呼吸と循環 37巻9号 (1989年9月発行)

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特集　肺血栓・塞栓症—最近の動き

わが国の実態三重野　龍彦 , 北村　諭 37巻9号 , 1989年9月 , pp.923-927

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　肺血栓塞栓症（以下PEと略す）は欧米諸国では極めて高頻度にみられる疾患である。Dalenら^1）の試算によれば，米国では毎年20万人がPEにより死亡しているとされ，また米国の死因の第3位を占めるとする報告^2）もある。これに対し，従来より本邦では欧米諸国に比較してPEの発生頻度は低いとされてきたが，近年本邦においても本症症例が増加傾向を示していることは，多くの臨床医の共通した印象であると思われる。我々は第27回日本胸部疾患学会総会の肺血枠塞栓症に関するシンポジウムにおいて，日本病理剖検輯報の集計結果に基づき本邦におけるPEの疫学的検討を行い報告したが3），ここではその後2年間の結果を追加して概説する。

肺血栓塞栓症の基礎疾患と誘因服部　晃 , 笹川　康夫 , 帯刀　亘 , 柴田　昭 37巻9号 , 1989年9月 , pp.943-948

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はじめに

　肺血栓塞栓症（pulmonary thromboembolism：PTE）の塞栓子には，静脈系血栓のほかに脂肪，腫瘍，羊水，空気，更には造影剤や寄生虫，異物などさまざまなものがある^1）。剖検上PTEを最も多く認める疾患は悪性新生物や心肺疾患であるが，臨床上PTEの原因の80〜100％は下肢の深部静脈血栓（deep vein thrombosis：DVT）であり，逆に下肢のDVTの15〜20％がPTEを引き起こす^2）ため，これが治療および予防の対象となる。ここでは主に静脈血栓の誘因と基礎疾患について述べる。

血行動熊—体および肺循環と肺ガス交換喜屋武　邦雄 , 栗山　喬之 37巻9号 , 1989年9月 , pp.949-952

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はじめに

　肺の機能血管である肺動脈が血栓塞栓子により閉塞する疾患を肺血栓塞栓症という。

　肺血栓塞栓症は，従来，欧米に多く本邦には少ないとされていたが，最近，生活水準の欧米化に伴い，その発症頻度は増加しており，注目を集めるようになってきた^1,2）。しかし，本症の病態が，巨大な血栓塞栓により一瞬に広範な肺虚脱・右心不全を呈し急死するものから，自覚症状もなく慢性に経過するものまで複雑多岐にわたっているため，いまだ本症に対する理解が不足していると思われる。本症の診断や治療に関しては他の著者に任せるとして，本章では，急性肺血栓塞栓症と慢性肺血栓塞栓症に分けて，特に血行動態の面から述べるとともに，最近筆者らが経験した慢性肺血栓塞栓症に対する手術療法の成績についても言及したい。

診断とくに同位元素を中心とした最近の進歩古舘　正従 37巻9号 , 1989年9月 , pp.953-956

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はじめに

　肺血栓・塞栓症を核医学的に診断する方法は，非侵襲的であり，安全で容易に実施できるところからスクリーニング検査として広く常用されている。近年，換気像用放射性薬剤の開発やSPECTの普及，さらには血栓シンチグラフィ等により，診断効率が上昇しているので，最近の進歩を中心に概説する。

深部静脈血栓症中島　伸之 37巻9号 , 1989年9月 , pp.957-960

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はじめに

　深部静脈血栓症は，疾病としてすでに確立された概念であり，それほど稀なものではない。しかし．本邦においてはそれでも症例数自体が外国に比較して少ないことに起因するためか，この病気に対する理解は依然として捉え難く，漠然としている感を免れない。特に，我が国においてはこの病気へのアプローチは，その診断および治療の両側面から，外科側，特に血管外科側から主になされてきているので，どちらかと言うと治療面への興味が主体となっていて，この病気の本態的な面に対する考察は少ないように思われる。

