臨床外科 75巻9号 (2020年9月)

特集 変貌する肝移植—適応拡大・ドナー選択・治療戦略の最先端を知る

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 1989年に本邦初の生体肝移植が行われてから30年が経過した.1999年には臓器移植法に基づく本邦初の脳死肝移植が行われ,生体・脳死ともに肝移植は日常医療として定着し,技術的にも成熟期に達している.しかし,脳死ドナー不足の問題は依然として残っており,最近では少ない脳死ドナー肝を適正に配分すべく,待機リストへのMELDの導入などのシステム改革や,より多くの脳死肝移植を実現するために分割肝移植や拡大基準ドナー(マージナルドナー)の利用などの工夫が行われている.一方,かつて成人肝移植の主たる適応疾患であったC型末期肝硬変は新規DAA(direct acting antivirals)の出現により減少するとともに,肝移植後の成績も著明に改善された.また,5-5-500基準による肝細胞癌に対する肝移植適応拡大が2019年8月から脳死肝移植に対して保険収載され,肝移植適応疾患の分布も変化しつつある.さらに,腹腔鏡下生体ドナー肝切除,抗体関連拒絶反応に対する検査・治療,かつて禁忌とされた転移性肝癌や肝門部胆管癌に対する肝移植などは,肝移植医療における新展開として注目すべき事項である.

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【ポイント】

◆本邦の生体肝移植は1989年に開始され,年々増加し2005年には566移植となったが,その後減少し近年は300台で推移している.

◆適応疾患では,肝細胞性疾患のうち,C型ウイルス性肝硬変が著明に減少し,代わってアルコール性肝硬変の増加が目立っている.

◆大人のABO血液型不適合肝移植の成績が次第に向上している.

◆生体肝ドナーの術後合併症やQOLに関する知見が集積され,さらに安全性を高める努力が行われている.

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【ポイント】

◆脳死肝移植を実施する際の移植希望者(レシピエント)選択基準が改訂され,2019年5月15日より新基準の運用が開始された.

◆本稿では,基準が変更されるに至ったこれまでの経緯,変更点について詳述したうえで,今後の脳死肝移植の課題についても述べる.

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【ポイント】

◆HCCに対する肝移植の適応基準として1996年策定のミラノ基準が現在も世界のgold standardである.

◆基準の拡大とより的確な再発予測を意図し,腫瘍径と個数に腫瘍マーカーなど生物学的悪性度を加味した基準が多数報告されている.

◆わが国の生体肝移植の適応要件はミラノ基準内,脳死肝移植はミラノもしくは5-5-500基準(5 cm・5個・AFP 500 ng/mL以下)内となっている.

◆摘出肝の病理組織所見を加味した再発危険群の予測が試みられ,術後免疫抑制療法の工夫などに役立てられている.

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【ポイント】

◆拡大基準ドナーは移植後臓器機能不全,疾患伝播のリスクが高いドナーの総称であるが,その項目は国や地域により異なる.

◆近年欧米からの報告により,拡大基準ドナーを用いていても,その他のリスクを最小限にすることで比較的良好なレシピエント成績を得ることができることが明らかになってきた.

◆本邦からの知見は少ないが,本邦独自のドナー評価基準を作成するために現在全国規模で臨床研究が進行中である.

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【ポイント】

◆生体肝移植(LDLT)のための低侵襲ドナー肝切除(MIDH)に関する国際ガイドライン会議は,2019年9月7日にソウルで開催された.

◆このガイドラインは,ドナーの安全性,ドナーケアの改善,レシピエントの最適な結果を目標としている.

◆国際MIDH専門家のグループにより,包括的な文献検索が行われ,18の臨床質問が扱われ,44の推奨事項が作成された.

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【ポイント】

◆適切な臓器移植医療を提供するためには,広く国民に移植医療に関する理解を深めてもらうとともに,医療機関(提供施設,移植施設)の体制整備を行うことが重要である.

