生体の科学 71巻2号 (2020年4月)

特集 ビッグデータ時代のゲノム医学

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 「大きいことはいいことだ」—高度経済成長期が少年時代だった人間には大変懐かしいスローガンを日々,耳にします。タクトを振りまわすお髭のおじさんは見当たらないけれども,ビッグデータによるデータサイエンスが,世の中を席巻しています。技術の革新は社会を根底から変えていく。その変化の速度は,概ね,当初の予想よりもはるかに早い。今回はどうかしら?

 「数は力なり」—確かに実世界,これまでの人生ではそうだったけれど,医学研究の世界でも? う〜ん,泣きじゃくる病気の子どもから何時間もかけてやっととった理学所見や,試薬作りから工夫の限りを凝らしたwetの実験の成果が,病院の窓口の事務のお姉さんがくれる会計のレシートや,集団検診の問診票の束にかなわないなんていうのは,創意工夫と長時間労働で生き抜いてきた下町工場ラボの「関西人」の親父にはちょっと悲しいので,つい,ホンマかいな? とツッコミを入れてしまいます。「ビッグデータ時代のゲノム医学」—元臨床医で,医学の話しかわからない自分には荷が重いテーマですが,自らの疑問に答えるためにも,挑戦してみました。

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 ゲノムワイド関連解析(genome-wide association study;GWAS)によって多くの疾患関連座位が同定されているが,その生物学的機序を明らかにするには各座位のファインマッピングが欠かせない。本稿では,最新の分子生物学的アッセイと遺伝統計解析手法を組み合わせることでゲノムの三次元構造を推定し,遺伝子調節の観点から分子レベルで疾患の機序を理解することが可能であることを示す。

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 単一遺伝子疾患のゲノム解析は,ゲノム解析技術の革新により飛躍的に向上してきた(表1)1)。はじめに染色体全体を顕微鏡で可視化する方法が登場したが,この方法では,染色体の数の異常(異数体および倍数体)しかわからなかった。その後,様々な染色体分染法が開発され,バンドパターンの変化から染色体の大きめの変化がわかるようになった。その後,サンガー法(第一世代シークエンサー)やマイクロアレイが登場し,その解像度が一気に高まった。更に,2000年はじめより第二世代シークエンサーが登場し,網羅的かつ一塩基の解像度でゲノムを解読することが可能となった。この目覚ましい技術革新により,検出されるバリアント数は一個人あたり4-5百万個まで増加し,診断率は向上した。しかし,一方で予想していなかった変化(偶発所見)も検出されるようになった。

 ヒト単一遺伝子疾患のデータベースとしてOMIM(https://omim.org/)がある。2019年12月現在,8,992の単一遺伝子疾患が登録されている。そのうち疾患遺伝子が同定されているのは5,687疾患(63%)であり,まだ37%の疾患では遺伝要因が同定されていない。本稿では,ヒトの単一遺伝子疾患におけるゲノム解析の現状と,最近話題となっている新しいシークエンス技術に関して紹介する。

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 ビッグデータ時代の到来には,大規模シークエンス解析技術の急速な発展が一つの大きな要因となっている。ゲノム配列をはじめとした網羅的なオミクスデータを安価かつ簡便に取得可能となり,細胞のありとあらゆる分子情報はシークエンス技術を駆使して計測され,そのデータは大量に蓄積されつつある。

 塩基配列によらずにクロマチン状態を規定する情報はエピゲノムと呼ばれ,遺伝子発現のコントロールに重要である。エピゲノム状態の違いによって,同じゲノム配列を有するにもかかわらず様々な種類の細胞が作り出されることとなる。ゲノム変異と同様にエピゲノムの異常も疾患の原因となり得る。正常および疾患組織のエピゲノム状態を網羅的に解析することによって,これまでゲノム配列の変化だけでは説明がつかなかった疾患に対して,その発症メカニズムの解明および治療標的の同定につながる可能性が示唆されている。本稿では,主にヒト細胞のエピゲノムに着目し,主なシークエンス解析技術,疾患とのかかわり,新規解析手法を概説する。

