整形・災害外科 61巻3号 (2018年3月)

特集 高齢者の脊髄損傷

筑田 博隆
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現在,日本人の年齢中央値は,47.3歳で世界トップである(CIA The World Factbook 2017年推定値)。これは米国,中国に比べ10歳高く,インド(27.9歳)とは20歳もの開きがある。日本の高齢化率(総人口のなかの65歳以上の割合)は28%に達しており,超高齢社会(高齢化率>21%)を迎えて久しい。

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要旨:高齢化社会の到来に伴い,本邦では今や外傷性脊髄損傷患者の中心は60歳以上の高齢者となっている。なかでも転倒など軽微な外傷機転による非骨傷性頚髄損傷と,骨粗鬆症に伴う胸腰椎偽関節後の遅発性脊髄麻痺例の増加が目立っている。頚髄損傷の場合,筋力で評価する神経学的回復は必ずしも高齢者で劣っているわけでないが,たとえ筋力がある程度得られても,歩行やその他のADL機能は高齢者で著しく劣っており,また痛みの程度も高齢者で強い傾向にあった。このような高齢者におけるADL獲得の障害は退院後の自宅復帰を困難とし,結局は寝たきりに近い状態となるリスクを伴っている。様々な合併症に対処しながら長期のリハビリテーションを実行できる施設の充実が望まれる。

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要旨:脊髄損傷の大規模全国発生調査からから約30年が経過し,脊髄損傷の疫学は当時と様相を違えてきた。日本は超高齢社会を迎え高齢者特有の脊椎変性変化,強直脊椎(DISH),骨粗鬆症など脊髄損傷の潜在リスクを有しつつも,活動性の高い高齢者の増加などが背景となり,日本における高齢者脊髄損傷の発生は増加傾向にある。世界の動向は,経済的背景により地域間格差が大きいものの,北米,ヨーロッパ諸国など高齢化が進む地域では,日本同様発生年齢が高齢化している。日本では,平地転倒など軽微な外傷が主な受傷原因であり,回避可能なケースが多いと推察する。政策としての「高齢者の社会参加活動の促進」を安全に遂行するためにも,医学界からの高齢者脊損予防の啓発を積極的に行う必要がある。

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要旨:高齢者には軽微な外力で歯突起骨折が起こりうるため,胸椎後弯位の強い転倒例には訴えがなくても上位頚椎部の診察をすべきである。診断のためには単純X線開口位は必須であり,必要に応じて機能撮影を追加する。さらに,姿勢によるアライメント変化を考慮し,座位と立位の両方で側面像を評価するのが理想である。Anderson TypeⅠと転位が5mm未満のTypeⅢには保存療法が推奨される。われわれは従来ハローベスト固定をしていたが,合併症の多さから現在はソフトカラー固定としている。TypeⅡと転位が5mm以上のTypeⅢには手術が推奨され,死亡率と健康関連QOLの改善につながることがわかってきた。術式に関しては,環軸椎後方固定が第一選択となり,椎骨動脈の走行に応じて固定手技を使い分ける。近年の高齢者は活動性が高いため,偽関節を許容せずに骨癒合を目指すべきであり,骨粗鬆症の薬物治療も重要となる。

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要旨:国内での高齢化に伴って高齢者の非骨傷性頚髄損傷は今後も増加が見込まれる。頚髄損傷は本人の生活を一変させるだけでなく,介護する家族の生活にも負担を与えるため,社会に与える影響は少なくない。非骨傷性頚髄損傷の治療に関して,手術が有効であるというレベルの高いエビデンスはなく,現段階では様々な職種との連携によりいかに機能予後を改善できるかが重要である。併発する消化管出血や肺炎などの管理が機能予後はもちろん,生命予後にも影響する。理学療法・作業療法を中心としたリハビリテーション,疼痛のコントロール,排尿管理,精神面のケア,さらには退院先の整備など整形外科医のみでは対応が十分できないことも多いが,QOLに与える影響は非常に大きく,多くの職種が迅速に同じ方向を向いて治療にあたる集学的治療が必須である。

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要旨:びまん性特発性骨増殖症(DISH)に伴う脊椎外傷患者が増加してきている。骨折診断の遅れ,麻痺悪化のリスクが高い,生命予後不良が特徴である。診断には軽微な外傷であっても常に骨折を疑うことが重要であり,CT,MRIによる全脊椎のスクリーニングも推奨されている。急性期においては骨折部への応力集中に伴う脊椎転位をきたしやすいため,麻痺悪化のリスクを考慮して,神経症状が軽度であっても骨折診断の確定後は早急に手術を行うべきである。術式は後方固定術3 above-3 belowが基本であるが,高齢者の多い本脊椎外傷においてはその侵襲は決して小さくない。特に肋椎関節の癒合や肋骨骨皮質の肥厚を認める場合は胸郭可動性が低下しており,肺炎リスクの上昇に伴い生命予後不良となるため,注意を要する。

