病院 77巻1号 (2018年1月)

特集 病院は2035年の夢を見るか

巻頭言 渋谷 健司
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 保健医療制度は,ともすると近視眼的かつパッチワーク的な見直しを繰り返し,かえって制度疲労を悪化させている.議論の焦点は,2年に1回の診療報酬改定における「パイの奪い合い」や短期的な医療費抑制政策,そして,既存の制度を維持するための負担増・給付削減という議論に終始しがちである.もちろん,こうした地道な積み重ねは必須のプロセスだが,ビジョンなき改革では将来展望が開けないばかりか,改革に不可欠な国民的議論を深めることもできないのではないだろうか.

 1961年,ジョン・F・ケネディ大統領は, 「アポロ計画」を立ち上げた.1962年のライス大学での有名な演説では,「われわれは月に行くことを選んだ」「10年以内に月へ人を送る.それは簡単だからやるのではない.難しいことだからあえてやるのだ」と述べ,人々を奮い立たせた.そして,その8年後には,人類の月面着陸を実現させてしまった.このことから,目標を定め,今何をすべきかを逆算(バックキャスト)して考え,それを行うことで結果として目標を達成することを指して,「ムーンショット」と言う.

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●2035年には少子高齢化の進行に対応するために,医療・介護・福祉の複合的サービスを効率的に提供する体制が必要となる.

●多くの病院は地域包括ケア複合体や地域のアライアンスの中核施設として機能することになる.

●2035年までのわが国の医療制度改革の経験に基づき,日本型地域包括ケアをアジア標準にすることが可能である.

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●センスメイキングとは「組織のメンバー・周囲のステークホルダーが事象の意味について納得し,それを集約させるプロセス」であり,先行きが見通せない環境下で特に重要になるとされている.

●個別の医療機関のセンスメイキングのプロセスが積み重なった結果として,日本の医療全体の未来も創られていく.

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●“人生100年時代”には,高齢者が緩やかに社会活動や経済活動に関わり続ける「生涯現役社会」という新たな経済社会システムへの転換が必要である.また,急激な少子高齢化に伴い疾患が生活とより密接になる中で,従来とは異なる対応が求められる.

●医療・介護の専門職が,経済社会のさまざまな主体(職場やコミュニティ,周辺産業)と連携し,ITなどの新たな技術を活用することにより,医療・介護の実力そのものを最大限引き出すことができる最適なパスにのせることができるのではないか.

●グローバルに見ても,治療と予防,健康管理・維持が一体不可分となり,医薬品・医療機器とその他IT・生活産業などの異分野融合も進展している.

●経済産業省では,100年を生ききるために,より早く適切なタイミングで健康や医療に投資する職場環境づくり(健康経営)を提唱する.健康経営やデータヘルスの議論を背景に,事業主や保険者を中心に予防・健康管理への投資に向けた注目が拡大している.また,今後増加する生活習慣関連疾患の重症化予防に向けて行動変容を促すIoTツールの開発支援などを実施している.

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●バイオエンジニアリングは,人体と物質・システムの相互作用を探求する学問領域であり,少子高齢化社会において重要な役割を果たすと期待される.

●今のままのマインドセットでは,少子高齢社会は乗り切ることができず,将来ニーズに基づくバックキャストが必要である.

●バイオエンジニアリング分野での研究開発でイノベーションを起こすためには,産官学民のあらゆるステークホルダーを研究開発初期から巻き込んだオープンイノベーションシステムが必要である.

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●少子高齢化による労働人口の減少に直面する日本でも,先進諸外国と同様に外国人労働者の受け入れについて本格的に議論されるようになってきた.日本社会における外国人の増加傾向は今後も加速してゆくであろう.

●外国籍住民に対する診療では,言語の障壁を乗り越えるほか,文化的な背景まで配慮することが求められる.また,使える制度を熟知し,大使館など関係機関との連携も重要である.

●外国籍住民を支える社会保障では,脆弱な存在である無資格滞在者や難民申請者の課題を見据える必要がある.支援に当たっては,単に医療アクセスの確保だけでなく,保健教育を充実させ,入国前から帰国後までを動的に見据える必要もある.

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わが国の医療の課題とは何か,2035年の「あるべき病院の姿」とはどういうものか,そのために病院はどうするべきか.

先の見えない時代の病院経営を考えるために,経済アナリストの視点から日本の医療のあり方を探る.

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■医療事故当事者に対する考え方の変遷

 医療安全の推進は,近年の医療界における最重要課題である.医療事故に対する考え方は,1999年に米国立科学アカデミー医学研究所が“To err is human”を発表した1)ことを契機にパラダイムシフトが起きた.すなわち,かつては医療事故の原因は,医療事故当事者個人の不注意や技術的な未熟さであると考えられていた.そのため,再発防止策は,当事者となった個人に対し,処罰や再教育をすることと考えられていた.しかし,当たり前のことではあるが,個人処罰を繰り返したところで医療現場の安全性の向上は得られるはずもなかった.その結果,現在では,医療事故の原因はシステムの脆弱性により一定の確率で発生するものと考えられるようになり,再発防止策としては,人は間違えることを前提に,人が間違えたとしても第三者に損害が発生しないようシステムの安全性を高めることと考えられるようになった(図1).

