看護学雑誌 65巻7号 (2001年7月)

特集 住環境と看護—ナイチンゲールを在宅に生かす

[第1章]快適性 藤井 千枝子
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住環境における看護の必要性

 わが国ではこの半世紀に,死因構造が感染症から生活習慣病に変化したが,結核など再興感染症も注意が必要となっている.平均寿命は1948年の男性55.6歳,女性59.4歳から1998年には男性77.2歳,女性84.0歳と20歳以上伸びている1).分子レベルでの解明も次々に行なわれ,遺伝子診断や遺伝子治療の臨床応用とその倫理に関する検討もなされるようになってきている.しかし,病む人々に対する普遍的な援助は,生命の消耗を最小限にして,治癒を促すことである.近年は,治すことだけでなく癒すことへの関心が高まっている.治療技術のみが進歩しても,療養環境が十分でなければ治癒に導くことはできない.

 老年人口の割合は年々上昇しており,1999年の調査では3世帯に1世帯は65歳以上の高齢者世帯である.高齢者の単独世帯も増加しており,1975年の4.4倍の約270万世帯にのぼる1).このような変化のなかでは,要介護高齢者の急増に対し介護力が逆に減少することや,高齢者と障害者の生活自立や社会参加支援のためのノーマライゼーション推進とQOL(生活の質)の向上に対する社会の対応がクローズアップされている2)

[第2章]換気と保温 藤井 千枝子
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 ナイチンゲールが『看護覚え書』で述べた換気と保温,清浄な空気は,現代でも重要である.ナイチンゲールは,この換気と保温について具体的に記している.これをまとめたのが表2である.

[第3章]住居の清潔 藤井 千枝子
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住宅の清潔

 ナイチンゲール1)は,住居の清潔として,清浄な空気,清浄な水,効率のよい排水,日光を挙げている.また不適切なドアの開閉や,汚水処理,不十分なすすぎ,不潔な寝具と埃,不潔な壁紙と床や家具などは,身体に悪影響をおよぼすことを記載している.清浄な空気については前述した.空気,水,採光,清掃については表4に示した.

[第4章]安全と安楽 藤井 千枝子
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 ナイチンゲール1)は,苦痛を除くこと,質のよい睡眠を確保すること,音に配慮することを看護の重要なこととしてあげている(表7).これらは居宅においても患者の安全と安楽につながる.

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 持続可能な社会のためには,廃棄物による環境負荷を低減する必要がある.現在の経済社会活動は,大量生産・大量消費・大量廃棄型となり,廃棄物量の増大,廃棄物の質の多様化,最終処分場の残余容量の逼迫等の問題が生じている1).看護においても,地球環境の保全を考慮してケアを行なっていく必要がある.

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看護と住環境

 住まいは近代化により変化しており,住環境と自然の一員として生きる人間の新しい住文化をどのようにつくるかはきわめて重要1)である.

 人は疾病や障害による人院や入所により,新しい環境で療養することとなり,その環境に適応しなければならない状態となる.または,住みなれた住まいであっても,身体変化により生活の不便を感じることがある.看護学生は,生活構造を理解するときに,患者が入院しているから仕方がないという発想をそのまま受けとめることがある2).人院や人所中の身体拘束具,ベッド柵,安全装置,警報システムなど3)は,患者の人権を十分配慮した療養環境とはいえないという指摘がある.拘束は,看護者の意識や環境改善によって改善できる3)と報告もあり,療養環境についての意識を高め,生活する人が快く感じるようでなければならない.

2001フロントライン 看護研究

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はじめに

 生活史(life history)研究は,おもに社会学の領域で行なわれてきた研究法で,日本では,中野卓の「口述の生活史-或る女の愛と呪いの日本近代(1977年)」1)以後,その方法論的研究も含めて盛んになってきている研究法である.

 これまでの生活史研究のなかには,看護の領域に関連するもの,たとえば,助産婦という職業を女性の自立の観点から取り上げたものがある2〜6)が,いずれも社会学者の立場から行なわれた研究で,看護学の立場から取り組んだ研究は見あたらなかった.そうしたなかで,私は中野の指導を受け生活史法を援用し,成人病患者の病気対処行動が個人の生活史のなかで体験してきた自分自身や身近な人の病気への思いからできたイメージと関係していることを明らかにしたり7),平凡なひとりの看護者から見た精神科看護史のひとこまを描き川す8)ことを試みてきた.その後,最近になって,看護学領域で生活史法を用いた研究がほかにも見られるようになってきている9,10).それらの成果と自分自身の経験を踏まえて,看護学の領域における生活史法の意義について若干の私見を述べたいと思う.

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はじめに

 呼吸,言語の発声,食物の摂取という基本的で必要欠くべからざる作業には,骨,筋肉,神経の複雑なシステムを必要とする.