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 多因子形質の関連座位を同定する手法であるゲノムワイド関連解析(genome-wide association study;GWAS)の開発から,18年が経過しようとしている。その間,全ゲノムインピュテーション1)による対象遺伝的変異数の増加,エクソンや特定の形質に特化したカスタムジェノタイピングアレイ2,3),近縁関係や人口構造化の混合モデルによる調整4,5),ポリジェニック効果の証明6),LDスコア回帰7)によるGWASのバイアスの定量化など,様々な遺伝統計学的解析技術の進歩があった。更には,世界各国のバイオバンクの整備が進み,2018年からは100万人規模のGWASも報告され8,9),GWASは解析手法の進歩や大規模化により,今も進化を続けている。しかし,その結果がどのように医療や医学研究に影響を与えたかについては,十分に議論されていないように思われる。

 本稿では,多因子疾患のゲノム研究の進歩について振り返ることを目的に,1つの例として遺伝率が高い眼科疾患である加齢黄斑変性に着目した。関連解析がどのように進んできたか,ゲノム研究からどのように臨床研究が行われてきたかについて概説し,これからの医療や医学研究における役割について筆者の考えを述べたい。

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 オミックス解析とは,網羅的な生体分子のプロファイリングの総称として用いられているアプローチである。分子生物学のセントラルドグマが遺伝情報から生体機能発現に至る情報の流れを明らかにしたことを受けて,急速に蓄積している個人ゲノム情報を医科学に活用していくためのツールとして,こうしたノンターゲットな生体分子のプロファイリング技術が注目されている。本稿では,臨床情報やゲノム情報がビッグデータとしての活用方法を模索されている現在,オミックス解析の利用を通じて何を目指していくことが重要であるかを考えてみたい。

Ⅱ.がんのゲノム医学

がんゲノム医学の最前線 平田 真
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 がんゲノム解析において,その対象となるゲノムは大きく2つに分類される。1つはがん組織由来のいわゆる体細胞遺伝子を対象とするものであり,もう1つは宿主側の生殖細胞系列遺伝子を対象とするものである。がんゲノムの医療における動きの一環として,2019年5月にがん遺伝子パネル検査が保険収載されるに至ったが,この検査は主に前者の体細胞遺伝子についてのゲノム解析であり,現状のがんゲノム医療では体細胞遺伝子が解析の主体となっている。しかし,医療の現場にがんゲノム解析が組み込まれるようになったといっても,意義づけが困難な遺伝子変異が検出されることや,検出された遺伝子変異に対応する治療薬がない,あるいは候補となる薬剤があったとしてもアクセスできないといった事例も多く発生しており,そのなかでがんゲノム医学として対応すべき課題も多く残されている。また,生殖細胞系列遺伝子を対象としたがんゲノム解析についても,がん罹患者のなかで遺伝性腫瘍患者の割合は5-10%といわれるが,そのなかで検出される遺伝子,バリアントは多彩であるうえ,同じ病的バリアント保有者であったとしても異なる表現型を示すこともあり,医療として実践していくうえではまだまだ多くの課題を克服する必要がある。

 本稿では,がんゲノム中核拠点病院においてがん遺伝子パネル検査におけるエキスパートパネルに対応しながら,遺伝性腫瘍の診療と研究にあたっているという立場から,がん診療の側面からみたがんゲノム医療,がんゲノム医学の現状,そこから見えてくる課題について紹介し,がんゲノム医学の今後の更なる発展のために果たすべきミッションや方向性について個人的な見解を述べる。

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 マウスは,ヒトの疾患や遺伝子の機能を研究するための優れたモデルである。また,ポストゲノム時代と呼ばれる今日において,個々の遺伝子の機能や疾患に関係する遺伝子変異の役割を解明するうえで,ノックアウトマウスやノックインマウスなどの遺伝子変異マウスの重要性はますます高まっている。本稿では消化器がんマウスモデルを中心にがんマウスモデル開発の実例を示し,更に近年開発されたSleeping Beauty(SB)トランスポゾン挿入変異誘発システム,RNA干渉(RNA interference;RNAi)やCRISPR/Cas9ゲノム編集による網羅的機能喪失スクリーニングをマウスモデルに導入したがんゲノム研究について概説する(図1)。

