総合リハビリテーション 8巻8号 (1980年8月)

特集 頸椎の異常とリハビリテーション

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 Ⅰ.後縦靱帯骨化症とは

 後縦靱帯骨化症(Ossification of the Posterior Longitudinal Ligament,OPLL)は比較的近年その存在が知られるようになった疾患であるが,この疾患においては,後縦靱帯が骨化し,非常に大きな骨塊になるまで成長し,その骨塊が脊柱管を占拠し時には脊髄を圧迫し対麻痺や四肢麻痺を起こすに至ることもある疾患である.

頸椎と頸肩腕症候群 石田 肇
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はじめに

 腰痛と共に日常しばしば遭遇するくび,かた,うでの疼痛状態に対し頸肩腕症候群と呼ぶことが多いが,その定義に関し諸説があり混乱を来たすことが多い.整形外科的には本症は頸椎柱の解剖学的特質に関連し,その病態像として自律神経系の関与や脈管系の関与などが考えられる.

 ひろく頸肩腕の連鎖的疼痛状態に加うるに後頭部,頂部痛,耳鳴,めまい,咽頭,喉頭痛,眼精疲労あるいは胸部絞扼感,狭心症様のいたみ,更にRaynaud症候群を伴い多彩な病像を呈する.

 本症は,整形外科,脳神経外科,精神科,耳鼻科,眼科などの境界領域に属する疾患であるが,頸椎柱の解剖学的特殊性に加うるに,退行変性が基盤となり,何等かの意味で外傷が加わって発症する症候群と考えられる.

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はじめに

 Down症候群は,1866年,Downが白痴の人種的分類を試みたことによって独立疾患として広く認められるようになり,さらに1959年,Lejeuneらによって人類最初の染色体異常症であることが確認された.その後,本症候群に関する種種の知見が報告されて来たが,1961年にSpitzerら1)が本症患児の上位頸椎,とくに環・軸椎間の偏位,すなわち脱臼あるいは亜脱臼が比較的しばしばみられることを報告して以来,Tishlerら2)(1965),Martelら3)(1966),Greenberg4)(1968),Sherkら5)(1969),津田ら6)(1977),Semineら7)(1978)によって環・軸椎間の不安定性および形態異常に関する報告が相次いで行われて来た.

 一方,このような頸椎異常が存在するにもかかわらず,脊髄麻痺にまで進展する例は稀で,Dzenitis8)(1966)によって13歳,女子例が最初に報告されて以来,現在までに自験例3例を加えても内外の文献上の報告例は20例にも達していない.

 そこで,本稿では本症候群における頸椎,とくに環・軸椎の変化について自験例を中心に述べるとともに,これと環・軸椎間の不安定性との関連について考案し,さらに本症患児のリハビリテーションにおける問題点についても述べてみたい.

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 いとぐち

 「脊椎のうしろには脊髄がある」とは,わが国の脊椎・脊髄外科の大先達であり,著者の恩師に当る岩原寅猪名誉教授の銘言である.解剖学的には至極当り前のことをいい表わしているに過ぎないが,反面一歩誤まれば取りかえしのつかない悲惨な結果を招く脊椎手術の怖しさを教える金言,警句でもある.

 麻酔,輸液などの全身管理学の進歩,骨セメント,ハリントン器具,halo装置などの内・外固定法の発達,さらにはair drill,電気メス,照明装置や手術用顕微鏡などの手術器具の開発によって,従来は手術不能であった疾患も最近では可能となり,その上それらの治療成績も飛躍的に向上している.

 このようにしてみる時,以前のように患者がむやみに「背骨の手術はこわい」として避けることは将に愚ろかではあるが,一方脊椎外科医にとっては脊椎,中でも頸椎の手術は細心,最大の注意を払っても払いすぎることのない手術であることも確かである.

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はじめに

 頸部はその中心にある頸椎をみても,人体の中で最も可動域が広く,構築的に不安定なところである.また,その周辺部も,解剖学的あるいは生理学的にも弱点を有している.

 そのため,頸部,肩胛帯,上肢などに疼痛,筋緊張亢進,知覚障害など多彩な愁訴にて来院する患者は多い.また,頸部に障害を持つ患者の中には後頭部交感神経症候群(Barre-Lieou Syndrome)やレイノー症候群(Raynoud Syndrome)等の血管運動症候群を合併したり,心理的にも問題を有することなどにより,治療にあたり苦労することはしばしば経験するところである1~4)

 その治療法も多くのものがあるが,一般に広く行われている保存的治療は,消炎鎮痛剤,筋弛緩剤,血行促進剤などの薬物療法,各種温熱療法,頸椎牽引などの物理療法,頸椎固定用カラー装着,などである.その他,多くの治療法があるが,頸部の障害も,他の障害と同様に,治療を行うに際しては,整形外科的検査,神経学的検査ならびにリハビリテーション医学的評価は重要であり,これらから得た情報を基に,損傷の程度,その経過などにより,治療法を適宜選択しなければならない.

