看護教育 62巻1号 (2021年1月)

特集 医療安全教育力を向上しよう

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医療安全教育の必要性は誰もが認めるところです。しかし、看護基礎教育において、その教育内容は教育機関ごとに差が大きく、卒業後、臨床での具体的な医療安全指導の際にも対応の難しさが生まれているようです。その背景には、標準化された教育内容がないために演習環境を整えにくかったり、指導を行う教員が十分な研修を受けられていないといった状況が考えられます。

今回の特集では、近年の医療安全教育の状況をもとにあらためて課題を認識し、その解決方法を考えます。さらに、臨床と連携して教育を行っている実践例を取り上げ、看護教員の医療安全教育力アップにつなげることをめざします。

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 看護基礎教育における医療安全教育は、2003年に示された医療提供体制の改革ビジョンを受けて、保健師助産師看護師学校養成所指定規則(以下、指定規則)の第4次改正(2008年)により、看護の統合と実践として教育内容に加えられ、現在に至っています1)

 この指定規則改正に向けた検討会2)では、患者の安全が重要視されるなかで、学生の技術修得機会の減少・限定化が進んでいる臨地実習の現状と、それによる新人看護師のリアリティショック、高度医療についていけないことによる早期離職、臨床現場の要求とのギャップ、就職後の多重課題への対応困難、新人看護師の事故やヒヤリ・ハット事例へのかかわりの多さなどの多くの課題が看護基礎教育にあるとされています。そして、その打開策としての臨床実践に近いかたちでの学習を求め、具現化として位置づけられたのが統合分野における「医療安全の基本的知識の修得」でした。これは、それまでのような各専門科目に依拠した安全教育だけでは、現在の医療の現状に対応できる看護実践能力の獲得に至らないことを示したものでした。

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 2008年の指定規則改正で、医療安全の基礎知識の修得が看護基礎教育に盛り込まれることになって久しいが、そのカリキュラム上の位置づけや教育方法については依然として各教育機関に任されている。このような医療安全教育が体系化されていない状況は、学生の基礎知識の修得や、教授する教員の教育スキルに影響を及ぼしているものと推測される。この問題意識をもとに、筆者らは、医療の質・安全学会の学術集会等の場を活用して、看護職の医療安全教育の在り方をめぐる検討を続けている。

 2016年の学術集会では、“看護基礎教育から始める医療安全教育”のセッションにおいて、筆者は「臨地実習に活かす医療安全教育―卒後への助走」と題し、「安全」の概念が複数の専門科目の教育内容のなかに組み込まれている島根大学の、学年進行に応じて知識を統合し積み上げていく医療安全教育の実例を紹介した1)。そこでは、従来の安全教育は、対象者に提供する看護技術のスキルのなかに位置づけられ、根拠に基づく安全な看護技術の習得に重点が置かれてきたが、カリキュラムのなかに、システム整備による安全保障の考え方、組織横断的・包括的マネジメントとしての医療安全管理の理念と方法の学習を位置づける必要があることを提起した。同じく2017年には「学生の失敗は病院の宝―実習関連のインシデントを病院の医療安全に組み込む」と題して、学生の失敗が臨床指導スタッフだけでなく、教育推進責任者から医療安全システムにフィードバックされた事例を紹介し、安全な実習環境をつくり、医療安全文化醸成の位置役を担うという観点からの教員の役割を提示した2)。その際に、インシデントを体験した個々の学生への対応は教員次第であり、学生の医療安全力を育むためには、まず、教員自身の医療安全教育力が問われるべきではないかと問題が提起された。その問題提起を受けて、2018年には、教員自身の“医療安全”に対する見方・考え方、態度および、医療安全教育力とは何かに焦点をあてて、学生と医療安全に向き合うことの意味を模索した3)

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はじめに

 医療の高度化・専門化、入院日数の短縮により、臨床現場では複雑で多様な状況に対応できる臨床実践能力と業務遂行が求められ、入職直後の新人看護師であっても、患者の安全を担保した看護実践が不可欠となる。一方、看護基礎教育では、2008(平成20)年の指定規則改正により統合分野が新設され、「看護の統合と実践」に医療安全の基礎的知識を含む内容とすることが明記された。しかし、その内容は詳細に示されておらず、各教員の裁量に任されている現状や、一貫した医療安全教育の実践には組織的な教員の連携が必要であることが示唆されている1)

