臨床婦人科産科 26巻7号 (1972年7月)

特集 絨毛性腫瘍

はじめに 野嶽 幸雄
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 絨毛性腫瘍は妊娠を契機として発生するいわば女性と産婦人科医にとつては,まさに宿命的な疾患であり,他の一般腫瘍のカテゴリーからも逸脱して不可解の点の多いことも周知の通りであります。今日では奇胎・破奇・絨腫という一連のspectrum diseaseの概念で理解されるようになつていますが,成因からしてなお皆目不明としかいえず,日産婦学会には専門委員会として登録機関がおかれてはいても作業はなかなか軌道に乗らず,診断の実際的な基準そのものも,方法論的にまた見解の点で統一がむづかしく,したがつて適正な管理,治療法の優劣の評価は至つて困難といわざるを得ません。すべての点で子宮癌とは全く対蹠的にすつきりしないといえましよう。しかし子宮癌に較べて絨毛性腫瘍の生物学的な性格は極めて複雑で,それだけにまたapproachのangleが多面的であるともいえましよう。この点からも最近における種々の分野の研究開発と進歩に伴つて本腫瘍群に関する認識と興味はにわかに高揚されてまいりました。今回のシンポジウム**は臨床から基礎に亘つてそれぞれベテランの講師の方がたにより非常に多彩のものになりました。

奇胎娩出後の管理 松沢 真澄
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 破壊性奇胎および絨毛上皮腫の予後を良くするには,奇胎娩出後の管理を徹底させ早期発見と発生予防に努め,かつ早期治療を行なうことが必要である。教室では昭和40年来,過去のデータに基づいて奇胎娩出後の管理方式を考案し今までにたびたび発表してきたが1)2),昭和42年から骨盤動脈撮影法を導入し管理方式を一部変更した。今回は現在行なわれている管理方式について簡単に説明し,その成績について述べる。

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はじめに

 胞状奇胎の診断法としては,臨床症状および婦人科的診察に加え,HCG量検定,子宮卵管造影法,骨盤内血管造影法およびHysteroscopeなどが挙げられよう。これらのうち,X線診断法やHysteroscopeは正常妊娠では当然禁忌であり,胞状奇胎がほぼ確実になつてきた段階での最終決定診断法としてしか行なえない。

 一方,超音波診断法はX線では得られにくい軟部組織の描写に優れ,また使用法も比較的簡便で,検査前に特別の処置を必要とせず,しかも手術的侵襲を加えることなしに行なえるので,新しい生体映像法として注目されてきている。

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 日本産婦人科学会の絨毛性腫瘍の全国統計は昭和30年より始まり,長谷川敏雄委員長が長年の間この地味なかつ困難な仕事をやつておられ大きな成果をあげられた。筆者は最近までこの仕事のお手伝いをしその間に感じたことをのべてみたい。

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 絨毛性腫瘍(絨腫瘍)に対するMethotrexate (MTX)を中心とする化学療法の優れた治療成績については,すでに幾多の報告があり特に1965年に国際対癌連合(UICC)の主要事業の一部として発足した国際共同研究班の成績は厳重にcontrolされた実施計画のもとに国際的規模で行なわれた多数例の分析として注目に値し,その成果は今後の絨腫瘍の化学療法に示唆するところが少なくない。

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 UICCのTrophoblastic Neoplasia Study Groupの研究成果からいくつかの問題点が浮彫りされたが,特に注目されるのは絨毛上皮腫(以下絨腫)の治療成績が未だきわめて不満足の域に止まつていることである。したがつて絨腫の治療成績の向上について今後一層の努力を要するが,その対策の出発点としてまず問題となるのが絨腫と破壊性胞状奇胎(以下破奇)の鑑別診断であろう。正しい診断なしに適正な取り扱いは不可能であり,治療成績の向上も望み得ないからである。殊にprimarychemotherapy施行症例では病巣を温存せるまま治療し,組織学的確診の得られぬ場合が多く,それにもかかわらず絨腫・破奇では化学療法による効果が大いに異なることから,臨床的診断ならびに病巣推移や治癒判定の適格性が強く要求されるのである。第2の問題点は絨腫に対する有効な治療法の開発である。方法として種々の方途が考えられるが,現実の問題として緊急かつ重要なものの1つに化学療法の強化・改善がある。これに関して第1に着眼されるのがMethotrexate (以下MTX)とActinomycine D (以下ACT-D)の併用療法である。最近Hollandは国際協同研究班としての新治療方式として,MTXの0.6mg/kg/dayを週2回筋注し,同時にACT—Dの20mcg/kg/dayを週1回静注する投与法を30週の長きにわたり実施することを提案した。

