巻頭言
診断の機械化
高安 正夫
1
1三重県立大学医学部内科
pp.319
発行日 1964年5月15日
Published Date 1964/5/15
DOI https://doi.org/10.11477/mf.1404201315
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最近のエレクトロニクスの進歩は実にすばらしい。又その医学への応用も一段と進んで疾病の診断方式も変化し病態の把握が相当可能になつた。それは医師だけの力でなく科学者相互の協力のお蔭ともいわねばなるまい。アメリカの雑誌などにみる症例報告にすべて血清電解質,pH,色々な化学成分,多種多様の肝機能,腎機能,心電図,心音図等々沢山の検査成績がずらりと並んでいるのをみてどの様な患者にもすべてのデータを並べなければならないかをいぶかり又驚いたのもそれほど昔のことではなかつたが,医療費の足りない日本でもそれに近いデータが並んでいないと一例報告にも恥かしい時代になつた。病院でこれらの検査が専門化した技術者の手によつて日常取り扱われるほど機械化が進歩したわけであり,まことによろこばしいことである。
しかしその半面若い医学生が昔の修業時代に自分の受持患者の検査はすべて自分でてがけて,そのやり方を身につけ又判断する習慣をやしなつたのと異り,ややもすればその方法も原理も理解せず人の出してくれたデータだけを並べて公式にはめるような判定を下すことに終ろうとする危険がないだろうか。勿論あまりにも多種多様になりしかも高度化された検査の全部を体得することはなかなか望めないと思われるが,出てきたデータが機械の調子や何かで誤つていてもただ鵜のみにして,変だとも感じないようでは困るのである。
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