呼吸と循環 28巻3号 (1980年3月)

巻頭言

ECMO 寺本 滋
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 急性の心肺不全に対する処置として種々の方式による補助循環法が現在用いられて効果を収めている。この中で人工心肺を用いた方法が部分体外循環法と呼ばれるものであり,日常ルーチンには開心術に際して固有循環より完全心肺バイパスに,あるいはその反対のときに用いられるもので,ふつう数分間のものであるが,低温併用時あるいは術後低心拍出量症候群の発現時に人工心肺よりの離脱に数時間を要することが稀におこりうる。

 急性の心肺不全の中でもとくに肺(呼吸)不全の面に重点をおき,膜型人工肺を組入れて長時間の施用を前提としたECMO(Extracorporeal Membrane Oxygenation)が近来臨床面に応用されてきている。この臨床応用の前提になるものは,膜型人工肺の適用が容易になりまたその機能面からもある程度の評価がなされてきたことであろう。

綜説

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 われわれは重力の場に生活しており,生体機能はさまざまな形でその影響を受けている。呼吸器系の機能も,血流分布や肺に対する静水圧の影響などによって,著しい影響を受けることは,有名なWestのモデルや,Milic-Emiliの理論の示す通りである。

 呼吸器系の構造上の特質から,体位がその機能に重大な影響を持つであろうことは,容易に推察されることで,すでに1907年Bohr12)が,残気量に対する体位の影響について報告している。それからおよそ100年,これまでに,体位と呼吸機能の関係について,多彩な研究がなされており,その小括を試みることも有意と考えた。

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 近年における酸素療法はnon-rebreathing systemを取り入れた方法で行うのが一般化している。現在用いられている酸素投与器具の種類を理論的にもっとも簡単に2つに分類して考えているのはShapiroらであるが,その一つhigh-flow systemとはそのつど必要な吸入量全部を供給できるだけのガス流量を投与できるような器具装置を意味し,もう一つlow-flow systemではそれが不可能で吸入気の—部分は室内空気を吸入することになるものである。別にいわゆる低濃度酸素投与法というのがあって,これはnasal cannulaを用いてのO2—flowのことのように思われがちであるが,重要なのは吸入酸素の占める割合であり。全体のgas flowに対してのO2—flowがどうかということであって装置,患者によりそのときそのときで決定されるべきものである。以下少しく理論的な説明を加えてみたい。

 low-flow systemにおいてはまずO2 reservoirのいかんと室内空気での希釈によって影響される。

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 心エコー法による非観血的な弁膜vegetationの描出は,細菌性心内膜炎の診断上有用である。エコー図上,vegetationは弁に付着した粗い不規則なエコーとして認められ,"shaggy"あるいは"fuzzy"という形容が用いられている。しかしこれらの変化は,記録条件,技術の影響を強く受け,また記録装置による差も大きいといわれている1)。さらにvegetationの大きさの評価,あるいはその局在を正確に把握することは難かしい2)。これに対し,超音波心断層法は,相互の位置関係を理解し易いことから,診断的価値がきわめて高い。

 ここに示す症例は,不明の高熱を主訴として来院,静脈血培養にてStreptococcus viridansが検出されている。聴診上心尖部を中心に左前胸部全体および背部に放散する粗い全収縮期雑音を認めた。図1の心エコー図では,軽度の左室,左房の拡大がある他,僧帽弁より多重エコーが記録されている。

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 前述したように,冠動脈結紮後,虚血部心筋は収縮力を速やかに減じ駆出期を通じて伸展(passive stretch)されるようになる。駆出後,即ち大動脈弁が閉鎖した後,伸展されていた虚血部は心内圧の急激な下降とともに急速に短縮し,左室圧が最小となる付近で再び急に伸展され始める。その後のslow flling periodでは虚血部はきわめて緩徐に伸展される1,2)。この駆出後に起る虚血部の短縮は実験例でも臨床例(虚血性心疾患患者)でも観察されているが,虚血部のactiveな収縮が遅延(delay)してcontractionを起しているのか,あるいは心内圧の下降に伴って生じた単なるpassiveな短縮にすぎないのか,その成因は不明である。いずれにせよ駆出後(等容弛緩期およびそれを越える時期)の心筋短縮またはdelayedcontractionが全身への送血に関与せぬことは明らかであり,「虚血心では左室最小容量が必ずしも駆出の終りを意味しない」という点で左室pump機能を評価する際に重要である。