 摂取した食物を嚥下する過程には,40以上の筋肉が関係するが,高齢者には,嚥下障害が比較的多く見られる.嚥下障害の原疾患には,脳卒中などの中枢性の問題に起因するもの,筋萎縮性側索硬化症などの進行性疾患によるものなどがある.また,咽頭期反射惹起性の低下,嚥下—呼吸協調性の低下,安静時の喉頭低位,唾液分泌低下,咳そう反射低下,薬物使用といった問題があげられる.脳卒中によって,嚥下機能を司る脳の中央部と神経に損傷が及ぶ可能性がある.脳卒中による損傷は,嚥下過程のさまざまな段階に影響を与え,問題を発生させる.たとえば,咀噛や食塊形成に問題がある人は,口の中に食物を保持することができない.口の奥に障害があれば,喉に到達した食塊を制御できないこともある.その場合,喉で食物が止まり,食道のかわりに喉頭に人ってしまう.嚥下中に筋肉が咽頭を締め付けなければ,食物が喉に残留することがある.食道上部括約筋を開ける機能を持つ筋肉が損傷を受けると,不完全な開きしか得られず誤嚥の危険性が高まる.

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 NA(Nurse Anaesthetist)はわが国には存在しない制度で,聞きなれない言葉です.あえて日本語に訳すならanaesthetistは麻酔医ですから,麻酔看護士となります.立場上では看護婦と医師の中間に位置し,麻酔の臨床業務を行ないます.国によってその運営の仕方はさまざまですが,いずれにせよ不足している麻酔医を支援するマンパワーの制度です.

 開発途上国における医師,医療従業者の不足は深刻であり,福祉の遅れる原因の1つになっています.不足する理由としては経済的理由による医療福祉政策の遅れ,内戦による医師,教師の減少,若い医師の先進国への頭脳流出,教育水準の低下などがあげられます.とりわけ基礎医学者,臨床部門では産婦人科医,眼科医,小児科医,救急医,麻酔科医は需要に対して絶対数が不足しています1)

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研究目的

 頸椎手術を受けた患者の中には,術後の頸部固定・臥床安静期間中に幻覚や妄想などの精神症状をきたし,安静保持が困難になる例がみられる.本研究では,患者の術前の不安内容,不安の程度,術前のコーピング様式と術後精神症状の関係を明らかにすることを目的とする.なお,本稿は第18回関東甲信越地区看護研究学会での発表内容に加筆・修正を加えたものである.

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――「21世紀は遺伝子の時代」といわれるなか,看護職はこれから遣伝に関するさまざまな問題に遭遇することと思います.先生は優生思想の分野でとくに多くの仕事をなさっていますが,まず,医療と優生思想の関係についてのお考えを聞かせてください.

市野川 優生思想が登場してくるのは19世紀の終わりから20世紀の初頭です.実は,優生思想の誕生は,医学が,細菌学の隆盛を背景として発展してきたことを受けています.細菌学の登場によってそれまで治せなかった病の原因がわかり,治療法が開発されたわけです.これにより,1880年代,近代医学はひとつの勝利を迎えました.

看護婦がホンネで語る医療事故・4

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「婦長の存在意義とは何か」

 この連載も今回で4回目となる.過去3回で取り上げたテーマは,第1回が横浜市立大学附属病院の患者取り違え事故,第2回が東京都立広尾病院の点滴ミス,第3回が事故防止マニュアル,となっている.基本的には匿名で現役の看護婦に集まってもらって意見交換会を開き,実際に自分が勤務中に経験したこと,思ったことなどを率直に語ってもらう.それをベースに記串を構成してきた.

 匿名の影に隠れて言うのは卑怯だ,という批判もあると思うが,組織の末端にいる者がより本音の部分を言いやすいようにと,あえて仮名を使った次第である.その中で多く出てきたのが“上”に対する不満の声だった.“上”とは,婦長であり看護部長であり,さらには副院長や院長,最終的には東京都や厚生労働省までもが含まれている.

ナースのためのヘルスサイコロジー講座・7

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 1970年代以降,旧来の科学の王道であったバイオ・メディカル・モデルの限界を超え,クライエントの包括的理解や介入の基礎となるバイオ・サイコ・ソーシャル・モデルが提唱され,家族療法や家族看護介入をはじめとする臨床場面に用いられるようになりました,その理論的基礎を与えたものが一般システム理論です.ここでは,適宜,家族療法への応用場面を織り込みながら,解説を加えてみましょう.

