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Ⅰ.まえがき
頭部外傷後のめまい患者は,最近交通事故の激増とともに年々増加の一途にある。われわれの教室では,昭和42年より45年までの4年間に268名の頭部外傷後めまいを訴えた患者の平衡機能検査を行なつた。この成績を基として,種々の分析を試みたが,本稿では特に平衡機能検査成績を,患者の予後遠隔追跡との関係について考察した。この理由としては,頭部外傷後遺症の場合,その自覚症状が多彩であり,加えて,そこに心因的要素が加わつて,益々複雑である反面,脳外科,神経内科など他科の検査成績がほとんど正常に近いものも多く,耳科的な平衡機能検査成績が唯一のfollow upの手段となる場合も多いことから,勢い他科からの検査依頼も多くなり,患者の予後判定や,薬物の治療効果判定などに,平衡機能検査成績からの意見を求められる様になつてきた。
このことは,平衡機能検査法が,ようやく他科よりも認識され,その評価をたかめるようになつた証でもあり,誠に喜ばしいことではあるが,反面,その検査成績にもとづいて単に耳科的な考えから,その患者の予後を判定したり,治療指針を確立したりして,思わぬ失敗をする場合も出るようになつた。特にわれわれの経験からすると,頭部外傷後のめまい患者の平衡機能検査成績は,それが固定化するまで,すなわち,初期,中期,慢性期と移行するにつれ,かなりの変動を示すことがわかつてきた。加えて,この成績,すなわち,他覚的所見と,患者の自覚症状のギャップもしばしば観察され,検査成績が好転しても,自覚症状が逆に悪化するもの,あるいはこの逆の場合もみられることなどが観察され,単に1回のみの検査成績では,その予後をみきわめることや,治療法を決めることには問題があることが判つてきた。本稿では特に頭部外傷後の平衡機能検査成績の取り扱い方,その成績の示す意義について述べる。
The authors made equilibrium tests upon 268 patients, during the recent 4 years, 1967 to 1970, who suffered traumatic head injury. The results are as follow:
1. The treatment of disturbances of equilibrium appears to be effective during the period of the initial stage of the disease but, it becomes less so as the case turn chronic.
2. The prognosis of the case cannot be made by a singular initial examination alone.
3. The patients with concomittant brainstem injury are worry to become chronically affected and their prognosis is exceedingly poor indeed.
4. The expectation of the patient's return to his normal social activities following the onset of loss of equilibrium caused by head injury depends largely upon the patient's psychological attitude.
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