呼吸と循環 28巻5号 (1980年5月)

巻頭言

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 吾々が麻酔をはじめた頃は,麻酔中の心電図をとることで仕事になった時代であり,今昔の感があるが,そのなかでの不整脈は内科方面にも,教科書的な典型的症例の何例かを提供したものであった。その頃より"呼吸と循環"誌は吾々麻酔科医に呼吸と循環の基礎的,病態生理学的知識の供給源であり,アイデア源であった。そんなわけで,今回編集子より本誌の巻頭言を書くようにと依頼を受け,もう巻頭言を書くようになったかという感慨と,一方,巻頭言を書くほどの仕事をしたろうかととまどっているところである。

 そもそも呼吸と循環は生命の根源であり,ventilationで肺胞に達した酸素は,diffusionにより血中に移行し,circulationにより組織に運搬されdiffusionされる。一方酸素の消費の結果生じた炭酸ガスは,その逆のコースをたどり外気に排泄される。

綜説

肺水腫 井上 洋西 , 井上 千恵子
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 近年内外で肺水腫の問題が多くの研究者に注目されつつある。これは特に最近の電顕,生化学の分野の進歩をはじめとし,血液循環,浸透圧の測定技術の向上,sheepあるいはgoatを用いた慢性肺リンパ瘻造設技術が確立されるに至って,肺水腫の細部に至るメカニズムの検討が可能になってきたことによると考えられる。また肺水腫の研究分野もこれまでの肺のmicrovesselの圧上昇による肺内水分貯留増加(high pressure edema)やmicrovesselの内膜(endothelium)の変性によるper—meability edema等として単純に分類しえないいくつかの因子が複雑に絡んでいると考えられるhigh altitude,ARDS,pulmonary embolism,hypoxia,hypercapnea,カテコールアミン,ヒスタミン投与,脳圧亢進,迷走神経刺激等に付随する肺水腫の個々のメカニズムの解明も検討の対象になってきている。

DigitalisとCatecholamine 上羽 康之
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 心脈管系に作用する最も強力な作用物質として,体外性(exogenous)にはジギタリスが,内因性(endo—genous)にはカテコラミンが挙げられる。両物質の心臓に対する作用効果は,変力効果(inotropism)において同一方向性を有するも,その薬理作用は必ずしも同一でなく,また変時作用(chronotropism)は逆の作用を示す。このように作用効果を異にする薬物ではあるが,ジギタリス投与時,直接の心脈管に対する作用効果と,中枢神経系を介しての間接効果があらわれる。この際の交感神経活動の変容,すなわち内因性カテコラミン効果が相乗作用として,ジギタリスの作用効果を修飾することが知られている。その例として,ジギタリスの徐拍作用や,中毒症状における不整脈発生への関与が指摘される。その他,うっ血性心不全発症時,生体防禦反応として,交感神経活動の著しい亢進が認められるが,この状態にジギタリスを用いた場合,交感神経活動は臨床像の変化と共に著しい影響をうけ,心不全の改善と共に交感神経活動の亢進は漸次軽減される1)

呼と循ゼミナール

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 経気道的に行う呼吸管理にいくつかのものがあるが,本シリーズはその際考慮しておくべき基本的事項をとりあげてみた。日常臨床で,経気道的療法を要する場合は一般に病的状態に対するものであるが,手術時に行う経気道的呼吸管理は,正常な気道に対して行っているのである。この場合は気道の正常環境を破壊しないように心掛けるのは当然として,やや非生理的環境下で,多少異常状態となったものにはそれ相当の後始末が必要で,一日も早く元の正常状態に復帰せしめるための経気道的療法が施行される。一方病的状態に対しては気道のcleaningを含めた積極的な経気道療法がなされるわけである。いずれにせよ,先ず正常な気道環境とは何かを最初にとりあげ,気道には適当な湿度と温度が保たれているべきことを述べた。次いで加湿あるいは給湿という経気道療法が単に気道のみならず全身的に水バランス,熱バランスの面で影響を及ぼすものであることを指摘し,理論的な数字をあげて説明した。

