耳鼻咽喉科 43巻9号 (1971年9月)

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 Ⅰ.まえがき

 頭部外傷後のめまい患者は,最近交通事故の激増とともに年々増加の一途にある。われわれの教室では,昭和42年より45年までの4年間に268名の頭部外傷後めまいを訴えた患者の平衡機能検査を行なつた。この成績を基として,種々の分析を試みたが,本稿では特に平衡機能検査成績を,患者の予後遠隔追跡との関係について考察した。この理由としては,頭部外傷後遺症の場合,その自覚症状が多彩であり,加えて,そこに心因的要素が加わつて,益々複雑である反面,脳外科,神経内科など他科の検査成績がほとんど正常に近いものも多く,耳科的な平衡機能検査成績が唯一のfollow upの手段となる場合も多いことから,勢い他科からの検査依頼も多くなり,患者の予後判定や,薬物の治療効果判定などに,平衡機能検査成績からの意見を求められる様になつてきた。

 このことは,平衡機能検査法が,ようやく他科よりも認識され,その評価をたかめるようになつた証でもあり,誠に喜ばしいことではあるが,反面,その検査成績にもとづいて単に耳科的な考えから,その患者の予後を判定したり,治療指針を確立したりして,思わぬ失敗をする場合も出るようになつた。特にわれわれの経験からすると,頭部外傷後のめまい患者の平衡機能検査成績は,それが固定化するまで,すなわち,初期,中期,慢性期と移行するにつれ,かなりの変動を示すことがわかつてきた。加えて,この成績,すなわち,他覚的所見と,患者の自覚症状のギャップもしばしば観察され,検査成績が好転しても,自覚症状が逆に悪化するもの,あるいはこの逆の場合もみられることなどが観察され,単に1回のみの検査成績では,その予後をみきわめることや,治療法を決めることには問題があることが判つてきた。本稿では特に頭部外傷後の平衡機能検査成績の取り扱い方,その成績の示す意義について述べる。

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 I.はじめに

 鼻アレルギーの吸入性抗原として,室内塵(H. D.)は花粉類や最近注目されつつある真菌類とともにもつとも頻度の高いものの一つである。

 H. D. は日常われわれが使用する動物線維,植物線維,合成線維,動物の毛,ふけ,垢,羽毛,昆虫類,真菌類や細菌類などの微生物およびその代謝産物,花粉類,食物残渣など種々雑多な物質を構成成分として含んでいる。それ故H. D. の病因的主成分は興味ある重要な問題であり多くの研究がなされてきたが,最近の気管支喘息の研究によれば,H. D. 病因的抗原として,これに含まれるダニがきわめて重要であることが明らかになつてきた1)-6)。また近年市販の1000倍H. D. 抽出液による皮内反応陽性率の低下が問題となつている7)-9)。そこでわれわれはこの問題を検討するとともに鼻アレルギーにおけるH. D. とダニ,さらに真菌類との関係,また,日本人の日常生活と関係の深いタタミと綿を取りあげ,この抗原性について検討を加えてみた。

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 Ⅰ.緒言

 耳硬化症は迷路骨包に生じる限局的な骨病変であり,組織学的には骨新生をともなう骨の増生で,豊富な血管腔と骨組織の排列の異様な乱れが特長である。たまたま病変がアブミ骨の輪状靱帯に達すると強直を起こし,特長的な伝音性難聴を生じる。発症は思春期前後がもつとも多く,30,40歳台になつて発病することもあり,多くは両側性である。

 耳硬化症の発生頻度は人種による著差があり,白人に多く,東洋人にはもつとも少ない。したがつて欧米では外来を訪れる難聴者の大半は耳硬化症患者であるが,日本では比較的稀な疾患に属している。日本人耳硬化症の特長は欧米人に関する報告と比べて下記の通りである1)2)3)

 1.遺伝関係:欧米では50〜60%にみとめられているが,日本では10%以下である。しかし,滝沢ら4)は一地域に見出された耳硬化症6例を報告した。

 2.性別:欧米では女性が半数を超えるが,日本では男子が多い。

 このほか,発症年齢,聴力像,症状などは欧米のそれと著差はない。

 欧米では豊富な症例を基にして耳硬化症の手術が開発され,いくつかの学派により多彩な発展を遂げてきたが,日本において両側耳硬化症は少ない疾患であるため手術治療も十分習熟することが難しいのが現状である。この報告は最近3年間に東京大学医学部耳鼻咽喉科学教室において手術した耳硬化症15例について,その手術方法の変遷をたどりながら成績につきまとめたものである。

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 Ⅰ.緒言

 流涙を主徴とする慢性涙嚢炎は,鼻涙管の狭窄,閉塞による二次感染によつて発生し,その原因は,トラコーマなどの眼科的疾患および鼻副鼻腔疾患が考えられている。この涙嚢炎の手術的療法として,眼科的立場から主として涙嚢摘出術が,鼻科的立場からいわゆる鼻涙管開放術が行なわれているが,現在のところ耳鼻科医にとつて,鼻涙管開放術は身近に行なわれている手術ではない。近年眼科的および耳鼻科的な成因に加えて,外傷に起因する涙道狭窄,閉塞の報告に接することが多く,交通外傷の激増,頻発している今日,耳鼻科医は,涙道狭窄,閉塞の症例に今までより頻繁に遭遇し,対処せねばならないことが多くなると考えられる。最近われわれは,副鼻腔根治手術後に慢性涙嚢炎を起こした2例および外傷のため鼻根部を強打し,鼻涙管の狭窄をきたし涙嚢炎を併発した1例に涙嚢鼻腔吻合術を施行し好結果を得ることができたので報告する。

