呼吸と循環 15巻8号 (1967年8月)

巻頭言

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 肺機能研究の進歩は誠に目覚ましいものがあるが,臨床にもどってみると,機能不全・呼吸困難に悩む患者を前にして,その対策があまりにも旧態依然としていることを強く反省せざるをえない。もともと,肺不全と闘う立場は,有力な強心利尿剤や外科的手段をもって心不全に対処する立場とはやや異なり,むしろ腎不全の対策に苦悩する立場に似ているといえよう。しかし,腎不全に対し腹膜灌流や人工腎臓を駆使して,患者の生命延長に成果をあげた努力にくらべて,呼吸器専門家の肺不全対策への努力は明らかに不足しているのではなかろうか。現在,この方面で積極的役割を果たしているのは麻酔科の人達であって,格段の進歩がみられたのであるが,一方内科領域における関与の程度はまだきわめて低調といわざるをえない。今日のように発展した呼吸機能研究の成果を,肺不全の臨床にもっと強力に応用されるべきである。このような意図が実現するためには,一つの大きな契機が必要であろう。良い例が,麻酔科の新設によって現われている。今日新設される病院にはintensive care unitが設けられる傾向が強いようであるが,声を大きくして,cardio-pulmonary care unitを設けることを提唱したい。また,そこで働く人のチーム作りが最も大切で,その創意工夫によって,重症患者にも応用しうる検査法の確立と人工呼吸法を含む治療法の活用がもっと日常的に行なわれる必要がある。

綜説

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はじめに

 近年,ショックに関するreviewは数多く,何冊かのすぐれた成書,Symposium報告があり,かつ外科,麻酔関係をはじめ基礎分野のjournalでも循環,呼吸,代謝の各面からの幾多のレポートが報告されている。この中で,「侵襲学から」と形容詞をつけたショックの問題を書くよう依頼された。そこで「侵襲学」(agresso—logie)なる名称を唱え,「Agressologie」なるinterna—tionalな雑誌をフランス麻酔学会会誌の編集から手を引いて主催しているLaboritのことが当然頭に浮かんでくる。筆者にはこれを紹介することにこの論文を依頼した編集者の意図があるように思われる。Laboritの生い立ちから考えてみて,"going my way"の歩みを国内,国外で続ける彼の考えを「ショック」に関して紹介するのは有意義だと思われる。Laborit自身はアングロサクソンその他ヨーロッパの論文を幅広く読み文献として引用しているのに,アメリカ,イギリス系の論文にはほとんど引用されてないという事実,しかるにショックの治療,その成立の病態生理の解釈に(たとえばクロールプロマジンの使用,ショックでの末梢循環の態度の解釈,血管収縮剤の禁忌),むしろLaboritの方がはるか先を予見していたという厳然たる事実は認めざるをえない。

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はじめに

 心筋が他の骨格筋と同様に電気刺激に反応して収縮する事実は古くから知られ,18世紀の終りにはすでにGa—lvani1)によって記載されているが,その臨床的応用について考えられたのはずっと後になってからで,1932年にHyman2)により皮膚の上から針電極で心房を刺激して心臓停止の治療を試みた実験が行なわれた。それと前後してWiggers3)により,動物実験で綿密に心筋の多くの電気的特性が機械的特性とともに研究され,近代の心臓電気生理学の基礎がここにはじめて樹立され,今日の隆盛をみるにいたったのである。

 人体に対して人為的な電気刺激を加え,なんらかの理由で自動性のなくなってしまったか,またはそれに近い状態の心臓を正常に機能させようとする試みは,1952年にZoll4)によって初めて試みられた。彼は交流を電源とする発振器を使って,皮膚の上から25Vから150Vくらいの電気刺激を加え,心停止にともなう Adams—Stokes Syndromeの治療に成功したというきわめて驚異的な発表を行なった。このときいらい,不整脈治療の分野に今日みられるような各種の"電気刺激"が入りこんできたが,この身体表面からの電気刺激は電極下の皮膚の火傷の他にも,肋間筋や他の胸壁筋の収縮をともない,患者に多くの苦痛を与えるのでそれに代る有効な電気刺激の方法が追求されるようになった。

