呼吸と循環 33巻12号 (1985年12月)

巻頭言

PEDIATRIC CARDIOLOGY—1985 加藤 裕久
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 6月2日から5日間,New Yorkで世界小児心臓学会が開かれ出席した。第1回はロンドンで1980年におこなわれ,5年ぶりの開催である。アメリカ,カナダのみならずヨーロッパや日本からも多数の参加があり,世界の有名な小児循環器専門医や心臓外科医のほとんどが出席して盛会であった。毎日,午前中はplenary sessionで最近のトピックスに関してその方面の第一人者の講演があり,いながらにしてこの5年間の小児循環器の最新の知識が分かりたいへん有益な会であった。その中でいくつかを上げてみると,「画像診断の進歩」ではとくに我国で開発されたカラードップラー断層エコーがSahnによって紹介された。またNMRのすばらしい画像がHigginsによって示された。「カテーテルを用いた非外科的治療」では,肺動脈狭窄や大動脈縮窄に対してバルーンカテーテルにより狭窄を拡げるangioplastyや,レーザー光線カテによる心房中隔切開術や血栓の融解治療が紹介された。「大血管転位の手術法はなにを選ぶか」ではCastaneda,Jatene,Barratt-Boyes,Starkなどの一流の心臓外科医が議論をし,今後はJatene法,Leco—mpte法が主流となることが示された。この他,トップの心臓外科医としてFontan,Danielson,Ebert,Kir—klinらの参加がみられ,東京女子医大外科の今井教授もCooley,Norwoodらに互して「複雑心奇形の手術」のdiscussに参加された。「新生児肺高血圧」では新生児循環生理研究で有名なRudolph,Rowe,Olley,Fried—manらよりプロスタグランヂンに加えロイコトリエンに関する最新の情報が示された。「川崎病」も国際的なトピックスとして取り上げられ,川崎先生が川崎病全般について,私が心血管障害について講演するよう招待された。川崎病に関しては一般演題として我国からも多数出題されていたが,外国からの演題も半数近くあり,欧米諸国の関心が高まってきていることを示している。「心血管系の発生,発達」の最新の話題がAnderson,vanPraagh,Talnerらの司会でNadal-Ginardの心筋の収縮蛋白ミオシンの分子発生学的研究が述べられた。彼はNadasの後任として最近ボストン小児病院(ハーバード大)の小児循環器科の主任となった人であるが,臨床家でなく分子生物学者である。ハーバードの人事は世界の学問の分野に色々の意味で影響を与えると思われるが,今後の研究の方向を示す,日本では考えられないような思いきった人事である。Kirbyによる心血管の発生に関するneural crestの役割や,Rudolphにより新生児循環の発達とホルモンの関係,特に動脈管にステロイドホルモンが,心筋の発達に甲状腺ホルモンが関与していることが示された。さらに「終末的心臓病」として心臓移植で有名なShumwayによって「小児の心臓移植」の必要性と問題点が述べられた。最後にNadasがclosing remarksとして,従来の循環器病学からさらに分子生物学,遺伝学,免疫学などの幅広い学問分野を包括して今後発展する必要性が示唆され,感銘深い講演であった。午後は15くらいの分科会に分かれて一般演題発表があり,日本からも多くの演題が採用されており,我国の小児循環器のレベルが向上してきたことを示している。ただ感じることは,まだplenary sessionなどに選ばれるようなoriginalな研究が少ないことと,また逆に日本の良い仕事が外国で十分知られていないことである。そのためには物真似の仕事でなくcreativeなものを求める研究心の養成が必要であると同時に,こちらの持っているものを良く知ってもらうために若い研究者に積極的に国際的な場に出たり,一流のjournalに投稿するくせを付けさせることも大切であると感じた。

 この会のあと以前からの約束もあって,コロンビア大,ボストン小児病院(ハーバード大),トロント小児病院(トロント大),ロス小児病院(USC大),アインシュタイン大などで川崎病のGrand Round (大講義)をやってきた。特にトロントは私が17年前に留学した所であり,毎水曜日の朝8時からのGrand Roundに聞き手として出席していた思い出の所であるが,今回講師として招かれ名誉なことであった。どこに行っても川崎病に対する関心は高く,特に心血管障害や治療,成因に関しては活発な質問をたくさん受けた。すでにアメリカではCDCが数年前から川崎病の疫学調査を開始しており,またNIHが川崎病の治療研究に200万ドル(約4億4千万円)の研究費を出してスタートしている。一方お膝元の我国では厚生省,文部省の研究費を合わせても3千万円くらいで,それをまた多くの研究者で分けるため我々の所にはごくわずかな研究費しか回ってこない。日本では研究のソフトウェア(アイデア,システム),ハードウェア(研究費,設備)ともにまだ本物になっていないという感じを強く受けた。