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要旨:後期高齢者の頚髄損傷は,入院中死亡率が40%と極めて高い。どの時点で手術を行うとしてもリスクは高いが,集中治療医,麻酔科医と密接な連携があれば,超急性期の手術はハイリスク・ハイリターンが期待できる一つの選択肢である。動脈硬化の著明な症例は,血圧が低いと脳梗塞や心筋梗塞の発症リスクが高くなるが,受傷前は高血圧であるため目標血圧の設定が難しく,特に神経原性ショックの時期は血圧コントロールに細心の注意を要する。また高度徐脈に対する対応や,呼吸器リハビリに関しては他職種との連携が必要である。様々なリスクに対応できる集学的治療体制で手術・集中治療・リハビリを行うと,良好に麻痺が改善する症例もある。手術による麻痺の悪化を防ぐために,高齢者では頚椎脱臼に対して整復固定術に加えて除圧術の併用を検討すること,非骨傷性頚髄損傷に対して除圧術に加えて固定術の併用を検討することが必要である。

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要旨:高齢者の頚髄損傷の骨傷は外側塊骨折と脱臼骨折が多く,外側塊骨折は椎体のすべり(translation),脱臼骨折は椎間関節の嵌頓をきたす。両者とも外傷性椎骨動脈損傷を合併しやすい。MRIと造影CTで評価し,閉塞があれば小脳脳幹部梗塞を予防する目的でコイル塞栓術を行い,その後直ちに脱臼を整復する。手術は塞栓術を行った側から後外側アプローチで筋間を分け,最小侵襲頚椎椎弓根スクリュー固定術(MICEPS)と椎間関節固定術を行う。基礎疾患で抗凝固剤内服中であれば,硬膜外血腫を伴うことがあり,除圧術を併用する。術後は呼吸循環不全に注意しながら早期リハビリテーションを開始し,誤嚥性肺炎,深部静脈血栓症を予防する。

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要旨:リハビリテーション(リハ)医療は手術や投薬と同じ治療である。治療には危険性や副作用が必ずある。リハ医療も治療であるので早期よりできるだけ高負荷,高頻度で行う必要があり,危険性もある。高齢者の脊髄損傷(脊損)者は発症した脊損以外にも種々の合併症を有していることが多い。これら合併症も十分考慮した上で,脊損の病態,状態を十分診察し診断することが重要である。脊損者に対するリハ医療の目的は生命予後の改善と機能の改善,障害の克服,そして活動を育み,社会生活に復帰させることである。これらを適切に行うためには脊損の主治医だけではなく,リハ科医,習熟した療法士による適切なリハ医療が重要となる。このリハ科医による医学的管理のもと医学的知識だけではなく技術的にも経験も習熟した療法士が提供するリハ医療のことをプロリハ(PROr)という。特に高齢者脊損のリハ医療を行うためには,このプロリハを実践する必要がある。

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要旨:高齢者の脊髄損傷が増加傾向にある背景として,頚椎脊柱管狭窄をもつ高齢者が軽微な転倒によって頚髄損傷に至るケースの増加が挙げられる。転倒予防としてバランス訓練や筋力強化・運動が効果を有することは高いエビデンスレベルで示されており,転倒による脊髄損傷においても有効な予防策と考えられる。一方,ロコモティブシンドロームは運動器の機能障害を統合的にとらえる視点であり,転倒予防はロコモ対策の目的の一つでもある。ロコモの主要疾患の一つが変形性腰椎症であることを踏まえると,頚椎脊柱管狭窄をもつケースもロコモ該当者に多いことが予想される。脊損高齢者の中には受傷前に頚椎病変に関連して受診歴がなく,転倒に伴う危険性を本人が把握していないケースも多い。今後,ロコモ該当者に対してスクリーニングとして頚椎X線撮影するなどして本人にリスクを伝え,運動療法と生活環境の改善を図ることが脊髄損傷予防につながると考える。

高齢者の転倒の科学 小川 純人
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要旨:超高齢社会を迎えるわが国において,高齢者の転倒・骨折は生命予後やQOL(quality of life),ADL(activities of daily living)に及ぼす影響が大きく,転倒のリスク評価や予防は重要な課題となっている。高齢者において転倒に関する内的要因の一つで,フレイルの重要な要素としてサルコペニアが知られている。本稿では高齢者の転倒について,サルコペニアを含めた転倒リスクの評価や予防・管理を中心に概説した。

Personal View

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「あんたなんか医者じゃない」。その昔患者さんに言われた言葉である。自分では良い医師になる努力をしてきたつもりであったので,いささか心外であったと同時に反省もした。この機会に若干偏見になるかも知れないが,自分なりの考察を述べてみたい。

整形外科手術 名人のknow-how

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関節軟骨の障害は,可動域制限や運動時痛,長期的には変形性関節症をきたし,関節機能に著しい影響を与える。したがって,外傷などによる関節障害に対しては可能な限り解剖学的・生物学的な修復を行い,機能障害を残さないことが求められる。

整形外科用語の散歩道

646.Central sensitization 国分 正一
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痛みの患者に,神経障害性疼痛や線維筋痛症と診断しNSAIDsやopioids,anticonvulsantsが処方される。しかし痛みが治まらず,しきりに訴える。更に新薬が盛られていく。そうした患者が訪れて来る。前医は身体を触れることがなかった由。