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 冠動脈を徐々に閉塞すると副血行路(collateral)が発達する。その機序は種々であり,虚血,大動脈と閉塞部以下との圧較差,血流速度,あるいは血管のstressなどがその促進因子として報告されている。人間のcollateralは直径100-200μのものが多く,心房や心室筋層へ分布するが,その発達はイヌに比べて遅いといわれている。

 イヌ冠動脈を急性結紮すると微少ではあるがcollate—ral circulationを認める1)。しかし,主幹からの血流の杜絶はendocardiumとepicardiumの血流比(ENDO/EPI)を著明に低下させ,心筋に虚血をもたらす。結紮後数週ないし数カ月たつと,閉塞された動脈の末梢血管圧(peripheral coronary pressure)は大動脈圧に等しいレベルにまで上昇し,retrograde flowは結紮前の冠動脈血流量を越える2)。心筋の壊死範囲は広いが結紮された冠動脈の灌流域全体には及ばない。

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 201—Tl心筋シンチグラム(Tl—S)が非侵襲的な検査法として虚血性心疾患の診断と評価のために最近とみに用いられている。

 しかし,その判定は視覚的になされるから観察する医師の経験,映像の質,心筋自体と周囲のバックグランドとの比率およびdisplay systemの性能などにより影響を受けることはさけられない。

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 僧帽弁狭窄症(MS)の心エコー図上の特徴は,僧帽弁前尖の拡張期後退速度(DDR)の低下,弁の肥厚,a波の消失,後尖の拡張期前方運動等である(図1)。弁エコーの輝度の強さから石灰化の有無を,また拡張早期の振幅から弁の可動性を判定することもある程度可能である。中でもDDRの低下はMSの診断のみならず,その重症度の判定にも用いられてきた1)。しかし最近のKotlerらの集計では,重症MS 210例中DDRが15mm/秒以下の例は僅か127例(sensitivity 60.5%)で,またDDR 15 mm/秒以下の170例中重症MSは120例(specificity 75%)のみであったことから,DDRはMSの重症度の指標としては信頼性に乏しいと結論されている2,3)

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 臓器にはその生理機能の上から特性があり,それに基づく疾病で体系づけられている。呼吸器病学にあって呼吸と循環の主要な生理機能の立場から肺疾患の特異性がこれまで体系づけられてきた。この生理学を中心とした考えに,生化学,とくに呼吸—肺循環における代謝の研究が加えられ,さらに最近では進歩の著しい免疫学の知識や研究手技が呼吸器病学にとりこまれつつある。しかし肺における免疫学は決して新しいものではない。外来性の抗原の侵入門戸としての気道,肺にあってはアレルギー反応の場として重要であることは気管支喘息や,肺結核で認められてきた古い研究の歴史がある。しかし免疫学のなかでも免疫生物学の華々しい展開は肺疾患の病因論に新しい見解を加えつつある。

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 肺の圧—量曲線(以下P-V曲線)の測定は,換気力学的検査の中で基本の一つであり,臨床的にも呼吸器疾患の診断,治療,経過観察に重要な意義を持つ。

 P-V曲線の測定には食道内圧の測定が必要となるが,食道内圧は測定に用いるバルーンの性状,バルーン内に入れる空気量により異る1,2,3)

Bedside Teaching

まぼろしの病"ARDS" 天羽 敬祐
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 ARDS(adult respiratory distress syndrome)がある種の重症呼吸不全の名称として,一般に用いられるようになってすでに久しい。周知のごとくこのARDSなる名称は,1967年にAshbaugh, Pettyが通常の治療には反応しない成因の異なる重症呼吸不全患者12名について記載し,これらの症例は臨床的にも病理的にも未熟児のrespiratory distressに似ていると報告し1),1971年に同じくPetty, Ashbaughがこれらの疾患を総括してARDSとする提案を行ったのがはじめである2)。以来,ARDSに関するおびただしい数の基礎的,臨床的研究が行われてきた。しかし今もってARDSの本態は全く不明であり,確かな治療法の手がかりさえつかめていない現状である。

