小児科診療 88巻5号 (2025年5月発行)

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特集　小児の下痢をもっと知ろう！

序文工藤　孝広 88巻5号 , 2025年5月 , pp.509-509

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　下痢症状は日常診療のなかでもふれる機会が多い症状の1つです．実際には急性疾患が多いと思いますが，ときには急性の下痢で改善せず，2週間以上に下痢が持続する慢性下痢症の場合があり診断や治療に困ることもあります．また，症状や経過，検査結果から確定診断を導いていくことが多いのですが，消化管は外見から判断することが難しく，消化管に関係する検査などから原因疾患を推測していく必要があります．さらに，消化吸収障害がある場合には栄養評価，成長評価，発達評価も重要であるため，成長曲線や発達評価表にプロットすることも適宜実施していくことを推奨します．

Ⅰ．下痢について詳しく知る

正常な排便と下痢の定義萩原　真一郎 88巻5号 , 2025年5月 , pp.513-517

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SUMMARY

▷正常な排便は消化管，神経系，筋肉の協調によって行われる複雑なプロセスである．

▷小児の排便回数・性状は，年齢や栄養方法によって幅がある．

▷下痢は便の水分量増加と排便回数の増加が特徴である．

▷乳幼児（およそ6歳まで）の2週間以上続く下痢は難治性下痢症と定義される．

下痢の分類吉田　正司 88巻5号 , 2025年5月 , pp.519-524

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SUMMARY

▷下痢は日常診療でよく遭遇する症状の1つであるが，その背景には様々な病態が隠れている．

▷下痢を発症機序により分類することは，病態の理解につながる．

▷下痢の鑑別診断を行う際には，まずは急性か慢性に分類し病因ごとに考える．

注意すべき随伴症状垣内　俊彦 , 真鍋　達也 88巻5号 , 2025年5月 , pp.525-531

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SUMMARY

▷下痢症状に対して，反復性腹痛の際に器質的疾患を疑う警告症状・徴候が随伴しているかどうかを確認し，している場合は消化器内視鏡検査の実施を検討する．

▷下痢症状に加えて，血便，夜間の腹痛・下痢，肛門病変，関節痛，成長障害，不明熱などが随伴する場合は器質的疾患を疑うべきである．

▷腹痛や下痢を訴える小児を診療する機会は多いが，炎症性腸疾患に対する特異的で絶対的な生化学的マーカーが存在しないなかでは消化器内視鏡検査が常に考慮されるが，この侵襲性の高い検査をどのような患者に実施するかを適切に判断する臨床能力が必要とされる．

難治性下痢症診断の手引き虫明　聡太郎 88巻5号 , 2025年5月 , pp.533-541

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SUMMARY

▷難治性下痢症とは多様な疾患における症候であり，原因が特定できないものを特発性難治性下痢症とよぶ．

▷下痢の病態生理の理解は的確な治療と管理のために重要である．

▷下痢を主徴候とする疾患においてその分子機構と遺伝子異常が解明されつつある．

▷治療と管理は腸管安静と病態鑑別に基づいてすすめられるべきであるが，可能な範囲で経口・経腸栄養を行って腸管機能の廃用を防ぐことが重要である．

Ⅱ．慢性下痢を診たら行うべき検査

血液検査倉沢　伸吾 88巻5号 , 2025年5月 , pp.543-547

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SUMMARY

▷血液学検査では白血球数，赤血球，血小板数，赤沈などの変動から情報を得るが，基礎疾患や病態をもとに評価する．

▷免疫血清学検査，生化学検査では栄養状態，電解質異常や炎症を反映するマーカーなど病態把握に有用な項目がある．

▷血液検査のみではなく，必ず臨床症状などをあわせて総合的に判断する．

便検査髙木　祐吾 88巻5号 , 2025年5月 , pp.549-554

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SUMMARY

▷小児の慢性下痢をみたら行うべき検査として，便検査は侵襲性の低い点，簡便である点からも積極的に推奨される．

▷感染性胃腸炎の診断，浸透圧性下痢と分泌性下痢との鑑別，消化管由来の出血や蛋白漏出の証明，また炎症性腸疾患の除外やその活動性の評価など，便検査が有用である場面は多岐にわたり，ぜひ積極的に活用されたい．