　深部静脈血栓症と肺塞栓症との結びつきは欧米の文献では，密に関係しているという点に関しては疑いをはさむ余地はないようである。事実，欧米においては深部静脈血栓症の発症頻度そのものが高く，それに続発する合併症としての肺塞栓症の発生頻度も高いので注目されている分野である。

　このように見てみると，我が国における深部静脈血栓症を欧米におけるそれと比較してみると，基本的な病態は同じであっても，その原因や発展の様式に微妙な相違があるのではないかと考えられる。本稿では，我々の施設で経験した症例を中心として解析し，欧米との対比において検討を加えて述べてみたいと思うが，この特集の性質上，深部静脈血栓症自体について考察するのではなく，肺塞栓症の大きな一つの原因である深部静脈血栓症という観点より検討を加えたい。

肺血栓・塞栓症の治療長田　博 , 川上　義和 37巻9号 , 1989年9月 , pp.961-965

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はじめに

　肺血栓塞栓症（PTE）の治療においては，低酸素血症やショックに対する適切な救急処置を行うとともに，できるだけ早期にヘパリンによる抗凝固療法を開始することと，血栓溶解を促進することが重要である。また，慢性期においては，血栓・塞栓の再発防止に努める。本稿では，自験例の成績を中心に，急性期および慢性期の治療とその問題点について述べる。

将来の展望吉良　枝郎 , 斎藤　博之 37巻9号 , 1989年9月 , pp.967-969

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はじめに

　1964年の上田教授らの報告，1965年のHirst，Tnakaらの報告で欧米諸国に比べわが国では肺血栓・塞栓症の頻度は明らかに低いことが認識された。1969年の村尾誠教授らの報告で，本症の発生頻度はなお低いが明らかに増加傾向にあることが指摘された。これら約20年前の報告を踏まえその後の本症の実態を明らかにする目的で，昭和60年から3年間，厚生省循環器病研究委託費による研究班—血栓塞栓性肺血管疾患の診断と治療に関する研究—を12の医科大学および国立療養所からなる施設で結成した。本特集の筆者の大部分は，本班に属していたから，その成果の一部を紹介頂けよう。この研究班の活動を終わり，今後の問題として浮き彫りにされた点について述べよ，と言うのが筆者に与えられた課題であろうと受け止めている。

肺血栓・塞栓症の成立機序

1）生化学，凝固・線溶松田　道生 37巻9号 , 1989年9月 , pp.929-935

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はじめに

　血栓の形成に血液凝固系および線溶系がどのように関わっているか，ということは最近になって相ついで報告されている種’々の分子異常症（異常フィブリノゲン血症，プラスミノゲン異常症，アンチトロンビIII異常症など）のような凝固・線溶関連物質の質的異常や，アンチトロンビンIIIやプロテインCのような生理的に重要な制御因子の欠損あるいは分子異常症例での臨床的かつ基礎的な検索が進められて，ようやく明瞭になってきたように思われる。

　本稿では主として，凝固・線溶関連物質の質的あるいは量的異常を示す先天性疾患で得られた情報を中心に，血栓の成因に与る凝固・線溶の役割を考えてみたい。

2）生物学的機序宮本　顕二 , 川上　義和 37巻9号 , 1989年9月 , pp.937-942

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はじめに

　肺血栓塞栓症にみられる肺障害は急性期の肺水腫と，慢性期にみられる低酸素血症，肺性心に分けられる。ここでは急性期，肺微小血栓塞栓症に見られる肺血管障害（肺水腫〉について，その成立に関与する種々の因子について述べる。

研究

健常高齢者における呼吸機能検査値の再現性の検討堂坂　久美 , 岸　不盡彌 , 秋山　也寸史 , 鎌田　有珠 , 稲葉　秀一 , 鈴木　章彦 , 田代　典夫 , 西村　正治 , 川上　義和 37巻9号 , 1989年9月 , pp.971-976

