臨床婦人科産科 26巻6号 (1972年6月)

特集 新生児の救急対策

仮死の蘇生術 武田 佳彦 , 工藤 尚文
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はじめに

 新しい生命の誕生に携わる産科臨床において,もつとも頻回に産科医を困惑させる問題のひとつに新生児仮死がある。新生児仮死は直接その生命を脅かすばかりでなく,中枢神経系の障害を恒久的に残し,その個体にとつても,またそれを取り巻く社会にとつても,その存在を全く無意味とする可能性がある。

 新生児仮死は胎児娩出時における呼吸循環不全を主徴とする症候群であるが,それに先行するべき分娩中のfetal distrcssについての,あるいは,それ以前の段階としてのlatent fetal distressについての病態が明らかにされつつある。

分娩麻痺 金岡 毅 , 岡田 悦子
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I.分娩麻痺の定義

 分娩麻痺Birth Paralysisまたは産科的麻痺Obstetrical Paralysisとは出産時おこる神経麻痺であつて,狭義には上腕神経叢麻痺Brachial BirthParalysisをさし,出生直後患児の上肢,多くは一側の上肢が麻痺して動かないことによつて発見される。しかしながら広義の分娩麻痺とは上腕神経叢麻痺のみならず,橈骨神経麻痺Radial Palsy,横隔神経麻痺Diaphragmatic palsy,閉鎖神経麻痺Obturator palsy,顔面神経麻痺Facial palsy,眼球運動に関係する第Ⅲ,Ⅳ,Ⅵ神経麻痺などを含めていう。

 これらの神経麻痺はその多くはいわゆる「難産」の後に発生することが多く,最近の分娩操作の進歩,児頭骨盤不均衡の管理の向上によつて次第にその頻度が減少して来てはいるが,必ずしも「難産」と関係づけられぬ神経麻痺もある。またこれの早期発見,早期管理をめぐつて,最近流行の感がある医療事故紛争のおこるおそれもあり,日常産科医および助産婦が常に気をつけねばならない問題の一つとも考えられている。そのような意味でいかにしたら分娩麻痺を早期に発見できるが’発見した場合これをどう処置したらよいか,その救急対策を中心に述べてみたい。

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はじめに

 新生児期に発症する疾患は多様であるが,剖検例および入院例からみて多いのは,完全大血管転位,左心室形成不全,大動脈縮窄,肺動脈弁閉鎖,肺動脈弁狭窄,心室中隔欠損症,総肺静脈還流異常,ファロー四徴症,無脾症候群などである。

 これらの患者の救命,延命のためには,新生児期に診断の確立が望まれる。このためには,新生児を診る医師,看護婦,助産婦,母親の鋭い観察が必要で,もし,先天性心疾患の疑いがもたれる場合は,直ちに,小児心臓専門医に紹介されねばならない。 とくに,完全大血管転位,肺動脈閉鎖,大動脈縮窄などの救急処置を必要とする症例では,その疾患の疑い→紹介→診断→検査→治療・手術まで,24時間以内に行なわねばならないことがあり,小児心臓専門医,心臓外科医,麻酔医,看護婦,検査技師のチームが常時,救急に対処しうる状態にある組織が人口20万〜50万に1つずつ各地域にあることが望ましいと高尾は強調している。一昨年訪問したTrontoのHospital for sickchildrenでは,前日の手術予定のほかに,その当日は2〜3例の緊急手術があり,小児科医と外科医,麻酔医の緊密な連繋がとられており,実に見事なものであつた。

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I.内臓脱出症

 "臍帯ヘルニア"とも称するが,名称は統一されていない。欧米でも,"Omphalocele","Exom—phalos","Umbilical eventration","NabelschnürBruch"などと呼ばれる。近年嚢の破れた内臓脱出症(Omphalocele)と,初めから嚢の存在しないGast—roschisis (ガストロスキージス,先天性腹壁披裂)とを区別するようになり,両者は成因が別で臨床的にも一見して鑑別できるようになるとともに,この種の奇形の発生論がさらに詳細に解明されつつあり,これに伴い名称はさらに複雑化してきている。例えば,Duhamelは胎生学的研究から,①upper celosomia,②middle celosomia,③lowercelosomia④gastroschisisと分類しており,腹壁欠損部位と成因論の立場から非常にすぐれた分類であり,すぐれた名称と思うが,未だ一般に広く馴染まれていない。ここでは発生論と病型分類に詳細に立ちいることを避け,純臨床的な治療面だけを平易に解説することにする。図1〜3にみられるように,臍部を中心に腹壁欠損が存し,この部分に内臓が脱出している。

