特集 絨毛性腫瘍
絨毛性腫瘍の免疫療法
相馬 広明
1
,
岡本 六蔵
1
,
清川 尚
1
,
赤枝 恒雄
1
Hiroaki Soma
1
1東京医科大学産婦人科学教室
pp.615-620
発行日 1972年7月10日
Published Date 1972/7/10
DOI https://doi.org/10.11477/mf.1409204640
- 有料閲覧
- 文献概要
- 1ページ目
I.組織適合性の問題
妊娠を前提として発生する絨毛性腫瘍が胎児性の起原を有しており,母体にとつては一種の同種移植腫瘍と見なされているので,そのため本腫瘍には父親由来の移植抗原が含まれていることが推定される。したがつて移植免疫の面からの本腫瘍に対するアプローチは大変興味のあるところである。それではなぜ母体から見れば,同種移植腫瘍であるのに免疫学的拒絶反応が起きないのかという疑問が起こるが,この奇異な現象を説明するのにはいろいろな推論や解釈がなされている。例えばtropho—blastには強い移植抗原を含んでいないとか,あるいは逆に強い移植抗原を有していても,それがmaskingされているなどであるが,しかし最も著明なことは,妊娠中には母体血中にtrophoblast細胞が容易に遊走し,母体肺血管内に止まるという事実である。これはいわば経胎盤キメラ現象と見なされるのであり,このような妊娠中の機序はtrophoblastのような胎児性移植抗原によつて,母体側にはあらかじめある種の免疫学的寛容状態が誘発されているのではないかと考えさせられる。このことは同様に絨毛性腫瘍患者の場合にも当てはまることであり,例えば本腫瘍患者にはこれによつてさらにénhance—ment現象が招来されているのではないかという考えもある。
Copyright © 1972, Igaku-Shoin Ltd. All rights reserved.