看護学雑誌 19巻4号 (1956年4月)

特集 乳児の哺育と看護

〔Ⅰ〕健康児

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まえがき

 はじめに,健康な乳児の成長と発育という意味について考えてみましよう。

 まず乳児の定義ですが,つぎの小児期の分類で分るように(Stuart博士による)厳密には生後1ヵ月から1年までの小児を呼ぶのですが,その前後にはつきりした境界があるわけではありませんから,一応,生後約1年までの小児と考えてよいでしよう。

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I.乳児の栄養

 小児にとつては栄養の問題が特に大切であります。例えば戦争前から既に小児には栄養失調症があつた。当時成人にはその様なことはなかつたのです。栄養問題は育児のみならず,小児の看護治療には切離すことが出来ない問題であります。その栄養には,病気になつた子供の栄養とそれから健康児の栄養とが考えられなければならない訳です。健康児の栄養も亦日常小児を取扱うものは知つておく必要があります。更に又少し異常のある子供の栄養が殊に大事だと思いますので,私は特に力を入れて述べたいのは異常のある,即ち充分栄養効果の上がらないような子供に対する栄養のことです。或いは何かしらん食餌摂取によつて消化器なんかが影響を受けやすい。例えば吐いたり,下痢を続けたりするような子供の栄養について,或いはその他皮膚疾患例えば,湿疹の出来ているそういうものの乳児の栄養というものについて自分の考えを述べてみたいと思います。

 熱所要量という問題:これは昔から言われている通り別に変ることもありませんで,乳児時代は体重1瓩当り110カロリーであるし,それから1年から3年位迄は90〜100カロリー,4年〜6年は80〜90カロリーというように段々と体重1キロ当りの所要量に減つて行く。そのカロリーを構成する食物の種類の中で,蛋白質の重要性ということは勿論皆が知つている。殊に成長期の乳幼児に於いては動物性の蛋白質が重要である。

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はじめに

 小供をすこやかに,丈夫に育てるためには,小供に対する正しい医学常識をもつことが必要であると同様に,小供の心を正しく育ててゆくためには小供の心についての正しい知識を持たなければなりません。そうしてこれを正しい愛情を以て裏打ちしてゆくことが必要であります。このことは母親はもちろん,保育にたずさわる人々の当然心がけておくべきことであります。

 従来の看護婦或は保健婦諸孃に対する医学教育は,身体面を重んずるあまり,精神の面を稍々ないがしろにしたきらいがないでもありません。一人の頑是ない赤ちやんにとりましても精神と身体との働きは密接不離な関係にあります。肉体の故障は容易に精神に影響しますし,又心の不満は肉体を害うものであります。“赤ちやん返り”という現象がよく見られますが,これは身体の障害によつて精神発育が遅れることを云うのでありますし,ホスピタリスムス(Hospitalismus)というのは施設に收容されている小供が身体発育の遅れると共に精神発育の面にも欠陥が生ずることであります。これらの事実は肉体と精神の不離なことを示すよい実例であります。従つて,この両面から小供を周到に見守り,保育してゆくことが大切であります。

〔Ⅱ〕異常児

乳児の異常の発見 今村 栄一
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I.異常の発見

 早期発見,早期治療はすべての病気に必要なことであるが,小児ではとくに必要である。小児,ことに乳児は抵抗力が弱く,疾病の経過が速やかである。変化や症状の現れを速やかに正しくつかまえ,いわゆる「手おくれ」にならないようにしなげればならない。

 ことに入院している患児では,病状の変化がおこりやすく,また小児の看護にあたるものは,母親に代つてすべてを委任されているのであつて,患児の異常を早く発見することは看護上重要なことがらである。親がついていたならば……と言われるようなことがあつてはならない。素人では把握しにくい異常を正しく発見するには,すぐれた看護婦の能力を必要とするものである。

未熟児 馬場 一雄
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 我が国に於ける未熟児の出生は,全出生の9%と推定される(斎藤潔,船川幡夫:日本小児科学会誌59:664,1955)が,先天性弱質及び早産による新生児死亡は,全新生児死亡の56%に及んで居り,(斎藤潔:日本小児科全書第IV編53頁.1954.)新生児死亡を減少させる為には,未熟児の保育に留意すべきものと考えられる。