 通常は薄い膜を被つており,内容が透視できる。この膜に臍常が附着している。

急性感染症 多田 裕
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はじめに

 近年における医学の進歩,なかでも抗生物質療法により,感染症による死亡は著しく減少している。しかし新生児では,感染防禦機構が未熟であり,年長児や成人では問題にならぬ菌にも感染し重症になりやすく,いまだ死亡率も高い。このような特殊性のある新生児期の感染症の治療を有効に行なうためには,非特異的な症状の中から早期に診断し治療を加えるとともに,発症の危険のある児に適切な処置を行ない感染症を予防することが必要である。

 最近,妊娠中や分娩時に異常のあつた母親から生れた児は,High Risk Babyとして特別の養護を行ない,疾病の予防や早期治療を行なうようになつてきているが,感染症に対しても,このような取扱をする必要がある。

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はじめに

 未熟児の生存率が向上するに伴なつて,心身障害児も増すのではないかと憂慮されている1)。しかし最近の報告によれば,英国の病院で「脳障害を起こす可能性のある異常を予見し,予防するように計画された治療」を行なつた結果,出生時体重1,500g以下の児の生存率が向上しただけでなく,脳障害児の頻度も従来の報告に比べて著しく低かつたという2)

 本稿では未熟児の処置に関する最近の進歩のうち,実際の診療に役立つこと柄を取り上げ,しかも,夜間において完全な検査が困難な場合にはいかに対処するか,ということも考慮に入れて記述する。

新生児黄疸 白川 光一
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はじめに

 新生児重症黄疸が医学的にのみならず社会的にも重大な関心を惹くに至つた原因は,一にその合併症たる核黄疸(以下KI (=kernicterus)と略記する)の発生による,児を死に至らしめたり,幸いに生存してもKIの後遺症たる脳性麻痺の遺残によつてきわめて悲惨な状態を招来することにある。したがつて新生児重症黄疸の対策といえばKl発生防止策に尽きるといつても過言ではない。

 このような新生児重症黄疸重視の傾向にかんがみ近年種々の治療法が考案,提唱されつつあるとはいえ,フェノバルビタール,ACTH,グルタチン等々の薬物療法や光線療法はまずすべて予防的,姑息的あるいは補助的療法の域を脱しえないものであり,かつ一般的に有効なものほど副作用に対する検討の余地が多く残されているようである。したがつて"救急対策"の名称に値するものといえばやはり機械的にかなり一挙に蓄積ビリルビン(以下ビと略記する)を除去することができる方法として従来から定評のある交換輸血(以下ET (=exchange transfusion)と略記する)に待たざるをえない現状である。よつて本稿ではおもにETを中心に述べることとする。

カラーグラフ 臨床家のための病理学・5

外陰部疾患・Ⅳ 滝 一郎
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 外陰部に発生する嚢胞性腫瘤には,非腫瘍性,炎症性,腫瘍性のものを含めて,表皮嚢胞,毛髪嚢胞(pilonidal, cyst),脂腺嚢胞(sebaceous cyst),Fox-Fordyce病,汗腺腫の一部,汗管腫(syringoma),バルトリン腺嚢胞,同膿瘍,スキーン腺嚢胞,子宮内膜症,副乳腺嚢胞などがある。バルトリン腺嚢胞,膿瘍以外は稀である。

 表皮嚢胞と脂腺嚢胞の内壁はともに重層桶平上皮でおおわれ,内容はチーズ様である。また外観上区別し難い。主として大陰唇に発生し,多発することが多く,発育は遅く,球状で,無痛性である。大部分は0.5cm以内である。従来脂腺嚢胞(閉塞した毛嚢—脂線管に生ずるとされている)と称されたもののほとんどが表皮嚢胞と同一の組織像であり,前者は後者に属するとの説が有力である。

トピックス

妊婦とたばこ 橋口 精範
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 喫煙は肺癌ばかりでなく,循環器系の疾患に大いに関係があるのではないかと注目されてきている。

 妊婦が喫煙をつづけていると,どんな影響があるものなのだろうか。

臨床メモ

陣痛発来と胎児副腎 竹内 久弥
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 胎児の副腎が陣痛発来になんらかの関係を持つているらしいことは,すでに幾つかの動物実験結果から類推されていた。たとえばホルスタイン種の牛で劣性常染色体遺伝子の異常による過熱産がおこり,その子牛の副腎は小さく,下垂体は正常の2分の1であるという(Holmら)。また,羊を使つた実験では,下垂体を破壊された胎仔の在胎期間が異常に延長し,成長も遅れるが,ACTHをその胎仔の腹腔内に注射すると陣痛が発来することから,陣痛に対する副腎の2次的効果が推測され(Lig—ginsら),副腎剔除胎仔でやはり,有意に在胎期間の延長が見られた(Drostら)という。

