呼吸と循環 32巻2号 (1984年2月)

巻頭言

自動化の限界 杉田 實
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 近年エレクトロニクスの医療への応用,とりわけ診断技術領域への進出は著しい。臨床検査の中央化の必要性に応えて,大学病院などに中央検査部が設置されたのは昭和30年頃であろうか。それでも当時内科学教室などでは,尿,屎,血液の一般検査や特殊検査(当時としては)を,外来検査室や研究室の片隅で,入局したての医師が検査法提要を紐解きながら長時間かかって測定していたのを想い出す。

 その頃すでにアメリカでは,Skeggs博士が日常臨床化学検査の精度の向上を目指し,流れシステムによる連続測定の開発に努力していた。昭和30年テクニコン社によって実用化されたオートアナライザーが誕生するや,次々に改良されながら,欧米はもとより日本で急速に普及するに至った。以来現在に至る迄のほぼ30年間に,臨床化学部門における自動化は当初の目的であった精度管理はもとより,省力化,能率化あるいは迅速化をもたらした。さらに最近では自動化の実用化は生化学検査にとどまらず,血球計算にまで及んでいる。

綜説

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 IgEの発見は即時型アレルギーの抗体の発見であったと同時に肥満細胞の機能を明らかにする端緒ともなった。IgEは肥満細胞の脱顆粒を開始させる刺激の1つにしかすぎないが,IgEに対するリセプターは肥満細胞と好塩基球にしか確認されていない。すなわちIgEのほとんどが肥満細胞膜のIgEのFcに対するリセプターに固着して存在しているので,肥満細胞は即時型アレルギーを発現させる細胞と理解されがちであるが,はたしてそうなのだろうか?

 肥満細胞がヒスタミンを保有することはかなり以前より知られていて,そのために肥満細胞は炎症の際に主役をなす細胞とも考えられてきた。また肥満細胞がトルイジンブルーでメタクロマジーを呈するのはその保有しているヘパリンのためであり,体内のヘパリンのほとんどが肥満細胞内に存在していると考えられている。本文においては限られた紙面ではあるが.出来るだけ多くの観点より肥満細胞の綜説を試みる。

Contractility 田宮 浩一 , 菅原 基晃
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 心臓の力学的研究の領域にcontractilityという言葉が登場するのは,Sarnoffら1)が心臓のFrank-Starlingの法則の再検討を行った論文からであろう。その後con—tractilityという概念は,心臓の負荷とは独立な心臓の収縮の状態を表わすために,実験医学や臨床医学の領域で広く用いられてきた。一般的に了解されているcontrac—tilityの変化とは,「心筋長の変化以外の原因で引き起こされた心筋収縮の強さの変化」のことであろう。ところが,最近の実験的研究の結果では,心筋のcontractilityは(少なくとも遊離心筋標本においては),心筋長に強く依存することが示唆されている2)。「心筋長に独立なcontractilityの指標」の存在が強く疑われている時期に,contractilityの概念の成立と変遷をたどってみるのも有意義であろう。

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V.薬剤による胸水貯留

 薬剤による胸水貯留の原因は,(1) drug-induced SLEでないもの,(2) drug-induced SLEによるものの2つに大別される。(1)の原因薬剤は,現在までのところnitro—furantoin, methysergide, minoxidil,dantroleneの4つが挙げられ,また(2)の原因薬剤には種々のものが報告されている(表7)。

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 循環回路における右心・左心の相互関与は.血行力学的な影響として理解されてきた。たとえば、重症の右心負荷例では右心の心拍出量が減るので左心の前負荷が低下し,負荷のない左心の心拍出量も減少してしまうといった直列回路の論理である。このような論理とは異なる相互関与もありうるという最初のチャレンジは.左心負荷により中隔が右心側へ押されるため右室の流出路が狭小化し右心不全が生じるとした有名なBernheim症候群の発想であった。その後Cournand一派は血行力学的検討の上.これを否定する成績を発表している。しかし心のうにつつまれた単一の臓器である心臓の内部に右心と左心が存在し.中隔および心筋線維束を共有している以上.直列的な連がりの循環回路を介さない直接的で機械的な両心の相互関与があることは,当然のこととして推測される。

 ここでは右心負荷が左心に及ぼす直接的な影響,すなわち左室の形態および機能の変化について述べる。

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 CPAPはcontinuous positive airway prcssureの略で,気道内を一定の陽圧に維持したままで自然呼吸を行わせる方法である。CPAPには適当な邦訳がないので,そのままシーパップとかシーピーエイピイと呼ばれる。この力法の狙いは,気道内をつねに陽圧に維持することで肺気量をふやし,シャントを解消して肺の血液酸素化能を向上させることにある。これまでこの方法で無気肺や肺水腫などを治療したという多くの報告がある。CPAPの気道内圧曲線は図1のようで,吸気,呼気いずれの場合も気道内が陽圧に維持されている。