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いわゆるTrans-Atlantic Acid-Base Debateについての私見

 New York Academy of Science (NYAS)の主催によって行なわれた"Current concepts of acid-base measurement"のシソポジウム1)以来,酸・塩基平衡の測定とその解釈をめぐっていわゆる北米学派とコペンハーゲン学派の間に論争がくりかえされている2〜5)。本誌の本年3月号にもこの問題の特集6)が行なわれたのは読者の記憶に新しいことである。

 第三者としてこの問題を眺めたとき,言葉の定義とその解釈が一致していないことに原因する水かけ論的な要素を多分に感ぜずにはいられない。最大の論点は非呼吸性の酸・塩基平衡のパラメーターはbase excessかbicarbonateであるべきかという課題であろう。このことにつきWintersの述べた酸・塩基平衡に関する二つの言葉の分類は再認識される価値があるのではなかろうか。

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はじめに

 心筋硬塞症は一般にはとつぜん発作に襲われ,活動能力を失ったものが一定の安静期間後,経過とともに徐々に回復するものであるが,心筋の壊死,冠動脈硬化をともない,必然的に大部分は回復後も活動能力にある一定の限界があり,その制限内でいかに有効に社会生活を送るかということが問題になる。したがって,心筋硬塞症は心疾患の中でも最もリハビリテーションの必要な疾患といえる。しかし急性期より回復期,社会生活への復帰と進む過程で,いかにリハビリテーション・プログラムを推進させるかという方式すら決まっていないのが現状である。この点に関してはこの方面の研究者が今後検討協議して決めていかねばならないと考えているが,ここでは現在われわれの教室で行なっている方式の一部を中心に述べることとする。

講座 "環境と呼吸・循環"シリーズ・3

高圧環境と臨床 太田 保世
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はじめに

 いわゆる異常環境の諸問題も,いままではなにか疎遠なもののように受けとられがちであったが,さまざまな方面からこの問題を現実のものとして考究する必要が生じている。表題の高圧環境も,異常圧環境の一つであるが,宇宙あるいは海底に人間の生活圏が拡大していく場合に当面する問題であり,医療の手段としても潜函病の治療にとどまらず,高圧酸素療法として幅広い応用がなされようとしている。つまり潜函工夫,潜水夫あるいはジェットパイロット,字宙飛行士だけの問題ではなく,一般の人々が圧の異常環境におかれることが増加すると考えねばならない。

 通常の圧環境を考えてみよう。われわれはいわゆる大気圧,ほぼ760mmHgの圧を受けて生活をしている。世界中では海抜3,000m以上の高地に約1,500万の人間が生活しているとされ,そこでの圧は約500mmHg以下である。潜水を考えると,10m潜水するごとにほぼ気圧ずつ増加し,たとえば海底20mでは絶対3気圧の圧を受けることになる。

 これらは全圧を考えた場合であるが,ある種の宇宙船のように,全圧は1気圧以下であっても,純酸素で満たされているために,酸素分圧だけを考えると1気圧空気呼吸の場合よりも高いということがある。

装置と方法

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はじめに

 光学的な方法であるが現像処理を必要としない電磁オシログラフはビジグラフなどの商品名でかなり普及してきた。また,XYレコーダーは任意の二つの現象の相互関係をリサージュの図形を書かせる要領で,インクとペンで正確に記録する装置として,これまた,大変な勢いで研究室などに入ってきた。しかし,記録しようと思う現象と記録装置は身体と着物の関係のように,うまく合っていないと役目を果たさないことになる。本文では記録装置のえらび方や使用法について,医学研究者の方々に理解しやすく述べてみたい。

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 WPW症候群が発作性頻拍を伴うことは,改めて述べるまでもないが,発作性心房細動を有することも往々にして存在する。

 ところが心房細動のさい,幅広いQRSを示すことがしばしばみられる。かかる場合には,幅広いQRSを有する心拍が不規則にしかも頻繁に出現するので,心室細動にまぎらわしい像を呈する。

