I.まえがき
近年,肺生理学はめざましい進歩を示したが,その基礎的研究の優れた業績は直ちに肺疾患患者の実地臨床に応用せられ,周知のように,呼吸や肺循環の病態生理学を著しく発展させた。現在では,肺胞膜を介して行なわれるガス交換の機能,即ち肺の拡散能力すらも臨床的に比較的容易に測定できるようになつているが,肺生理学を探求する人達は更におし進んで,血液内で行なわれるガス交換の機能,即ち所謂"Hemoglobin Kine—tics"の問題をも解明しようとして,これに関する基礎的研究を続けているように思われる。
数年前から本問題,特に赤血球と酸素との結合・解離の速度について,私も亦若干の興味を抱いていたが,幸いにも恩師長石忠三教授の御尽力により昭和36年7月以降満2カ年間,カリフォルニア大学医学部心臓血管研究所(Director: Prof Julius H. Comroe, M. D., Cardiovascular Research Institute, San Francisco Medical Center, University of California)に留学する機会が与えられ,そこでNorman C. Staub, M. D.から"Hemoglobin Kinetics"の問題についていろいろと教えて頂くことができた。