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 Ⅰ.緒言

 1818年Cooper1)が巨細胞腫について記載し,それ以後一般に長管状骨に発生する骨腫瘍であると考えられているが,今回著者らは89歳の老女の上顎骨より発生した興味ある巨細胞腫の1例を経験したので,いささか文献的考察を加えて報告する。

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 Ⅰ.緒言

 近年交通事故の増加によつて,頭部,顔面部の外傷例は激増してきている。開放損傷では頭蓋内外の出血,すなわち内外頸動脈領域の血管損傷があるのは当然であるが,一見閉鎖性頭部外傷と思われる場合で大量鼻出血をみる例を経験することがある。これらの大部分は前頭蓋窩,蝶形骨洞などの頭蓋底骨折により,前篩骨動脈,翼突口蓋動脈損傷などの動脈性出血であることが多く,時に静脈洞損傷による静脈性出血もみられる。いずれにしろ,この場合は受傷直後より鼻出血があるために,出血巣は精査され,止血操作が加えられている。これに反して受傷により内頸動脈瘤を形成し,しばらくの時日を経た後に,反復する大量鼻出血発作を起こす例が稀にあることが知られている。外傷後の大量鼻出血例は今後益々増加することが予想され,その際,動脈瘤形成によるものも存在することを考慮しておかねばならないが,耳鼻咽喉科領域においては,この種の報告がきわめて少ない。

 われわれは交通事故によると思われる内頸動脈瘤からの重篤な鼻出血例を2例経験したので,ここに報告し,併せて若干の文献的考察を加えた。

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 Ⅰ.緒言

 われわれは右顎下部から口腔底にかけて発生した腫瘍を,口腔底血管腫の疑いのもとに手術を行なつた所,唾液腺腫瘍としては稀とされているpapillary cystadenomaすなわち,乳頭性?腺腫と判明した1例に遭遇したので報告する。

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 I.はじめに

 好酸球肉芽腫と総称されているものは,好酸球浸潤を伴つた肉芽腫が骨,皮膚,胃腸管,皮下軟部組織に発生するもので,これらの病因についてまだ不明の点も多く,治療法にも論議の多いところである。また本症が比較的まれな疾患であるとされ,本邦において,数十例の報告があるに過ぎず,それも外科,皮膚科領域からの報告が主で耳鼻科領域からの論文はきわめて少ない。今回私どもは約2年間にわたり左耳介周囲に発生した好酸球肉芽腫を経験し,腫瘤組織には線維増生を伴い,かつ広範な好酸球浸潤をみとめ,放射線治療,副腎皮質ホルモン治療も無効で手術的処置により治癒した1例を報告し併せて文献的考察を述べる。

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 日耳鼻学会の支部と地方会の成り立ちの経緯については前号で詳しく述べてきたが,会員の中には,地方会を改組し,日耳鼻の下部組織を府県単位に1本化することは,学会の組織強化であり,また情報の交流を円滑かつ迅速に行なうためには必要であることは認めながらも,なおこれに反対するもののある理由には,現在の地方会が築きあげてきた価値を高く評価していること,改組分割によつて地方会の学問の場としての価値が低下する不安が大きいことなどが推測される。また表面には出しにくくても,評議員選出母体の変化による評議員選出分布の急変を好まない人間感情の存在することは必ずしも否定できないと思うが,これらの事情は地方会や支部によつて甚しく違つている。そのような意味では前回の改組も支部設立の段階に止めておいたことは温当な方策ではなかつたかと思う。

 その後8年の経過を経た今日では学会内外の様子も随分変化し,大学や学会内に改革の嵐が吹きまくつてきたが,日耳鼻学会の組織は,支部設立による2本立の構成のままでよいものか。支部設立当時の事情もあり,国際学会に当面していた当時とは別な意味で検討してみるべき時にきているともみられる。

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 Ⅰ.緒言

 耳鼻咽喉科領域における手術は,通常大手術を除き局所麻酔下に行なわれるが,時には疼痛のきわめて強い部位の侵襲や疼痛に敏感な患者,乳幼児に対して,全身麻酔を短時間,簡単に施行したいことがある。たとえば新鮮鼻骨骨折整復のごとく,短時間で終了するが,全身麻酔が望ましい場合である。かかる目的に対して,従来静脈麻酔や吸入麻酔などが使われてきたが,鎮痛作用や副作用の点でまだ十分満足できるものはなく,広汎な普及に至つていない。最近,Greifenstein1)らにより,呼吸および循環系の抑制が少なく,強力な鎮痛作用を有する新静脈麻酔剤,phencyclidine hydrochlorideが発表され,その後McCarthy2)らは改良を重ねて,2-(O-Chlorophenyl)-2-methylamino cyclohexanone hydrochloride(Ketalar)を開発した。さらにDomino3)らはその臨床的観察より,本剤は,脳における抑制が各部分により程度が異なり,一様でなく,そのため求心性impulseの脳における連合を妨げることにより,疼痛感覚を欠除させる特異的鎮痛作用を有すると考え,解離性麻酔剤と,呼ぶことを提唱した。本剤の化学構造式は第1図に示すごとくである。1966年以来,本邦でも,麻酔科を中心として多くの科で使われ,その臨床使用経験が報告されている。しかし,耳鼻咽喉科領域における報告はまだ抄録以外みられない。このたびわれわれは,本剤を耳鼻咽喉科領域の手術および検査患者47例に使用したので,その結果を報告し,ご参考に供する次第である。

基本情報

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耳鼻咽喉科
43巻9号 (1971年9月)
電子版ISSN: 印刷版ISSN:0386-9679 医学書院

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