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心臓は常に血行力学的な負荷を受け,それに対応しながら全身の循環恒常性を保っている。高血圧や大動脈弁狭窄症になると心臓に極端な圧負荷が加わり,これに対して心臓は代償的に肥大して血液ポンプとしての機能を維持しようとする。しかし,慢性的に圧負荷が心臓に加わると,心臓のポンプ機能は低下して心不全を呈するようになる。この過程において,心筋細胞は様々なシグナル経路を活性化させることが知られているが,それらがいかに心臓の肥大・不全にかかわっているか明らかでない。また,その心臓の肥大・不全という過程のなかで,心筋細胞は形態的に変化すると考えられているが,細胞の形態的な変化が分子レベルの変化とどのようにリンクしているか,更にはそれがどのように機能的な変化(心臓の肥大から不全への移行)とリンクしているか,についての詳細なメカニズムは明らかでない。
細胞はその核内での遺伝子制御により生まれる産物であり,細胞の形態的・機能的特徴はその細胞の転写により制御されていると考えられる1)。心臓への圧負荷により誘導される転写活性化を抑制することで,心臓の分子レベル・形態レベルのリモデリングを抑制できることが知られており2),転写は心臓の分子・形態のリモデリングを引き起こすと考えられる。これまで心筋細胞のシングルセルレベルの遺伝子発現解析により,老化に伴った転写不均一性の存在3),負荷による脱分化や細胞周期リエントリーの可能性4)が示されており,遺伝子発現は細胞の機能情報を反映していると考えられるが,どの遺伝子プログラムが形態的リモデリングを制御し,心肥大から心不全といった機能的リモデリングを制御しているか,という本質的な問いに対する答えはいまだない。心不全の病態生理や本質的な治療標的を同定するためには,細胞レベルで心筋細胞の特徴を詳細に理解する必要がある。また,モデル動物とヒトとの相違について理解することで,心不全における疾患層別化に寄与する分子病態を特定することも可能となる。
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