呼吸と循環 20巻3号 (1972年3月)

巻頭言

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 有名なH. A. Schroederのモノグラフ"Hypertensive Disease Causes and Control"の末尾に,治療におけるThe Golden Ruleなるものが挙げられている。実に平凡な内容ではあるが,はじめて目にふれた時,入局したての西も東もわからぬ新米ドクターであった私の胸を強く打った言葉の一つとして,今なお記憶に残っている。すなわち,"Do not do anything to a patient that you would not like to have done to you."これは,何も,検査や治療をおこなうさいに,消極的になることを意味しない。おそらく,患者のために,必要な検査と処置をもれなく行なうことも,言外に含まれているのであろう。

 私は,千葉大学斎藤内科学教室に学んで,非観血的な循環機能検査法に慣れ親しんだ。最近,U. C. DavisのD. T. Masonをはじめとして,心筋収縮性へのアプローチが心カテーテルを用いた観血的手技によって試みられている時,かようなpolygraphicにとったいろいろな脈波の分析,すなわちMechanocardiogramによる手法は,すでに時代遅れであるかのような印象を与えるかも知れない。私は,何も,観血的な手技を毛嫌いしているわけではない。

綜説

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 ミトコンドリアは,動物・植物から細菌にいたるまでのすべての好気的細胞に存在する微小な顆粒であって,基本的には内外2枚の膜と,それらに囲まれた部分とから成る。その基本的な機能は,有機物質のO2による酸化,すなわち酸素呼吸による高エネルギーリン酸化合物,ATPの生成1)2)(酸化的リン酸化反応)であるが,呼吸系への電子(eまたはH)供与のための物質代謝(TCAサイクル,脂肪酸β酸化系,各種のアミノ酸代謝など),陽イオン・陰イオンの能動的透過4),膨潤・収縮などの内部構造や形態の変化などの諸機能もエネルギー転換と結びついている。本書ではミトコンドリアの構造について簡単に言及し,ミトコンドリアの最も基本的な機能のエネルギー転移反応について最近の知見を入れて詳しくのべたいと思う。

講座

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Ⅰ.Hbの酸素解離曲線

 われわれの体は正常の場合1分間に酸素を約250ml消費している。この場合の酸素の組織への供給は心臓から血液が毎分約5l拍出されることにより行なわれる。そしてこの際,動脈血のHbは96%酸素と飽和しているから100ml中に約20mlの酸素を含有していることになる。したがって1分間に約1lの酸素が心臓から送られることになるが,この中で利用されるのはわずかに250mlで残りの大部分は再び肺にもどってくるのである。

 いろいろのPO2のときにHbの酸素飽和度を示す曲線を酸素解離山線という。これは図1に示すごとくS字状の曲線であるが,これには生理的の意味がある。動脈血PO2(100mmHg)の付近では曲線の走行は平坦となり,肺胞空気のPO2が少しぐらい低下してもHbの酸素飽和度はほとんど変らない。これに反して混合静脈血のPO2すなわち組織のPO2(40mmHg)では山線は急峻な走行を示すために,ここのPO2がわずかに低下してもHbの酸素飽和度はひどく低下し,大量の酸素が遊離されて組織に供給されることになる。

Counterpulsation 関口 定美
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Ⅰ.補助循環とは

 種々なる内科的治療にもかかわらず全く反応を示さない重症な心不全に対して,心臓の機能を機械的に補助または代行することにより心筋の負荷を軽減しかつ十分な循環を維持して生命の延長をはかることが補助循環の目的である。

 心不全における長期間の循環維持に開心術における体外循環装置を利用したことはこの方面の治療を著しく進歩させてきた。

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 閉塞性肺疾患の診断にスパイログラムが極めて有用なことはいまさら申すまでもなかろう。なかでもとくに1秒率(1秒量/肺活量%)は本疾患の診断のみならず,その程度を表わす指標として広く用いられている。

 1秒率とは,簡単に言うと,できるだけ吸いこんだ空気を力一杯速やかにはき出す際,はじめの1秒間に吸入量(肺活量)の何%をはき出しうるか,能率を表わすものであり,健康者では80%以上を示すのが普通である。これに対し閉塞性肺疾患,すなわち気管支喘息,閉塞性気管支炎,慢性肺気腫などの患者では,1秒率は70%以下に低下し,ことに肺気腫では30%を下まわることがまれでない。