 我々は,日常,相当多数の未熟児を保育して居るので,自家の経験に基き,未熟児を保育するにあたつて,特に意を用うべき諸点を概説したいと思う。

乳児期の主な疾患 藤井 良知
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はしがき

 乳児期の主な疾病について一々説明をしていたのではとても紙数も足りないし,又興味も少いことであると思う。

 乳児の疾病の全般については多数出版されている成書を参照して戴きたい。

発育不全 小林 提樹
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I.まえがき

 発育不全という言葉は大変漠然としていて,むしろこれは通俗語と考えられます。その意味は,勿論発育がうまくいかないということですが,更に発育とは伸びて行くことですので,結局伸び方がうまく行かないことと解釈されましよう。これによく似た言葉に発育異常という言葉があります。これは発育が正常でないもの,即ち良すぎるものも,悪すぎるものも含まれますので,発育不全はその中の一部の悪すぎる方だけと考えられます。

 発育が悪いという中にも,発育の軌道上にはあるがその程度の劣つている場合と軌道からはずれている場合とが考えられます。前者は未熟という言葉が丁度あてはまりますが,又発育不全もあてはまり,後者は低劣な異常ということになりますが,しかしその大部分は発育不全の中にいれてもよいでありましよう。

口絵

日赤乳児院を訪ねて
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 ここ日赤乳児院(東京都渋谷区宮代町一)にはいま56名の乳幼児達が,暖い看護婦さんの手で健やかに育てられている。

 昭和23年7月に開設されてから今日まで,捨児や虚弱児その他の不遇な満2才までの乳幼児400名近くがここに入院している。退院していく乳幼児達は親元へ引取られるのが何といつても一番多いが,養護施設へ送られる数も決して少くはない。

原子力利用より先のもの
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「おばさん,寒いのに大変ね」

 「ええ,でも仕方ありませんよ。子供にしくじりましてね」

私の病院

国立賀茂療養所 植田 とみ子
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 私の病院“国立賀茂療養所”を紹介して下さつた植田さんは,この療養所動務の看護婦さんです。

 水清い黒瀬川を望み,山を背負つたこの療養所に入院した患者さんは病気の恢復も早いように思われます。

随筆

看護婦さん 吉行 淳之介
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 著者は一昨年(29年)作品“驟雨”が芥川賞を受け,第三の新人として意欲的な活躍をしている作家。

 新興芸術派の作家吉行エイスケ氏の令息,代表作には“原色の街”“ある脱出”“祭礼の日”“ばら”がある。28年から29年にかけて約1年間肺結核で清瀬病院に入院されたが,現在は恢復され痩せてはいらつしやるが,大変お元気の様子。

学院だより

群馬大学附属高等看護学校
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 校歌に唱われて居ります様に本校は上毛の国群馬県の県庁の所在地前橋の北郊にございます。赤城,棒名,妙義の上毛三山の美しい山々に囲まれた大利根の流れに近い風光明美の地に昭和24年群馬大学医学部の附属として誕生いたしました。本年で第3回の卒業生を送り出そうとして居ります。

 校舎と寮が手ぜまなので1クラス30名と云う現在でございます。

講座

日本の医療(1) 舘林 宣夫
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I.まえがき

 健康保険法の改正や新医療費体系が発表せられたのをきつかけに,医療問題が大きくとり上げられるようになつた。医療関係の法律が国会の重要法案としてとり扱われたり新聞のトップ記事となつたりしたことは今迄にかつてなかつたことである。

 それだけに医療の重要性が世の中から認められてきたと云つてもよいと思う。昔は医療は医師と病人だけの世界の問題であつて,社会問題となつたことはなかつた。貧しい入と富める人との間の調節は医師が自分の出来る範囲でやつていたに過ぎなかつた。あたかも工業に対する家内工業であるかのようにさゝやかなものであつた。

大量皮下注射を科学する 永井 敏枝
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 治療介補という看護業務の中で各科共に比較的多い大量皮下注射という治療技術について老えてみようと思います。元来介助ということはその原理を知らなくても,何故そのような処置をするのかとも知らなくても,たゞ命じられた事を命じられた通りにすればそれで立派な介補であるかのように思われ,又看護婦自らもそれでよしとしていたといううらみはなかつたでしようか。私達は少くとも科学的な看護をしたいと願い又そうであると自覚するならば,その原理を充分理解し,納得の上での介補でありたいと思います。そうすればその目的の遂行がより完全に,より速く行われるでしようことは勿論のこと,更に患者さんには苦痛を最小限にとゞめ,自らは能率的な労作をすることができると思います。

