細胞工学 33巻3号 (2014年2月)

特集 オプトジェネティクスを用いた神経機能操作の現在地:光で行動をコントロールする

基礎の基礎 山中 章弘
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オプトジェネティクス(光遺伝学)とは2005年に開発されたまったく新しい研究技術であり,光を意味する接頭語(オプト)と遺伝学(ジェネティクス)をつないだ造語である.新しく開発された技術ではあるが,すでに現在の神経科学研究分野において欠かせない技術となっている.オプトジェネティクスはNature誌の2010年Method of the year に選出されている.これは生物学だけでなく,化学,工学などを含めた全自然科学研究分野の中から,その年の最も優れた技術が表彰されることからもそのインパクトの大きさを窺い知ることができる.本特集では,オプトジェネティクスについての基礎から最先端までを幅広く紹介し,オプトジェネティクスをまったく知らない方はもちろん,よく知る方でも十分楽しめる構成となっている.

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オプトジェネティクス(光遺伝学)を最大限に活用するにあたり,“光遺伝学分子ツール(OMR)の選択”“目的細胞への導入・発現”“光学系の最適化”の三要素を考慮する必要がある.チャネルロドプシン1(ChR1)とチャネルロドプシン2(ChR2)のキメラ分子およびその点変異体は,様々な研究目的に最適化されている.エレクトロポレーション法はOMRの導入に加えて他の遺伝子操作を併せて行ったりする場合に威力を発揮する.多点並列的光学系としてはデジタル・マイクロミラー・デバイス(DMD)やこれを組み込んだプロジェクターが利用できる.

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動物の行動の背景にある定型的な運動出力パターンはどのようにして生成されるのか.本稿では,オプトジェネティクス(光遺伝学)による活動操作を,個体全体や局所神経組織に適用可能なショウジョウバエの幼虫を用いて,定型運動を生む神経回路の仕組みを明らかにしようとする筆者らの研究を紹介する.特に,ぜん動運動に伴う体の前後に沿った神経活動伝播の制御における,運動ニューロンや介在ニューロンの役割を明らかにした最近の研究について解説する.

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ゼブラフィッシュは分子生物学的操作が容易なモデル動物で,しかも幼魚の体は小さく透明であるため,光遺伝学的な実験操作がしやすい.また,脊椎動物として比較的単純な神経回路を持ち,シンプルな行動をとるので,行動を制御する神経回路の解析にも適している.本稿では,ゼブラフィッシュの光遺伝学ツールを用いた解析手法と,それらを用いた筆者らのゼブラフィッシュ遊泳行動に関わる後脳神経細胞の解析を紹介する.

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光遺伝学では機能分子である光感受性タンパク質(オプシン)を使う.機能分子の機能をいかんなく発揮させるには,十分な発現量を得ることが肝要である.ではどうやってそれを達成すればよいか.方法はたくさんあるが,実際に手を動かす立場としては楽な方法を選びたい.本稿では,遺伝子改変マウスの交配によって光遺伝学に有用な実験動物を(楽に)得る方法を紹介する.交配するだけで実験動物が得られるメリットを活かして準備段階を有利に進めることができ,さらにここで紹介する遺伝子発現システムは他の機能分子の発現でも試す価値がある.

睡眠覚醒の制御 山中 章弘
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光遺伝学を用いて神経活動操作と行動制御が行われているが,ほとんどはチャネルロドプシン2(ChR2)を用いた活性化である.神経活動の抑制もできるハズなのになぜ活性化ばかりなのだろうか? 光遺伝学を用いて神経活動を抑制するときに問題となる様々な点とその改良点などについて,睡眠覚醒調節に重要な視床下部のオレキシン産生神経細胞における研究を例にして概説する.また,オレキシン神経活動の抑制の結果から明らかになった睡眠覚醒調節のメカニズムについても紹介する.

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大脳皮質では,局所神経回路および他領域からの遠隔神経回路により,神経回路が構成されている.1つの神経領域は多数の回路に属しているため,脳機能と回路機能の因果関係を解明することは容易ではない.しかし,オプトジェネティクス(光遺伝学)ツールを駆使することで,神経細胞種選択的に神経活動を操作可能であり,この光生理学的手法は回路の動作原理の解明に役立っている.生きた動物の脳における回路操作には,主に光ファイバーを用いることが多い.光ファイバーは,柔軟なため自由行動下の動物に適用でき,かつ局所的に光照射できる.本稿では,光ファイバーを用いた大脳皮質における神経回路研究について概説する.

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グリア細胞の活動は神経細胞と異なり,電極で自在に制御できなかったため,その容積が脳の半分以上を占めるにもかかわらず,その役割を明らかにすることが困難であった.一方,チャネルロドプシン2(ChR2)の脳科学への応用は急速に広がったが,このツールをグリア細胞に適用する動きはほとんど出てこなかった.既成概念に基づけば,グリア細胞を脱分極させても何も起きないはずであったからである.しかしこのたび筆者は,従来は無意味と考えられてきた実験に挑戦した.するとグリアの発する信号が脳機能を左右すること,グリアからの伝達物質放出を支える新しい原理,脳虚血時に発動されるグリアの暴走を制御する仕組みなどが次々と明らかになった.

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光遺伝学(オプトジェネティクス)とfMRIを組み合わせたofMRIを用いると,特定の脳細胞活動を光操作したときの全脳応答を計測できる.近年,マウスのような小さな脳のfMRI計測も可能となった.筆者らは,これらを組み合わせ,特定の脳細胞(海馬神経細胞あるいはグリア細胞)に光感受性イオンチャネル(ChR2)を発現させた遺伝子改変マウスのofMRIに成功した.これらの脳細胞を光刺激したところ,予想外の脳領域が応答することを観察した.脳領域間の活動伝播について,相関関係だけでなく,因果関係にも迫れる可能性が出てきた.

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近年,光作動性のイオンチャネルやイオントランスポーターをニューロンに発現させ,ニューロンの神経活動を光照射によりコントロールする技術(オプトジェネティクス,光遺伝学)が開発され,神経回路研究において爆発的に普及してきている1) .特異的な遺伝子発現を誘導できるようなウイルスベクターに,これらの光作動性イオンチャネルやイオントランスポーターを搭載して発現させることで,神経回路を構成する特定のニューロンの機能を詳細に調べることが可能になってきた.また,ウイルスベクターをマウスやサルなどのモデル動物個体に感染させ,光ファイバーを脳内に挿入して光照射を行うことで,光作動性イオンチャネルやイオントランスポーターを発現させたニューロンの機能を,個体レベル・行動レベルで解析することも可能になっている.また,オプトジェネティクスツールを発現する遺伝子改変マウスの整備も精力的に進んでいる.

基本情報

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細胞工学
33巻3号 (2014年2月)
電子版ISSN: 印刷版ISSN:0287-3796 学研メディカル秀潤社

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