Ⅲ.免疫・アレルギー疾患のゲノム医学

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 自己免疫性疾患は典型的な多因子疾患であり,様々な要素で病態が構成される。遺伝率が比較的高い疾患が多く,ゲノム解析による病態解明により多くの知見が得られている。一方で,その知見をもとにした臨床応用はまだまだ緒についたばかりである。

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 近年,ありふれた疾患(common disease)の病態解析の手法として,ゲノムワイド関連解析(genome-wide association study;GWAS)が幅広く用いられている。現在では,複数の集団や,異なる人種の集団で行われたGWASの結果を統合するメタ解析が行われるようになり,大規模コホート研究のデータも活用され,数十万人の大規模解析がアレルギー疾患領域でも行われている。最適医療の提供を目指すprecision medicineにおいても,GWASなどのゲノム情報はその基盤となっている。本稿では,これまでにアレルギー疾患において報告された主なGWASを中心に解説したい。

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 関節リウマチ(rheumatoid arthritis;RA)は他の多くの自己免疫性・リウマチ性疾患と同様に,複数の遺伝・環境因子が複雑に相互作用することによって発症する多因子疾患である。これまで多くの人種においてゲノムワイド関連解析(genome-wide association study;GWAS)が行われることによって,100以上の遺伝子領域が疾患発症にかかわっていることが明らかになった1)。また,エピゲノム解析や発現量的形質遺伝子座(expression quantitative trait locus;eQTL)解析に代表される機能性ゲノム学によって,これらの遺伝子領域の病因メカニズムについても明らかになりつつある。本稿では,これらのゲノム解析によって明らかになったRAの遺伝学的背景を概説すると共に,これらの知見を臨床応用する可能性について論じる。

Ⅳ.骨・関節疾患のゲノム医学

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 変形性膝関節症(knee osteoarthritis;KOA)は,環境要因と遺伝的要因の相互作用により発症する多因子遺伝病である。このうち,遺伝的要因の占める割合(遺伝率)は双子研究から39%と報告されており1),KOA研究におけるゲノム解析研究の重要性は高い。

 遺伝的要因を規定している疾患感受性遺伝子の探索には,主に相関解析という手法が用いられている。相関解析には2つの方法がある。1つは既知の遺伝子を候補として解析する候補遺伝子解析,もう1つはゲノム上の一塩基多型(single nucleotide polymorphism;SNP)を利用して全ゲノムを網羅的に解析する全ゲノム相関解析(genome-wide association study;GWAS)である。GWASは2002年に世界で初めて行われ2),現在までに多数の多因子遺伝病の疾患感受性遺伝子の同定に貢献してきた。KOAに関してもValdesら3),Nakajimaら4)の研究を嚆矢としてGWASの報告が続いている(表)。

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 脊柱側弯症とは,脊柱が側方だけでなく後方や前方に捻じれるように変形していく疾患である。様々な病因による側弯が報告されている。そのなかで,思春期に発症する変形の原因が不明な側弯症(思春期特発性側弯症。以下,側弯症)が70-90%と最多である。通常,側弯症は第二次性徴前後で発症し,身体の成長と共に変形が進行するが,その程度には患者間で大きな差異がある。多くの症例では変形は軽度にしか進行しないため,X線写真を用いた経過観察のみで治療は必要ない。X線による指標であるコブ角が20°を超える中等症例に対しては装具治療が行われる。更にコブ角40-50°を超える重症例に進行した場合は,手術による高侵襲な治療が必要になる。臨床現場では,ここで大きな疑問が2つ生じる。すなわち,なぜ側弯症が発症するのか,そして,なぜ進行する例としない例があるのか,という疑問である。特に,手術例では脊柱がインプラントで固定されてしまうため,是非,避けたい治療である。そのため進行する/しないが事前に予測できれば,更にはその機序が解明されれば,患者にとって大きな福音になることはまちがいない。

 側弯症の病因に関して,今まで多くの領域で研究が続けられてきた。すなわち,遺伝子,環境因子,ホルモン,骨代謝,解剖,バイオメカニクス,神経生理,筋結合織,成長異常である。しかし,残念ながら前述した疑問を説明する明確な機序は未解明である。本稿では前述のうち,側弯症のゲノム研究の現状について概説する

