特集 絨毛性腫瘍
絨毛性腫瘍の免疫学的背景
川名 尚
1
,
南条 継雄
1
,
萩野 陽一郎
2
Takashi Kawana
1
,
Tsuguo Nanjo
1
,
Yoichiro Hagino
2
1東京大学医学部産婦人科
2東大病院輸血部
pp.621-624
発行日 1972年7月10日
Published Date 1972/7/10
DOI https://doi.org/10.11477/mf.1409204642
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はじめに
絨毛性腫瘍を免疫学的な観点から考察する理由は,この腫瘍が一種の同種移植片(allograft)であるからである。一般に,人間は各自の有する移植抗原の組成が異なり,妊娠現象は,胎児および胎盤が父方の遺伝子を受継いでいるため遺伝学的に異なる胎児・胎盤の母体への移植(同種移植)としてとらえられる。したがつて,妊娠に続発する絨毛性腫瘍もまた,同種移植片と考えられるわけである。移植に際しては,受容者にない移植抗原を移植片が持つていると,その移植片は生着せず,拒絶されるのであるが,妊娠現象や絨毛性腫瘍疾患では,移植抗原の組成に相異があるにもかかわらず拒絶されないわけで不思議な現象というべきでもある。悪性腫瘍の治療に免疫学的な方法を用いることができるとすれば,最初に成功するのは絨毛性腫瘍であろうとしばしばいわれるのも上述のように移植抗原の存在が考えられるからである。
腫瘍性疾患も免疫学的な立場からみていくということは,その腫瘍に対する宿主の側の反応をみていくということで,悪性腫瘍疾患では欠くことのできない大切な見方である。それにもかかわらず,実際は,方法論的に大きな困難を伴っているため実施できない。この点,上述のように抗原の存在がはつきりしている絨毛性腫瘍は免疫学的な腫瘍宿主関係を明らかにしていくうえに,よいモデルとなるであろう。
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