 そして,この医療安全におけるパラダイムシフトは,医療事故当事者に対する捉え方を大きく変えることとなった.すなわち,かつては,医療事故当事者は「被疑者」として取り扱われていたが,現在では,システムの脆弱性を明らかにした存在であり,他の誰もが経験しうることに遭遇したにすぎないと考えられるようになった.しかし,わが国では,いまだに個人に責任を負わせる風潮が根強く残っており,医療事故当事者は罰せられるべき罪人であるとする誤った姿勢で医療事故が取り扱われることが,しばしば見受けられる.その結果,わが国の医療安全の推進が大きく阻害されている.

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 社会医療法人財団聖フランシスコ会は,兵庫県姫路市郊外で運営する姫路聖マリア病院に併設したシミュレーション教育施設「ひめマリア」を2015年12月に開設した.以来,全国から研修希望者が引きも切らず,2016年度の利用者数は9,240名に上る.市中病院ならではの特徴は,急性期医療シミュレーションのみならず,介護,看取りまで含めた統合シミュレーションが実践されている点だ.看護師や医師,理学療法士などのコメディカル,消防署の救急救命士などが医療シミュレーション研修を受講するのはもちろんのこと,介護専門職が地域で生活者を支えるためのケアの研修を受け,さらには病院から施設・在宅へと場が広がりつつある看取りの研修を,医療従事者だけでなく患者家族などの一般市民が受けることもできるという.

連載 医療管理 原点からの展望・1【新連載】

医療の特異性 池上 直己
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連載に当たって

病院管理は実践することに意義があるので,「学」としての「理論」は不要であるという考え方もある.しかし,原点に遡って学術的に解析しないと,制度改定に翻弄されるままになりかねない.本連載は5回にわたり,病院を管理する上で地図とコンパスとなるよう,まず1回目は医療を社会学,経済学,政治学の各視点から分析する.次いで2回目は医師と病院の歴史,3回目は経営学の立場から病院組織の構造,4回目は人事管理,最後の5回目は病床管理と医療連携をそれぞれ取り上げる.連載後は加筆修正のうえ,聖路加国際大学大学院において開講される「病院管理」の教科書として刊行する予定である.なお,管理会計を中心とした財務管理は別稿1)を,医療介護政策については拙著2)を参照されたい.

連載 アーキテクチャー×マネジメント・37

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■はじめに

 今回取り上げる病院は,1987年に開院した盛岡赤十字病院である.広い敷地に中低層の建物が分棟で配置されたこの病院は,南北に延びる3本の主動線を軸に各部門が計画されている(図1).病院の特徴のひとつとして,この主動線を伸ばして増築していくことができる成長と変化に対応したマスタープランが挙げられ,1991年に日本病院建築協会(現・日本医療福祉建築協会)が優れた病院建築に贈る病院建築賞(現・医療福祉建築賞)の第1号に選ばれた.この計画に沿って,1992年には放射線・リハビリテーション部門が,2009年には緩和ケア病棟が増築された.本稿では,緩和ケア病棟について,特に自然環境と建築の関係に着眼して報告する.この緩和ケア病棟も2012年に医療福祉建築賞を受賞している.

連載 ケースレポート

地域医療構想と民間病院・20

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■公的医療機関等2025プランを活用した検討の具体例(前回の続き)

2.現状と課題

 公的医療機関等2025プラン(以下,2025プラン)では,各施設に①構想区域の現状,②構想区域の課題,③自施設の現状,④自施設の課題の4つの視点から「現状と課題」について記述することを求めている.このうち①,②については各都道府県が作成している地域医療構想の記述を分析して書くことができる.もちろん,その記述が不十分であると判断した場合は,日本医師会総合政策研究機構(日医総研)がホームページ上で提供している資料や,場合によっては追加の調査を行うなどして記述を補完する.表1,2は,福岡県の地域医療構想を基に有明構想区域の現状と課題を筆者が一つの例としてまとめたものである.

 ③,④についてはDPC対象病院であれば,公開データなどをもとに,自施設の傷病別患者数(MDC別あるいはDPC 6桁+手術の有無別)の患者像を分析することによって現状と将来の課題をある程度類推することが可能である(できれば性年齢階級別,患者居住地別,入退院の経路別なども分析する).DPC対象以外の病院はレセプトデータを基に検討することになる.具体的には,レセプト病名をICD10に転換した上で,社会保険表章用疾病分類別あるいはDPCのMDC別に集計することによってDPCの公開データと同様の検討を行うことが可能である.病名への割り付けは,厚生労働省が公開している定義表,あるいは一般財団法人 医療情報システム開発センター(MEDIS-DC)の標準病名マスター1)を利用すればよい.DPCデータやレセプトデータの分析方法については,産業医科大学公衆衛生学教室の主催する各種セミナーで公開しているので,当教室のホームページ2)などを適宜参考にしていただければと思う.

