして考えられてきた.原因として種々のものが想定され検証されてきたが,実証には至らなかった.20世紀後半の分子生物学の技術的進歩を背景として,1983年zur Hausenらによって子宮頸部癌組織にHPV(human papillomavirus)16型ゲノムが高率に存在することが報告され,原因ウイルスとして急速に注目された1).そして,多くの研究者がHPV研究に参画し,疫学研究や分子レベルの基礎研究が進められ,HPVが子宮頸癌の原因ウイルスであることが明確になった2).今日,これらHPV研究の成果は臨床現場で生かされようとしている.癌検診への導入や予防的ワクチンの開発である.子宮頸部癌の撲滅が現実のものとなりつつある.医学の進歩による素晴らしい成果といえよう.

頭頸部癌へのHPVの関与 出雲 俊之
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1.はじめに

 ヒト乳頭腫ウイルス(human papillomavirus;HPV)が,子宮頸部・腟・外陰腫瘍の発生に関与していることは広く知られている.感染から腫瘍化,癌化への分子機序研究進展とともに,近年ではワクチン治療も検討され始めている.同じくHPVの組織親和性が高い頭頸部粘膜上皮においては,喫煙と飲酒が最も高い発癌病因であるが,非摂取者にも癌が発生することから,他の病因が検討されてきた.近年の分子疫学的検索から頭頸部癌へのHPVの関与が明らかになりつつある.

今月の表紙 腫瘍の細胞診・8

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 卵巣腫瘍取扱い規約やWHO分類では,①表層上皮性・間質性腫瘍,②性索間質性腫瘍,③胚細胞腫瘍などに分けられている.卵巣腫瘍-1では,発生頻度の高い表層上皮性・間質性腫瘍について述べた.本稿では比較的稀な性索間質性腫瘍,胚細胞腫瘍,その他の組織型について記述する.

シリーズ最新医学講座 臓器移植・8

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はじめに

 欧米では,肝移植は脳死ドナーを中心として,多くの肝疾患に対する根治的な治療法として認知されている.一方,本邦では,独特の社会または文化的背景から脳死ドナーの普及が一向に進まず,生体肝移植が中心となっているのが現状である.本稿では,肝移植についてレシピエントの移植適応と周術期管理に脳死および生体ドナーの適応基準を加え,血液一般検査をはじめとした細菌・ウイルス学的検査や薬物濃度測定などの臨床検査のかかわりを中心に述べたい.

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 2006年1~7月に金沢医科大学病院小児科において分離されたS. pneumoniae 74株について,11種類の抗菌薬に対するMIC(minimum inhibitory concentration)を測定し,PCRにてPBPs遺伝子解析を行った.PBPs遺伝子変異頻度は,変異なし3株(4.1%),pbp2x変異13株(17.6%),pbp1a2x変異15株(20.3%),pbp2x2b変異4株(5.4%),pbp1a2x2b変異39株(52.7%)であった.pbp1apbp2b変異はPCG耐性,pbp2x変異はCTX耐性に関与し,さらにpbp1a変異が加わることでより強い耐性を示す傾向にあった.

学会だより 第81回日本感染症学会総会

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 本学会は,「病原微生物とhostを一体で把える」をメインテーマに,春爛漫の京都で行われた.6つずつのシンポジウムと特別講演,19の教育講演を中心に感染症の病態,診断,治療,予防,制御などの最新の知見を扱った演題が多数並んだ.

1.シンポジウム1:病原微生物とhostを一体で把えた感染症治療

 本学会におけるメインテーマを冠したシンポジウムであり,最も広いメインホールにおいて多数の聴衆が参集した.病原微生物を抗菌薬で抑え込むという微生物側の要因を重視した従来の治療法から脱却し,感染症を微生物と宿主の相互作用として多元的に捉えることで,より高次の治療を目指すという感染症治療のこれからの方向性が,最新の基礎研究の成果を基に示された.このシンポジウムで示された基礎研究の成果が,今後,臨床応用され,よりレベルの高い医療の実現に貢献することを期待したい.

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 第81回日本感染症学会総会は,笹田昌孝会長のもと4月10~11日の日程で京都にて開催された.笹田会長が冒頭のご挨拶にも述べられていたように,会場(国立京都国際会館)の桜が満開であり,参加者の目を楽しませてくれた.本学会は,世界一の研究者として最も注目されている審良静男大阪大学教授の特別講演「自然免疫による病原体認識」で幕を開けた.審良教授は,Toll-like receptors(TLRs)を介した自然免疫の重要性から最近の病原体認識受容体のトピックスまでをわかりやすくご解説された.先生のすばらしいご講演に,満場の参加者は熱心に耳を傾けていた.本学会のメインテーマである「病原微生物とhostを一体で把える」にもかなったものであった.

 本学会はこのテーマを中心に優れた特別講演・教育講演ならびにシンポジウム・ワークショップが計画され,ホットなディスカッションが行われた.