 大量皮下注射(hypodermoclysis)とは皮下組織(皮膚と筋肉層の筋鞘との間)内に多量の藥液を注入して局所の毛細管を通じて吸入させる方法をいうのであります。

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 こゝ数年来,外科的に治療される胃潰瘍の患者が甚しく増大してきた。この理由は極めて簡単で,胃潰瘍の手術成績が良好であるからという一語につきる。しかし手術成績が優秀であるからといつて,たゞ手術だけが独立して云々されるべきでなく,手術前後の処置の適否が,手術の成績に大きな影響を及ぼす。胃癌の手術は病変の進行状態いかんに応じて部分的胃切除術,胃全剔除術,胃腸吻合術など色々の術式が試みられるが,胃・十二指腸潰瘍の場合には,ほとんど一様に部分的胃切除術が行われるから,手術そのものよりも術前後処置のいかんが手術成績に関係し,手術死さえなければ手術によつて病気は治癒する。従つて看護を担当する側の責任はそれだけ比重が重くなつている。

 以下,わたくしたちの教室で行われている胃潰瘍手術の前後処置を主として述べるが,いうまでもなく,手術,開腹術,胃切除術の全般に通じる処置がその根本をなしており,胃潰瘍手術のための時別な処置というものは非常に少ない。

胃潰瘍手術患者の看護 佐藤 彌満
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まえがき

 胃潰瘍の手術をするために外科へ入院する患者は,内科的療法を受けた既往があるか,或いは長年の胃症状に悩んでいて,結局,外科的治療をすゝめられた場合が大部分であるので,胃の手術をすることに対して多大の不安をもつて入院してくるものである。その上胃潰瘍患者は性格的にも神経質な人が多いので,なおさら不安の念を増すことになる。この人達の苦痛や恐怖をすこしでもなくし,安心して手術を受ける様に医師の介助をする心構えが,看護の第一歩であり,さらに術前,術中,術後を通じて細心の注意を払つて看護に万全を期し,いろいろな技術に習熟して患者の信頼を得るように努めなげればならない。胃潰瘍患者のなかには,このように比較的慢性の経過をとつて入院してくる人もいれば,胃出血や胃穿孔をおこして外来に急患として来院した全身状態の重篤な患者もあつてこのような場合には患者は勿論,家族の者の精神的動揺も強いので,一層充分の注意を払つて胃潰瘍手術の安全なことを充分説明してその不安を除いてやらなければならぬ。こういうような点を私達看護婦は先ず第一に考慮に入れて,医療と相俟つて手術経過の安全と,その向上を図つているが,以下,私達の行つている看護の要領を中心にすこしのべてみよう。

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はじめに

 肺結核症の患者は他の疾病の患者とちがつて療養期間は年を単位として考えなければならない。それは肺結咳が非常に治りにくい病気であり,且つしばしば再発するからである。化学療法や外科療法の発達した今日でさえ,「君の肺結核は完全に治つたのだ」と患者に言いきれる医師がいるであろうか。それ程肺結核の予後を判定することはむつかしいのである。

 結核患者の長い療養生活はその人にとつては人生である。療養所の患者の生活は治療の時間を除けば社会での生活と同じである。患者と医師と看護婦の有機的なつながりが長くつづくわけである。然し医師は1人で30人から50人位の患者を受持つていて,毎日同一患者に接することは出来ない。看護婦は毎日,少くとも3回の検温,検脈のため顔を合せなければならない。丁度家庭でいうと父母と子供のような関係にある。父親は毎日勤めに出て一日中顔を合せないこともあるが,母親は一日中子供に接して,小言をいいながらも心から相談にのれる存在である。これと同じように患者は看護婦とは,よいにつけ,わるいにつけ口をきくことが多い。母親として病気の事について話したり,療養上の注意や指導を与えることが一番多いわけで,看護婦の一言半句は患者の療養態度に,ひいては治療成績に重大な関係をもつてくるものである。肺結核の治療に新しい治療法が一般化した今日では新しい療養心得と心構えとが生れてくるのは当然である。看護婦諸君も新しい化学療法や外科療法に対する一般的な知識を修得し,これについて患者への指導を行えば肺結核療法をより効果的にすることが出来る。