 ヒトでも同様に下垂体一副腎系の機能低下が予定日超過を起こすことは,たとえば無脳児や先天性副腎発育不全の児の例で知られていることである。

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はじめに

 リンパ系をレ線学的に研究したいとの要求は種々の困難からその進歩がおくれていたが,Kinmonth J.B.1)以来直接リンパ管造影法の手技が広く用いられて飛躍的な発展を示してきた。

 それまで多くの苦心によつて研究された間接法はついに所期の目的を達することができなかつたが,リンパ節穿刺によるリンパ系造影法もリンパ管の走行が不明瞭であり,穿刺すべきリンパ節が病的に巨大となつたものが対象とされることが多く,リンパ管直接注入法と同じ直接造影法であるにもかかわらず広く用いられていない。

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 哺乳類卵の透明帯は,卵生成時期(Oogenesis)に主として卵実質と顆粒膜細胞群の酸性ムコ多糖体分泌により無構造膜として形成されるが,受精時から受精卵着床まで,卵実質を保護し,破れることはないが,子宮内膜着床直前になると,胞胚体の卵実質の伸縮運動がおこり(図1,a,b),漸次透明帯は薄くなり,節状構造を呈し最も抵抗の弱いところから破れ(図2)通常1個所であるが,その場から卵実質が脱出する(図3)。種(例えばモルモット)によつては数個所が同時に破綻してしまうこともある。

今日の産婦人科

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はじめに

 最近の細胞培養技術の進歩に伴ない,幾多の未解決の研究課題が,解明されてきた。その中でも,培養技術を導入しての染色体研究は各分野で目覚ましいものがあり,とりわけ,産婦人科領域においては,原因不明として取り扱われていたいくつかの疾病ないし異常が,次々と解明されていつた。たとえば,自然流産の原因に胎児染色体異常が大きな割合を占めていること,また,習慣性流早産患者夫婦の中には染色体異常保因者が存在していること,さらに出生時に認められる奇形児の中には染色体異常によるものが大いに認められることなどが判明して来た。しかしながらこれら異常の原因に染色体が関与していることが判明した現在でも,現に正常児を得たいという希望が切実であるその夫婦,特に染色体異常保因者にとつては,何ら問題の解決にはなつていないのが現状である。

 そこでこれを解決する一方法に,胎児染色体の出生前診断法として,羊水中の浮遊胎児細胞を培養して,それを利用して染色体を検索する方法が取られるようになつてきた1)〜7)。しかしながら,その羊水細胞培養の成功率の低いことから今なお,実用の段階に至つていないのが我が国の現況である。今回,著者は従来の方法を参考にした上で,ひとつの新しい成功率の高い方法を編み出したので,その方法と,さらに米国で諸家により広く行なわれている方法とを併わせて記してみることとする。

連載講座 麻酔の実際

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 産科麻酔は手術麻酔と異なり必ずしも必要でないだけに障害は極力避けなければならないことから偶発症に対処する万全の体制が望まれる。一般に起こり得る障害は麻酔の種類によつて異なり,吸入麻酔では吐物の誤飲,静脈麻酔での呼吸停止,腰脊麻酔による虚脱,局所麻酔の局所麻酔剤中毒などがあげられる。したがつて各麻酔の特性を理解するとともに常に不測の事態の発生を警戒しつつ細心の注意を払うことが肝要である。

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はじめに

 SF−837は私たちの病院の所在地に近い尾道市の土壌より分離された新しい抗生物質であつて,図1に示すような構造式を有する。その抗菌スペクトラムは表1に示すごとく,グラム陽性菌に対して強い抗菌力を有し,その感受性分布はJosamycin,Kitasmycin,Lincomycinのごときマクロライド系抗生物質とよく似ており,グラム陰性菌はそのほとんどが耐性を有する。またその毒性は少なく,動物実験によつても催奇形性は全く認められない1)

 私たちは明治製菓(株)よりSF−837の提供をうけ臨床的にこれを使用する経験を得たのでここにその効果を発表する。

基本情報

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臨床婦人科産科
26巻6号 (1972年6月)
電子版ISSN:1882-1294 印刷版ISSN:0386-9865 医学書院

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