◆そのため,厚生労働省では,国民への普及啓発,提供施設の環境整備,移植施設の負担軽減を中心とした政策を行っている.

◆また,臓器提供施設の連携体制構築事業の一環として,2020(令和2)年度より「医療機関が患者による臓器提供意思表示の有無を把握する取組」と「臓器提供が行われる可能性がある事例に関し,関係者内の早期かつ漏れのない情報共有を促す取組」を開始した.

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【ポイント】

◆2012〜2016年のわが国においてNCDに登録され日本肝移植学会のデータベースと統合可能な1,867例について,リスクモデルの構築と検証を行った.

◆肝移植症例に対して術前(C1),術中(C2),術後(C3)の各周術期において,リアルタイムに合併症発生率や手術関連死亡率の予測が可能である.

◆NCDのフィードバック機能のなかで,Risk Calculatorや肝移植実施診療科のパーフォマンスの全国比較が可能である.

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【ポイント】

◆肝移植後C型肝炎は,直接作用型抗ウイルス治療製剤(DAA)によって,大部分の症例でウイルス排除が可能になった.

◆肝移植後にはグレカプレビル+ピブレンタスビル治療またはソホスブビル+レジパスビル治療が選択される.

◆肝移植前治療の効果と安全性,ならびに移植回避の可能性については,今後の検討が必要である.

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【ポイント】

◆アルコール性肝硬変に対する肝移植では,十分な断酒期間をおいた症例において移植後成績は良好であり,再飲酒の回避と術後de novo悪性疾患の早期発見が重要と考えられる.

◆NASHに対する肝移植は食生活の欧米化に起因して増加傾向にあるが,術後のNASH再発や合併症,予後について欧米と異なる可能性もあり,今後も厳重な観察が必要である.

◆肝移植は,脳死・生体いずれにおいてもドナーの尊い意思により成立する医療であり,術後成績を鑑みながらアルコール性肝硬変・NASHそれぞれの適応に関しては今後も十分に議論される必要がある.

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【ポイント】

◆人工肝補助療法,原疾患治療,脳症の出現を予知し早期の治療介入は内科治療の三本柱である.

◆移植治療までの円滑な橋渡しに,人工肝補助療法により患者の覚醒,感染などの合併症を起こさない,移植判断の時期を1週間以内に見極め,ドナー,レシピエントへの十分なICを行うことは必須である.

◆標準的な血液浄化療法は大量の透析液と置換液を用いたon-line HDFである.

◆血漿交換は昏睡覚醒に無力であるが,血液型不適合移植の抗体除去には必須の治療である.

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【ポイント】

◆ドナーのHLAに特異的に反応する抗体がレシピエントに存在する状態をDSA(donor specific antibody)陽性と称す.

◆DSA陽性は肝移植の予後不良因子である.

◆DSA陽性肝移植症例に対するキードラッグはリツキシマブである.

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【ポイント】

◆preformed DSAもde novo DSAも肝グラフトの予後と関連する.

◆DSA陽性の無症候性T細胞性拒絶反応を特定することは,グラフト肝に炎症と線維化が進行している患者を同定することに有益である.

de novo DSAの発症リスク要因に,不十分なT細胞応答の制御は含まれる.

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【ポイント】

◆血液型不適合肝移植の成績はリツキシマブ導入後改善したが,抗体関連拒絶反応発症例の予後は不良である.

◆抗体関連拒絶反応を予防するためには,十分量のリツキシマブ脱感作療法(500 mg/body or 375 mg/m2)が必要である.

◆血液型不適合肝移植後は,定期的な胆管造影やMRIを用いた胆管像のフォローが必要である.

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【ポイント】

◆脳死分割肝移植は一つの肝臓を二つに分割し,二人のレシピエントに分配し,移植する方法である.

◆脳死分割肝移植に適したドナー・レシピエント条件を考慮し,阻血時間を短縮することが肝要である.

◆分割方法には体内分割法と体外分割法がある.

◆分割肝手術手技の習得には,肝臓の区域構造,脈管・胆管の走行を解剖学的に十分に習熟する必要がある.