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　近年，高齢者の診療においては老化に伴って生じる病的変化ばかりではなく，身体諸臓器における加齢による生理的変化が重要な問題になってきている。高齢化社会を迎え，手術等積極的な治療法の適応年齢が拡大の傾向にあり，呼吸機能障害を有する患老のみならず呼吸機能正常な患者においても呼吸機能の正しい評価が必要となっている^1,2）。しかしながら，外界と直接に接触している肺は大気汚染・喫煙・車粉塵・各種吸入抗原などの外来因子の影響を強く受けるため，純粋に加齢と呼吸機能の生理的変化との関係を把握することは困難である。その上難聴，呼吸筋力の低下等のため高齢者の呼吸機能測定は何れの検査においても拙劣なことが多く，その測定の評価にあたっては測定値の再現性について十分に考慮する必要がある。従来呼吸機能検査の再現性については健常若年者を対象として検討されることがほとんどであり^3〜9），Flow-Volume曲線（V-V曲線）^3,8） Closing Volume（CV）^3,17）などの呼吸機能検査項目において加齢がその再現性を悪化させている可能性があると考えられるが，何れも単一の測定法のみを対象として検討されているため1個体としてみた場合，多数の呼吸機能検査のうち何れの項目の再現性が加齢の影響をより受けやすいのかは検討されていない。今回筆者らは健常高齢者を対象として肺拡散能および血液ガス分析を除く代表的な呼吸機能検査を13項目にわたり施行し，その検査値の再現性について評価した。また，同一装置および測定方法で健常若年者についても同様の検討を行い，高齢者との差異についても検討した。

陰圧呼吸モデルとしての横隔膜ペーシングとその循環動態に関する実験的検討安間　文彦 , 野村　英雄 , 小川　昭三 , 宮口　和彦 , 成田　伍良 , 浜　是幸 , 林　博史 , 外畑　巌 37巻9号 , 1989年9月 , pp.977-981

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　横隔膜ペーシング（DP）は，横隔神経に電気刺激を与えて横隔膜を収縮させる陰圧呼吸法である。呼吸様式の違いによる心機能に対する影響については従来より検討がなされてきたが，陰圧呼吸の心機能に及ぼす影響についての実験的な研究は数少ない。これは実験的な陰圧呼吸モデルの作成が困難であったためと考えられる。今回我々は，イヌを対象とした急性実験で片側あるいは両側のDPにより陰圧呼吸を作成して，その心機能に対する影響を従来の人工呼吸器による陽圧呼吸と比較検討した。また，DPにより持続的に安定した陰圧呼吸が得られる時間，さらに陽圧呼吸ならびに両側DPモデルを用いて，呼吸サイクルが心機能に及ぼす影響についても検討した。

ファロー四徴症根治術後の左室容積特性に関する検討—右室との相関関係について小林　順二郎 , 中埜　粛 , 松田　暉 , 島崎　靖久 , 徳庵　喜久 , 川島　康生 37巻9号 , 1989年9月 , pp.983-989

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　ファロー四徴症（TF）根治術後における心機能の研究は，右室流出路再建術後に発生する肺動脈弁閉鎖不全（PR），遺残する肺動脈狭窄（PS），右室切開の有無等に影響される右室を中心になされてきた_1〜4）。一方，左室についても検討が加えられるようになってきたが_5〜9），これらはいずれも左室単独の検討，あるいは遺残心室短絡手術時年齢の及ぼす影響に関する検討が中心であり，右室との相関についての研究は少ない。

　今回我々は，TF根治術後の左室機能を検討し右室の及ぼす影響について興味ある知見を得たので報告する。

実験的右室梗塞における右側胸部誘導ST上昇の意義真田　竹生 , 甲斐田　博 , 窪内　洋一 , 岡村　哲夫 37巻9号 , 1989年9月 , pp.991-995