 これらの保存的治療法の中で,適応があれば積極的にとり入れるべきものに,運動療法がある.この目的は,筋弛緩,血行改善,筋力増強ならびに筋耐久性の増強などが主なものである.これは頸肩腕症候群,胸郭出口症候群,頸部捻挫(頭部頸部症候群)などを主な対象として多くの方法が報告され,比較的陳旧期にある頸部障害の治療の一つとして広く行われるようになってきた.

 しかし,この運動療法を経験した患者の評価は,一般に,必ずしも高いとはいえない.そのため,北九州市外電話局に勤務する女子電話交換手のうち,頸部痛を中心とした頸肩腕症候群様の愁訴を有する者52名を主な対象として,昭和49年より,運動療法を中心に検討を加え,一応の成績を得たので,現在までに調査し得たもののうち,筋弛緩,血行改善,筋力に焦点をしぼり,その有効性,手技による効果の差などを概説し,若干の考察を加えることとする.

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 日本は欧米諸国に比較すると老齢人口の比率はまだ高い方ではないが,人口の老齢化は急速に進んでおり,特に80歳以上の人口の増加が著しい.

 老人はその健康状態や身体障害の程度によって健康保持期,機能障害期,臥床期,重症期に区分出来るが,80歳以上人口の増加によって機能障害期,臥床期の人びとが増加し,これ等の人びとに対する保健福祉の対策は緊急を要する課題となっている.

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はじめに

 慢性関節リウマチ(RA)においては,はじめは関節痛のために関節運動は自然に制限され,病変の進展と共に関節の器質的変化が加わって,しだいに関節拘縮を生じてくる.膝関節に着目すると,この関節は荷重関節であり,運動量も多いためにRAの好発罹患関節の1つであり,これが機能障害を生じた場合の日常生活に及ぼす影響は大きいものがある.理学的療法にて機能回復を計る場合,疼痛のために患者は十分な機能訓練が出来ず,変形に対しても変形徒手矯正を十分に行うことが出来ない.患者に過度な苦痛を与えることなく,機能回復を計るには,治療中に生ずる疼痛を軽減することが,好ましいばかりか治療目的を達成する上でも必要である.

 延永,山内ら1)は極低温運動療法によるRA膝の機能改善を報告し,めざましい日常生活動作や関節可動域の改善を得たとしている.低温下の理学療法の有効な理由として,局所の冷凍麻酔効果により運動時の関節痛をやわらげ,ついで2次的な血管拡張に伴う温度上昇により温熱効果を生ずることが挙げられている.我々は,日常の手術に利用されており,すでに確立した手技である硬膜外麻酔を利用して関節を痛覚鈍麻の状態におき,かつ麻酔領域の血管拡張に伴う温度上昇を温熱療法として利用しつつ,リウマチ膝関節の運動療法を試みてその有効性と適応について検討した.

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はじめに

 下肢先天奇形児に対するリハビリテーション(以下リハビリと略す)は,小児が常に「成長」していくため,成人における場合とは異なる特殊性を持っている.

 すなわち,主なものとして,1)奇形肢の将来の発育と機能を予測しがたいまま,「奇形肢の切離断」を余儀なくされる場合が多いこと.2)患者が心身共に健全に成長するためには,医師・理学療法士,義肢装具士は勿論,家族,教師,臨床心理士も含めたチームによるリハビリプログラムが必要となる事などである.

 我々は比較的稀な左脛骨完全欠損を含む両下肢形成不全児に,左膝関節離断術と術後早期の義肢装着を行い,また右下肢の奇形に対しては特殊な下肢装具を作成する事により,リハビリが円滑に行われた症例を経験したので,若干の考察を加えて報告する.

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はじめに

 わが国においてサリドマイド胎芽症が発生したのは,1958年から1962年までの約5年間であり,現在までのその認定障害者数は,306名となっている.このthalidomide embryopathyの全症例のうち,両側無肢症を含む最重症型上肢障害群は10%存在すると報告されている.

 西ドイツでは,このサリドマイド児のことを,その薬剤の名前より,コンターガン児(Contergen Kinder)と一般に呼んでいる.西ドイツの発生率は,わが国の約8倍と非常に高く,その対策は1962年より開始され,特定の病院には,1963年にサリドマイド児特別病棟が設けられその治療が開始された.西ドイツでは,障害児の学校における対策として1967年に特別学級が設けられた.義務教育としての学校生活は,1975年より卒業が始まり,1980年までには最終学級が卒業しようとしている.その発育経過は,わが国の場合と時期をほぼ同じくしている.

 これらの障害児は,現在成人にいたり,社会人としての対応を配慮したリハビリテーションの必要性が生じてきている.