連載 事例から探る地域医療再生のカギ・19

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■何が問題だったのか

①財政破綻の危機に直面する夕張希望の杜

 夕張市立総合病院の破綻を受け,夕張医療センター(有床診療所と介護老人保健施設夕張)の指定管理運営により,全国的に高い評価を受ける医療・介護・健康づくりの実践を行った村上智彦医師と夕張希望の杜であったが,その運営は苦難の連続であった.運営当初に起きた最大の問題が,資金不足であった.前回も述べた通り,指定管理開始の契約に際して,夕張希望の杜は,夕張市・北海道に対して建物の老朽化に起因する必要以上の光熱水費負担,建物の事前の修繕,建物・医療機器の修繕について負担割合を決め,公費負担を求めた.指定管理者の契約後は,関係した行政担当者は全員いなくなり責任の所在も曖昧なまま,約束は履行されなかった.その結果,2008年4月,夕張希望の杜は高額な光熱水費の負担などが原因で深刻な財政危機に直面する.追加融資を含め夕張希望の杜が借り入れた1億2千万円はほぼ使い果たし,このままでは資金がショートすることが確実な状況に追い込まれた.

 2008年4月30日,筆者は病院アドバイザーの立場から,夕張医療センターで記者会見を行った.夕張医療センターは,あくまで夕張市が設置した「公設」民営の施設であり,民営にしたからといって,行政の責任がなくなるというものではない.病床の確保や24時間体制の救急対応など不採算部門については,行政の責任をもって負担すべきであることを訴えた.記者会見の効果などもあり,夕張市は2008年7月に,2007年度分の光熱水費の補塡として約2600万円の財政支援を行った.この財政支援により,夕張希望の杜は当面の資金不足を解消する.

連載 事例と財務から読み解く 地域に根差した中小病院の経営・7

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 JA高知病院(以下,同院)は2011年度から5期連続で赤字(税引前当期損益.以下,同様)となった.一時は病院の存続自体が議論される状況だったが,2016年度には7千万円の黒字を達成した.

 赤字の直接的な要因は入院患者の減少であるが,背景には過去の役職員の経営意識の希薄さなどがあった.今回は,赤字脱却につながった取り組みと,その取り組みが奏功した要因について考察したい.

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終末期医療に刑事司法を介入させないためのルールづくりの必要性

 終末期にある患者が耐え難い苦痛を訴えるとき,医療者はどうすればそれを緩和できるかを考えてきた.また,回復の見込みがないまま人工呼吸器につながれている終末期患者を前にして,医療者はどうすることがその患者のためになるか,医療を中止する方がよいのではないかと思い悩んできた.現在この問いは,超高齢社会の到来を背景に,これまで老衰と位置づけられてきた人々にどこまで濃厚な医療を提供するかという問題にまで広がりを見せている.医療者はそれらの患者やその家族と話し合い悩みながら,医療の方針を決めていかなければならない.こうした中で,医療者が患者のためを思ってしたこと(あるいはしなかったこと)が,患者の余命を短縮したとして刑事司法の介入(捜査・訴追・処罰)を受けるなら,医療者には大きな負荷がかかることになり,ひいては患者のためのよりよい終末期医療の実現にも暗雲が立ち込めることになろう.ここにおいて,医療者は看取りの過程で,安楽死や尊厳死と呼ばれるものが法的に問題となるのはどのような場合かという問いに直面することになる.終末期医療のルールづくりは,そうした医療者の負荷を軽減し,患者のためのよりよい終末期医療を実現しようとする取り組みにほかならない.もっとも,「暗い灰色とやや明るい灰色との間に切れ目を入れる作業」1)のように,それは一筋縄ではいかないのである.本稿では,このような問題意識のもと,安楽死,尊厳死をめぐる法の動向として,これまでの裁判例や立法提案,ガイドラインの動向を振り返りながら,そこから見えてくる課題を示し,併せて,その解決の方向性を模索したい.

連載 多文化社会NIPPONの医療・4

その健康保険証は適切か 堀 成美
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 2017年1月6日の産経新聞に「国保悪用の外国人急増 留学と偽り入国,高額医療費逃れ 厚労省,制度・運用見直し検討」という記事が掲載された.2016年に筆者が参加した外国人患者受け入れ体制整備関連のセミナーでも,「健康保険証の不適切な使用事例がある」というフロアからの同様の指摘があった.

 外国人に限らず,健康保険証の偽造や不適切な使用による診療報酬詐欺といった事件は,メディアでも何度も報じられている.外国人患者が増えると,このような問題が増えるのではないかという指摘は当初からあった.在留・訪日外国人が増えるなかで,今後,医療機関が経験するかもしれない健康保険証をめぐる問題のパターンとその対処について紹介したい.

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病院
77巻1号 (2018年1月)
電子版ISSN:1882-1383 印刷版ISSN:0385-2377 医学書院

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