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光学顕微鏡は電子顕微鏡に比べると空間分解能は劣るが,生物試料に大きな損傷を与えることなく生きたままの状態でイメージングが可能であるという利点があるため,生命現象を解明するための重要な技術となっている。特に多光子蛍光顕微鏡は,生体組織内部の透過率が高い近赤外光を用いることが可能であるため,深部イメージングに有用とされ,生物学・医科学分野において広く用いられるようになっている。多光子蛍光顕微鏡の研究は,超短光パルスレーザーの性能向上に伴い劇的に発展してきた1)。この背景には,吸収断面積が非常に小さい多光子吸収過程を誘起するための励起光としては,ピーク強度の高い超短光パルスが有用であることが挙げられる。また,多光子蛍光顕微鏡を容易にバイオイメージングへ応用できるようになったのは,自動波長掃引モード同期レーザーが市販されるようになったことが大きい。
多光子蛍光顕微鏡では,高い開口数の対物レンズを用いて,励起レーザー光をきつく集光することによって光軸(深さ)方向に励起光強度の分布を与える。n光子蛍光強度は励起光強度のn乗に比例するため,蛍光が発生する領域は励起光強度の高い集光点近傍に局所化される。背景蛍光の発生を抑制できるため,共焦点ピンホールなしで三次元イメージングが可能である。また,光損傷や蛍光分子の光褪色などが生じる領域も集光点近傍のみに低減される。しかしながら,集光点を走査する必要があるため,視野を広げようとすると空間分解能を維持した状態では走査点数が増加し,時間分解能が低下する。この問題を解決するために,様々な方法が提案・実現されてきた。1999年には,レゾナントスキャナーを用いることによって,8kHzのライン走査速度,30fpsのイメージング速度でカルシウムイメージングを実現している2)。音響光学偏向器を用いれば数100kHzのライン走査速度を達成できるが,レーザー走査範囲が狭いという問題が残っている3)。また,1998年には,225fpsのイメージング速度を実現可能なマイクロレンズアレイを用いた多焦点多光子顕微鏡が報告されているが,従来のレーザー走査型の多光子顕微鏡に比べ,焦点面外における背景蛍光の発生が大きいという問題があった4)。この問題は,焦点面外において多ビームが干渉することによって,局所的に励起光強度が増強されることに起因した。そのため,この問題を克服するために時間多重化プレートが提案され,多ビーム間での干渉を抑制する手法が2000年に提案されている5)。しかし,多焦点で同時に多光子励起を誘起するためには,高いレーザーパワーを必要とする。また,マイクロレンズアレイを用いた多焦点多光子蛍光顕微鏡でさえ,マイクロレンズアレイを回転させ,レーザー走査を行う必要があるため,その走査速度に合わせた早い繰り返し周波数のパルスレーザーが必要である。そのため,広視野をイメージングするためには,非常に高い平均パワーのレーザー光を試料へ照射しなければならない。したがって,熱による試料損傷の可能性が高くなるという問題があった。また,膜電位イメージングなどの1,000fps以上の高速イメージングを必要とする場合には,これらの技術ではイメージング速度が足りていない。
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