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 最近,経皮的経管式冠動脈形成術が世界の耳目を集めている1〜3)。本法はすでに本欄で経カテーテル式冠動脈狭窄開大術として紹介した4)。しかし欧米ではいくつかあった名称がpercutaneous trunsluminal coronary angioplastyと統一されたようなので邦訳を変えた。

 本法は狭心痛を有し運動負荷心電図で虚血性変化をきたし,かつ冠動脈造影で3大冠動脈の入口部に近い限局性,求心性で石灰化していない高度狭窄を機械的に開大してしまおうというものである。

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 虚血性心疾患に対する外科的療法として,1967年Favaloroによって開発されたA-C bypass手術は,非常な勢いで世界中に普及し,米国では現在までの12年間に約30万例(1977年の1年間には推定73,000例,1978年には84,000例)も実施され,内科的療法よりもすぐれた成績を示すという報告が多い1〜6)

 ところが一方,遠隔時の詳細なfollow upが進むにつれて,bypass graftに用いたsaphenous vein graft(SVG)や元の冠動脈自体に病変が発生し,あるいは進行して,そのために再手術が余儀なくされたという報告も追々と増加してきたのである7,8)。著者らは,A-C bypass手術後に生じるSVGおよび本来の冠動脈の病変について,現在までに報告された文献を参考として具体的に解説し,ご参考に供したいと思う。

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 換気力学的要素が呼吸に重要な役割をもっていることは,諸家1〜3)の報告にみられるとうりである。換気力学的要素の測定は換気量と,その際の流速および胸腔内圧など圧力を測定すればよく,諸種の検査法4〜6)が臨床に応用されている。

 とくに,オッシレーション法による呼吸インピーダンスの測定は,被検者にとって最も負担が少なくて簡単に検査ができるので,もっと臨床に応用されるべき検査法である。しかし現実にはオッシレーション法による呼吸インピーダンスの測定方法はスクリーニングテストの域を越えていない。そこで著者らは,このようなオッシレーション法による呼吸インピーダンス測定方法を広く臨床に応用するために,オッシレーション法に基づく呼吸インピーダンス計を開発し,臨床検討をしたので報告する。

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 足踏み式のふいごを用いて人間の蘇生を試みた16世紀のむかしから,試行錯誤をくりかえし幾多の変遷をへたのち現代の精密なレスピレーターの普及にいたったわけであるが,大きな進歩の背景には,最近30年間の呼吸循環生理学的知識の革新と,電子工学的技術の発展が大きく貢献しているといわざるをえまい1,2)

 鉄の肺にかわって間欠的に気道に陽圧を与える換気法の優位が立証されたポリオ呼吸麻痺の世界的流行(1952〜60年)に始まり,呼吸管理を専門に扱うIntensive Care Unitの開設(1958年以降),電極法を使った迅速な血液ガス分析器の普及,ベトナム戦争で経験された重度外傷後に発生する重篤な呼吸不全の認識とこれに対抗するパワーフルな従量式換気法の再評価,A.R.D.S.(Ashbaugh 1971年)やA.R.F.(Pontoppidan 1973年)とか敗血症肺(Clowes 1975年)などの名称で呼ばれる急性肺障害の病態の認識や,ショック,D.I.C.など全身障害と肺,他臓器の障害と肺の相関などの理解が,今日までの呼吸管理を発展させてきた原動力といえるものであろう。

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 1970年Swanらにより開発されたflow-directed balloon-tipped catheter (Swan-Ganz catheter,以下S-Gカテーテルと略す)1)は,レントゲン透視を必要とせず,ベッドサイドにおいても簡単に,右心系および肺動脈楔入圧の測定や心拍出量の測定2,3)が行える。

