公衆衛生 67巻1号 (2003年1月)

特集 今日の学校保健

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 学校における健康推進は学校保健が核となって進められることになっている.したがってここでは,その学校保健について与えられた課題にそって解説するとともに,問題点を明らかにし,今後の方向性を探ることにする.

学校保健の目的と学校教育

 文部科学省設置法では,「学校保健は保健教育と保健管理をいう」と定めている.しかし,昭和33(1958)年に制定された学校保健法は,第一条目的で「学校における保健管理及び安全管理に関する必要事項を定め,児童生徒及び幼児並びに職員の健康の保持増進を図り,もって学校教育の円滑な実施とその成果の確保に資すること」と謳い,保健管理および安全管理についてのみを定めた法律となっている.保健教育は,この法律が制定される以前から『学習指導要領』に必要事項が定められていたという事情によって除外されたと言われる.

学校保健の組織と運営 瀧澤 利行
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 21世紀における国民の健康づくりを担う包括的活動としての公衆衛生は,「健康日本21」の基本デザインにおいて明らかなように,人々のライフサイクルの全域にわたるいわゆる「生涯保健」の理念を前提とする.そのライフサイクルにおいてきわめて重要な時期となる学童期から青年期での公衆衛生のフィールドとなる学校保健の基本原理や組織と運営の実態は,公衆衛生全般の動向の中で,必ずしもよく知られたものであったとは言いがたい.

 本稿では,学校保健が公衆衛生活動としてどのような特徴をもっているか,また学校が有する社会的機能である教育と公衆衛生との関係について,その組織と運営の原則や課題に焦点を絞りながら論じていくこととする.

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 人間のライフサイクルは,大別すると,発育期,成人期,老化期(加齢期)に区分できる.発育期は,さらに区分すると,乳児期および幼年期,少年期および青年期と分けることができる.少年期の終わりから青年期の始めにかけては,いわゆる思春期が入る1)

 学校保健が主な対象とする少年期(学童期)および青年期は,発育発達の著しい時期であること,健康習慣や健康認識は青少年期に身につきやすく,成人になって身につけた行動よりも生活(ライフスタイル)の一部となる可能性が高いことなどから,学校保健の活動は他のライフステージでは代替できない重要な意義と役割を持っている.

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 学校保健は明治以来の歴史を有し,固有のシステムを形成してきた1).今日,地域保健や職域保健との接続あるいは連携の必要性が高まり,改めて健康管理システムとしてのあり方が問われていると理解される.

学校保健と保健管理

 1. 学校保健の領域構造

 学校保健においては図に示すような組織の形式で「学校保健の領域構造」が唱えられてきた.学校保健は保健管理と保健教育の2本の柱から成り,それらを保健組織活動が支えるという形になっている.保健管理と保健教育を車の両輪に例えるなら,保健組織活動は車輪が円滑に進むような調整,援助,支持を行う.保健管理はまた環境管理と健康管理とに大別され,対人管理である後者は健康診断と健康相談から成っている.また,保健教育は保健指導と保健学習から成っている.保健指導は保健管理の中でも行われることがあるので,保健管理のもう1つの枝が伸びるように示されることもあるが,次に述べるように「健康教育」の概念を広くとらえ,その一環として保健指導を考える場合は図のままで考える.

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 性に対する価値観の多様化に伴う性感染症の増加や,若年層のHIV感染者・エイズ患者が増加する中で,「生命の尊重」「人権」「自己の確立」を基盤とした健康教育は,学校や地域社会と連携して取り組むべき重要な課題であった.しかしながら,学校と連携したエイズおよび性感染症を含めた思春期教育は,本豊田市においても進んでいるとは言えなかった.

 平成9年度,当時の愛知県保健所は,思春期教育の必要性を感じながらも,年間の事業計画の中で1教室,延べ4回の肥満教室等の開催に時間を割いていた.この間,中学校の保健室では,生徒の性体験および性感染症の相談に乗ることが多くなっており,性教育およびエイズ教育の必要性を実感していたが,「指導」の域から「教育」への脱皮ができていなかった.地域(PTA)も思春期教育の必要性を感じながらも,目の前の現象である校内暴力や不登校等にいかに対応するかに力を注いでいた.一方,保健所は,人口動態指標の人工妊娠中絶数や,感染症発生動向調査に基づく性感染症の動向およびエイズ検査から得る若者の生態,ならびに薬事監視で得た生徒のコンドームや妊娠反応薬の購入状況等の情報に接しながら,これらの指標を有効活用していなかった.