Ⅴ.神経・筋疾患のゲノム医学

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 筋疾患は,臨床的にも遺伝学的に異質性の高い希少難治性疾患である。その原因の多くは遺伝子の異常によるものと考えられているが,一部の症例を除いてほとんど明らかになっていない。筆者らは,遺伝性筋疾患の病因論の解明と診断,治療の開発を目指し,臨床,病理,ゲノム情報をもとにした体系的,網羅的なゲノム解析を行っている。

 本稿では,将来のゲノム医療実装を目指した遺伝性筋疾患解明のための取り組みについて概説する。

Ⅵ.胎児期・周産期疾患のゲノム医学

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 ここ数年の胎児の出生前診断の大きな変化は,“超音波検査”と“母体血中細胞フリー胎児DNAを用いた新しい無侵襲的出生前遺伝学的検査(non-invasive prenatal testing;NIPT)”によりもたらされた。妊娠10-13週ごろに実施される超音波検査では,胎児の頸部浮腫(nuchal translucency;NT),静脈管血流量,三尖弁逆流,鼻骨低形成などを調べることで,胎児が21トリソミーや他の染色体異数性に罹患しているリスクを調べることができる。また,同様の目的では,超音波検査と母体血清マーカー検査(inhibin-Aとpregnancy associated plasma protein;PAPP)を組み合わせた複合検査(combined test)も実施されている。超音波検査は特定の妊娠週数に限らず実施されていることから,偶発的に見つかる先天性の胎児異常には,単一遺伝子疾患のこともあるが,超音波検査のみでは確定診断は困難である。そのような場合には遺伝学的検査が必要になる。

連載講座 新しい光学系を使って広がる顕微鏡の世界−1【新連載】

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 光学顕微鏡は電子顕微鏡に比べると空間分解能は劣るが,生物試料に大きな損傷を与えることなく生きたままの状態でイメージングが可能であるという利点があるため,生命現象を解明するための重要な技術となっている。特に多光子蛍光顕微鏡は,生体組織内部の透過率が高い近赤外光を用いることが可能であるため,深部イメージングに有用とされ,生物学・医科学分野において広く用いられるようになっている。多光子蛍光顕微鏡の研究は,超短光パルスレーザーの性能向上に伴い劇的に発展してきた1)。この背景には,吸収断面積が非常に小さい多光子吸収過程を誘起するための励起光としては,ピーク強度の高い超短光パルスが有用であることが挙げられる。また,多光子蛍光顕微鏡を容易にバイオイメージングへ応用できるようになったのは,自動波長掃引モード同期レーザーが市販されるようになったことが大きい。

 多光子蛍光顕微鏡では,高い開口数の対物レンズを用いて,励起レーザー光をきつく集光することによって光軸(深さ)方向に励起光強度の分布を与える。n光子蛍光強度は励起光強度のn乗に比例するため,蛍光が発生する領域は励起光強度の高い集光点近傍に局所化される。背景蛍光の発生を抑制できるため,共焦点ピンホールなしで三次元イメージングが可能である。また,光損傷や蛍光分子の光褪色などが生じる領域も集光点近傍のみに低減される。しかしながら,集光点を走査する必要があるため,視野を広げようとすると空間分解能を維持した状態では走査点数が増加し,時間分解能が低下する。この問題を解決するために,様々な方法が提案・実現されてきた。1999年には,レゾナントスキャナーを用いることによって,8kHzのライン走査速度,30fpsのイメージング速度でカルシウムイメージングを実現している2)。音響光学偏向器を用いれば数100kHzのライン走査速度を達成できるが,レーザー走査範囲が狭いという問題が残っている3)。また,1998年には,225fpsのイメージング速度を実現可能なマイクロレンズアレイを用いた多焦点多光子顕微鏡が報告されているが,従来のレーザー走査型の多光子顕微鏡に比べ,焦点面外における背景蛍光の発生が大きいという問題があった4)。この問題は,焦点面外において多ビームが干渉することによって,局所的に励起光強度が増強されることに起因した。そのため,この問題を克服するために時間多重化プレートが提案され,多ビーム間での干渉を抑制する手法が2000年に提案されている5)。しかし,多焦点で同時に多光子励起を誘起するためには,高いレーザーパワーを必要とする。また,マイクロレンズアレイを用いた多焦点多光子蛍光顕微鏡でさえ,マイクロレンズアレイを回転させ,レーザー走査を行う必要があるため,その走査速度に合わせた早い繰り返し周波数のパルスレーザーが必要である。そのため,広視野をイメージングするためには,非常に高い平均パワーのレーザー光を試料へ照射しなければならない。したがって,熱による試料損傷の可能性が高くなるという問題があった。また,膜電位イメージングなどの1,000fps以上の高速イメージングを必要とする場合には,これらの技術ではイメージング速度が足りていない。