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緒言

 横隔膜神経に知覚性線維が含まれていることを最初に記述したのは,Luscka (1862)である。その後,LittleおよびMcSwing (1938)らは,ネコの横隔膜神経の主な部はC5およびC6において脊髄に入り,一部C4において脊髄に入ると述べている。Hinsey, Hare and Phillips (1939)は,ネコの上頸部交感神経節から下胸部に至る交感神経幹を除き,かつ,C2—C8の前根を切って知覚神経以外の線維をことごとく変性させ,横隔膜神経の有髄線維の約10%は知覚を司ることを観察している。

 横隔膜神経についての機能方面の研究としては,Sch—reiber (1883)はイヌの横隔膜神経を切断してその中枢端を刺激して,血圧の上昇をみとめ,その後,多くの刺激実験を重ね,主として循環系への影響をみている。すなわち,血圧,冠循環,末梢血管抵抗,心拍数などの変化についてはかなり詳細に記述しているが,呼吸の変化についてはほとんど記載していない。Malschin(1930)は,横隔膜神経を切断し,その中枢端を刺激すると血圧の変動のほかに呼吸が速く,かつ,深くなることを記述し,Thornton (1937)は,肺灌流実験において横隔膜神経中枢端刺激によって気管支が拡張し,迷走神経切断によってその反応が消失するので,気管支支配において前者は求心性,後者は遠心性反射弓を形成するものと考えた。

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緒言

 高圧酸素加hyperbaric oxygenation (OHP)の臨床応用は近年大きな関心を集めており,その応用も,一酸化炭素中毒,嫌気性菌あるいは好気性菌感染症,心筋硬塞,脳血管障害,出血性ショック,新生児呼吸困難,末梢循環不全,外科手術への応用,悪性腫瘍の治療などぎわめて広範囲にわたっている3)14)。しかしながら,高圧酸素加の臨床効果の基礎は,いくつかの仮定の上に立つ理論的考察が主体であり13),実証された知見に乏しいといわざるをえない。

 たとえば,治療手段としての高圧酸素加には,安全で有効な投与量を決定せねばならないが,多くは経験的に用いられているにすぎない。さらに異常環境下の生体反応について,とくに高圧酸素加に必然的に付随する危険の一つである酸素中毒の問題にしても,その発生要因,発生限界圧力,予防法などについては十分な知見に乏しい。

 著者は,高圧酸素加の臨床応用に先立って,第一に酸素中毒の発生要因および頻度の統計的観察,第二に高圧酸素加による組織ガス分圧の変化,第三に,Nahasら17)21)の報告にある,tris-hydroxymethyl-amino-me—thane (THAM)の酸素中毒に対する効果および作用機序の三つの観点から,高圧酸素加に関する実験的研究を行なったので,その成績について報告する。

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緒言

 血液酸素飽和度の測定に関して,従来,Van Slyke検圧計による方法1)が用いられ,熟練者が行なえば最も正確な値が得られ2),一般に血液ガス分析の基本とされている。しかし,その反面,操作が複雑で,分析に用いる血液も比較的多量が必要であり,迅速な測定は不可能である3)。したがって,乳幼児の心臓カテーテル法,緊急を要するさいの測定などには,Van Slyke法に近い正確度が得られ,測定に要する血液量が微量で,かつ迅速に測定できる方法として,主に現在spectrophoto—metry4)による方法およびpola—rographic oxygen electrode5),およびガラス電極を用い血液酸素分圧PO2, pH値を測定し,ヘモグロビン酸素解離曲線6)を利用して求める方法があげられる。これらの方法について採血方法,操作および実際測定上の諸問題について述べ,さらにVan Slyke法より求めた値と比較検討したので,その結果について報告する。

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緒言

 先天性僧帽弁異常は,とくに心内膜床欠損にはしばしば合併してみられる。しかし,その他の心奇形に合併したり,あるいは単独におこることは比較的まれである。

 われわれはこのような3剖検例を経験したので,これらを含み新分類を提唱する。

基本情報

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呼吸と循環
15巻8号 (1967年8月)
電子版ISSN:1882-1200 印刷版ISSN:0452-3458 医学書院

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