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 学校保健のなかで養護教諭の中心的な活動というのは,児童・生徒への心理的支援である.本稿ではまず,28年間中学・高校の保健室で養護教諭として勤務していた筆者の経験から1つの事例を紹介し課題について触れ,その後養護教諭の役割や,子どもへの心理支援プログラムについても言及したい.

不登校だったAさん

 筆者が不登校となったAさんに出会ったのは,1977年1月の土曜日のことであった.中1のAさんが「気持ちが悪い」と保健室に来た.冬休み中の午前・午後,2つの塾に通っていたとのことで明らかな過密生活,体調不良の様子であった.そして翌日から不登校が始まった.筆者は家庭訪問や,請われるままのカウンセリングを57回にわたって行った.しかし結局不登校は続き,保健室登校をしながら卒業した.

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 昭和33年に学校保健法が制定され,学校医の職務が保健管理を中心に明確に規定され,今日まで44年が経過した.この間,医療技術の進歩,環境衛生の整備,栄養の改善等に伴い,児童・生徒の体位,体力も向上し,保健管理の目標も当初の学校伝染病から心・腎疾患等の慢性疾患に移り,次いで小児生活習慣病やアレルギー疾患,さらにスポーツ傷害への対応が注目されるようになった(図1).

 このような児童・生徒の健康問題の解決のため,それぞれの時代に必要な法規の改正が行われ,それに従って学校医の職務が具体的に遂行されてきた.

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はじめに―学校歯科保健の歴史から見た学校歯科医の法的身分と職務

 わが国の公教育は明治5年から始められ,学校歯科は先人のボランティア精神と歯科医業体制の確立のはざまの中で,数々の困難な状況を克服しながら,口腔衛生の一分野として多くの社会的な評価を得るまでに成長してまいりました.

 近年になって教育活動としての学校歯科の実践研究の事例は,WHOを通して世界各国に紹介され,またわが国の学会等においても学校歯科保健の成果が注目され,「8020」運動の早期達成理念である生涯歯科保健活動の出発点として,独自性の高い活動にさまざまな評価と賛辞をいただいています.

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 “公衆衛生の人づくり”というお題をいただいて寄稿させていただくことになった.筆者が公衆衛生に一歩を踏み出して20年.公衆衛生の広大な研究・実践領域のごく一部にかかわり,また衛生学・公衆衛生学の教育者としての自覚を持ったのもごく最近の話であり,ごく限定された経験に基づいた私見となることはお断りしておきたい.ここでは,“公衆衛生の人づくり”における行動科学という要素の大切さについて述べてみたい.

公衆衛生の基礎技術としての行動科学

 疫学研究によってがん,脳血管疾患,虚血性心疾患などの主要な慢性疾患に対して,どのような生活習慣がどの程度の影響を与えるかが明らかになってきた.しかし疫学研究の成果が疾病のコントロールにつながるためには,人々の生活習慣を変容するための手段が必要になる.生活習慣を変えたいとすでに動機づけのある人々を支援することだけを考えてみても,知識の伝達を中心とした健康教育では困難であることは,多くの公衆衛生従事者が経験しているところである.

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わが国の公衆衛生の歩み

高鳥毛 まず,20世紀の公衆衛生の歴史を振り返ることから話をすすめたいと思います.わが国の公衆衛生の原点は,どこにあるのでしょうか.

上畑 20世紀のわが国の公衆衛生を振り返ってみると,戦後60年間に,世界でも稀に見る発展を遂げてきました.GHQは戦後,公衆衛生にかなりの力を注ぎ,保健所を核に,結核対策や伝染病対策,栄養失調対策や母子保健活動等,地域住民と一体となって公衆衛生活動を進め,それをほとんど成功させたのです.ここがわが国の公衆衛生の出発点で,原点であり,現在の平均寿命世界一,乳児死亡率の低さ世界一,という成果につながっているのだと思います.

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 2001年2月9日(現地時間),太平洋ハワイ沖にて,愛媛県立宇和島水産高校実習船「えひめ丸」が,アメリカ合衆国海軍の原子力潜水艦「グリーンビル」に衝突され,沈没する事故が発生した.直ちに知事を本部長とする愛媛県対策本部が設置され,県精神保健福祉センターを中心としたケアが検討された.しかし,地元の被害者が多数いることから,保健所としても早急な対処が必要と判断し,支援活動を開始した.