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 心臓は常に血行力学的な負荷を受け,それに対応しながら全身の循環恒常性を保っている。高血圧や大動脈弁狭窄症になると心臓に極端な圧負荷が加わり,これに対して心臓は代償的に肥大して血液ポンプとしての機能を維持しようとする。しかし,慢性的に圧負荷が心臓に加わると,心臓のポンプ機能は低下して心不全を呈するようになる。この過程において,心筋細胞は様々なシグナル経路を活性化させることが知られているが,それらがいかに心臓の肥大・不全にかかわっているか明らかでない。また,その心臓の肥大・不全という過程のなかで,心筋細胞は形態的に変化すると考えられているが,細胞の形態的な変化が分子レベルの変化とどのようにリンクしているか,更にはそれがどのように機能的な変化(心臓の肥大から不全への移行)とリンクしているか,についての詳細なメカニズムは明らかでない。

 細胞はその核内での遺伝子制御により生まれる産物であり,細胞の形態的・機能的特徴はその細胞の転写により制御されていると考えられる1)。心臓への圧負荷により誘導される転写活性化を抑制することで,心臓の分子レベル・形態レベルのリモデリングを抑制できることが知られており2),転写は心臓の分子・形態のリモデリングを引き起こすと考えられる。これまで心筋細胞のシングルセルレベルの遺伝子発現解析により,老化に伴った転写不均一性の存在3),負荷による脱分化や細胞周期リエントリーの可能性4)が示されており,遺伝子発現は細胞の機能情報を反映していると考えられるが,どの遺伝子プログラムが形態的リモデリングを制御し,心肥大から心不全といった機能的リモデリングを制御しているか,という本質的な問いに対する答えはいまだない。心不全の病態生理や本質的な治療標的を同定するためには,細胞レベルで心筋細胞の特徴を詳細に理解する必要がある。また,モデル動物とヒトとの相違について理解することで,心不全における疾患層別化に寄与する分子病態を特定することも可能となる。

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目次

次号予告

財団だより

財団だより

お知らせ

あとがき 松田 道行
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 科学技術立国の危機を訴える本をよく目にするようになりました。諸外国が軒並み科学研究費を増額するなか,日本のみがバブル以降ほとんど研究費が増えておらず,将来に暗雲が立ち込めています。身も蓋もない言い方ですが「研究は金である」のは間違いありません。今回特集したビッグデータに基づくゲノム研究などは象徴的な例でしょう。何サンプルをシーケンスできるかなと財布の中を覗きながら研究する業界です。そういう逆境のなか,今般の特集では,日本人に多い疾患に光を当てたり,工夫を凝らした解析法で新たな局面を開いたりした研究が紹介されており心強く思いました。とはいえ,やはり,研究費の問題に科学者がもっと声をあげるべきだと思います。お金が少ないから,選択と集中をするという政府の考え方は間違っていると思わざるをえません。ムーンショットプロジェクトでは,8つのプロジェクトに毎年1,000億円をこえる金額を投入するそうです。誰かが考えた「当たったらいいな」なんて知れている。それよりは若い研究者にばらまいて,10年後に「“なにか”が出たらいいな」と期待したほうがよっぽどいい。科研費の総額が2,300億円ですから,ばらまけば,一人当たり50%アップになります。「ばらまき」を目の敵にしていたのはどの政党だったか忘れましたが,「花咲じじい」プロジェクトとか銘打って,研究費を広くばらまくような知恵者が政治家にいてくれたらよかったと思います。

 最後になりましたが,ご多忙中のところを編集いただいた池川先生ならびにご寄稿いただいた諸先生方にお礼申し上げます。

基本情報

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生体の科学
71巻2号 (2020年4月)
電子版ISSN:1883-5503 印刷版ISSN:0370-9531 金原一郎記念医学医療振興財団

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