耳鼻咽喉科 34巻1号 (1962年1月発行)

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—北村教授開講十周年記念記文—鼻粘膜炎症と体質をめぐる問題（その1）奥田　稔 , 河野　寿 , 徳丸　襄 , 中野　清幸 34巻1号 , 1962年1月 , pp.5-10

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　まえがき

　鼻粘膜の炎症罹患度，経過，病型が個人により，民族，家系により異なるのはすでに知られている。その説明のためには全身的には体質，環境，栄養内分泌など，局所的には鼻内形態，鼻Pneuma—tisationなどが問題にされている。われわれは主として慢性副鼻腔炎，萎縮性鼻炎における全身的素質及び形質（木田）^1）を分析し，これらに関与する要因の一つとして内分泌，自律神経系を取り上げ，又これらと局所体質の関係を検討し，鼻粘膜炎症の体質学的観察の試みとした。

　この試みの発端として次の問題があつた。萎縮性鼻炎の中で鼻腔上部は浮腫茸状の変化があつて下部が広濶な型がある。われわれはこれを萎縮性鼻炎Ⅱ型，後藤，菅^2），中村^3）は肥厚萎縮性鼻炎といつている。この型の成因として古くから慢性副鼻腔炎特に篩骨洞炎の陳旧性二次的病変が考えられ，細菌毒素により鼻内萎縮を惹起させた実験もある（遠藤）^4）。しかし慢性副鼻腔炎から鼻内萎縮に至る過程の観察も十分でなく，副鼻腔炎が何故上顎洞，篩骨洞，中甲介粘膜をさしおいて下甲介にのみ萎縮を来たすのかの説明もない。又この型は副鼻腔の多洞手術によつて反つて萎縮性鼻炎としての性格を強くすることがあるが，篩骨洞に手をつけぬ久保式萎縮性鼻炎手術原法により永続的効果があるのはすでに報告した通りである^5）。又この型を呈する副鼻腔炎と呈しないそれとの差異について病変の強さにのみ原因を求めるのは困難であろう。すなわちこの型の成因に副鼻腔の炎症は十分考えられるにしてもその実証には甚だ不十分といわなければならない。小林^6），菅^2）はPneumatisations Lehreの立場から上顎洞発育抑制のものは下甲介粘膜が線維性で萎縮型をとると説明しているが，われわれの検索では十分この間の関係を明らかにし得ず，上顎洞大なる萎縮性鼻炎も上顎洞小なる肥厚性鼻炎も多数みられた。中甲介の浮腫茸状の変化がすぐに肥厚増殖と，線維性の変化が直ちに萎縮と結びつくかについてもなお疑問があろう。又鼻腔下部が広いからといつて直ちに下甲介の萎縮を断定するのは早計で，萎縮性鼻炎に特徴的な症状，所見を伴わず，鼻腔機能検査を行うと機能良好で萎縮というより，甲介骨のつき方，大きさ，粘膜の厚さにより，鼻腔幅との均衡から，このような所見を呈すると考えられることもある^7）。以上の事実からわれわれはこの型の萎縮性鼻炎の成立には，1）鼻腔幅と甲介骨，粘膜の厚さに不均衡がある。2）鼻腔粘膜が炎症その他の刺激で，鼻腔空間を補空すべき増殖，又反応力に欠けていることがあるのではないかと考えた。萎縮性鼻炎の鼻腔幅は大であり（北村^8）Pesti^9）10），鈴木^11））又通常の粘膜では鼻腔が広ければ例えば鼻中隔彎曲凹側のように下甲介粘膜の補空的肥大がみられるからである。1）については鼻Pn，鼻腔幅を検討した。更に下甲介骨の形態，粘膜の状態，機能を研究しつつある。2）についてはその理解の一助として全身的体質学的検討を行つた。そして以上の問題を萎縮性鼻炎に限定せず，副鼻腔炎，肥厚性鼻炎などにも及ぼし，広く粘膜の反応性として考えてみた。更に体質学的検査結果の理解のために，体質学的立場にたつて内分泌，自律神経機能の鼻粘膜に及ぼす影響を観察した。これらの一部はすでに発表されているが^12）13）^14）15），補足，略述をあえてした。

頭位変化時にあらわれる眼振（頭位変化眼振）に関する研究—興味ある症例坂田　英治 , 鈴木　淳一 , 徳増　厚二 , 五島　一吉 , 小松崎　篤 34巻1号 , 1962年1月 , pp.13-21