 「えひめ丸」には,生徒(事故当時2年生)13人,指導教官2人,乗組員20人の総勢35人が乗船していた.事故直後,26人が救助艇に避難したが,生徒4人,指導教官2人,乗組員3人が行方不明となった.10月の船体引き揚げ時に,行方不明者9人のうち8人の遺体は収容され,身元確認がされたが,残る生徒1人の遺体は発見されなかった.

連載 医学ジャーナルで世界を読む・1

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 ものを「読んで学ぶ」タイプか,話しを「聞いて学ぶ」タイプか.自分がどちらに属するのか,はっきり自覚することが,専門家として成長するうえで決定的に重要だ.経営学者のピーター・ドラッカーが,どこかでそんなことを書いていた.

 著者の場合,ほぼ完全に「読んで学ぶ」タイプだ.現在,10種類ほどの英文医学専門誌を,個人的に購読している(表).その半分は週刊誌なので,月あたりにすると約30冊が,自宅に郵送されてくる.職場から帰宅すると,まずはその日配達されてきたジャーナルの封を切って取り出すのが日課だ.夕刊を広げるかわりに,医学雑誌のページをめくるようなものだ.

連載 水俣病から学ぶ・1

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環境汚染のシンボル「MINAMATA」

 今からちょうど30年程前の1972年6月,スウェーデンの首都ストックホルムで,国連人間環境会議が開かれました.世界中の国々から大統領や首相,関係閣僚が出席して,初めて環境問題について話し合った歴史的な会議で,20年後の92年にはブラジルのリオデジャネイロで,30年後にあたる昨年は南アフリカのヨハネスブルグで,と会議は継続されました.

 国連がこの大がかりな国際会議を開催するきっかけになったのは,その10年前に出版されたレイチェル・カーソンの名著『沈黙の春』1)の影響がありました.生物学者である彼女はこの中で,農薬の使用によって鳥のさえずりさえ聞こえなくなってしまった春を,悲しみと怒りを込めて描いています.人間の生産活動が,生物の生存を脅かしていることに人類は初めて気付かされたのでした.確かに,それ以前にもロンドンの大気汚染やさまざまな鉱山被害は問題になっていましたが,それらはいわゆる環境汚染としてはまだ認識されていなかったのです.

連載 地方分権による保健医療福祉活動の展開・13

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「個人の健康」へ向かうべき世界の健康政策

 世界のどこで,どのような健康政策を作ろうが,その究極の目標は「個人が健康を享受し,その健康的な状況を死ぬまで続けられること」であるに違いない.この目標を見定めた社会づくりがなされなければ,より健康的な人々のための社会がつくられる方向へとシステム変換することはできない.特に20世紀後半から21世紀初頭の世界の状況を見れば,より顕著になりつつある南北の大きな経済格差と共に,より注目されるべきは「健康格差」である.しかしこの健康格差は単に貧しい国々にだけ存在するのではなく,富める国でも貧しい国でも,その国々の中に同様の格差があり,また表現型も全く違ったものとなる.

 現在,富んだ国の悩める健康は肥満であり,とりわけ生活習慣病である.貧しい国では昔ながらの感染症の蔓延であろう.しかし世界が狭くなりつつある今日,これらの単純な構図はもはや終わりに近づきつつあり,例えば米国では西ナイルウイルスによる多数の感染と死亡や,また世界のほぼすべての貧しい国々の都市部を中心に起きている生活習慣病(慢性病)の爆発的な増大は,それぞれが旧来の国単位での政策のみでは,人々の健康を維持・向上させることは不可能であることを示唆している.

連載 私の見たイギリス保健・医療・福祉事情[番外編]

麻薬・アルコールと性 近藤 克則
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 今回は連載の「番外編」として,イギリスの日常生活やニュースの中から,麻薬とアルコール,性を巡る話題を紹介しよう.

麻 薬

 麻薬にも,大麻(cannabis)にはじまりコカイン(cocaine),ヘロイン(heroin),マリファナ(joint)などソフト・ドラッグと呼ばれるものから,もっとハードなものまでいろいろな種類がある.このうち大麻のようなごく軽い麻薬が相当の規模で,イギリス社会に浸透している.ある調査によれば,11~16歳の使用経験者がここ数年で11%から14%に増加しており,社会問題化している.

 私がこの問題に驚き興味を持ったのは,留学していた大学の授業で,ディベートのテーマとして「大麻の合法化の是非」が取り上げられたことがきっかけである.大学生でも大麻使用経験者は珍しくなく,私が話を聞いた学生によれば,2~3割はいるという.そのディベートで合法化の立場で意見を述べた学生の,あまりの迫力と説得力(?)に「こいつは使用経験がありそうだ」と感じてしまった.

