呼吸と循環 20巻12号 (1972年12月)

巻頭言

偶感 伊藤 良雄
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 循環器学に限らず臨床医学一般の進歩の仕方には,いくつかの型がある。その第一はすぐれた臨床家が豊富な臨床経験の中から天才的ひらめきにより新しい疾患または症候群を確立するという態のものである。これらはその栄誉を重んじて発見者の名称がつけられている。最近では,Conn症候群がその一例であろう。この症候群の発見に刺激され内分泌性高血圧症の色々な型が次々と見出されてきている事は周知のことである。かような発見は,臨床家の独壇場である。患者が最も良きわれわれの師である事を示し,一例一例を貴重な例として取扱うべきことを示すものであろう。

 第二の型は,検査法や測定法の開発に伴い飛躍的に進歩する態のものである。これには物理的方法と化学的方法がある。物理的方法の場合,理づめでコツコツ開発される方法と,あるひらめきで開発される方法とがあろう。ひらめきで開発された方法の代表は心臓カテーテル法であろう。Cournandらが,Forsmannの古い論文を読んで,これを診断に応用した炯眼には頭が下がる。右心カテーテル法は左心カテーテル法,冠静脈カテーテル法などへと発展し,機を一にして発達してきた心臓血管造影法と相携えて心臓・血管外科よりの要請に十分応えるとともに,先天性,後天性心疾患の診断や病態生理の解明に大きな貢献をなしとげたし,またなしとげつつある。

綜説

末梢気道の病態 佐藤 勝
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 末梢気道の病変は,慢性肺疾患における肺の気腫化,線維化の過程の指標の一つとして,その重要性が注目されるようになったが,一方では大気中の汚染物質の末梢気道への影響が,大きな社会問題となっている。

 末梢気道の病変は多くの場合,長期間潜在性に経過し,通常の呼吸機能検査ではその異常を容易に探知できない。臨床的に把握できた症例では,障害の程度がかなり進行している。

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 今からおよそ60年程前にBohr1)が初めて提唱した肺拡散能力(diffusing capacity, DL)はここ20年来しばしば肺におけるガス交換の速さを示す指標として用いられるようになっている。この値はO2,あるいはCOガスを吸入して求められているのであるが,COを用いる方法が簡単であるので,臨床的にはこの方法が広く用いられている。DLCOは肺胞気PCOが1mmHgであるとき,1分間に肺から摂取されるCO量(ml)で示される。この値は,元来,肺毛細管壁を通るCOの拡散速度を示すものと考えられ,主として,肺胞膜の面積,およびその厚さにのみ依存すると考えられていた。一方,Rough—ton2)3)はCOとヘモグロビン(Hb)の反応速度を測定し,その速さがそれまで考えられていた程速くないことを見つけ,さらに,それが試料のPO2が上昇するにつれて減少することを確めた。この現象を根拠に彼は赤血球が肺毛細管内を通過する時間の推定も行なった。その結果,安静呼吸時では赤血球の毛細管通過時間,すなわち,赤血球が肺胞気と接触する接触時間が平均で0.73secであると述べている。彼の業績はDLCOを反応速度論的に考察する端緒を与えた点で高く評価されている。その後,この考えはKruhφffer4)の測定したDLCOとPO2の関係に関する研究結果によって強く支持されるに至った。

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 ジギタリスはよく効く強心薬として古くから使われているが,この薬物には蓄積傾向があり中毒をおこしやすい欠点がある。最近まで幾多の微量定量法が,ジギタリスの血中濃度をはじめ臓器内濃度或は細胞内濃度などを知る目的で研究されてきた。

 表1は最近明らかになった治療時および中毒時におけるジギタリスの人血中濃度である。ngオーダーの超微量を測定できなければ中毒を予知するための臨床利用には用いられない。

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 iso-volume pressure flow curve (以下,IVPF曲線と呼ぶ)とは,字義通り,ある肺容量におけるtrans—pulmonary pressure (Ppl-Pao)またはtransairway pres—sure (Palv-Pao)と,この圧によって生じる気流量とのdynamicな関係を表現する曲線である。およそ,呼吸器系を力学的なモデルにおきかえて,呼吸機能をこの側面から見てゆこうとするmethodik,いわゆる換気力学において,基本的な情報は,pressure, flow, volumeの三者である。IVPF曲線は,この基本的な三情報のdyna—micな関係を,いわば三次元座標上に投影して一目瞭然たらしめる方法というべく,その呈示する情報量の豊富さからしても当然換気力学検査のシステム中に相応の地位を占めるべきはずである。しかし,本曲線をプロットするには,従来,方法論的にかなりの制約があった。検者,被検者双方に要求される多大の時間的,労力的負担が最大の難点であった。そのため,1958年,Fry,Schilder, Hyattら1)がflow volume curveを提唱して,その理論的解析にIVPF曲線を用いて以来,本曲線の重要性については多くの研究者の注目を浴びながら,なお期待されるほどの臨床的応用の道は開けなかった。

