呼吸と循環 21巻1号 (1973年1月)

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 20世紀の後半に入って,人間生活,社会構造はますます複雑多様化し,これに加うるにテクノロジーの進歩によりもたらされる情報量は膨大なものとなりつつある。このような事態に対処する一つの方策として登場したのがシステム化である。システム化とは,最小のresourseでもって最大のeffectを達成する体系をつくりあげることである。ここにresourseとは,経費,技術,人手,時間等である。システム化を試みるについて,まず最初に行うことは,システム化の目的の設定である。これを確認した上で,現状分析,情報取得から始まって,情報理論,制御理論,統計確率論等を応用して,その目的を達成するための最良のシステムを組上げる。

 近年医学の分野にもシステム化の概念が導入され,とくに患者に最良の医療サーヴィスを与えるという目的で病院機能をシステム化する試みがなされつつある。病院機能のシステム化における重要な一つのサブシステムは各種臨床機能検査の自動化である。呼吸機能検査,とくにスパイロメトリーを中心とした簡単な換気機能検査の自動化は一部すでに実用化されているが,いわゆるシステムの一還として考慮されているものはなお少ない現状である。

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 「体系」化の原義によって本稿の命題について論ずるためには,当然,方法論に関する統一的見解あるいは約束が必要となる。ついで,えられたデータの解析には,生体現象のさまざまな情報と総合的に連絡された基準,いってみれば標準値の設定が必要となる。さらに比較検討されたデータが,診断および治療とどのように結びつけられるかという過程を経て,血液ガス・データの評価の系が完成される訳である。

 それらの過程と,現状の実践的な問題点とをつき合わせてみると,予想外に複雑な問題が血液ガス・データの評価を,必ずしも単純なものでは無くしているのである。1例をあげると,血液CO2分圧の測定には,現在最も普及していると考えられるCO2電極法のほかに,いわゆるAstrup micro-methodや,CO2含量,pHなどからnomogramあるいは式からCO2分圧を算出する方法などがあり,それぞれの方法が,同一の検体に対して,異なる数値を与えうる可能性があると同時に,生理学的な意義の差すら存在する訳である1)

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 臨床呼吸機能検査でガス分析がいかに重要であるかは周知であり,このために諸種のガス分析装置が用いられているが,ガス濃度の変化を速やかに分析,記録しうる装置は非常に少ない。しかし,最近Fowlerら1)2),Muysersら3)〜5)が呼吸機能検査用マススペクトロメーター(質量分析計)を作製して以来,He, H2O, Ne,C2H2, N2, O2, Ar, CO2, N2O, SF6などのガス濃度の変化は速やかに分析記録されるようになった。呼吸機能検査用マススペクトロメーターは今後本邦においても広く用いられるようになるであろうと思われるので,本論文ではこの装置について少しばかり解説を試みたいと思う。また著者ら6)〜10)は島津製作所との共同研究で最近,本装置の開発にほとんど成功したので11),その装置の紹介もしたいと思う。

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 産業の高度成長化・都市の過密化などに伴なう歪みの一つとして,公害病が大きな社会問題となっている。なかでも工場煤煙・粉塵などによる大気汚染は地域によって死亡例が見られるほどであり,また,光化学スモッグによる被害も,ますます拡大される傾向にある。このように,特に大気汚染による呼吸機能障害は人口の老齢化と相まって年々増大の道を辿っている。

 このような状況のなかにあって,呼吸機能検査の諸patternも,一つの変革期に直面しているといってよい。すなわち,massを対象とし,比較的軽度の呼吸機能障害を鋭敏に捉えることが可能で,しかも諸検査のdataを能率よく,効果的に,正確に処理することのできる機能と形態を備えた呼吸機能検査systemの実用化が強く望まれる。

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 医療における情報化時代の幕開けはすでに始まっている。呼吸機能検査の分野でも,大気汚染による呼吸器疾患の増加や老齢人口の増大による閉塞性疾患の増加,あるいは国民の保健意識の変革をささえるAMHTS***の出現などにより呼吸器に関する医療情報は量・質ともに増大の一途をたどりつつある。これに対処する方策は,一つは呼吸機能検査のシステム化であり,いま一つはコンピュータ導入による検査のオートメ化である。

 本稿では,最近はやりのミニコンピュータを用いた呼吸機能検査のオートメ化について,個々の検査を対照とした二,三の具体例をあげて,それらをおもにデータ処理の面からながめ,最後に,それらを一つの呼吸機能検査システムとしてまとめた場合,システムとしてどうあるべきかなどについて考察してみたい。

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 笹本(司会) 本号の特集は呼吸機能検査体系化への提案ということになっておりますので,それに関連してこれからの臨床呼吸機能検査という題の座談会を始めます。

 ねらいは呼吸機能検査のシステム化ということに重点を置いていただきたいけれども,最初に総論的なお話をしていただくことになると思います。呼吸機能検査を中心とした呼吸器疾患診断のシステム化は今後1,2年間に非常に急速な進歩するだろうと思います。その理由としては第一が大気汚染,人口の老齢化などによっていわゆる閉塞性肺疾患患者が増加するであろうということ。第二は疫学調査,health screening, health care systemなどにおける大量の情報を効率的に処理するということが社会的な要請として高まってくるであろうこと。第三は少し思いきっていえば,呼吸機能検査が主として物理的な測定であって,情報源としては電気量でサンプルするものが大部分であるということ。第四は検査後の情報処理として比較的単純な代数的計算が多いということ。第五は検査後の処理に時間を要するということ。第六は呼吸機能検査の情報から呼吸器疾患診断に至るまでのlogicがほかの分野に比べて,比較的体系化されておると思われること。第七はミニ・コンピューターの需要が頭打ちとなって,各社とも医学分野に進歩を試み,特にソフトを組み込んだ販売方式を重要視しておること。

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 無線テレメーターを使用し,僧帽弁狭窄症患者の歩行時の心電図を観察しているとき,患者心電図のP波が著明に変動することに気づいた。

 本邦にては,P波に関し多くの立派な研究1)2)3)4)5)6)があるが,運動負荷直後の右側胸部誘導(V3R, V1, V2) P波に関する研究は本邦内外をとわずみあたらない。これに関係したものとして,健康者の運動負荷中の標準肢誘導についての記載2)をみるのみである。右側胸部誘導P波の形態は僧帽弁狭窄症の診断のため,もっとも有用なものであるが,患者が軽く動いたとき,このP波がいかに変化するかは知られていない。

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 propranololは強力なβ—アドレナリン受容器遮断剤であり1)2),臨床上各種の不整脈3)〜5),狭心症6)〜10),心筋硬塞11)12),ファロー四徴症13)〜15),特発性肥厚性弁下部狭窄(IHSS)17)などに用いられている.propranololの静脈内注射は病気によっては急死をひきおこすことがあり18),また,経口投与も致命的な副作用を生じることがあるので19),propranololの使用にあたってはその循環器作用をよく理解して用いることが大切である。pro—pranololの禁忌としては心不全,喘息および肺高血圧があげられており19)20),propranololの肺高血圧増強作用を有すると推定されている20)。一方,肺循環の生理学の未解決の問題の一つは,肺血管床におけるβ受容体の有無とその役割であり,β遮断剤によりその解明が期待される。

 この研究では第一にpropranololの肺循環作用,第二に肺循環のadrenalineへの反応のpropranololによる修飾を報告し,肺血管床におけるβ—adrenaline受容器の役割について考察したい。

基本情報

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呼吸と循環
21巻1号 (1973年1月)
電子版ISSN:1882-1200 印刷版ISSN:0452-3458 医学書院

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