連載 医療と法の潮流を読む・8
人生の最終段階でどこまで医療を提供するか—安楽死・尊厳死をめぐる法の動向
福山 好典
1
,
宇都木 伸
2
,
三木 知博
3
1姫路獨協大学人間社会学群現代法律学類
2東海大学
3武庫川女子大学薬学部
pp.76-80
発行日 2018年1月1日
Published Date 2018/1/1
DOI https://doi.org/10.11477/mf.1541210631
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終末期医療に刑事司法を介入させないためのルールづくりの必要性
終末期にある患者が耐え難い苦痛を訴えるとき,医療者はどうすればそれを緩和できるかを考えてきた.また,回復の見込みがないまま人工呼吸器につながれている終末期患者を前にして,医療者はどうすることがその患者のためになるか,医療を中止する方がよいのではないかと思い悩んできた.現在この問いは,超高齢社会の到来を背景に,これまで老衰と位置づけられてきた人々にどこまで濃厚な医療を提供するかという問題にまで広がりを見せている.医療者はそれらの患者やその家族と話し合い悩みながら,医療の方針を決めていかなければならない.こうした中で,医療者が患者のためを思ってしたこと(あるいはしなかったこと)が,患者の余命を短縮したとして刑事司法の介入(捜査・訴追・処罰)を受けるなら,医療者には大きな負荷がかかることになり,ひいては患者のためのよりよい終末期医療の実現にも暗雲が立ち込めることになろう.ここにおいて,医療者は看取りの過程で,安楽死や尊厳死と呼ばれるものが法的に問題となるのはどのような場合かという問いに直面することになる.終末期医療のルールづくりは,そうした医療者の負荷を軽減し,患者のためのよりよい終末期医療を実現しようとする取り組みにほかならない.もっとも,「暗い灰色とやや明るい灰色との間に切れ目を入れる作業」1)のように,それは一筋縄ではいかないのである.本稿では,このような問題意識のもと,安楽死,尊厳死をめぐる法の動向として,これまでの裁判例や立法提案,ガイドラインの動向を振り返りながら,そこから見えてくる課題を示し,併せて,その解決の方向性を模索したい.
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