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 一般に,細気管支炎は小児の疾患として知られていたが,成人の疾患として注目されるようになったのは比較的最近のことである。もともと細気管支を含む気道末梢部領域(細気管支・終末細気管支・呼吸細気管支など)は,肺自身の加齢現象や大気汚染・喫煙との密接な関係について論じられてきた。

 しかし,この領域に大きな関心が寄せられるようになったのは,1968年にHoggらがいわゆるsmall airwaydiseaseという概念を提唱してからであろう1)。その後,細気管支の病変はそれまでのように単なる独立疾患ということではなく,慢性閉塞性肺疾患の成因と関連して論じられるようになった。それでも,細気管支の病変に関する知識はいまだに十分ではなく,この領域の病変を胸部レ線写真や肺機能検査により検出することは困難で,診断ができるようになった時にはすでに他の部の病変も加わって手遅れになっていることが多いといわれている。このため,気道末梢部領域は肺におけるquiet zo—neとも呼ばれており2),よりいっそうの研究が強く望まれている。

原発性肺高血圧症 原沢 道美 , 吉良 枝郎
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 肺動脈圧の測定には右心カテーテル法が必要であるが,それが正常値以上に上昇した場合を肺高血圧と呼び,その正常値の上界は収縮期圧30mmHg,拡張期圧18mmHg,中間圧22mmHgとされている。肺高血圧は高地環境においては健康人にも認められるが,普通の環境では種々の心・肺疾患に随伴したり,続発したりすることが多い1)。しかし,生前明らかに肺高血圧が認められ,これに由来する右室不全で死亡したにもかかわらず,剖検によっても心肺のいずれにもその原因と考えられるものがみあたらず,原発性肺高血圧症primary pulmonary hypertensionと名づけられている症例があり,目下その成因や病態をめぐつて種々議論されている2)

 そこで,以下原発性肺高血圧症について少しく解説してみたいと思うが,臨床的に本症を診断するためには,肺高血圧症の成因や原因疾患などについての知識が必要となるので,それについてまず簡単にふれてみたい。

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 脳血管障害や脳外傷の患者に種々のECG変化が起こることについては多くの報告があり,(Burch,Conner,Fentz,Hersh(1961,1964)and Eichbaum),蜘綱膜下出血の患者に心筋梗塞が合併することも報告されている(Eichbaum,Cropp and Porter)。また,これらの患者の剖検所見の結果から,心筋にnecrosis(Eichbaum),myocytolysis(Conner)が起こるといわれており,このことは動物実験によっても証明されている(Melville,Porter)。われわれは重症頭部外傷や脳腫瘍患者で脳幹障害を起こしているような症例に高いP波,ST降下およびT平低化をみとめ,予後がはなはだ不良であることを報告してきた18)〜20)。しかしながら,これら重篤なECG変化がどのようなmechanismによって起こるかについては,上記の多くの報告者によって交感神経刺激ないしは大量のcatecholamine relaseによるであろうと推定はされているけれども,いまだ明確にされていない。

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 shock状態にある生体の末梢組織呼吸の変化を知る手段として現在まで各種の方法が試みられてはきたが,いまだ満足すべきものはなく静脈血酸素分圧または炭酸ガス分圧,静脈血pH., 血中乳酸値あるいはexcess la—ctate値,redox potential等の変化をもって臨床診断・治療上の推定根拠としているに過ぎない。

 実験的にはsubcutaneous gas-pocket法1), implanted microperforated capsule法2),あるいはneedle oxygen electrodeの組織直接穿刺法により組織酸素分圧の測定を行ない,その部における酸素の需要供給のバランスを把握する方法としている。しかしながら実験のために作製したgas pocket, implanted capsuleともにこれらが正常組織の一部であると言う前提に立っているし,盲目的電極刺入発では刺入された電極がその組織の如何なる部位にあるのか確信がえられない。これに対してリンパ液は組織液の集合体であり,この酸素分圧または酸素含有量の変化より末梢組織における酸素代謝の指標をえんとする試みもなされている3)

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 日常の臨床では,呼吸数の測定は心拍数の計測と比較すると等閑視されているように思われる。これは,心拍数が比較的患者の意志の影響をうけ難いのに対して,呼吸数は患者の心理状態,会話,周囲の環境など多くの条件により修飾され易いためであろう。

 著者らは,リウマチ様関節炎に併うび漫性間質性肺線維症患者の一例に著明な持続的呼吸頻数を観察し,その病態および成因について二,三考察したので報告する。

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基本情報

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呼吸と循環
20巻12号 (1972年12月)
電子版ISSN:1882-1200 印刷版ISSN:0452-3458 医学書院

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