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はじめに——臨床場面での生成AIの本質的な価値とは
従来の情報技術(information technology:IT)システムには,人手がかかる作業に対して業務効率化を行うことによって価値を生み出してきたものが多かった.行うべき業務を作業療法士のごとく丹念に観察し,コンピュータが代替できる部分をみつけ出して代替することで,ITシステムの利用価値が生まれてきたといえる.そのためには,コンピュータが解釈できるレベルまで業務を細分化し,人間とコンピュータの棲み分けを図る必要があった.そして,厳密に入力を制御すれば,出力も必ず正しくなる特徴のもとにITシステムへの信頼が生まれてきた.
一方で,生成的人工知能(generative artificial intelligence:生成AI)は大規模言語モデル(large language model:LLM)を中心に文脈を読み取ることができるのが大きな特長である.対話から人間が機微を理解するのと同様に,対話型の生成AIでは曖昧な指示でも何かしらの出力が得られる.その出力の傾向に大まかな方向性はあるものの,毎回同じ出力がされるわけではない.厳密性は乏しいが,その出力に対する「絶対」がないことを知れば利用価値は大きい.
「絶対に正しいとはいえないが,確からしい出力を得たい」場面は臨床場面では多い.リハビリテーション医療に携わる医療関係者は,医学的にも社会的にも複雑な患者を担当する場面によく遭遇する.その際には,#(ナンバー)を付したプロブレムリストで管理をするだけでは追いつかないため,国際生活機能分類(International Classification of Functioning, Disability and Health:ICF)を利用する.ICFの分類の仕方には一定のルールはあるものの,異なる評価者が同じ患者をみたときにすべて一致した分類が得られるとは限らない.
患者をICFで理解し生活機能を賦活していくのはリハビリテーション医療の基本ではあるものの,医療関係者が明らかに間違って分類してしまう場面も臨床で散見する.本来のICFの価値を引き出すためには,ただ単に「分類」するだけでなく,「利活用」することが求められる.そのために,筆者は生成AIの特徴(図1)を用いてICFのコーディング(分類)をサポートするツール“ICF Coder”を開発した.本稿では,その概要と臨床場面における利活用を解説する.

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