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【ポイント】

◆腸管不全からなる肝不全のときには多臓器移植,もしくは肝小腸同時移植を検討する.

◆腎不全,心不全を伴う肝不全のときには肝腎同時移植,肝心同時移植を検討する.

◆多臓器移植,肝心同時移植は日本ではまだ実施することができないので今後進めていく必要がある.

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【ポイント】

◆Transplant oncologyは移植医学と腫瘍学の融合によってがんの診療と研究を発展させる概念である.

◆肝・胆道がんに対する集学的治療に肝移植を統合させることで,生命予後を大きく改善し得る.

◆日本の成熟した高難度肝胆膵外科手術と生体肝移植医療に基づき,概念実証を力強く推進することが期待される.

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【ポイント】

◆再生医療を支える最も重要な要素は,組織や臓器をつくるための「細胞」,細胞の動きを指示するシグナル因子となる「生理活性物質」,細胞生着し生理活性物質が有効に作用するための「足場」の存在である.

◆「脱細胞化」というのは,組織や臓器から細胞を破壊して洗い出し,細胞周囲環境を構成する線維性のタンパクからなる屋台骨(骨格)を残す技術である.

◆移植可能な実質臓器の再生という困難な課題を実現化するために,脱細胞化処理を施した臓器骨格を用いる方法は一つの解決策として有用である.

病院めぐり

多根総合病院外科 丹羽 英記
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 多根総合病院は京セラドーム大阪(大阪市西区)に直結した304床の病院で,大阪西部ブロックでは唯一の災害拠点病院です.1949年から地域医療を守り,昨年は創立70周年を迎えました.

 当院外科の特徴は,①救急症例が多いこと,②日帰り手術が多いことです.①については年間8,000例を超える救急搬送患者(大阪市第2位)があり,特に腹痛の患者が多く,全国に先駆け2013年に急性腹症科を立ち上げました.「腹部救急のたらい回しをなくす」ことを目的に,従来の救急部が中心の手術と一線を画し,夜間でも腹腔鏡を使った患者負担が少ない手術を提供しています.これには協力的な麻酔科の存在も大きいです.②については1998年に日帰り手術センターを開設して以来,鼠径ヘルニアや胆石症(ラパ胆)を中心に現在まで3万件を超え,全国でもトップクラスの日帰り手術件数です.患者を早く社会に復帰させることは医療費削減以上に,病院,社会の労働力確保にとって非常に価値あることだと考えます.

坂の上のラパ肝・胆・膵・9

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Point

◆右肩挙上仰臥位から体をさらに左側に傾け,肝右葉を完全に脱転し,右横隔膜窩に安定した広い作業スペースを妥協することなく確保する.これにより肝右葉の背側面をできるだけ正面視に近い角度で観察できるようにする.

◆肝右葉背側の下大静脈(IVC)右側縁上のラインは,後区域と尾状葉の境界とほぼ一致する.S7のGlisson分枝(G7)を含むすべての後区域Glisson枝はこのラインを必ず通過する(本連載第7回「後区域切除術」を参照).

◆G7は背側の肝表から見ると浅い部位を走行していることが多いので,背側の肝表から肝実質を離断して根部を露出する.G7が肝門近くで分岐して背側の肝表から深い部位を走行する場合は,Rouvière溝背側の尾状葉突起部を後区域Glisson茎から剝離し,連続してG7根部を露出する.

◆肝右葉背側のIVC右側縁上のライン(S7/尾状葉境界)から右肝静脈(RHV)本幹に向かって肝実質を離断して,RHV本幹をIVC流入部から連続して露出する.

◆G7を離断してS7/S8間のRHV本幹全長を露出したら,RHV本幹と肝表のdemarcation lineの間のintersegmental planeを離断する.

ひとやすみ・193

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 同じ施設で長らく仕事をしていると,他施設への異動話が持ち込まれることがある.その時はどう対応したらよいであろうか.私のささやかな経験を交えて対応策をお伝えする.