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はじめに

 肺胞性低酸素は生体に対し呼吸・循環系を中心に種々の影響をおよぼす。特に肺循環系に対し,急性低酸素刺激は肺血管収縮(hypoxic pulmonary vasoconstriction; HPV)を,慢性低酸素刺激はHPVに加え肺血管および右室の組織学的変化を惹起する。HPVの発生機序は未だ不明の点が多い。HPVの程度は,新生児から成人までの各成長段階,性差,種間差・個体差,血液成分・性状の変化などで異なる。また,慢性に低酸素状態にさらされている高地住民・生息動物,先天性心疾患および肺疾患症例では,低酸素刺激に対し呼吸・肺循環系が特異な反応を示す。さらに,最近,動物実験で種々の肺血管傷害の存在下では,HPVは減弱ないし消失するとの報告があり注目されている。

 本稿では,このような種々の環境下におけるHPVを中心にのべ,HPVを修飾する因子およびその機序,ひいてはHPVの発生機序についてもさらに考察を加えたい。

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はじめに

 原因不明の肺線維症(Idiopathic Interstitial Pneumo—nia,以下,IIP)の病因については現在も不明であるが,病理組織学的に本症と確診された176例について,厚生省特定疾患・肺線維症調査研究班が過去に検討した結果では,「原因不明」とはいいながら1/3強の症例に粉塵など,何らかの吸入歴が認められている1)

 私達の調査でも,職種・居住環境を考慮して検討すると,全IIP55例中82%が吸入歴を有する可能性があった2)。従って,IIP症例の肺組織内沈着物の検索は病因を考えるうえで重要である。

高血圧患者の運動療法 荒川 規矩男
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はじめに

 高血圧は成人の20%にみられ単一疾患としては最も頻度の高い病気である。その上放置すれば脳・心・腎などに致命的合併症を招来することは今や一般大衆にも周知の事実である。

 そこで薬物降圧療法が盛んになってきた。しかもそれは厳重な二重盲検試験によって,高血圧性合併症とそれによる死亡率を確実に減らすことが実証された1)

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 睡眠は我々人間やその他の動物にとり非常に重要な生理的現象である。何故なら,仮にヒトの睡眠を極力減少させるように仕向けると,食思不振や全身倦怠感等の身体的症状.集中力欠如や精神不穏状態等の精神症状が出現するため,結局のところ一生の約1/3を我々は睡眠に費やさねばならないことになる。睡眠を簡単に定義するならば,睡眠とは覚醒状態の一時的な停止,もしくは中絶であり,その特徴は殆ど完全な運動及び感覚性活動の停止で,この状態は外部条件ではなく,内部の要求により発生するものである。更に,睡眠は覚醒しうる能力を有するので,外見上睡眠と似た昏睡状態等の意識障害と区別が可能である。

 睡眠時の換気動態は当然のことながら,覚醒時と比べて変化が予想されるが,実際に両者での観察を行なうと,換気量等が変化していることがわかる。この原因には主に2つの要因が挙げられる。その第一は睡眠が呼吸調節機構に対し直接及ぼす影響であり,第二が仰臥位等の睡眠時の体位の影響である。近年,睡眠中の換気動態と呼吸調節機構が大いに注目を集め,その病態生理に関する様々な現象が解明されつつある。

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 昭和59年11月9日,10日に開催された第22回日本人工臓器学会(川島康生会長)に招請されたエール大学のグレン教授はPacing of the Diaphragm in Chronic Respiratory Insufficiency:Present Statusというテーマで特別講演された。この機会に同教授をかこんで横隔神経刺激呼吸の適応疾患,方法および患者管理について詳細に討議するために,カンファレンスが開かれた。幸いにも30名の出席者と9名の発表者を数えることができ,我が国においても,横隔膜刺激呼吸に対する関心が少なくないことがわかった。本論文は,これら発表者の同意を得て,貴重な臨床経験をもとにして,日本における横隔神経刺激呼吸の現状と問題点を明らかにするのが目的である。