▷各検査ともに検出限界や判定限界・偽陽性/陰性があり，結果の解釈には十分な注意が必要である．

消化吸収試験近藤　健夫 , 近藤　園子 88巻5号 , 2025年5月 , pp.555-559

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SUMMARY

▷本稿では，小児の慢性下痢における消化吸収不全を評価するための検査手法を解説する．

▷D-キシロース吸収試験や呼気水素試験，PFD試験などを取り上げ，各検査の概要，適応疾患，方法，注意点を述べる．

▷これらの検査は，栄養吸収不良が原因の下痢を診断するうえで重要であり，症例に応じた適切な検査選択と結果の解釈によって正確な診断と治療につなげられる．

消化器画像検査宮田　恵理 88巻5号 , 2025年5月 , pp.561-564

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SUMMARY

▷小児の下痢の検査で画像検査は欠かせないが，検査の性質や他の検査結果を考慮し適切に選択する必要がある．

▷腹部超音波検査は病変の分布，消化管，他臓器の評価などを非侵襲的にリアルタイムで行うことができるため，初期検査として有用である．

消化器内視鏡検査岩間　達 88巻5号 , 2025年5月 , pp.565-569

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SUMMARY

▷消化器内視鏡検査を病理組織学検査と組み合わせて行うことで下痢の診断，治療効果判定の精度が向上する．

▷内視鏡検査の選択は症状や血液検査，他の画像検査の結果を統合し決定する．

Ⅲ．下痢を呈するおもな疾患

感染性胃腸炎齊藤　博大 88巻5号 , 2025年5月 , pp.571-575

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SUMMARY

▷小児診療でよく遭遇する下痢は感染性胃腸炎であり，嘔吐，腹痛，発熱などを伴うことが多い．

▷小児では特にウイルス性胃腸炎が多く，抗菌薬は不要であり，脱水症や下痢が遷延する腸炎後症候群など合併症の治療を行う．

▷細菌性腸炎では通常，抗菌薬は不要である．生後3か月未満，免疫不全者，全身状態が不良の場合に抗菌薬投与を考慮する．また水平伝播を防ぐうえで抗菌薬投与が必要な場合もある．

▷小児の感染性胃腸炎では，問診や身体診察による適切な全身状態の把握と脱水症の評価がなによりも重要である．早期の経口補水療法および中等症以上の場合の経静脈的補液療法が大事である．

クロストリジオイデス・ディフィシル腸炎梶　恵美里 88巻5号 , 2025年5月 , pp.577-581

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SUMMARY

▷2歳未満の小児では便中のClostridioides difficile（C. difficile）検出は保菌を示している可能性が高いため，下痢症状のない児に検査を提出するべきではない．

▷C. difficileの存在や毒素産生を検出する便検査はいずれもC. difficile感染症（CDI）とC. difficile保菌を区別することはできない．

▷抗菌薬使用，入院，悪性腫瘍，臓器移植，炎症性腸疾患，胃瘻または空腸瘻のチューブの存在が小児におけるCDIの危険因子である．

乳児難治性下痢症津村　直弥 , 水落　建輝 88巻5号 , 2025年5月 , pp.583-586

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SUMMARY

▷乳児難治性下痢症は乳児の2週間以上続く下痢と定義されるが，原因疾患は多岐にわたる．

▷難治性下痢症診断の手引きの診断アルゴリズムなどを参考に系統立てて鑑別を行うことが重要である．

▷診断技術の進歩で原因が特定されることが増えている一方で，いまだに成因不明例も存在する．

▷治療は脱水や電解質の補正，栄養療法を行いながら，疾患に応じた治療を適切に選択していく．

トドラーの下痢症佐藤　友紀 88巻5号 , 2025年5月 , pp.587-590

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SUMMARY

▷乳幼児期に発症し，果糖や人工甘味料の摂取で増悪する下痢である．

▷体重減少がなく，本人にとって困った症状がないのも特徴である．

▷「Fat」「Fiber」「Fluid」「Fruit juice」の4Fの適切な摂取を行うように栄養指導が重要である．

▷ラニチジンなどのH₂受容体拮抗薬はトドラーの下痢症に対して有効な可能性がある．

過敏性腸症候群細井　賢二 88巻5号 , 2025年5月 , pp.591-595

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SUMMARY

▷過敏性腸症候群は脳腸相関の異常が病態として重要である．

▷過敏性腸症候群はQOLの低下や社会的・経済的コストへも影響をきたす．

▷診断を確定する検査はなく，症状に基づくRome Ⅳ診断基準をもとに診断する．

▷治療法は食餌療法を含む生活習慣の改善，薬物療法，心理療法を組み合わせて行う．

食物蛋白誘発胃腸症，好酸球性胃腸炎梅津　守一郎 88巻5号 , 2025年5月 , pp.596-601

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SUMMARY

▷新生児・乳児食物蛋白誘発胃腸症はfood protein-induced enterocolitis syndrome（FPIES），food protein-induced allergic proctocolitis（FPIAP），food protein-induced enteropathy（FPE）の3つに分類される．