 現在の職場で思い通りに仕事ができ,将来の展望もあるなら,異動話は即断る.

1200字通信・147

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 今回で,「働き方改革」について3回連続になりますが,院長という立場からナーバスになっているのかもしれません.

 そんなことから,今年1月14日の医療維新—m3.comに,『兼業規制,8割の病院が「宿日直の維持困難」と回答』と題して,多くの病院で非常勤医師を頼りに運営がなされていると報じる記事が目に留まりました.この記事は,日本医師会副会長の今村聡氏が,2020年1月10日に労働政策審議会労働条件分科会で,2019年12月に実施した医師の副業・兼業と地域医療に関する緊急調査の結果(2020年1月6日時点の集計)を発表されたもので,労政審では一般職種での副業・兼業の推進に向けて複数の勤務先での勤務時間を合算することなどが検討されているとありました.

昨日の患者

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 高齢社会の進展に伴い,高齢の手術患者が増加しつつある.認知症を伴う患者家族に語った私の言葉が,想定外の進展に及び,患者家族から感謝されたエピソードを紹介する.

 80歳代後半のHさんが急性胆嚢炎となり,緊急手術を行った.術後は精神錯乱も生じ,奥さんは介護に疲れ,精神的にも極限に達した.そこで気を紛らわすために,「ご主人は現役時代,どんな仕事をやられていたのですか」と,質問した.すると,「銀行員でした」と,怪訝そうな顔をしながら答えた.引き続き「若い頃のご主人はハンサムだったでしょう」と話かけると,「今と違ってしっかりしていて,髪もふさふさで,おしゃれでした」と,微笑んだ.

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 本書の初版は2006年に出版され,13年ぶりの改訂になります.本書は日本消化器画像診断研究会で活躍されている新進気鋭の消化器内科医(花田敬士先生,植木敏晴先生,潟沼朗生先生,糸井隆夫先生)の先生方によって編集されました.

 本書は画像所見から鑑別を進めていくという初版のコンセプトを引き継ぎ,厳選された184例の胆嚢,胆管,膵疾患が掲載されています.例えば,胆嚢病変では,限局性かびまん性か,限局性なら隆起か壁肥厚か,隆起なら有茎性か亜有茎性か無茎性か,有茎性なら表面整か不整か,というように画像所見からアプローチして診断に迫っていく手法をとっています.膵疾患でも限局性病変なら充実性,嚢胞性,充実と嚢胞の混在,主膵管の狭窄,主膵管内透亮像,主膵管拡張に画像所見を分類し,鑑別を進めていきます.実際の臨床の現場でも同様のアプローチをとっているので,読者が自分で画像を読影しながら診断していくプロセスを学ぶことができると思います.

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目次

原稿募集 「臨床外科」交見室

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次号予告

あとがき 田邉 稔
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 2020年1月2日は恒例の箱根駅伝が開催される日,応援に行こうと計画していたが不覚にも寝坊,私は買ったばかりのロードバイク・ビアンキに飛び乗り,世田谷区の自宅から必死にペダルを踏んだが,駅伝ランナーにはなかなか追いつかず,横浜⇒鎌倉を経由して国道1号線を爆走中(ここまで自宅から50 km)…というのが前編のサマリー.左に海を眺めながら藤沢⇒平塚⇒小田原までくると,道路標示で前方に箱根の文字が飛び込んでくる.既に自宅から95 km走行したが,ランナー達には結局追いつかない.自転車でこれだけ走ったのは初体験,さすがに疲労が溜まってきたが,それでも「いよいよ箱根路だ!」…と気を引き締めて国道1号線の上り坂に入る…が,走ってみると意外と大したことはない.6 kmほど走行すると箱根湯本に到着.さすが俺のビアンキ,前方に芦ノ湖の道路標示,箱根なんてチョロイ!

基本情報

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臨床外科
75巻9号 (2020年9月)
電子版ISSN:1882-1278 印刷版ISSN:0386-9857 医学書院

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