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はじめに

 ハムスターのcheek pouchに継代移植された絨毛上皮腫(Wo-Strain)を用いて,メソトレキセート(Mtx)とダクチノマイシン(Dct)の効果を比較し,さらにそれに附随するTumorhost reactionについて述べてみたい。

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 悪性腫瘍の転移の場として肺は肝とともに重要な臓器である。全悪性腫瘍の30%が肺に転移するといわれているが,とくに絨毛上皮腫,骨肉腫が高率をもつて肺に転移することはよく知られているところである。

 一般に転移性肺腫瘍の治療法としては,肺切除術がもつとも信頼しうるものであり,原発の腫瘍が完全に処置されていて肺切除術が技術的に可能であり,しかも患者の全身状態が開胸術に堪えうるものであれば,われわれは積極的に肺切除術を行なつてきた。絨毛上皮腫を原発とする転移性肺腫瘍も決してその例外ではないが,Liら1)はじめ多くの報告2-10)にみられるようにMethotrexate (MTX),Actinomycin D (ACTD)に代表される化学療法剤の効果は今や正当に評価され,絨毛性腫瘍に対する治療法としては化学療法が基本となり,転移巣に対する外科治療もつねにこの原則の上に立つて行なわれるようになつた。

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はじめに

 細胞の分裂,増殖あるいは遺伝情報の中心的にない手とされている細胞核デオキシリボ核酸(DNA)は,またその量の変化が細胞の代謝活性の程度を示すに充分であるとされている。そこでDNA測定成績から絨毛性腫瘍,とくに絨毛上皮腫の性格についてふれてみたい。

 絨腫の発生に関して,母細胞たる絨毛細胞が異個体細胞に属することから,母児間の免疫学的立場からの移植発生が考えられ,絨腫細胞と正常絨毛細胞との間には,細胞学的な本質的差異がないという概念がある。これは少なくとも多くの癌発生が細胞の変異に基づくという概念とは異つている。とくに絨腫発生では,その前に前癌性変化ともいうべき胞状奇胎の先行をみることが多く,また破壊性奇胎の過程の介在も強く示唆されている。従つてこのような変化を含め,各種の絨毛細胞について,その核DNAを測定し,比較検討することは絨腫の発生の解明やその性格を知る上で,きわめて興味のあるところと思われる。

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I.組織適合性の問題

 妊娠を前提として発生する絨毛性腫瘍が胎児性の起原を有しており,母体にとつては一種の同種移植腫瘍と見なされているので,そのため本腫瘍には父親由来の移植抗原が含まれていることが推定される。したがつて移植免疫の面からの本腫瘍に対するアプローチは大変興味のあるところである。それではなぜ母体から見れば,同種移植腫瘍であるのに免疫学的拒絶反応が起きないのかという疑問が起こるが,この奇異な現象を説明するのにはいろいろな推論や解釈がなされている。例えばtropho—blastには強い移植抗原を含んでいないとか,あるいは逆に強い移植抗原を有していても,それがmaskingされているなどであるが,しかし最も著明なことは,妊娠中には母体血中にtrophoblast細胞が容易に遊走し,母体肺血管内に止まるという事実である。これはいわば経胎盤キメラ現象と見なされるのであり,このような妊娠中の機序はtrophoblastのような胎児性移植抗原によつて,母体側にはあらかじめある種の免疫学的寛容状態が誘発されているのではないかと考えさせられる。このことは同様に絨毛性腫瘍患者の場合にも当てはまることであり,例えば本腫瘍患者にはこれによつてさらにénhance—ment現象が招来されているのではないかという考えもある。