▷FPIESの食物抗原は普通ミルクが多いが，卵黄の発症が増加している．

▷好酸球性消化管疾患（EGID）は，好酸球性食道炎（EoE）と，食道以外の消化管のEGID（non-EoE EGID）として分類される．

▷EGIDの診断には，消化管内視鏡像が正常でも生検を実施することが重要である．

炎症性腸疾患柏木　項介 , 神保　圭佑 88巻5号 , 2025年5月 , pp.602-608

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SUMMARY

▷慢性的な下痢を呈する疾患の鑑別の1つに，IBDも加えることが肝要である．

▷小児例では，非典型的な臨床像を呈する場合や，確定診断が難しい場合もあるため，慎重な評価が望ましい．

▷小児例は，重症例が多く，成長や心理社会的側面のケアも必要な年代であることから，患者QOLを考慮に入れた繊細な管理が必要である．

免疫不全患者の下痢石毛　崇 88巻5号 , 2025年5月 , pp.609-613

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SUMMARY

▷免疫不全患者では，その種類に応じた日和見感染症に留意が必要である．

▷細菌感染症は多くの免疫不全症で重症化しやすいほか，Clostridioides difficile感染症の難治化をきたしやすい．

▷抗酸菌感染症では炎症性腸疾患に類似した所見を呈することがあるため，抗酸菌培養なども積極的に行うべきである．

▷原因が明らかでない慢性の腸炎症例では，単一遺伝子異常により発症する腸炎（monogenic IBD）の可能性を考慮する．

遺伝子変異を伴う難治性下痢症宇佐美　雅章 88巻5号 , 2025年5月 , pp.615-620

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SUMMARY

▷遺伝子変異に伴う難治性下痢症の多くは，新生児・乳児期から下痢をみとめ，ときに致死的な経過をたどることがある．

▷病態により，電解質・栄養の輸送異常や，酵素代謝異常，上皮細胞の形態異常などに分類される．

▷初期治療で脱水や電解質の補正を要するが，その後の治療や予後はその疾患ごとで異なる．

▷いずれもまれな疾患で病態も不明な点が多いが，成長も考慮した慎重な治療管理が重要である．

カラー口絵

カラー口絵 88巻5号 , 2025年5月 , pp.505-507

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・本誌本文中にモノクロ掲載した図表のうち，カラーで掲示すべきものを順に並べた．

・各口絵直下に当該図表の本文掲載ページを示した．

原著

小児の診療におけるFilmArray^®髄膜炎・脳炎パネルの有用性佐伯　尚美 , 中川　智博 , 崔　裕貴 , 加藤　歩 , 近田　祐介 , 守谷　充司 , 川野　研悟 , 北村　太郎 , 大浦　敏博 , 藤原　幾磨 88巻5号 , 2025年5月 , pp.621-624

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要旨

　FilmArray^®髄膜炎・脳炎パネル検査を54例で実施，結果を後方視的に分析した．のべ15例で検査陽性であり（陽性率28%），生後3か月未満の16例では陽性率が62%と高かった．非特異的症状を呈したヒトパレコウイルス感染症の早期診断が可能になり，B群溶血性連鎖球菌髄膜炎・ヘルペス脳炎において腰椎穿刺後短時間に特異的治療を行うことができるなど，本パネル検査の有用性が示された．

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目次 88巻5号 , 2025年5月 , pp.510-511

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お知らせ 88巻5号 , 2025年5月 , pp.512-512

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お知らせ 88巻5号 , 2025年5月 , pp.581-581

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お知らせ 88巻5号 , 2025年5月 , pp.586-586

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診断と治療〔第113巻・第5号〕特集予告 88巻5号 , 2025年5月 , pp.590-590

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お知らせ 88巻5号 , 2025年5月 , pp.608-608

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お知らせ 88巻5号 , 2025年5月 , pp.614-614

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本号掲載広告一覧 88巻5号 , 2025年5月 , pp.625-625

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次号予告 88巻5号 , 2025年5月 , pp.625-625

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投稿規程 88巻5号 , 2025年5月 , pp.628-629

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投稿論文チェックリスト 88巻5号 , 2025年5月 , pp.630-630

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バックナンバー 88巻5号 , 2025年5月 , pp.631-631

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奥付 88巻5号 , 2025年5月 , pp.632-632

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基本情報

小児科診療
88巻5号
(2025年5月発行)

電子版ISSN：印刷版ISSN：0386-9806 診断と治療社

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投稿規定

小児科診療 88巻5号 (2025年5月発行)

特集 小児の下痢をもっと知ろう！

Ⅰ．下痢について詳しく知る

Ⅱ．慢性下痢を診たら行うべき検査

Ⅲ．下痢を呈するおもな疾患

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