連載 図解—知っておきたい病態生理・19

脳梗塞の病態生理 西崎 統
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 米国では,1990年代の半ばから従来用いられていたHeart Attach(虚血性心疾患)と対をなすように,Brain Attachという言葉が頻繁に使われるようになりました.これは脳梗塞も心筋梗塞同様,超急性期の適切な治療が予後を改善するという認識を広くアピールするための象徴的な言葉として使われ始めたようです.とはいえ,Brain Attachは日本語に直せば脳卒中.わが先人は,既に絶妙な言葉で脳血管障害の特徴を言い表していたといってよいでしょう.

 脳卒中(脳血管障害)とは,まさに脳が卒然と邪風に中(あた)り倒れる病気.このなかには,(1)脳の血管が詰まっておこる脳梗塞,(2)脳の細い血管が破れて脳内に出血する脳出血,(3)脳を覆う軟膜とその外側のクモ膜の間を走る動脈が破れておこるクモ膜下出血,の3つが含まれています.今回はこのうち脳梗塞の病態生理について考えてみましょう.

連載 カズのカンボジア日記・11

母乳文化とエイズ 崎間 和美
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スワッ,代理授乳

 半年ぶりに2週間の休暇を取り帰省旅行をしました.その飛行機の中で隣に座ったのが若いタイ人の女性.8か月半のクリクリとしたかわいい男の子を連れていました.彼女は2年前にアメリカ人男性と結婚し,現在はハワイに在住.今回はタイへ1週間の里帰りだったそうです.

 小児科病院で働いているせいか,子どもを見るとついついちょっかいを出してしまう.そのクリクリボーイもお母さんと私の間を行ったり来たりして,いつのまにかノリノリになっていました.新聞を読んでいた私の指をつかんで口へ持っていき,ベロベロ,そして,ときどきカミカミ.じっくりと味わいニッコリと笑う。噛み付きたくなるほどかわいくて,私もされるがままに指を提供していましたが,ふと考えると彼は今,口唇期の真っただ中.“私の指がどう反応することが彼に良い影響を及ぼすのかしら?”などとつまらないことを考えてしまいました.

連載 少女の口音・4

ない 草野 光恵
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会いたいけど会えない話したいけど話せない触りたいけど触れなれないない、ない、ない…ばっかり

こんにちは患者会です

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活動の特徴

 当サイトは一般的な医療系Webサイトに見られるような単なる医療情報の発信ではなく,DM(高血糖症)医療の本来の主役である患者の生の声を汲み上げることを主眼において運営されています.患者本人だけでなく,その家族や医療関係者も含む4000人以上の声をできるだけそのままの形で掲載することを特徴としています.それによって患者の方には自分自身がDM医療の主役であることを自覚してもらうととともに,家族や医療関係者に対しては患者のサポート役としての立場への気付きを促し,DMを取り巻く医療環境の全体的な改善を目指しています.

 また,DMは病態とその精神的苦痛が必ずしも比例しないことや,同様に努力と結果(予後)もやはり必ずしも比例しないこと,それにもかかわらずQOLを改善するには日々努力するしかないことを認識してもらうことを,ここでの基本的なポリシーとして位置づけています.そしてDMに対する差別や偏見を無くす啓蒙活動を推進するとともに,自らがDMであることを当たり前のようにオープンにできる,そんな社会の実現を目指しています.

ミドルナースの大学院生活ウォッチング・16

大学院修了 迫田 綾子
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50代突入を機に退職して大学院で学ぶ迫田さんがナイスミドルの眼で近頃の大学(院)生活のあれこれを報告します.

データのちょっとナナメな読み方・6

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 経験を積んだ看護要員は,どのような棟で看護しているのであろろうか.我々の調査した615病棟について,病棟種別に看護要員の経験年数別割合をみてみた(データファイル参照).重心,筋ジス,結核,精神などの長期療養型の病棟は経験年数20年以上のベテランの占める割合が多く,集中治療病棟,NICU,緩和ケアは経験年数の少ない看護要員の割合が多い.

 集中治療やNICUなどの診療介助が多い病棟や,緩和ケアのようにいかにもケアが難しそうな病棟に経験年数の少ない看護要員が多い.逆に,日々の変化が少ないであろう病棟にべテランが多い.「逆なのでは?」と思って管理者クラスの看護婦に聞いてみた.すると,集中治療病棟等には医師が常駐しているからベテランである必要がないとの答えが返ってきた.療養病棟では患者が変化した時に,医師が来るまでの間看護婦が対処しなければならないということのようである.

いい本見つけた!

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「健康信仰」を解体する一冊

 健康,今でこそだれもがその大切さとともに,知っているはずの言葉だと思います.

 でも,普段からその大切さを知って,朝夕の散歩とか体操,もっと積極的にエアロビクスやジムに通うことを心がけている人以外は,白分の体に異変が感じられない限りは,あまり意識しないで済ましているでしょう.

基本情報

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看護学雑誌
65巻7号 (2001年7月)
電子版ISSN:1345-2746 印刷版ISSN:0386-9830 医学書院

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