呼吸と循環 12巻5号 (1964年5月)

巻頭言

診断の機械化 高安 正夫
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 最近のエレクトロニクスの進歩は実にすばらしい。又その医学への応用も一段と進んで疾病の診断方式も変化し病態の把握が相当可能になつた。それは医師だけの力でなく科学者相互の協力のお蔭ともいわねばなるまい。アメリカの雑誌などにみる症例報告にすべて血清電解質,pH,色々な化学成分,多種多様の肝機能,腎機能,心電図,心音図等々沢山の検査成績がずらりと並んでいるのをみてどの様な患者にもすべてのデータを並べなければならないかをいぶかり又驚いたのもそれほど昔のことではなかつたが,医療費の足りない日本でもそれに近いデータが並んでいないと一例報告にも恥かしい時代になつた。病院でこれらの検査が専門化した技術者の手によつて日常取り扱われるほど機械化が進歩したわけであり,まことによろこばしいことである。

 しかしその半面若い医学生が昔の修業時代に自分の受持患者の検査はすべて自分でてがけて,そのやり方を身につけ又判断する習慣をやしなつたのと異り,ややもすればその方法も原理も理解せず人の出してくれたデータだけを並べて公式にはめるような判定を下すことに終ろうとする危険がないだろうか。勿論あまりにも多種多様になりしかも高度化された検査の全部を体得することはなかなか望めないと思われるが,出てきたデータが機械の調子や何かで誤つていてもただ鵜のみにして,変だとも感じないようでは困るのである。

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 自然科学の知識は右に左にと揺られながら発展を続けている。科学常識として厚巻の書に自明の理のごとくに記載されていた事柄も,立場が変わると土台をむしばまれた楼閣のようにくずれてゆく運命にさらされる。この立場の意味するものはただ単に見解の相違というだけでなく,方法論の進歩によつて従来の考えの誤りが指摘されるという面も含んでいて,むしろ当然の帰結でもある。このような進歩発展は経験の集大成の上に立つてきた医学の面,生物学の面で最近特に目立つてきた。

 しいて類似を求めるわけではないが,物理と電気との間には,抵抗,弾性,慣性等の事実を考える際に共通概念というか,相通ずる言葉があつて,それぞれの現象の期に相互の類似化(Simulation)が可能である。一方生体現象として生存のために刻々連続している複雑な現象が,物理学や化学の概念と全くかけ離れた特殊なものでないことはわかつていても,物理的な,まだ電気的な概念で説明するのに現在の知識だけでは対称が複雑にすぎることも事実である。これまでも色々の努力によつて両者間の歩みよりがなされてきたが,まだ識者の経験が尊重されている分野が多い。

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緒言

 一般に研究方法の進歩は医学研究者に新しい研究分野を提示するものである。カテーテル,ガス分析装置及びSpectrophotometryの進歩によつて心肺機能の研究は実験分野に於いて,又臨床分野に於いて,一大光明を齎らした。20年前には殆んど無知に等しかつた血液動態及びガス交換の機構も生理,病態のいずれに於いても次第に鮮明されて来た。しかし適切な研究方法が確立されない分野に於いては,尚も未解決の分野が多々あり,しかも注目も浅い。

 胸腔内及び腹腔内器官の神経性調整に関する研究は生体に於いては直接検索することは不可能に近い。従つて従来間接的方法によつて,receptorの感受性及び之等の求心性繊維の延髄及びより高位中枢に対するインパルスの研究がなされて来た。

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Ⅰ.緒言

 慢性肺気腫は中年以後の男性に比較的多くみられる疾患とされている。例えばFarber及びWil—son1)によれば,肺気腫は米国においては,肺結核よりもまた肺癌よりも遙かに頻度の高い慢性呼吸器疾患であつて,100万人以上の患者があり,而もその大部分が呼吸不具者となつていることに医学上ゆるがせに出来ない問題があると述べている。このように慢性肺気腫は非可逆的進行性の疾患であつて,早期に診断し,治療しなければ成果を期待し得ない疾患の一つであるにも拘らず,従来わが国においては必ずしもその認識が充分とは言い得ない状態であつたようである。例えば昭和36年日本病理剖検輯報2)には13,276例の剖検例が登載されているが,第1表の如くその約3%に当る410例において,あらゆる種類の肺気腫の存在が確認されている。所が第2表の如くこの410例のうち,生前に肺気腫と診断されていたのは,その約11%に当る44例に過ぎなかつた。もちろん解剖学的すなわちStructural emphysemaと機能的すなわちFunctional emphysemaとは必ずしも一致しないという意見もあるので,にわかに断定は出来ないけれども,肺気腫の診断に関しわが国の現状を物語る一事例と考えてもよいようである。