 さて,昭和50年以来,科学技術庁の公的援助のもとに,東京大学工学部精密機械工学科舟久保研究室が主体となり,開発を進めてきたミニコンピューター制御全腕電子義手のフィールドテストに際し,我々は義手コントロールフィードバック系の樹立を目的として,以下の能動義手を工夫し装着訓練を実施した.この能動義手は,両側肩甲骨の運動を利用し,義手肘関節の屈伸,前腕の回旋,手部の開閉をコントロールするものである.この義手を,食事動作,和文電動タイプライター操作,自転車乗り動作などに使用した装着テストの結果,いくつかの利点を発見し,効果的であったことを認めた.ここに工夫せる能動義手を中心に,その実際および装着訓練成果の概要を紹介する.

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はじめに

 近年,脳性麻痺の早期治療の成果が上るとともに,その成果を精神遅滞に伴なう運動発達遅滞児にも応用しようという試みが開始されてきているが3),精神遅滞(以下MRと略す)に対するリハビリテーション医学的な検討は未だ充分ではない.

 本研究の目的は第1に,MRの一群に存在する筋緊張低下(以下Hypotoniaと称す)が,運動発達並びに知的発達にどの程度影響を与えているのか明らかにすること,第2には,運動発達を促進する場合,常に知的発達もパラレルに動き得るかどうか,例外はないかどうか明らかにすることにある.

 この度,MRの理学療法(以下PTと略す)施行例の発達動態を検討し,上記及びその周辺の問題につき若干の知見を得たので報告したい.

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はじめに

 脳血管障害の中で虚血性脳病変の占める割合は一般に70%程度といわれている.本邦での年間の脳血管障害罹患患者数が60~70万人であることを考え合わせると,本邦では年間40~50万人前後の虚血性脳病変患者が新たに発生することになる.これは相当な数であり,これを適確に診断・冶療し,再発作を防止し,また予後を良くすることができるなら大きな福音となるであろう.

 この虚血性脳病変の診断においてもComputed tomography(CT)はparenchymographyとしての威力を遺憾なく発揮している.以下,脳梗塞のCT像について述べる.

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 第17回日本リハビリテーション医学会特別講演「リウマチ患者の心理・社会的ケアー」の演者Pirkko Kiviniemi先生はフィンランドの寒村ヘイノラにあるリウマチ財団病院でリハビリテーション・サイコロジストとして心理サービス,患者教育,職業リハビリテーションのカウンセリングと心理療法を担当している.1930年生れの女性でPh.D.の学位を持つ研究者として古くから文献上その名前を知っていたが,ご自身も慢性関節リウマチに長期間悩まされ,低くみても3級に相当する障害者であることを知ったときの驚きは今でも忘れられない.これまでの立派な業績が患者としての心に冷静な科学者の眼がついて挙げられたものと納得した次第である.

 尊敬するKiviniemi先生の来日を機に,日本のリウマチ性疾患リハビリテーションに新風が吹きこまれたものと信じている.(特別講演中のDr. Pirkko Kiviniemi)

一頁講座 リハビリテーションと法律・8

社会福祉事業 小林 迪夫
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 社会福祉事業は,戦前から使用されていた「社会事業」とほぼ同義であるが,現在では,貧困に陥った者を保護するという消極的なものに止まらず,貧困の防止,さらに,福祉の増進までを目的とする積極的な事業を含むようになってきている.

 社会福祉事業は,その対象が複雑であるばかりでなく,社会経済事情に応じて変動するため,全体として定義づけることは極めて困難であり,社会福祉事業法(昭和26年法律第45号)は社会福祉事業を正面から定義せず,同法で社会福祉事業として取り扱う範囲を列挙的に定める方法をとっている.

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意見と声 野村 和志

文献抄録

編集後記 千野 直一
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 本号の特集として「頸椎の異常とリハビリテーション」をとりあげた.頸部痛を主訴とする患者はリハビリテーション医療ではあいかわらず多く,さらに最近は,後縦靱帯骨化症が厚生省の特定疾患に加えられるなど,あらためて「頸椎の異常」に焦点をしぼってリハビリテーション上の問題点をうきぼりにする必要があると思われる.そして,頸髄損傷とは別の観点から,この分野での第一人者の先生方に御執筆いただいた.

 まず,津山氏は厚生省の特定疾患研究班の調査をもとに,後縦靱帯骨化症の実態について,ことにこの疾患がアジア諸国に多くみられるが,まだ,その病因が全く不明であること,しかし,治療法として頭蓋直達けん引や頸部コルセットの保存的方法が有効であることなどをしめされた.つぎに,石田氏は頸肩腕症候群というものと,他の疾患群との関連,また病因など明解に説明して下さり,ことにADLの指導が治療上で重要なポイントであると指摘されておられる.

基本情報

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総合リハビリテーション
8巻8号 (1980年8月)
電子版ISSN:1882-1340 印刷版ISSN:0386-9822 医学書院

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