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肺胞と鼻腔の一部を除いて気道には線毛が存在し,粘液や異物の除去に重要である。太い気道の線毛は5μm程度の長さで密生しているが,細気管支レベルではより短くなり密度も粗である。この線毛運動の機序については未だ神秘の領域が多すぎるが,基本的には自動能が主体でこれに粘液の性状や神経系(コリン作動性)の作用が影響するものとみられている。
肺疾患や喫煙者における粘液線毛クリアランスの研究は,近年とみに盛んとなってきている。この背景には,電顕の進歩により線毛の微細溝造や外観,分布が明らかにされたことがある。いま一つ,in vivo実験については放射性同位元素応用の進歩が基底にあることも否めない。標識したエロソルを吸入させあるいは内視鏡下に標識液体を滴下して,その後経時的に体外計測する方法が行われている。前者ではある局所におけるエロソル移動のinflowとoutflowの差つまり有効移動(除去)量を計測していることになり,後者では液体の移動速度,もっと正確に表現すると液体塊の先端の移動速度を計測している。これらの方法のうちエロソルの吸入によるものは,簡便性,非侵襲性の故に臨床レベルでもよく用いられている。しかしその欠点の主なものには二つあり,一つは気道の世代の区別があまり厳格でない,つまり上気道(例えば鼻腔),気管,肺門部,中間領域,末梢領域という程度の区別であり,しかもγカメラに対するタテ軸方向の動きはとらえられない。第二は,線毛運動の特性からみるとエロソル沈着の多い部分ほど線毛クリアランスが活発化すると考えられるので,必ずしも有効移動量≡線毛運動ではないことである。従って,疾患肺では気流障害によるエロソル沈着の不均等分布が,クリアランスの評価にかなり影響すると考えられる。
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