 CPAPはしばしば酸素療法と併用して用いられる。たとえば40〜50%の吸気酸素濃度(F1O2)でも正常なPaO2レベルを維持できない場合,F1O2をさらに上げるよりもCPAPを併用することでPaO2を上昇させようとするわけである。高いF102を用いてPaO2を正常に維持する"対症療法"よりは,CPAPで肺内の病変を改善する‘原因療法"のほうが確かに合理的なように思われる。

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 肺胞と鼻腔の一部を除いて気道には線毛が存在し,粘液や異物の除去に重要である。太い気道の線毛は5μm程度の長さで密生しているが,細気管支レベルではより短くなり密度も粗である。この線毛運動の機序については未だ神秘の領域が多すぎるが,基本的には自動能が主体でこれに粘液の性状や神経系(コリン作動性)の作用が影響するものとみられている。

 肺疾患や喫煙者における粘液線毛クリアランスの研究は,近年とみに盛んとなってきている。この背景には,電顕の進歩により線毛の微細溝造や外観,分布が明らかにされたことがある。いま一つ,in vivo実験については放射性同位元素応用の進歩が基底にあることも否めない。標識したエロソルを吸入させあるいは内視鏡下に標識液体を滴下して,その後経時的に体外計測する方法が行われている。前者ではある局所におけるエロソル移動のinflowとoutflowの差つまり有効移動(除去)量を計測していることになり,後者では液体の移動速度,もっと正確に表現すると液体塊の先端の移動速度を計測している。これらの方法のうちエロソルの吸入によるものは,簡便性,非侵襲性の故に臨床レベルでもよく用いられている。しかしその欠点の主なものには二つあり,一つは気道の世代の区別があまり厳格でない,つまり上気道(例えば鼻腔),気管,肺門部,中間領域,末梢領域という程度の区別であり,しかもγカメラに対するタテ軸方向の動きはとらえられない。第二は,線毛運動の特性からみるとエロソル沈着の多い部分ほど線毛クリアランスが活発化すると考えられるので,必ずしも有効移動量≡線毛運動ではないことである。従って,疾患肺では気流障害によるエロソル沈着の不均等分布が,クリアランスの評価にかなり影響すると考えられる。

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 胸水の穿刺および気胸の吸引療法中に時として肺水腫が生じることは臨床的によく知られた事実であるが,その成因にかんしてはいまだ不明確な点が少なくなく,諸家の間でもその考え方に必ずしも一致はみられていない。1800年代,胸水に対する穿刺排液が一般に施行される背景の中にあって,1853年すでにPinault1)により吸引排液後の肺水腫発生が報告されている。この現象は当初フランス学派の間に「Expectoration Albumineuse」として注目されていたが2),以後,独3),英4,5),米国6)でもかかる症例が報告され,1900年代初頭にはHart—ley4),Riesman6)らにより血管透過性亢進がその成因として重視されるに至っている。

 一方,気胸再拡張時の同様な現象についても,1959年Carlsonら7)の報告をはじめ,著者らの集積で,かかる症例は諸外国で267〜13,15〜17,19〜24,26〜34,36)の,国内では4件14,18,25,35)の文献がみられている。これ以外にも本邦において学会等での報告は時としてみられ37〜41),臨床領域でときとして注目すべき問題に至っているといえよう27)

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 左心系と右心系は1つの循環回路の中で直列に接続している。一方,各々の系のポンプである左室と右室は解剖学的に相接しており,並列的な関係をも有している1)。この並列的な関係の生理学的意義が近年注目されるようになった。本論文ではこの並列的な関係について解説する。

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 動脈血管壁の力学的特性を無侵襲計測することは,動脈硬化症をはじめとした種々の血管性病変の客観的把握,早期発見,予防診断,検査判定等,臨床応用の面において極めて重要である。

 一方,無侵襲計測はこれら病変解明のために用いられる実験動物モデルに対しても,生理的条件下に等しい状態での弾性挙動の把握,同一個体における反復測定による病変進行の経時的追跡や薬理効果判定などの基礎研究における測定手段としても有用である。

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 心筋虚血を伴う虚血性心疾患患者において,その低下した冠血流を改善するため血液の粘性の低下と酸素解離能が促進しているか否かは興味のもたれるところである。そこで,著者らは各種虚血性心疾患患者の全血粘度と酸素解離能とを同時に測定し,それらの因子が如何に相互に関与しうるか否かについて検討した。

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 原発性肺高血圧症は原因不明の肺高血圧をきたす予後不良の疾患である1)。その診断には右心カテーテル検査が必要であるが,そのリスクは他の心肺疾患に比べ,著しく高いことが報告されている2)。しかし,予後の判定および治療上,循環動態の把握は不可欠である。