 ARDSとは一体,どんな病気なのだろうか?1978年京都で行われた第13回世界胸部疾患学会ではARDSのシンポジウムが行われ,1979年の第7回日本救急医学会でもARDSがシンポジウムに取り上げられている。

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 コンピューター断層撮影(computed tomography,以下CT)の全身臓器への応用は目覚ましいものがある1,2)。従来大動脈疾患の診断,評価には専ら観血的な大動脈造影が用いられてきた。大動脈造影は観血的検査である為に反復して施行することは困難なことが多い。元来大動脈造影は大動脈の走行に沿った長軸方向の分解能はすぐれているが,大動脈壁の性状,全周性の変化などは分りにくい。CTでは大動脈の全長に亘って横断面の太さ,形態がよく分り,造影剤を併用すれば大動脈の内腔の状態,壁在血栓などを判別することも可能である。今回我我は解離性大動脈瘤その他の大動脈疾患のCT像を示し,大動脈疾患に対するCT検査の応用について述べてみる。(CT装置はACTA 200 FSを使用した。)

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 肺胞隔膜は肺の機能を遂行する主要な場で,肺微小血栓症,肺胞蛋白症,肺胞硝子膜症,肺胞隔膜炎などに関連して,臨床的には重篤な呼吸困難を生ずる。また呼吸機能の面では肺胞—毛細管ブロック症候群を呈する特異な病態である。しかしながら,その成立機転についての検索は十分でなく,まだ明らかでないことが多い。そこで肺微小血栓症作成のため,組織トロンボプラスチンを引き金因子として家兎に静注し,肺微小血栓形成過程ならびにその消失過程と共に経時的に肺胞隔膜の変化を電顕的に観察した。

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 肺の濃度の測定は胸部単純撮影1),γ線によるコンプトン散乱2),ラジオアイソトープ希釈法3)などの方法がある。CTによる肺濃度の測定はLawrence4),Wege—ner5)等により報告された。CTは胸部の胸郭,軟部組織内の肺実質を直接的に計測でき,CT値として表示できる。さらにWegenerの指摘するように,同一条件で撮影したCT像ではCT値のばらつきはほとんどなく再現性に優れている。さきに僧帽弁疾患における心臓へのCTの応用について報告してきたが6,7),今回これらの症例について肺の濃度をCT値で表示し,CT値およびCT値の分布と僧帽弁狭窄症の重症度との関係,および肺内水分量の分布について検討した。

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 近年,運動負荷試験は潜在性虚血の診断,胸痛の鑑別診断,心機能の評価,治療効果の判定,身体適性の評価,そして予後の判定など多くの目的について行なわれるようになり,従来のMasterの2階段法ではこれらの目的を十分に達成することができなくなった。1954年,AstrandとRhymingが亜最大運動において心拍数と酸素摂取量が比例することを示し1),このことを受けてBruceは身体適性の評価の方法としてトレッドミルによる運動負荷のプロトコルを示し2),これによって運動負荷試験は新たな時代を迎えることになった。わが国の臨床でトレッドミルが用いられるようになったのはごく最近のことで,その方法や評価について意見の一致がみられない点も多い。今回は健常成人にBruceのプロトコルによる多相トレッドミル負荷試験を行なった際の心脈管反応を欧米人のそれを比較し,本邦人の最大運動負荷における循環反応の特徴,身体適性の評価,そして運動処方上の問題点について検討した。