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はじめに

 絨毛性腫瘍を免疫学的な観点から考察する理由は,この腫瘍が一種の同種移植片(allograft)であるからである。一般に,人間は各自の有する移植抗原の組成が異なり,妊娠現象は,胎児および胎盤が父方の遺伝子を受継いでいるため遺伝学的に異なる胎児・胎盤の母体への移植(同種移植)としてとらえられる。したがつて,妊娠に続発する絨毛性腫瘍もまた,同種移植片と考えられるわけである。移植に際しては,受容者にない移植抗原を移植片が持つていると,その移植片は生着せず,拒絶されるのであるが,妊娠現象や絨毛性腫瘍疾患では,移植抗原の組成に相異があるにもかかわらず拒絶されないわけで不思議な現象というべきでもある。悪性腫瘍の治療に免疫学的な方法を用いることができるとすれば,最初に成功するのは絨毛性腫瘍であろうとしばしばいわれるのも上述のように移植抗原の存在が考えられるからである。

 腫瘍性疾患も免疫学的な立場からみていくということは,その腫瘍に対する宿主の側の反応をみていくということで,悪性腫瘍疾患では欠くことのできない大切な見方である。それにもかかわらず,実際は,方法論的に大きな困難を伴っているため実施できない。この点,上述のように抗原の存在がはつきりしている絨毛性腫瘍は免疫学的な腫瘍宿主関係を明らかにしていくうえに,よいモデルとなるであろう。

カラーグラフ 臨床家のための病理学・6

外陰部疾患・Ⅴ 滝 一郎
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 外陰部に原発する悪性腫瘍には,基底細胞癌,扁平上皮癌,バルトリン腺癌,悪性黒色腫(既述),肉腫,血管上皮腫,リンパ網内系悪性腫瘍などがある。通称の外陰癌にはバルトリン腺癌,基底細胞癌と扁平上皮癌が含まれているが前二者は稀である。

 外陰癌は婦人性器癌の3〜5%を占め,閉経後60歳以上の老婦人に多い。外陰皮膚の増殖性病変(leukoplakiaで見られることが多い)に続発することがある。大陰唇に最も多く発生するが,腟前庭,小陰唇,陰核,後陰唇連合など各所に発生する。初期に発見されることは比較的少い。

臨床メモ

性交後避妊法(続) 竹内 久弥
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 性交後避妊法については昨年2月号の本欄でも紹介した。その際スチルベストロール製剤をこの目的に用いる試みのあることに触れたが,今回はミシガン大学のL.K.Kuchera(J.A.M.A.218:562,1971)がDiet—hylstilbestrolを使用して行なつた実験の結果を紹介する。

 性成熟期婦人で性交後に避妊を希望した1,000例に対し,性交後72時間以内よりDiethylstilbestrol 25mg含有錠を1日2回,5日間服用せしめたのである。これらの婦人の性交時期と月経周期との関係は,計算上の排卵日およびその前後3日間のものが,72%,それ以外の月経周期のもの,18%,それ以外は月経不順で周期の定め難いもの,経口避妊薬中止直後,流産直後などであつた。全例について面接ないし手紙で妊娠の有無と月経発来の状態を確認したが,結局妊娠例は皆無であつた。月経発来の状態は時期,量ともに正常40%,時期は正常だが量の変化あり10%,時期が1週以内で変化11%,1週以上遅れ6%,不順3%,不明29%であつたという。また,同一例で何回もこの方法を希望したものがあり,2回のもの116例,3回65例,6回が1例であつた。副作用については皆無が45%,あるものでも軽度で,とくに頭痛に注意が払われたが大したものはなかつたという。

分娩時の外陰部血腫 橋口 精範
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 分娩に際しては,外陰部に血腫ができる場合があり,その回復まで長い日数を要するものがあることは経験されるところである。

 会陰切開をしたり,会陰裂傷のできるものに多いことから,その際の縫合には注意をはらう必要があると思う。

連載講座 麻酔の実際

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 5回にわたつて婦人科の麻酔について講座を書くよう依頼された。しかし一般的な麻酔法については麻酔学の教科書を読めば足りる。そこで婦人科医にとつて日常の臨床でしばしば問題となるところであるにもかかわらず案外よく知られていない事柄の幾つかを取りあげ,それらについて必要な実際的な麻酔科学的知識を述べてみたい。