647.Metallosis 金属症 国分 正一
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卒後50年を迎えた。第一線での駆け出しには,plate & screwsの抜去術がよく廻って来た。開けると時に黒色の肉芽がみられた。東北大学の系列では,第2代教授・飯野三郎が金属材料研究所と共同開発した高Ni-Cr-Mo鋼(22A)のimplantsを使っていた(整形外科3:97,1952)。不銹鋼と銘打っていたが,metallosisであった訳である。

648.Rim enhancement 国分 正一
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その昔,脊椎炎はほぼ例外なく脊椎カリエスと診断され,療養所に入所とされた。病巣郭清の手術で得た組織片が,時に化膿性脊椎炎を示したりしたのだが。やがてX線像の特徴は腐骨,そして椎体高1/2以上の破壊と,その辺縁が平滑で線状の骨硬化と分かった(臨整外13:307,1978)。

擱筆にあたって 国分 正一
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連載を始めてから16年もの長年月が経過した。日整会用語集から選んだ,あるいは学会で耳にし,論文を読んだ際に興味の湧いた用語をアルファベット順に並べては,順繰りに月に3,4語を取り上げて随筆的解説を加えてきた。その数が600を優に超えるに到った。しかし,用語の数には際限がない。この辺りで筆を擱くことにしたい。

新しい医療技術

持続血糖測定 岡田 洋右
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要旨:糖尿病診療において,血糖変動を観察する手段の一つとして持続血糖測定(continuous glucose monitoring;CGM)が開発され,連続的な血糖値の変化を把握できるようになった。CGMを用いることにより,投与した薬剤が患者の血糖変動にどう影響するかを確認できるほか,特に無自覚性低血糖の発見に有用である。CGMを用いた正確な血糖プロファイリングは,糖尿病の治療戦略の立案や評価,合併症の予防のために有効である。

医療史回り舞台

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昨年9月に開催されたカヌーのスプリント日本選手権で鈴木康大選手(32歳)が小松正治選手(25歳)の飲み物に禁止薬物を混入させた事件が起こった。

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要旨:小児上腕骨顆上骨折に対する整復操作の違いによって,治療成績に差がみられるかについて検討した。対象は2004~2013年の10年間に手術治療を行った33例で,非観血的整復例(CR群)21例(男13,女8),観血的整復例(OR群)12例(男6,女6)であった。初診時年齢はCR群,OR群ともに平均5歳で,骨折型はHolmberg分類でCR群は2型が8肘,3型が4肘,4型が9肘,OR群は2型が2肘,3型が2肘,4型が8肘であった。CR群は腹臥位で上肢用牽引台を用いて徒手整復後経皮鋼線固定を行い,OR群は仰臥位で肘関節前方の小皮切から骨折部を用手的に整復し経皮鋼線固定を行った。合併症はCR群で内反肘を1例に認め,最終診察時のX線学的評価でCR群はOR群と比較して受傷側BA,健側比でBAの増加角度,CAの損失角度が有意に大きかった。小児上腕骨顆上骨折Holmberg分類2型またはGartland分類2型骨折に関しては,非観血的整復によって整復位が得られない場合には,観血的整復も考慮する必要がある。また,Holmberg分類3,4型およびGartland分類3型骨折では整復阻害因子が整復不良の原因となっている可能性が高いため,観血的に整復阻害因子を除去し,用手的に解剖学的な整復を行った後,鋼線固定を行う必要がある。

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要旨:距腿関節後方脱臼を伴う三果骨折で,荷重面の半分まで達する大きさの後果骨折の近位に短冊状骨片を伴う症例を,上腕骨近位部用ロッキングプレートで固定した。現在,足関節後果専用のアナトミカルプレートは存在しないが,本プレートの近位遠位を反転させて当てると後果を面で支持し,関節面近くまで被覆できた。なお本プレートを使用する際には骨折形態を考慮し,スクリューの挿入方向や長さに注意することが必要である。

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要旨:外傷後の感染のため複数回の手術を要し広範囲後足部骨髄炎に至った症例を経験した。二期的手術を計画し,1回目は距骨全摘出を含む病巣掻爬と抗菌薬入りセメント留置を行った。2回目にはイリザロフ創外固定器を併用した軟部組織温存腓骨移植による脛踵間固定を行った。本法は移植腓骨への血流温存が可能なため骨癒合や感染対策として有利であり,また手技も比較的簡便であるため有用な治療法の一つになると考えられた。

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要旨:頭部外傷を合併した両肘関節骨折が骨性関節強直となった症例を経験した。右肘関節は粉砕骨折に対し手術加療を行い,左肘関節は保存的加療を行ったが,両側ともに異所性骨化による関節強直に至った。異所性骨化発生には頭部外傷が強く関連している可能性が示唆された。両肘関節強直は日常生活動作を著しく妨げるため骨性強直に対しては骨化が成熟後,速やかに骨化部切除を行い,術後の早期可動域訓練を行うことが重要である。

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整形・災害外科
61巻3号 (2018年3月)
電子版ISSN: 印刷版ISSN:0387-4095 金原出版

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