Bedside Teaching

Wet Lung 池田 和之
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 wet lungという名称は診断名ではない。元来,肺ならびに気道系に液体が貯留し,それとともに肺のガス交換,酸素化能が障害された状態をwet lungと称した1)。したがってこのwet lungの状態は各種心肺疾患にともなって一般にみられるわけである2)。しかし,最近ではこの語は肺の間質に水分が貯留した状態すなわち間質性肺水腫interstitial pulmonary edemaの場合に限定して用いられるようである3)〜5)

 外傷,ショック,人工心肺,大手術のあとに肺不全が続発することがあり,それぞれ外傷後肺不全,ショック肺,ポンプ肺,post-perfusion lung syndrome, adult respiratory distress syndromeなどと呼ばれ,関心が寄せられているが,これらの経過中,間質性肺水腫を合併することが多いのでwet lungという語をよく耳にするようになった。

解離性大動脈瘤 日野原 重明
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 解離性大動脈瘤(dissecting aneurysm)は,急死の原因となる疾患であるとともに,学問的にも興味の深い病気として臨床医の関心がもたれてきたが,これは長い間,きわめてまれな疾患と考えられてきたものである。ところが最近の診断学の進歩や病理解剖の普及により,本疾患は決してまれではないこと,また必ずしも激痛のごとき症状をもって始まらず,時には慢性の経過をとるものがあること,内科的・外科的療法の進歩により死を免れるものが次第に増しつつあるという点に,臨床家の関心が最近ますすま高まってきた病気と考えられる。

 しかし,本疾患は今日なお心筋梗塞症,脳卒中,急性腹症などと誤診されることが少なくない。著者自身が1953年から今日まで治療してきた日本人の解離性大動脈患者は,28例(男19名,女9名)にのぼっている。また,1967年までの14年間の聖路加国際病院における総剖検数1150例中,剖検にて本症であると確証されたものの頻度は1.33%(20歳以上の剖検999例中1.5%)である。これは諸外国のいずれの病院の死亡剖検例中の頻度よりも高いことを,著者はすでにアジア心臓病学会において発表した1)(表1)。なお,この数は急死した東京監察医務院や,外国でのcoroner's cases中の頻度よりも当然低いが,他のいずれの病院入院例の報告よりも高いことは,著者ら2)が本症の診断に関心が深かったことも幾分関与しているかもしれない。

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 生体の酸塩基調節機構は,腎,肺,血腋,組織細胞などの複雑な働きによって成り立っており,呼吸性酸塩基平衡障害は代謝性因子の変化を,また代謝性酸塩基平衡障害は呼吸性因子の変化をひき起すことが知られている。したがって,すべての酸塩基状態は代謝性因子と呼吸性因子の組合せにおいて二次元的に理解すべきものであり,正常例にかんしてもそれぞれの因子の正常値を別々に決めるよりも,代謝性因子と呼吸性因子を組合せた平面上での正常範囲を決定する方がより妥当と考えられる。

 私どもはさきにPCO2とHCO3−を組合せた表示法を用いてchronic stable hypercapnia症例のsignificance bandを作って報告したが1),今回は正常例に同様の表示法を用いて正常範囲を示す楕円を作り,さらに代謝性アシドーシス,アルカローシス症例についてもsignificance bandを作成した。また,代謝性障害例の治療後の酸塩基状態についても若干の知見をえたので報古する。

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 ベクトル心電図の普及とともに,Frank誘導法による正常および左室肥大の成績について,今日まで多くの論文が見られる。またRikli1)〜3)らによって心電図に応用された一次線型判別函数法は,その後ベクトル心電図にも応用されるようになった。われわれはFrank誘導法を用いた正常および高血圧症ベクトル心電図を,一次線型判別函数法により分類し,その診断に寄与する測定項目を選出したのでここに報告する。

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 外見上の特徴として,短躯,翼状頸,外反肘などがあり,眼瞼下垂,眼間開離,小顎症,歯牙異常,耳介の低位変形などの特異な顔貌を有する一連の疾患で,さらに先天性心疾患を高率に合併するNoonan症候群1)2)が,最近注目されてきた。上記の臨床的特徴は,Turner症候群3)のそれと非常に良く似ているが,本症候桝では性染色体が正常であり,その他の点でも現在ではTurner症候群とは明確に鑑別されている。われわれは本症候群と思われる肺動脈狭窄の症例に対し,開心術を行ない良好な結果をえたので,若干の文献的考察を加え,ここに報告する。

基本情報

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呼吸と循環
20巻3号 (1972年3月)
電子版ISSN:1882-1200 印刷版ISSN:0452-3458 医学書院

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