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　はじめに

　頭位をきわめて緩徐に，あるいは比較的速やかに変化させると眼振が発現したり変化したりする現象，すなわち頭位変化眼振Lagewechselnystagmusがいろいろの疾患にともなつて観察されることは，今日われわれの常識とするところである。この眼振は，その原因となるべき疾患の性質や程度，それに病側などに応じてさまざまの性状を示すために，眼振の性質を詳細に検討することが診断上きわめて重要な指針となる。とくに中枢性疾患は，各種の影響をうけてその様相はますます複雑多岐なものとなつて現われる。しかし，精密適確な検査をおこなうことによつて，疾患に特有な性状を把握するに至るのである。

　われわれは別報^1）において，頭位変化眼振の分類方法と名称とについてわれわれの考え方を述べるとともに，2,3の新しい検査方式をくわえて頭位変化眼振検査法を提案し，この眼振を検査することの重要性を強調した。

カップ状立ち耳の形成例梅村　正道 34巻1号 , 1962年1月 , pp.23-25

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　序言

　Cupped Protruding Earの適確な訳語が無いので，私はこれを一応「カップ状立ち耳」として以下述べる事とする。

慢性副鼻腔炎粘膜におけるコハク酸脱水素酵素及びテトクロームオキシダーゼについて坂倉　光蔵 , 鈴木　俊一 , 水谷　雅俊 34巻1号 , 1962年1月 , pp.27-34

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　緒言

　副鼻腔炎の本質を解明すべく，既に病理学的，細菌学的又アレルギーの立場等から研究され，幾多の業績があり，更に最近では組織化学の進歩と共に蛋白質^1），アミノ酸^2），塩類^3），多糖類^4）-7）並に酵素等に就て広汎な研究がなされつつある。そして本疾病を病態生理学的に追求するに当つて当然局所体液及び代謝の変動，この基因をなす自律神経乃至内分泌系の消長，並びにその消長と密接な関連を有する酵素系に注目する必要がある。既にPhosphatase，Fibrinolysin^8）及びCholinesterase^9）10）等に関しては詳細な報告がなされている。我々はコハク酸脱水素酵素（以下SDH-aseと略）及びCytochrome Oxidaseを撰び，これらの組織代謝並びにエネルギーの推移を司る主要な酸化還元酵素活性の消長を副鼻腔炎患者の上顎洞粘膜について組織化学的に検索し，興味ある成績を得たので報告する。

硬口蓋腺癌の1例鳥山　寧二 , 長倉　政行 , 武田　亨 , 三枝　直砥 34巻1号 , 1962年1月 , pp.37-39

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　硬口蓋に原発する癌腫は割合いにすくないものである。しかもその多くは扁平上皮癌，基底細胞癌等であつて，腺癌の症例は数えるほどしか報告されていない。

　我々は硬口蓋に原発した腺癌の一症例を経験したのでここにその大要を報告する。

扁桃周囲異物症例吉江　信夫 34巻1号 , 1962年1月 , pp.41-43

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　I．緒言

　咽頭異物の起り易い部位は口蓋扁桃，咽頭側壁，梨子状窩の3個所で，口蓋扁桃には小さく尖鋭な異物が刺入する事が多いと云われる。Albrecht^1）の記載によれば，針は口腔咽頭異物117例中20例あり，骨片，義歯，魚骨に次いでいる。一般に口蓋扁桃から針が刺入して，咽頭異物となる可能性な案外多いものと老えられる^1）2）。併し実際に本邦では，長尾^3）が舌根部から刺入した針の移動性咽頭異物症例を報告しているが，他に針の扁桃周囲異物と云える報告例は見当らない。外国では，アデノトミー，扁摘時に縫合針，麻酔用注射針が折れ扁桃周囲異物となつた症例をLaff^4），Weiss^5）等が報告している。最近我々は折れた留針が扁桃周囲に約2カ月間介在した症例を経験したので報告する。

喉頭蓋嚢腫の1治験例頼実　一男 , 奥野　保夫 34巻1号 , 1962年1月 , pp.45-48

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　緒言

　喉頭に発生する嚢腫は，喉頭良性腫瘍の中ではさして大なる比率を示す疾患ではない。しかし喉頭嚢腫に関する文献は，私共の渉猟した範囲内でも内外共に可成りの数に認められている。なかんずく，喉頭蓋は喉頭嚢腫発生部位として，その占める地位は大きい。