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 大動脈炎症候群の活動期の治療として,早期に十分な量のステロイド療法が必要とされている。またその大動脈病変の部位は,大部分の例において,その発症初期に決定されると考えられている1,2)。それゆえに,活動型大動脈炎症候群患者に対するステロイド療法を行う場合,(1)どのようにしてステロイド療法の効果判定をするか,(2)炎症性反応持続例の場合にいつステロイド投与を中止するか,という問題がある。本稿では,活動型大動脈炎症候群のステロイド投与症例を示し,この問題について若干の解説をしてみたい。

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 呼吸は横隔膜や胸郭筋の動きによって,胸腔内に圧力の変化を生じ,肺を伸び縮みさせることによっておこなわれる。このように呼吸は肺を動かす力と肺の動きを示す換気量との関係のような力学的関係が主である。すなわち肺は粘弾性体であり,気道抵抗に代表される粘性と肺コンプライアンスに代表される弾性の両方の性質を持っている。気道抵抗や肺コンプライアンスは換気力学的因子(メカニックス)とも呼ばれ,主に力学的におこなわれる呼吸の状態を反映する重要な因子である。とくに各種呼吸器疾患による呼吸機能障害を顕著にあらわす因子である。したがって,これら換気力学的因子を測定することは臨床的に意義がある。そこで,著者らは総合的に換気力学的因子を測定,解析できるシステムを開発し,臨床に応用することを目的に研究をおこなったので報告する。

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 急性心筋梗塞症に伴う肺うっ血は,重篤な合併症の一つであり,その成因を知ることは治療上極めて重要と考えられる1)

 一般に,急性心筋梗塞症による肺うっ血は広範な心筋虚血の結果としての左室のglobalな収縮,ならびに拡張機能低下に基づく左室充満圧,ひいては肺毛細管圧の上昇に起因するとされている。しかるに,臨床上,理学的ならびに胸部レ線より診断される肺うっ血所見と肺毛細管圧との間に解離を示す症例は,時に経験されるところである2〜5)。この様な解離の原因としては,血漿ならびに組織の膠質浸透圧,リンパ管機能あるいは血管透過性などの関与が推察されるが,その詳細は不明である。

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 急性心筋梗塞において,梗塞部位・梗塞量・梗塞範囲は,心筋梗塞の重症度,長期的予後を大きく左右する1〜3)。近年,梗塞量,梗塞範囲を縮小させる目的で,急性期にβブロッカーやCa拮抗剤などによる心筋保護療法4〜6)や血栓溶解剤の全身大量療法,冠動脈内投与7〜11)が行なわれている。これらの治療の適応や効果を知るために,心筋梗塞の急性期より完全に壊死に陥った不可逆部分(necrotic zone)と,壊死に至らない生存心筋を有する虚血状態にある可逆部分(ischemic zone)とを区別し,それらの範囲を知ることが必要である。このために,今までクレアチニンフォスフォキナーゼ12)(CPK),体表面マッピング心電図13),ピロリン酸心筋シンチ14,15),及び断層心エコー法16〜18)による梗塞サイズ(infarct size)の評価が試みられてきた。心エコー法は非侵襲的検査法であり,患者に苦痛を与えることなくベッドサイドで頻回に施行できる利点をもつ。最近,超音波断層法が心筋梗塞の超急性期にも施行されるようになり,心筋の収縮性の異常から心筋梗塞の早期の診断,梗塞サイズの半定量化16〜18)が試みられるようになった。しかし,心筋の壁運動異常は壊死に陥った梗塞部位のほか,心筋虚血部にも生じ,壁運動異常のみから梗塞量・梗塞範囲を知ることは過大評価する可能性があり,壊死に陥った部分と虚血状態の部分を区別することはさらに難かしい。筆者は,断層心エコー法を用いて,心筋梗塞の急性期より心筋壁運動異常のほかに,心室壁厚の菲薄化する部分があることに注目し,壁運動と壁厚より壊死に陥った不可逆部分と生存心筋の残存する虚血部分の推定を試み,心機能との関連性について検討した。