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 Zn-α2-glycoprotein(ZAG)は分子量41,000Da程度の糖蛋白質であり,ほとんどの体液に比較的豊富に存在し,前立腺癌マーカーとして有望である.著者等は蛋白質の開裂および特異的なペプチドの定量からなるLC-MS/MS(liquid chromatography-tandem mass spectrometry)法による血清ZAGの定量について検討した.測定には内部標準物質としてアイソトープ標識した合成ペプチドを用いた.牛血清アルブミン中にZAGを含む標準および患者血清は変性,還元,アルキル化し,トリプシンで消化した.ZAG濃度はZAG消化ペプチドの内部標準に対する比の曲線から計算した.本法は血清ZAGの検出限界0.08mg/l,直線範囲0.32~10.2mg/l,定量限界0.32mg/lであった.血清ZAG平均値は前立腺癌の男性25人(7.59mg/l)のほうが非悪性前立腺疾患の男性20人(6.21mg/l)および健康な男性6人(3.65mg/l)よりも高値であった.このLC-MS/MS法による分析は良好な再現性を示し,腫瘍マーカーとしての血清ZAGの臨床的有用性を高めることができる.

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 カルボニル化は酸化ストレス,老化,生理学的不調および疾患に関係する不可逆的な蛋白質の酸化変化である.酸化ストレスの増加はアルツハイマー病(Alzheimer disease;AD)のような老化関連神経退行性疾患の発症に関与するとも考えられている.さらに,最近,酸化ストレスの増加に対する応答機構は性に依存する可能性が明らかにされた.また,いくつかの酸化カルボニル化蛋白質が二次元oxyblottingによりAD患者の血漿および脳に同定されている.著者等は軽い認知症がある高齢のADの男女において,最も豊富に存在する脳脊髄液蛋白質の濃度およびカルボニル化について検討した.酸化カルボニル化蛋白質は二次元oxyblotting,質量分析およびデータベース検索で分析した.AD患者では,β-trace,λchain,transthyretins,未同定蛋白質1種の濃度が減少し,カルボニル化はλchainとこの未同定蛋白質で増加していた.蛋白質濃度に性差はなかったが,男性ではビタミンD結合蛋白質,アポリポ蛋白質A-I,α1-アンチトリプシンのカルボニル化が増加していた.

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 シリカ粒子関連炎症は,ケイ粉症や肺癌を含むいくつかの肺疾患の発症に関係する.著者らはTNF-α,IL-1βのシリカ刺激誘導におけるphosphatidylcholine-specific phospholipase C(PC-PLC)の役割および,どのようにPC-PLC活性がシリカにより調節されるかについて検討した.PC-PLCの阻害は肺胞マクロファージのTNF-α,IL-1βのシリカ刺激誘導を妨げ,これはPC-PLCがシリカ関連炎症応答に関係することを示唆している.PC-PLC活性はシリカ暴露により著しく増加するが,この現象は過酸化水素の不均化を触媒するMnTBAPにより阻害される.この結果は,PC-PLC活性が酸化還元依存様式で調節されることを示している.このことはPC-PLC活性が生体外の過酸化水素により増加するという知見からも確証される.細胞内カルシウムキレート剤のBAPTAは過酸化水素によるPC-PLC活性増加を妨げたが,カルシウムのイムノフォアのA23187はPC-PLC活性を高めた.肺胞のマクロファージにおいて,PC-PLCは酸化還元およびカルシウム依存様式で調節される.

コーヒーブレイク

書架にある人生(その2) 屋形 稔
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 汗牛充棟というほどではないが,わが家も書物が充満している.作家の井上ひさしも言っているように私も書物を処分しない癖が昔からあるためである.そのため住宅用マンションの他に近くに書斎用を購入し,もて余す破目になっている.

 文芸書の中で藤沢周平のものはほとんど集め愛読しているが,この人の初期未発表のものが最近見つかり話題になるほど人気があるようである.私の中にも彼の世界が入りこむほど身近である.何といっても筆の冴えが素晴らしく,風景や生活の中に静かに惹きこまれてしまう力がある.

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あとがき 坂本 穆彦
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 筆者はJICA(国際協力機構)の専門家として子宮頸癌対策プロジェクトに参画し,何度かメキシコを訪問する機会を得た.メキシコはオリンピックを開催するほどの国力があるにもかかわらず,WHOのデータによれば,子宮頸癌による死亡は10万人あたり年間20人を超え,世界的にみても最悪のグループに属している.

 メキシコの現状をみると国民の貧富の差がはげしく,全体の半数を占める低所得者層に子宮頸癌の死亡率がより高い.これが国全体の状況を悪いものにしている.保健省(わが国の厚生労働省にあたる)は,検診を受けるとスタンプを提供するなどいろいろな工夫をこらしている.わが国はこれまでも子宮頸癌対策には援助の手をさしのべてきた.その成果をふまえ今度はメキシコが主導するかたちで中米諸国の子宮頸癌対策にのり出すことになっている.

基本情報

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臨床検査
51巻8号 (2007年8月)
電子版ISSN:1882-1367 印刷版ISSN:0485-1420 医学書院

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