方法と装置

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I.まえがき

 近年,肺生理学はめざましい進歩を示したが,その基礎的研究の優れた業績は直ちに肺疾患患者の実地臨床に応用せられ,周知のように,呼吸や肺循環の病態生理学を著しく発展させた。現在では,肺胞膜を介して行なわれるガス交換の機能,即ち肺の拡散能力すらも臨床的に比較的容易に測定できるようになつているが,肺生理学を探求する人達は更におし進んで,血液内で行なわれるガス交換の機能,即ち所謂"Hemoglobin Kine—tics"の問題をも解明しようとして,これに関する基礎的研究を続けているように思われる。

 数年前から本問題,特に赤血球と酸素との結合・解離の速度について,私も亦若干の興味を抱いていたが,幸いにも恩師長石忠三教授の御尽力により昭和36年7月以降満2カ年間,カリフォルニア大学医学部心臓血管研究所(Director: Prof Julius H. Comroe, M. D., Cardiovascular Research Institute, San Francisco Medical Center, University of California)に留学する機会が与えられ,そこでNorman C. Staub, M. D.から"Hemoglobin Kinetics"の問題についていろいろと教えて頂くことができた。

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 Mem. Hosp. f. Cancerで1側葉切を行つてから1.5〜12.5個月のちに他側肺癌に第2回葉切を行つた10例をのべた。両側とも原発,1側は他側からの転移,両側とも他部癌転移(睾丸・腎の癌,黒色腫)の3群になる。後から省みて,適応をえらんで両側肺切を行うことはdefi—nite therapeutic Valueがあるというのである。一般に肺切後3年以上生存しうると永久治療のチャンスが高いが,しかしそうした長期生存者に同側・他側の転移から5〜10年の間に生じることもあり,そのある%は多中心発生の原発癌で,肺切後も喫煙しているものには当然のことでもある。第2病巣が原発であるという診断はむずかしいが,第1巣と組織像が異なり,気管支にCa in situが証明され,肺門リンパ腺転移があり,病巣が肋膜を破らず限局していれば原発と見てよいだろう。肺以外では多中心発生の第2癌治療に成功しうるものがあり,乳癌,結腸癌などその代表である。肺では1側肺切についで第2癌に他側肺切が積極的に行われはじめたのは,そう数多くない。Payne (J. Thor. Surg. 36: 166, 1962)は4側経験し,うち2例は第2回肺切まで7〜9年の間隔があつた。著者10例は第2回手術で,手術死2,12個月内の死亡4例,24個月内死亡3例,残る1例は53個月後健存している。

ジュニアコース

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いとぐち

 体液の反応は,これに含くまれる酸と塩基の量的関係によつてさだまる。体液を大別すると細胞内液と細胞外液とに分けられるが,細胞内液の反応は今日のところ,一般には正確にけ分つていない。これに反し,細胞外液では血漿と組織液が毛細血管壁を通して活発に交流しているから,血漿の反応をもつて全身の細胞外液の反応の平均を表わすものと考えることができ,これを正確に測定することができる。

 細胞外液は組織細胞にとつては直接接触する環境——内環境——であるから,その反応が細胞の物質代謝や機能に大きな影響を与えることは言うまでもない。細胞外液の反応の恒常性は,生体の機能の恒常性を維持する上に緊要な条件である。

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I.緒言

 Aberrant right subclavian arteryを臨床的に診断する機会は多いとはいえない。それは本症だけでは血行動態上障害を招くことが極めて稀であり,従つてまた臨床症状を呈することも稀であるのに起因する。我国における本症の剖検確認例は鈴木文太郎以来多数報告されているが,臨床的に血管心臓造影で本症を診断し得た症例は報告されていないようである。

 我々は本症と左肺静脈還流異常とを伴なつたチアノーゼ型心奇型を血管心臓造影及び食道造影で診断し得たので報告する40)

基本情報

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呼吸と循環
12巻5号 (1964年5月)
電子版ISSN:1882-1200 印刷版ISSN:0452-3458 医学書院

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