 局所麻酔剤による全身反応は大別して2つの種類がある。1つは麻酔剤が吸収あるいは血管中に誤つて注入されたために起こる全身の中毒反応であり,もう1つは局所麻酔剤に対する個体のアレルギー反応によつて起こるアナフイラキシーショックである。局所麻酔剤を用いた麻酔,ことに脊椎麻酔や硬膜外麻酔の際に全身的な異常反応を起こすと,よく患者の特異体質とかアレルギー反応ということで片づけられることが多いが,事実はそのほとんどの例は局所麻酔剤がなんらかの原因により血中に入りこんだために起こつた単純な中毒反応かあるいは硬膜外麻酔の時に誤つて,くも膜下ブロックになつてしまつたりするような手技上の誤りによる全身反応である。

今日の産婦人科

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 4月19日から22日までの4日間,スイスのローザンヌで第3回欧州周生期医学会が開催され出席したので,編集部の依頼に応じてその印象と問題となつたテーマなどの大要を紹介したいと思う。

 プログラムに示したようにround tableの主題が4つ(周生期薬物学,帝王切開,high-risk new—bornの予後,周生期の記録監視と救急処置)あり,5〜10人ずつの演者がひとつのテーマに2〜3時間をかけて講演し質疑もかなり活発であつた。会場は約1500人収容できるところがほぼ満員で,英独仏の同時通訳をきけるイヤホーンを大半の人びとが耳にしていた。このround tableはわが国の学会のシンポジウムに相当するように運営されてる印象をうけたが,わが国の学会のように左右2面のスライドがめまぐるしく動いて,そのデーターの量を誇示する感のあることの多いのとは全く異なり,20分くらいの講演時間に対し,スライドは10〜15枚くらいが1枚ずつ示されるだけでありその説明が長いのとスライドの文字で,私のように外国語の不得手なものにもその要旨はどうやら理解できるほどきわめて親切なものであつた。

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はじめに

 子宮頸癌では尿管は癌巣に接しているので,病状の進行によつて,また治療によつて障害されるから,X線テレビを用いたDIPによつて尿管機能の障害状態を検査し,その癌病状の精診,一層安全かつ有効な治療への利用を検討した。

 検査法:DIPをX線テレビで観察する検査法,および検査のときの患者の被曝線量が小さく,悪性腫瘍患者ではとくに問題にする必要がないことは,すでに昭和46年4月の日産婦学会で発表し,また昭和46年10月,日産婦誌に掲載されているので詳しいことは省略する。

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 元来,ヒトの子宮は単胎を育てるための構造と機能しかもたず,そこに多胎を容れるときは当然多くの異常を引きおこす。そして最近の新しい診断法や治療法の発達によつても多胎に伴なう多くの問題は解決されていない。

 今回われわれは,他医より紹介されてきたときはすでに妊娠9ヵ月であつたが,超音波断層法ではじめて品胎と診断し得,二胎のう腔であつたため2児が子宮内胎児死亡に至つたと考えられる1例を経験したので,その妊娠,分娩経過の概要について報告する。

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序言

 血清学的原理を応用して,妊娠反応を行なう,いわゆる血清学的妊娠反応は今日広く普及しており,定性反応のみならず,定量反応にも実用的な価値が認められている。

 Pregnosticon All-in Testは,抗血清,感作赤血球と緩衝液が凍結乾燥の状態で1つの容器に収められており,被検尿と蒸溜水を直接容器中に滴下,振盪するだけで反応を行なうことができる。したがつて,従来のPre—gnosticonや多くの間接型妊娠反応試薬のように,別個に調整された抗血清,感作赤血球や緩衝液を操作する必要がないので,操作が著しく簡略である。感度は1.5Iu/mlである。

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はじめに

 月経時には生理的にも多少の肉体的変調をきたすが,それが病的に強度で,日常動作に差支えたり臥床を要して治療の対象となる程度のものが月経困難症と定義されている。

 一般に子宮筋腫,内膜症,子宮内膜炎などの場合にみられる器質性月経困難症と原因の明らかでない機能性月経困難症とに分類されているが,後者は真性月経困難症ともよばれ,その大多数は排卵性周期を有する若年ないし未婚婦人に発症する。しかしその機転は必ずしも明らかではなく,真に機能的なものか,また単一の疾患か否かも不明であり,一種の症候群といわざるをえない。

基本情報

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臨床婦人科産科
26巻7号 (1972年7月)
電子版ISSN:1882-1294 印刷版ISSN:0386-9865 医学書院

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