連載 介護保険下の公衆衛生活動を考える・10

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男性(84歳):コロモジラミ症,糖尿病,人格障害の疑い(人嫌い),要介護1,一人暮らし,木造アパート2階,生活保護

超高齢社会と衛生害虫

 平成9年1月に公開された国立社会保障・人口問題研究所の「日本の将来推計人口」の中位推計によれば,わが国の総人口は2007年を境に減少し始め,2050年には1億50万人と現在より約2割減となる一方,65歳以上人口の割合は今後も上昇し続け,約半世紀後には約3人に1人が65歳以上という,超高齢社会が到来する.そうなるといったい何が起きるだろう.年をとると,体力や筋力が衰え,布団の上げ下ろし,掃除,洗濯などの毎日の日常生活動作ができなくなってくる.だんだんと,家の中,部屋の中が乱れてきたときに,いつの間にかネズミや虫たちの棲家になっていると,想像したことがあるだろうか.

連載 米国の知的障害者サービスと脱施設化に学ぶ わが国の痴呆性高齢者対策への警鐘・4

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 前号にひき続き,本稿では,米国の知的障害者対策の歴史的展開,すなわち,脱施設化を生んだ背景である権利擁護活動,北欧から導入されたノーマライゼーションの原理,そしてケネディ大統領に端を発する連邦政府の知的障害者施策への介入の様子などについて紹介する.

脱施設化の背景

 1960年代後半から起こった米国知的障害者サービスの大転換は,以下の3つの背景,第一は全米知的障害児(者)のための親の会が設立され,知的障害児(者)への権利擁護運動が緒についたこと,第二は北欧で障害者援助の原理として起こったノーマライゼーションの理念が米国に紹介されたこと,第三は連邦政府の知的障害者サービスに対する関心が高まったこと,が挙げられる1).以下,それぞれについて述べる.

連載 日本学術会議環境保健学研究連絡委員会主催公開シンポジウム 環境と健康の危機管理・4

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 「安心と安全」は患者が医療機関に期待する最も基本的な事柄であり,医療機関としても日々その実現に努力している.しかし,現実には昨今のマスコミ報道にあるように,患者の取り違えや医療機器の誤操作などによる事故が後を絶たず,医療や医療機関に対する「安全神話」は大きく崩れつつある.大学病院も例外ではなく,某大学病院では集中治療室で治療中の患者が外部からの侵入者によって殺害されるというショッキングな事件さえ発生している.

 なぜ病院は安全な場所ではなくなりつつあるのか,どうすれば再び安全な場所に復活できるのであろうか.まず,医療の現場でどのような変化が生じているのか,安全を脅かしている事柄とはどのようなものなのか,そして安全を守るためにはどのような対策がなされなければならないのか等の点について,本学大学病院での取り組みをもとに考えてみたい.

連載 厚生行政ホントの話・1

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 1月28日のWHO事務局長選挙が注目されている.元ノルウェー首相の現職ブルントラント事務局長が予想に反し二期目不出馬を突然表明.以来,モザンビーク現首相やメキシコ,レバノン,エジプトなどの現役閣僚,“兄弟機関”UNAIDSの事務局長など9名の候補が乱立.ジュネーブで開催されるWHO執行理事会最終日,わが国を含む32執行理事国の投票により選出されるのである.

 無論,最大の関心事は誰が次期事務局長に当選するかである.いろいろな分析やゴシップが毎日のように飛び交い,投票日ギリギリまで楽しませてくれるであろう(ここでは触れない).しかし,公衆衛生関係者としては,この選挙に注目すべき論点があることを忘れてはならない.それは,公衆衛生実践組織に求められるリーダー像である.

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 特別養護老人ホーム(以下,特養)は昭和38年の老人福祉法の制定に伴い設置された入所施設である.この特養では,福祉施設でありながらも,高齢者の死の1つの場所として,大きな役割を果たしている.

 秋田県大館市にある,特別養護老人ホーム神山荘における入所者の15年間(昭和61年~平成12年)の死亡の実態について調査したので,本稿にて報告する.なお,この施設は福祉法人経営の特養(昭和61年設立)で,定員50名である.

基本情報

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公衆衛生
67巻1号 (2003年1月)
電子版ISSN:1882-1170 印刷版ISSN:0368-5187 医学書院

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