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I.まえがき

 肺結核に対する手術的療法としては肺切除術,肺葉切除術,肺区域切除術,胸廓成形術,肺縫縮術,空洞切開術,横隔膜神経麻痺術等種々あるが現在その主流をなしているものは何といつても肺切除術と胸廓成形術である。

 これらの手術が普及されると共に手術の介補をし,又直接看護の任に当る看護婦がこれに対する広い知識と深い経験をもつことが望ましいわけである。多くの看護学教科書には手術についての必要な説明があり,又一般的に看護の仕方が書かれてあるが,特に肺結核に対する手術に関しての介補であるとか,看護について記載されているものが乏しいと考えられるので,こゝに私達の療養所に於ける外科病室と手術室に勤務する看護婦諸姉のために一文を草したので発表したい。もとより私は看護の経験があるわけではないし,又こゝに述べることが絶対的のものであるとは考えないが,手術をうけた肺結核患者の看護に当る皆様にとつて少しでも参考になれば私の望はこれに過ぎるものはない。

座談会

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 本社側 皆さん,おいそがしいところをよくおいで下さいました。今日は,いつも愛読していただいています看護学雑誌の読者の方々のなかから,おいでねがつた貴女方と,編集部側とで一つテーブルを囲んで,いろいろお話をうかがわせていただくことにしました。

 幸い,看護学雑誌も,皆様の強い御支持により,創刊以来10年目を迎え内容,外観ともに長足の進歩と充実を見せてきていますことは,まことに感謝の外ありません。

教養講座

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 今回は,広くいけばなを含めた日本の伝統芸術と呼ばれるものの在り方について考えてみたいと思います。

 というのは,今日の私達の生活の中に於けるいけばなと,過去の私達の祖先の生活の中に於けるいけばなとは,非常な違いがあるということを明かにしておきたいからです。

時の動き

もう一度読みなおしてみよう M
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 “日本国民は,正義と秩序を基調とする国際平和を誠実に希求し,国権の発動たる戦爭と武力による威嚇又は武力の行使は,国際紛爭を解決する手段としては,永久にこれを放棄する。前項の目的を達するため,陸海空軍その他の戦力は,これを保事しない。国の交戦権は,これを認めない”

 以上の文章は皆さんも御存知の憲法第九条ですが,どうしてこのようなことをこゝで取り上げたかと申しますと,年が明けてから,いよいよ憲法改正の論議がやかましくなつて来たからで,今日は憲法改正のよしあしは別として,この問題がどのように動いているか,そしてどのようになってゆくかなどについて考えてみたいと思います。

症例研究

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はじめに

 理学的療法は藥物療法や外科的療法と共に三大治療法の一つであつて,他の二法に比し兎もすれば簡単に考えられ勝ちであるが,実施時の注意如何に依つては,疾病の軽快・治癒に大きな影響を及ぼすものである。今回はその中の一部門をなす水治療法の中の“罨法”を取り上げ,日常吾々の病院に於て行つている,温泉療法の中の鉱泥てん絡療法を,中心として話を進めて見たいと思う。罨法に就いては昨年1月号の看護学雑誌に記載されているので,簡単に述べる。

読者文芸欄

短歌,他 谷 鼎
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冬の陽を受けて明るき昼厨かく

潔かれと白菜きざむ

——

金歯と盲腸 杉村 栄
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 町の高台に保健所がありました。

 陽がすつかり沈んで夕闇がせまつてくると,行儀よく二列に並んだ十八程の窓の灯が,一つ消え,二つ消え,6時になると左端の小窓のみが輝いています。近在の人々で賑う保健所も夜になると,ひつそりかんと静まりかえつてしまうのです。どんなに病人が苦しかろうと時間がくると門が閉ざされてしまいます。

附録

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A

(その1—昭和30年8月7目午前9時30分〜午前12時)

B

(その2—昭和30年8月7日午後1時〜午後3時30分)

基本情報

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看護学雑誌
19巻4号 (1956年4月)
電子版ISSN:1345-2746 印刷版ISSN:0386-9830 医学書院

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