 そこで最近,虚血性心疾患の診断に広く用いられている新しい非侵襲検査,タリウム201心筋シンチグラムを応用し,原発性肺高血圧症における右室負荷の評価を試みた。

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 High frequency oscillation (HFO)法は呼吸の既存概念とは著しく異なった呼吸法であり,俄かには受け入れ難い概念である。さらにその有効性の是非や方法論の未確立がその受け入れを困難にしており,臨床での使用には大きな制約がある。しかし,本報告では従来の呼吸管理の方法でぱ呼吸不全に改善がみられなかった5例にHFOを試み,1例で著効をみ,3例で寛解をみる成績をえたので報告する。

 HFO法の評価または資料の一助となれば幸甚と思い,ここに報告するとともに,皆様のご批判をあおぎたい。

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 肺胞蛋白症は,1958年Rosenらによって記載されて以来,注目すべき呼吸器疾患の1つとして次第にその報告例を数えて来ているが,肺胞蛋白症に対する治療は現今迄種々の試みが為されて来たとはいえ,その効果はまちまちで不定であると云われている1,2)。その中で,Ramirez, R.らのいわゆる肺洗浄が最も有効度の高いものとして治療の主流となっているが,その機構,方式,効果についても必ずしも明確なものとはいい難い現況と考えられる。

 私共は,76歳男子,開胸肺生検により肺胞蛋白症と診断し得た,両肺に広範囲な病変を有する患者について,簡易な方法により,繰り返し気管支ないし肺への薬剤液を注入する方法により,著効を呈した一症例を報告する。

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 従来,虚血性心疾患患者の診断には運動負荷試験がよく用いられており,ST部分およびT波の変化が重視されている。しかし,脚ブロック,WPW症候群などのように,心室内伝導過程の異常を有し二次性ST-T変化を伴う例においては,運動負荷によっても一次性ST-T変化の検出,およびその心電図診断は困難である。

 Ventricular Gradient(以下G)の概念がWilson1)によって提唱されて以来,Gの測定は二次性ST-T変化に覆われた一次性ST-T変化の検出に非常に有用な方法であることが報告されている2〜4)。しかし,Gの正常範囲は広く5〜7),安静時のみのGの測定ではその臨床価値は少ないと思われる。したがって運動負荷時のGの変化を解析すれば,負荷により生じた心筋虚血による一次性ST-T変化を,心室内伝導過程の異常により生じる二次性ST-T変化から区別して評価することが可能であると思われる。そこで本研究は,健常群,労作性狭心症群,他に心疾患を有しない完全右脚ブロック群,および労作性狭心症を有する完全右脚ブロック群を対象として,運動負荷によるGの変化を解析し,心筋虚血に起因する一次性ST-T変化が,Gに与える影響を検討した。

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 虚血性心疾患の病態発生機序として,冠動脈の器質的狭窄に加えて血栓とspasmの関与が重要視されており,近年これらのmediatorとして冠循環におけるprosta—noid代謝異常が大きな関心を集めている。すなわち,血小板で生成されるthromboxane A2(TXA2)は強力な血小板凝集作用と血管収縮作用を有することが知られているが,冠血管の硬化性病変により血小板が活性化され冠循環に放出されたTXA2が微小血栓ないしspasmを誘発し,これによりさらに冠血流の低下と血小板凝集が促進され,ついには心筋虚血が誘発されるといった一連の機序が推定されている1,2)

 一方,血管壁で生成されるprostacyclin (PGI2)は,その血小板凝集抑制作用と血管拡張作用とからTXA2に拮抗することが知られており,虚血性心疾患への臨床応用が期待されている2,3)

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 冠動脈瘻は心臓カテーテル法による選択的冠動脈造影が普及するにつれて,その診断は容易になり,現在までに200例以上の報告がなされ,決して稀な疾患ではなくなってきた。しかし,その大部分は右心系に開口する冠動脈瘻であり,左室開口例は少ない。われわれは最近,心雑音が聴取されず負荷心電図上ST降下が認められたため,初診時に虚血性心疾患と診断されたが,冠動脈造影により左室に灌流する右冠動脈瘻と判明した57歳男性の1例を経験した。心エコー図,核医学などの非観血的手法による同症例へのアプローチによって,興味ある知見を得たので報告する。

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 近年Coronary Care Unit(CCU)の普及に伴い急性心筋梗塞症の不整脈死が減少し,かわって心破裂がポンプ失調に次ぐ急性心筋梗塞症の主要な死因の1つとなっている。急性心筋梗塞症の救命率を上げるために,その予知,予防対策がCCUの課題の1つといえる。

 心筋梗塞に合併する心破裂には,頻度として最も多い左心室自由壁の破裂(狭義の心臓破裂),心室中隔穿孔(IVSP),および乳頭筋断裂があり,その他稀に心房中隔破裂,右室自由壁破裂が報告されている。最近我々は,前壁中隔梗塞症に伴う右室前壁梗塞で,IVSPと右室自由壁破裂を合併して死亡した一剖検例を経験したので報告する。

基本情報

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呼吸と循環
32巻2号 (1984年2月)
電子版ISSN:1882-1200 印刷版ISSN:0452-3458 医学書院

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