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 1887年Gallavardinによって初めて記載された収縮中期クリック収縮期雑音は,長く,心外性の雑音であり,予後は良いものとされて来たが,1963年にBarlow2)により収縮後期雑音は僧帽弁閉鎖不全症に起因することが指摘された。さらに1966年Barlow3)およびCriley4)によりこれらクリックおよび雑音が僧帽弁の左房内への逸脱によりもたらされるものであることが示された。同じ頃Read5)らは手術および組織所見により,僧帽弁の左房内への逸脱は粘液変性による僧帽弁のconsistencyの低下に起因することを観,Marfan症候群のforme frusteの可能性を指摘している。従来,僧帽弁逸脱症は良性の疾患とされて来たが,近年不整脈,細菌性内膜炎や重篤な僧帽弁逆流の合併あるいは急死例が報告されるようになり注目される疾患となって来た。しかるに本邦では僧帽弁逸脱症について多数例を臨床的に検討した報告は少ないようである。そこで今回著者らは左室シネアンギオグラフィにて僧帽弁逸脱症と診断された症例につき臨床的検討を行い,本邦における僧帽弁逸脱症の特徴ならびにその成因につき若干の考察を加えたので報告する。

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 心室中隔欠損症(以下VSDと略す)のなかで,円椎部上部の肺動脈弁直下に位置するものは,特にSub—pulmonic VSDとよばれている。このタイプのVSDでは,欠損孔を通過する噴流によって右冠状動脈尖が逸脱し,拡張期の大動脈圧によって自由縁が下垂することにより,大動脈弁逆流症が発生してくることが知られている1)。Subpulmonic VSDの多くはシャント量が少いため軽症にみえるが,本邦では約30〜40%に右冠状動脈尖の逸脱を合併してくるため,この逸脱の発症を早期にとらえることは治療上きわめて重要である2)

 VSDについての心エコー図(Ultrasound Cardio—gram以下UCGと略す)所見は,左房径/大動脈径(LAD/AOD)比よりシャント量を推定する方法3,4)とSubpulmonic VSDにみられる大動脈弁5),肺動脈弁6〜8)の異常運動についての報告がある。今回我々は,心血管造影,手術にて確認された23例のSubpulmonic VSDの超音波所見を検討し,右冠状動脈尖の逸脱の程度を推定するのに,超音波検査法がきわめて有用であったので報告する。

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 心筋硬塞は成人病の中で最も重要な疾患の1つであり,一搬には40歳以上の高齢者に好発し,動脈硬化による冠動脈の閉塞を病因とするものが圧倒的に多い。しかし,近年比較的若年者の心筋硬塞の報告もみられ,また著者らは若年にもかかわらず冠動脈造影により強い冠動脈硬化を認めた症例も経験している。逆に臨床的には明らかな心筋硬塞でありながら,冠動脈造影にて有意の狭窄のない症例の報告もみられており,その病因については必ずしも明確でない。

 今回,著者らは心内膜床欠損症(以下ECD)を伴った17歳のダウン症候群の女性に心筋硬塞を合併し,剖検の結果,冠動脈に有意の狭窄性変化を認めない症例を経験した。先天性心疾患に心筋硬塞を合併することは珍しく,文献的にも報告は少い1,2)。更にこの症例は正常冠動脈であった事もきわめて興味深い。この病因について,若干の文献的考察を加え検討したので報告する。

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 近年,選択的冠動脈造影法が進歩し,種々の先天的冠動脈起始異常が,臨床的に診断できるようになった。冠動脈起始異常は左冠動脈が右バルサルバ洞から出るものと,右冠動脈が左バルサルバ洞から出るものとの二種類に大別される。病因論的には前者の場合,運動中の不慮の突然死が多いとされているが,後者については報告例も少なく,その病因論的意義はまだ明確にされていない。今回,著者らは心室性期外収縮が発作的に出現する患者に,選択的冠動脈造影と大動脈造影を施行したところ,偶々右冠動脈が左バルサルバ洞から起始していることを見い出した。本例は稀有な冠動脈起始異常と思われるので,病因論的にも若干の考察を加え,報告する。

基本情報

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呼吸と循環
28巻5号 (1980年5月)
電子版ISSN:1882-1200 印刷版ISSN:0452-3458 医学書院

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