　私共は，最近喉頭蓋に発生した腫瘤（術前組織診断では，リンパ腫）に遭遇したが，咬扼反射過敏なため余儀なく舌骨下咽頭切開術により腫瘤を摘出した所，実は喉頭蓋嚢腫であり，組織学的にHyperplasia of lymphoid tissue with cysticcryptの所見を認めた症例を経験したので報告し，大方の御参考に供したい。

気管支異物（ガラス球）の1例鳥山　寧二 , 武田　享 , 三枝　直砥 , 五島　一吉 34巻1号 , 1962年1月 , pp.51-54

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　気管支異物の報告は枚挙にいとまがない程多数みられる。我々は異物の性情が今迄の報告とかなりことなり，又異物摘出の際器具に多少の工夫を試みたので，御批判をえたいと考えてここに報告する。

麻酔医より見たる気管切開武島　晃爾 , 檜垣　正昭 34巻1号 , 1962年1月 , pp.57-61

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　現在では，気管切開の有用性は確立され，一般に広く応用されるに至つているにもかかわらず，当地方ではあまり用いられていない現状にあり，中には，気管切開を行えば，患者は早く死亡すると言う誤つた考えを有する者もあり，その有用性を知得し，より広く，本法を応用されるよう，著者等の経験を加味して，本法を推奨することが本稿の目的である。

　本法の術式は省略することとする。

Kurze Geschichte der Vestibularisforschung（その3） Ernst Wodak , 福田　精 , 檜　学 34巻1号 , 1962年1月 , pp.63-71

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ドイツにおける前庭迷路研究

　ドイツにおける前庭迷路研究は之まで筆者が述べた国々のそれとは一寸異つた状況で初められている。ドイツには数多くの大学にOhrenklinikがあるが，之らのKlinikでは迷路の研究ばかりやつているという所もなければ，又逆に全くこの研究をやらないという所もない。という訳で，筆者が之までの国々で述べた様な迷路研究の中心地となずくべき研究所は見あたらない。ドイツの大学での前庭迷路研究はその時期毎の耳科主任教授が迷路研究に特に熱心な自分の助手に委嘱して患者の迷路機能検査をやらせるとか，又助手達がその研究に専念したいという場合には，もつと広範な研究を行い得る様配慮してやるとかいつたやり方で押進められてきたといつても過言ではない。従つてこの時代の助手連中が，後に自分達のKlinikを主宰する様になると，前庭迷路に注目するのは必然的ななり行きだつたといえよう。彼等は自分達の門下生が前庭迷路の諸問題に興味を示す様，努力もしたし又，その研究を卒先して励行もした。

　上述した様に，ドイツの前庭迷路研究の発展を記述するにあたつては特定の中心的研究所がないので，筆者は之までとは異つた方法でこの問題を論じてみたい。即ちこの国の最も有名な研究者を選び，彼等の行つた前庭迷路研究について申し述べるというやり方を採つてみたい。ドイツにおける前庭迷路研究の初期の時代即ち第一次世界大戦時代の研究者といえば，まづWittmaackをあげねばなるまい。有名な組織学者でもあり，又前庭迷路学者でもあるこの研究者は，1911年Bárányと共に選ばれて前庭迷路に関するあの古典的な綜合的報告を行つている。即ち中部ヨーロッパ耳科医学会の席上で，Bárányと彼が初めてこの新しい学問についての報告を行つているのである。（オースタリーの項参照）Wittmaackは遠心力により耳石をフッ飛ばした動物を対象として実験を行っているが，この方法で遠心力を負荷しその前後の反応を検査する事により，耳石経由の反射を追究する可能性が産れた訳である。Wittmaackのこの遠心力負荷法は後に広く一般に普及し，その効果をたしかめられていることは周知の通りである。

