呼吸と循環 20巻2号 (1972年2月)

巻頭言

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 医学が自然科学の一分野であるかぎり,医学研究はある仮説とその実証とのくりかえしで進歩していくものであることは当然である。

 この場合,厳密に定義された一つの概念が前提となる。この定義づけが精密であればある程,えられる結果が正確になることもまた当然である。ところが,医学が生物ことに人間を対象としているため,この定義づけは極めて難かしい。そのため,例えば,われわれが,日常使っている肺機能障害,肺機能不全,肺不全というような概念も,何を根拠にして定義づけているのか,また,これについて話し合っているもの同志が同じ定義で話し合っているのか,疑問に思うことが多い。ことに,肺機能不全を「動脉血ガスに異常をみられる場合」とし,肺不全を「肺機能不全に呼吸困難が加わった場合」としている人と,肺機能不全を「ガス交換を維持するのに必要な換気に息切れや慢性の咳が加わったもの」とし,呼吸不全を「動脉血酸素分圧50mmHg以下,動脉血炭酸ガス分圧50mmHg以上」としている人が,お互に相手の定義を知らずに討議した場合,医学の進歩に必要な客観性は全く無視されていることになる。

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 Heymans, De Gastro, Schmidt, Comroeらによって,その解剖ないし生理学的研究成果が確定されたかに見られていた頸動脈小体が,最近構造,機能の面から新しい脚光をあびつつある。国外では,1968年Wates Foun—dation Sympsoium1)において近年の新知見が集積され,また最近Biscoe2)の——Carotid Body:Structure and Function——がPhysiological Reviews (Vol 51,No.3,1971)に掲載された。わが国では「呼吸と循環」18巻12号(1970)に斎藤十六氏3)が広汎なTopicsを整理して解説されている。この論文では,その後の発展についてBiscoeらの唱える「神経末端の化学受容器説」について,またComroe, Schmidt以来課題となっている頸動脈小体の換気における量的役割について考察することにしたい。

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Ⅰ.微小電極法とヒス束心電図法

 房室伝導は心房より心室へ血液を送るべく最初に発現する機構であるが,両者間を結ぶほぼ唯一の連絡路であるため,その機能がしばしば侵され易いものとして,臨床的には昔から注目され,基礎面からもその特殊な機能のため古くから研究されてきた。その研究の手法は大部分,臨床はもちろん,動物実験の場合も心電図を用いたものであった。したがって多くはP波とQRS群との時間関係より房室伝導をひとまとめにして類推したに過ぎなかったが,臨床心電図の豊富な資料と,多数の心電図学者の熱心な分析により,非常に多くのことが類推されてきた。その注目すべき性質の大部分は田原結節,すなわち房室結節の性質に帰せられたことは当然のなりゆきと考えられる。

 ところが最近十数年間に房室伝導の知識は画期的に一新されたと言ってもよかろう。その理由は第1には微小電極法が登場して,神経・骨格筋などの他の興奮性細胞および心筋他部の細胞と同様,この部にも応用されたからにほかならない1)2)3)。今まで房室伝導全体から各部を類推するほかなかったのが,各細胞単位の知見がえられるようになったのであるから,類推の当否を実証的に調べることができるようになったのである。

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 1970年度のノーベル医学生理学賞がカテコールアミンの代謝に大きな貢献をしたスエーデンの生理学者U. S.  von Euler,米国の薬理学者J. Axelrodらに授与されたのに続いて,1971年度の医学生理学賞もカテコールアミンの作用機構がcyclic 3',5',—AMPを介して発現することから着目して,多くのホルモンの作用機構を解明した米国の薬理学者E. W. Sutherlandに授与された。

 この事実はこの分野の進歩が医学上いかに重要な意義をもつかを物語るものであろう。

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 1968年Scherlagら1)2)により初めて,ヒス束表面電位(His bundle electrogram)の記録が臨床的に系統的に応用された。むろん,ヒス東電位のみならず,心臓内のaction potentialないしはcurrent potentialは心臓を取り出したり,切開する方法で古くから研究されていたが,臨床応用との直接的むすびつきが少なかった。

 しかし,双極カテーテルを用い,心内心電図採取の手技で,ヒス束表面電位の記録が,臨床的に可能であることを示したこの報告は,基礎的研究と臨床との間の隔たりを狭め通常の心電図とは異なった観点から,刺激伝導系を臨床の場に導入したことに大きな意義がある。すなわちこの事は,たとえば個々の症例における心電図の解析に役立つのみならず,抗不整脈剤などの作用効果や,その程度の判定にも有用であり,今後臨床における診断と治療に多くの示唆を与える事が期待される。

ジュニアコース

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Ⅰ.臨床肺機能検査とスパイロメトリー

 スパイロメトリーの限界を論ずるにあたって,まず,臨床肺機能検査におけるスパイロメトリーの位置づけを把握しておくことが必要であろう。

 歴史的にみればHutchinsonの時代における肺活量の測定が今日の臨床肺機能検査のはじまりとも見倣すことができよう。わが国において呼吸器疾患としては肺結核が中心を占めていた,あるいは中心を占めていると信じられていた時代には肺活量の測定が最も手軽に行なえる臨床検査であり,また,それによってえられる情報で,ある程度診療のためには十分であった。戦中,戦後の時代までわが国における臨床肺機能検査といえば,肺活量測定が中心であり,せいぜい"呼吸停止時間"の測定が加味せられる程度であった。海老名の指数が肺結核手術の開拓期にいたるまで唯一といってもよいほど重要な指標であったことは周知のことである。事実拘束性障害を主とする肺結核に関する限りにおいては極めて妥当な現実であったと言うことができる。

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 肺の構造と機能の特長として,

 (1) Parallelな臓器であること

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 閉塞性肺疾患患者が呼気時に示す気道の狭窄(呼気閉塞)は,本症の診断のみならず,本疾患患者が訴える呼吸困難の病態を把握する上にもきわめて特徴ある現象であるが,今日なお未解決な問題が少なくない。呼気閉塞は肺内気管支において発生することが確かめられており1),したがって気管支周囲肺実質がその成立機序に大きな役割を演じると考えられるが,従来の呼気閉塞に関する研究は主として肺外気管支についてであり,肺内気管支の呼気閉塞における肺実質の果す役割についてはなお未解決である。

 1960年Hayek2)は肺実質は直径1mm以上の気管支および肺血管から"elastic limiting membrane"によって分離され,また,この"elastic limiting membrane"は気管支壁および肺血管壁と結合が粗である。したがって肺内気管支は周囲の肺実質からほとんど影響を受けないとした。また,1966年Hyattら3)は摘出犬肺を用い,レントゲン撮影による気管支内径計測を行ない,同じ胸腔内圧にて肺実質がついたときと肺実質を刺離したときの内径に差を認めない成績より,肺実質は気管支に何ら影響を及ぼさないと結論した。

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 今日,体外循環法の発達とともに,開心術後にみられる肺合併症は次第に少なくなってきている。それにともない手術適応も拡大され,長時間体外循環が要求されるようになってきた。

 体外循環の合併症には,心・肺・腎・脳に関するものがあるが1),なかでも肺に関するものが多く,したがって肺合併症予防についての検討は臨床上大きな意義がある。

基本情報

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呼吸と循環
20巻2号 (1972年2月)
電子版ISSN:1882-1200 印刷版ISSN:0452-3458 医学書院

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