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　最近になって右室梗塞（RVI）は下後壁梗塞の約半数に合併するとされ，治療法の選択という点からもその診断は重要なものとなりつつある。またRVIにおける右側胸部誘導のST上昇は臨床的にRVIの診断として重要であるばかりでなく心電図学的にも興味ある問題を含んでいる。この問題の解明には純右室梗塞におけるECG変化の検討が有用と思われるが，臨床的な純右室梗塞は稀であり，実験的にも純右室梗塞のECG変化を検討した報告は数少ない。そこで我々はagar gelを用いて経カテーテル的に冠動脈閉塞を行い，右冠動脈（RCA），左冠動脈回旋枝（LCX），RCA＋LCXの閉塞を各々作成し，RVIにおける右側胸部誘導ST上昇の意義に関して考察した。

近赤外分光法を用いる無侵襲生体計測—特に新しい定量的測定法について田村　正秀 , 一色　学 , 橘　秀光 , 田村　知巳 37巻9号 , 1989年9月 , pp.997-1002

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　組織透過性の高い近赤外領域の光を用い生体組織中の血液ヘモグロビン（Hb）の酸素化，ミトコンドリア（Mt）のチトクローム・オキシダーゼ（cyt．oxidase）の酸化還元状態などを無侵襲にモニターする試みはJobsisi^1）に始まり注目を集めるようになった。著者らは数年来ラット脳を対象に脳内Hb酸素濃度，脳血液量およびcyt．oxidase （aa₃）の酸化還元レベルの測定を試みてきた^2〜4）。このHb測定法としては通常組織反射または透過光の二波長分光（二波長吸収差の記録）によるもので従来酸素濃度により吸収の大きく変化する波長を測定波長（著者らは700，760nm使用）に変化しない波長を対照波長としてこの二波長の吸収差を測定してきた^5）。対照波長として通常Hbの等吸収点波長が用いられラット脳の場合805nmを選択してきた^3〜5）。しかもこの等吸収点波長における吸光変化は全Hb量すなわち血液量の変動を表すことになる。しかし後述するが脳cyt．oxidaseは近赤外領域に幅広い吸収帯を持つためにoxidaseの酸化還元による吸光変化が重なり酸化Hb量，全Hb量の定量測定に誤差を生じる危倶がある。今回はcyt．oxidaseの吸収に影響されない波長を用いてのより精度の高い測定法について基礎的検討を行った結果を報告する。この新しい測定法はすでに1987年より用いておりその一部は同年に発表した^6）。

肥大型心筋症における運動負荷Tl-201心筋シンチグラフィーのWashout Rate低下の臨床的意義井上　省三 , 鼠尾　祥三 , 忠岡　信一郎 , 長谷川　浩一 , 河原　洋介 , 覚前　哲 , 中村　節 , 和田　佳文 , 沢山　俊民 37巻9号 , 1989年9月 , pp.1003-1007

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　肥大型心筋症（HCM）例では運動負荷Tl−201心筋シンチグラフィーで，灌流欠損や再分布がみられる場合があり，これには冠微小循環障害や線維化の関与が考えられている^1,2）。一方，本症においてinitial distributionは正常で，washout rateのみ低下する例が存在することが指摘されているが，その意味するところは，いまだ明らかではない^3）。

　この問題を明らかにする目的で，HCM例のうち運動負荷心筋シンチで肥厚部位に一致してwashout rateのみ低下を示す例の臨床的意義を検討したので報告する。

体位性誘発ラ音の血行動態からの検討—呼吸機能正常な虚血性心疾患患者において飯田　真美 , 後藤　紘司 , 八木　安生 , 大島　貞男 , 大角　幸男 , 山本　典孝 , 出口　富美子 , 平川　千里 37巻9号 , 1989年9月 , pp.1009-1014