ろう学校在籍者に対するATP製剤の使用経験（第1報）加藤　智至 , 高安　淳司 34巻1号 , 1962年1月 , pp.79-81

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　I．緒言

　難聴の治療には迷路液機能障害の立場から脊髄液排除法，移動術，VB₁注入法があり，注射療法にはそれぞれの目的に応じて塩酸ピロカルピンを始め，VA，高単位VB₁，VB₁誘導体，チオクト酸，コンドロイチン硫酸など数多くものが使用されている，しかし何れも決定的なものではなく，更に効果のあるものが望まれている。最近Adenosinetriphosphate（ATP）の作用が解明され難聴療法の一つに加えられて来た。我々もストマイ難聴及びメニエール氏症候群にATP製剤を追試し難聴に対する効果を認めたので，今回ろう学校在籍者のうち鼓膜所見正常の11名を対称に興和新薬提供によるアデホスコーワを試用し，その結果が纒つたのでここに概略を報告する。

持続性Sulfa剤Sulfisomesoleの耳鼻咽喉科領域における使用効果岩沢　武彦 , 大野　恒吉 34巻1号 , 1962年1月 , pp.83-85

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　I．緒言

　1935年DomagkのProntosilに始つた諸種のSulfa剤は，化学療法上，現在まで臨床面に果している役割は極めて大である。更にペニシリンを契杙として，ストレプトマイシン，クロラムフェニコール，テトラサイクリン等の幾多の抗生物質が相次いで発見されて以来，これら抗生物質は又急性並びに慢性炎症の各種疾患に対して顕著な効果を発揮しているとはいえ，他面，かかる抗生物質療法を行うに当り，ペニシリンシヨック，ストレプトマイシン中毒，耐性菌の出現及び菌交代現象等の危惧すべき重大な欠陥をみるに至つた。必然的に従来の化学療法においては，脚光を浴びていた抗生物質の蔭におされていたかの如きSulfa剤の価値が再認識され，新しいSulfa剤の出現が期待されるようになり，ここにいわゆる，作用持続性Sulfa剤が発見されるに至つた。この新しいSulfa剤の有導体としてのSulfisomezole（Sinomin）は，既に多くの基礎的研究及び臨床成績の結果より，従来のSulfa剤に比較して卓越した効果を有する事が実証されている。我々は，この新Sulfa剤Sulfisomezole（Sinomin）を，耳鼻咽喉科領域における諸種の急性感染症に対して経口，静注並びに局所的に使用して，認むべき効果を得たので，その臨床成績を報告する。

メニエル氏病後遺病に対するボナミン（塩酸メクリジン）の使用経験小林　泰 , 隈上　秀伯 , 坂本　芳夫 34巻1号 , 1962年1月 , pp.87-89

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　緒言

　メニエル氏病の治療に我々は好んで重曹水の大量注射を用い卓効を得ているが，眩暈消腿後も尚頭重感，身体の沈降感，浮遊感が残存し，これらの愁訴は極めて頑固で治療に困るものの一つである。

　我々はこの様な患者にドラマミン，トラベルミン，メニエル，ダイアモックス，カリクレン，減塩食療法，頸部交感神経節遮断等を試みているがボナミンの投与が比較的簡便で，然も相当な効果を得たので報告する次第である。

CURRENT MEDICAL LITERATURE 34巻1号 , 1962年1月 , pp.91

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Neue Blätter für Taubstummenbildung，14/3．Heidelberg März 1960

Löwe, A．Pädoaudiologische Beratungsstelle für Eltern gehörgeschädigter Kleinkinder in Heidelberg．65

Der gegenwärtige Stand des Gehörlosen-Beruchulwesens in der Bundesrepublik．Erste Fachtagung der Taubstummen-Berufsschullehrer in Bunde Deutscher Taubstummenlehrer in Friedberg am 28．Februer 1956．76

薬剤

内耳性難聴に対するパントールナイクリン併用による治療成績皆川　武夫 34巻1号 , 1962年1月 , pp.73-77

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　緒言

　内耳性難聴に対する薬物治療は，かなりの好成績をあげ得るに至つたとはいえ，依然として治療において困難を感ずるものの一つである。

　最近中村教授らは，ストマイ難聴の細胞化学的研究から，ストマイ難聴の障害の中心をなすものは，解糖呼吸系及びTCA環にありとするのが妥当であると結論し，又パントテン酸が，解糖呼吸系において重要な位置を占めるCoAの構成成分をなしている事は，Colowick及びKaplan，船橋，赤沢等により証明されており，兵は，酸素消費量の測定にて，パントテン酸とDHSMを混注することによりDHSM単独投与の場合よりも酸素消費量の増加を確認している。

基本情報

耳鼻咽喉科
34巻1号
(1962年1月発行)

電子版ISSN：印刷版ISSN：0386-9679 医学書院

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