 本カテーテルによってえられた血行動態パラメータに,心調律,心拍数,動脈圧などの情報を加えれば,詳細な心機能の評価が可能であり,左心不全と右心不全の鑑別にも有用である。さらに,縦軸に心係数(あるいは一回仕事係数の,横軸に肺動脈楔入圧をとった2次元のグラフ(心機能曲線)を作成することにより,重症患者の病態の把握や治療効果の判定がなされる。

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 心拍動にともなう肺からの空気の出入りを記録して心機能を把握しようとする試みは古くからあるが1),これから充分な情報を得られるまでには至っていない2)

 気管内麻酔中,気管内にみられるcardiogenic oscil—lationによる微弱な圧変動を,周波数特性がこの目的に適した圧トランスジューサー3)で記録すると再現性のよい気管内心拍動波が得られる。これを気管内心機図(intratracheal cardiogram-ITCG)と呼び,これから計測される心収縮期時相,および拡張期時相は従来の方法で得られるものと非常によく相関し,本法で心機能を評価できる可能性が示唆された4,5)

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 大動脈弁膜症の死因の69%がcardiogenic shockによる急性死といわれるが1),特に大動脈弁閉鎖不全症(以下AI)においては無症状ないし軽度の症状で慢性に経過しているものが,急激に増悪して突然死に到る場合が多い。これは強力な左室心筋の予備代償能力と健常な僧帽弁の働きでpulmonary congestionが緩和されるためである。またAIにおける有効循環血液量の増加,心拍出量の増加は逆流量の多寡に関連するが,左室拡張終期圧(以下LVEDP)が上昇すれば圧負荷に容量負荷が加わってくる。さらに体血管抵抗の減少,収縮期延長と相対的拡張期短縮は左室の代償機序には有利であるが,以上の代償機序が何れかの部分で破綻をきたすと,全体の代償機序に影響しあって治療に抵抗して突然死の転帰をたどる。このような非代償期では冠血流量の減少からしばしば狭心症発作の見られることは知られている。

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 心筋の肥大は慢性的に心筋に加わる負荷に対応する適応現象として生ずるが1,2),われわれは圧負荷で生じた左心室肥大心の安定期における心機能について検索を行って来た3,4)。安静時およびカテコールアミン投与による薬剤負荷時でも心筋のポンプ機能および心筋収縮力は低下を示さず,心筋の予備力も十分に保持されていることを報告して来た3,4)

 しかし,圧負荷ないし容量負荷で生じた肥大心について,安静時と生理的負荷である意識下での運動負荷によってその心機能にいかなる影響が生ずるか不明瞭な点が多い。

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 心筋梗塞の多くは主幹冠動脈の少なくとも1枝が,有意の(75%以上)狭窄を呈するのが常であるが1,2),今回著者らは臨床所見,心電図,血液酵素上より心筋梗塞と診断されたが,冠動脈写にて正常冠動脈像を呈した1例を経験したので報告する。

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 急性ウイルス性心筋炎には自覚症のほとんどない軽症型から,Adams-Stokes発作や重症心不全を伴う激症型まで様々である。心電図異常が本症診断の糸口となるが,ST-T異常.異常Q波・房室ブロックなどを示し,臨床症状や酵素学的所見からも急性心筋梗塞症と鑑別が困難な例がある。近年,ウイルス学の発達により本症の診断の向上がみられているが,それによる診断率は必ずしも高くはない。

 我々は臨床的に急性心筋炎を疑ったが,急性心筋梗塞症も否定しえなかった例に継時的に心内膜心筋生検を施行し,その診断と病態の推移について新しい知見を得たので報告する。また本症に伴う重症心不全に対する治療法はジギタリス・利尿剤など従来の方法によるのがまだ一般的であるが,それでは難行する場合がある。我々は本例のlow output syndrome(以下LOS)に対し,血管拡張剤とDopamineの併用療法を用い著効を得たので併せて報告する。

基本情報

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呼吸と循環
28巻3号 (1980年3月)
電子版ISSN:1882-1200 印刷版ISSN:0452-3458 医学書院

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