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　肺音の音響学的分析や発生機序については，近年，記録装置や解析法の進歩によってかなり解明されてきた。副雑音の一種であるfine crackles^1）は閉塞した末梢気道の開放による原音とその共鳴から成ると考えられている^2〜6）。共鳴には，気道壁の振動が抑制されるという条件が重要であり，間質性肺炎にみられるような気管支壁の繊維化や肥厚，肺水腫にみられるような間質の浮腫，体位（重力の影響）など，各種の因子がcracklesの発生に関与するといわれている^2,6）。肺水腫においては，crac-klesの発生が臨床的に重要な所見の一つとされ，例えば，Killipによる急性心筋梗塞症における重症度分類ではcracklesの聴取とその範囲を重要な指標としている^7）。特に，fine cracklesは心不全の初期，坐位の肺底部において，吸気終末に聴取されやすいとされる^2）。当教室では，明らかな心不全症状がないにも関わらず，各種疾患で坐位から仰臥位，さらに，両下肢挙上位に体位を変えることにより，fine cracklesが誘発されることがあることに注目し^8），これを体位性誘発ラ音（posturallyinduced crackles，略してPIC）と呼び，これまでに虚血性心疾患，肝硬変，糖尿病などの疾患において高頻度に聴取されることを報告した^9,10）。

　本研究はPICの発生に関与する因子を解明する目的で，虚血性心疾患患者を対象とし，血行動態，特に，肺循環の変化について検討を加えた。

症例

中年になって胸痛発作で発症した先天性冠動脈肺動脈瘻の冠循環動態について三国谷　淳 , 木村　俊昭 , 菊池　文孝 , 戸塚　英徳 , 田村　太志 , 小野寺　庚午 , 小山　浩一 , 鯉江　久昭 , 大池　弥三郎 37巻9号 , 1989年9月 , pp.1015-1020

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　比較的稀な疾患とされてきた先天性冠動脈肺動脈瘻^1）も，冠動脈造影手技の普及に伴いその報告は増加している^2,3）。しかし，本疾患にみられる胸痛についてはcor-onary steal^4）で説明されているが，十分な検討がなされているとはいい難い。今回われわれは，中年になって前胸部痛で発症した先天性冠動脈肺動脈瘻症例の冠血流量を瘻閉鎖前後で測定し，本疾患にみられる胸痛出現の機序について若干の検討をしたので報告する。

急激な進行をみた原発性肺高血圧症の1女子例安井　清 , 真下　和宏 , 斉木　和夫 , 牧　隆敏 , 新村　一郎 37巻9号 , 1989年9月 , pp.1021-1025

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　原発性肺高血圧症（Primary Pulmonary Hyperten-sion：以下PPHと略す）は，肺実質あるいは心臓に明らかな基礎疾患が証明されずに前毛細管性の著しい肺高血圧をきたす原因不明の疾患と定義され，予後は極めて不良である。症例は蛋白尿，浮腫にて発症し，特徴的な所見を欠くため初期診断に苦慮し，症状の出現より8カ月という急激な経過にて死亡した。本稿ではその臨床所見，経過，剖検所見について報告する。

悪性胸膜中皮腫が疑われた心外膜原発性悪性中皮腫—1剖検例の報告と心外膜悪性中皮腫の本邦報告例における他臓器侵襲についての考察鳥居　尚志 , 高須賀　博久 , 水島　睦枝 , 伊藤　慈秀 , 金谷　経律 , 松島　敏春 37巻9号 , 1989年9月 , pp.1027-1032

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　悪性胸膜中皮腫が連続的に心外膜を侵襲することはよく知られている。このため，臨床的に胸腔内の悪性腫瘍が疑われ，胸水と心嚢液貯留がある場合，それは肺癌や悪性胸膜中皮腫が心外膜へ2次的に浸潤したものと考えるのが一般的である。我々は，まれな心外膜原発性悪性中皮腫が逆に胸膜へ浸潤し，胸水と心嚢液貯留を来たし，胸水細胞診にて悪性胸膜中皮腫が疑われた症例を経験した。その自験剖検例を報告し，収集しえた51例の心外膜悪性中皮腫の本邦報告例につき，主に他臓器への転移・浸潤について考察を加える。

基本情報

呼吸と循環
37巻9号
(1989年9月発行)

電子版ISSN：1882-1200 印刷版ISSN：0452-3458 医学書院

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