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 冠状動脈疾患患者(以下CHD患者と略す)の運動耐容能および心機能は,健常人と比較して低下しており,それらの改善に対しては,運動療法が有用であるとされている1〜3)。一般にCHD患者を対象とした運動療法においては,最大運動耐容能の40から80%に相当する一定運動負荷強度の持続運動が処方されている4,5)。しかし,このような一定運動負荷強度の持続運動は,運動時間の経過に伴い心拍数あるいは血圧が上昇し,心筋負荷量が必ずしも一定でないと報告されている6,7)。CHD患者の運動療法中に生じる重篤な循環器系合併症の発生は,決して少なくなく8,9),それが心筋負荷量と強い相関をもつこと10)を考慮すると,現在用いられている持続運動が必ずしも安全面を配慮したCHD患者の運動療法プログラムとして十分なものであるとは考え難い。

 今回,著者らはCHD患者を対象に間歇運動を考案し,同一運動負荷量の持続運動との循環反応を比較して,CHD患者の運動処方に関する検討を加えた。

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 心筋梗塞後比較的早期のトレッドミル運動負荷試験の成績と冠動脈造影,左室造影所見を対比した研究は比較的多い。しかし急性心筋梗塞後の運動負荷試験の成績と予後の関係については欧米では散見されるものの本邦ではほとんど報告がない。今回我々は重篤な合併症のない梗塞後90日以内の比較的早期の患者を対象として施行したトレッドミル運動負荷試験の成績と,退院後経過観察中に認められた臨床所見との関係を検討したので報告する。

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 Digital Subtraction Angiography (DSA)は経静脈性に造影剤を注入して,動脈系の造影を可能にするために開発された装置である。本装置の第2の大きな特徴はvideodensitometryを用いて,computer画像解析を行なうことにより,機能的かつ定量的評価が可能なことである。我々もDSA画像のvideodensitometryの直線性に関する基礎的検討を行ない,臨床応用が可能であることをすでに報告した1)。したがってDSAの濃度情報の変化から,左心動態2)や局所心筋灌流動態3,4)などの臨床的評価が試みられている。

 一方,DSAの画像はマスク像を差し引いた差分像であるため,微細なX線通過強度の差が増幅されて表示されている。このため,造影剤を使用しない時のDSA画像でも,通常のX線像では把握し得ない心臓の収縮,拡張に伴う心陰影のX線通過強度の変化が,比較的明瞭に観察し得る。そこで我々はこの差分像の画像特性に着目して,造影剤非使用(non-contrast)時のDSA画像を用いて,左心室領域の一心周期におけるX線通過強度の変化をcomputer解析し,globalおよびregionalな左心動態の評価を試みた。

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 肺動静脈瘻は1942年Shenstone1)の外科治療成功以来,出血・塞栓症等の危険性を理由に(多発性のものを除き)発見しだい外科治療の適応とされてきた。又,心疾患を合併した症例にも適応拡大されたが,必ずしもその成績は良好とはいえない。その理由として,Le Roux2)はいちはやく肺高血圧合併例を報告し,そのような例では肺動静脈瘻はsafety valveの役割を果しており,瘻切除は禁忌であるとした。

 今回我々は,軽度の僧帽弁狭窄症に合併した肺高血圧を伴おない肺動静脈瘻に対し,瘻を含めた右中葉切除のみを行い軽快せしめたので,この症例を報告すると共に,心疾患を伴った肺動静脈瘻におけるその手術適応について文献的考察を加えた。

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 Scimitar症候群は,部分肺静脈還流異常の一型で,1960年Neilら1)が,「右肺静脈の下大静脈への異常還流」「右肺低形成」「心臓の右方転位」を三徴とする症候群に命名した比較的まれな疾患である。scimitarとは片刃の彎曲したサーベルのことで,下大静脈への異常静脈が胸部X線上,形態的にこれと類似するためscimitarsignと名付けられた2)。われわれは胸部X線写真でscimitar signを認め,本症を疑って精査したところ,下肺静脈のvaricosity (静脈瘤様拡張)を伴った典型的Scimitar症候群と診断した1例を経験したので,若干の文献的考察を加えて報告する。

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基本情報

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呼吸と循環
33巻12号 (1985年12月)
電子版ISSN:1882-1200 印刷版ISSN:0452-3458 医学書院

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