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まえがき
鼻粘膜の炎症罹患度,経過,病型が個人により,民族,家系により異なるのはすでに知られている。その説明のためには全身的には体質,環境,栄養内分泌など,局所的には鼻内形態,鼻Pneuma—tisationなどが問題にされている。われわれは主として慢性副鼻腔炎,萎縮性鼻炎における全身的素質及び形質(木田)1)を分析し,これらに関与する要因の一つとして内分泌,自律神経系を取り上げ,又これらと局所体質の関係を検討し,鼻粘膜炎症の体質学的観察の試みとした。
この試みの発端として次の問題があつた。萎縮性鼻炎の中で鼻腔上部は浮腫茸状の変化があつて下部が広濶な型がある。われわれはこれを萎縮性鼻炎Ⅱ型,後藤,菅2),中村3)は肥厚萎縮性鼻炎といつている。この型の成因として古くから慢性副鼻腔炎特に篩骨洞炎の陳旧性二次的病変が考えられ,細菌毒素により鼻内萎縮を惹起させた実験もある(遠藤)4)。しかし慢性副鼻腔炎から鼻内萎縮に至る過程の観察も十分でなく,副鼻腔炎が何故上顎洞,篩骨洞,中甲介粘膜をさしおいて下甲介にのみ萎縮を来たすのかの説明もない。又この型は副鼻腔の多洞手術によつて反つて萎縮性鼻炎としての性格を強くすることがあるが,篩骨洞に手をつけぬ久保式萎縮性鼻炎手術原法により永続的効果があるのはすでに報告した通りである5)。又この型を呈する副鼻腔炎と呈しないそれとの差異について病変の強さにのみ原因を求めるのは困難であろう。すなわちこの型の成因に副鼻腔の炎症は十分考えられるにしてもその実証には甚だ不十分といわなければならない。小林6),菅2)はPneumatisations Lehreの立場から上顎洞発育抑制のものは下甲介粘膜が線維性で萎縮型をとると説明しているが,われわれの検索では十分この間の関係を明らかにし得ず,上顎洞大なる萎縮性鼻炎も上顎洞小なる肥厚性鼻炎も多数みられた。中甲介の浮腫茸状の変化がすぐに肥厚増殖と,線維性の変化が直ちに萎縮と結びつくかについてもなお疑問があろう。又鼻腔下部が広いからといつて直ちに下甲介の萎縮を断定するのは早計で,萎縮性鼻炎に特徴的な症状,所見を伴わず,鼻腔機能検査を行うと機能良好で萎縮というより,甲介骨のつき方,大きさ,粘膜の厚さにより,鼻腔幅との均衡から,このような所見を呈すると考えられることもある7)。以上の事実からわれわれはこの型の萎縮性鼻炎の成立には,1)鼻腔幅と甲介骨,粘膜の厚さに不均衡がある。2)鼻腔粘膜が炎症その他の刺激で,鼻腔空間を補空すべき増殖,又反応力に欠けていることがあるのではないかと考えた。萎縮性鼻炎の鼻腔幅は大であり(北村8)Pesti9)10),鈴木11))又通常の粘膜では鼻腔が広ければ例えば鼻中隔彎曲凹側のように下甲介粘膜の補空的肥大がみられるからである。1)については鼻Pn,鼻腔幅を検討した。更に下甲介骨の形態,粘膜の状態,機能を研究しつつある。2)についてはその理解の一助として全身的体質学的検討を行つた。そして以上の問題を萎縮性鼻炎に限定せず,副鼻腔炎,肥厚性鼻炎などにも及ぼし,広く粘膜の反応性として考えてみた。更に体質学的検査結果の理解のために,体質学的立場にたつて内分泌,自律神経機能の鼻粘膜に及ぼす影響を観察した。これらの一部はすでに発表されているが12)13)14)15),補足,略述をあえてした。
Response by nasal mucous membrane to inflammatory changes is manifested either by atrophic or hypertrophic state. In order to determine the causative factors of such a condition a thorough personal history as well as elaborate physical and laboratory exami-nations will be required. For diagnosis of this condition it can not be denied that observati-on of individual ideocyncracies which are-manifested both locally as well as generally is highly important.
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