 また、臨地実習においても、実施体制に関する最大の課題は、身体に直接影響を及ぼす技術について、実地に体験をとおして実践能力の基礎を培おうとしても、学生であるがゆえに制約が伴うことである2)。さらに、患者の権利保障、倫理的側面や安全の観点から実習対象者の選択が難しく、実習内容は見学にとどまってしまう傾向があり、患者安全を基盤にした看護技術の患者への適用や、医療チームの一員として患者安全を高めるための取り組みへの参画などを経験する機会は少なくなっている。そのため、学生や新人看護師を対象にした患者安全教育の基盤づくりには、看護基礎教育と継続教育において教員と医療安全管理者を含む臨床との連携と協働がきわめて重要になる。

 聖路加国際病院(以下、当院)では、2016年度から聖路加国際大学大学院修士課程看護教育学上級実践コースを修了したClinical Nurse Educator(以下、CNE)が、学生から看護師への移行期教育を支える存在として、医療安全教育にも携わっている。本稿にて、その役割と活動について報告する。

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はじめに

 医療を必要とする対象者の高年齢化・重症化に伴い、医療現場の疾病構造は大きく変化している。特に急性期病院では医療の高度専門化と治療の重点化が課題となり、クリニカルパスに沿って入院期間は標準化され、地域包括ケアを視野に入れた医療連携として入院の段階から転院検討が始まる。そのような環境で臨地実習を行う看護学生は、患者の疾病や家族背景に向き合う時間だけでなく、現場の看護職と向き合う時間もタイトになっていないだろうか。

 筆者は今回の研究チームに、臨地実習を看護部で調整する立場としてかかわった。本稿では、日本赤十字社医療センター(以下、当センター)での実践例を紹介し、教育と臨地実習の現場が医療安全を共通課題としてどのように向き合っていけるか、課題と展望を述べる。

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はじめに

 健康科学大学(以下、本学)には医療安全を考える学生のサークル活動があります。

 2017年のある日、いつも熱心に私の授業を受けていた2年生から「先生、安全について考えたいけれど、教えてもらえますか」と相談がありました。本学の医療安全論の講義配置は4年次ですから、それまでの基礎看護学の臨地実習や私が授業で看護業務での安全の重要性を語ったことが、安全を考えるきっかけになったようです。快く顧問を引き受け、5名のメンバーで同好会として活動を開始しました(写真1)。

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はじめに

 新型コロナウイルス感染症(COVID-19)による未曽有の状況下で、鈴鹿医療科学大学(以下、本学)においても臨地実習が受入不可となった。そのため、文部科学省および厚生労働省の事務連絡(2020年2月28日付)1)をふまえ、臨地の学びに可能な限り近づけるよう工夫を凝らして、5月からの成人看護学(慢性期)実習を、Web会議システムを用いたオンラインにて実施した。この初めての試みを振り返り、課題を明らかにすることは意義深いと考え、ここに報告する。

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はじめに

 現在COVID-19によりわが国の政治、経済、医療、教育などが大きな打撃を受けている。特に医療現場での混乱は先行きが不透明であり、病院での臨地実習が根幹にある看護教育を行うわれわれも不安な状況に陥っている。看護教育施設においても、COVID-19の影響により臨地実習受け入れ施設から実習中止の要請があり、その代替策の1つとして文部科学省からはICTを用いた取り組み等1)が提案されている。

 しかし看護基礎教育においては、学内で知識や技術を得るだけではなく、それらをリアルな現場で実践し、経験を積み重ねることに重要な意味がある。特に、看護学生が初めて臨地に出向いて学習する基礎看護学実習は、看護の基本となるコミュニケーションについて、患者をとおして学ぶ場でもある。すなわち、学内で事例展開や学生同士の看護師―患者役の演習を行うだけでは典型的なコミュニケーションの形を体験したに過ぎず、実践的なコミュニケーション力の向上まで期待できない。筆者らは、コロナ禍による臨地実習の代替実習であっても、学生の健康を守りながら実習のねらいが達成できるよう、できる限り臨地の学びに近い方法、すなわちリアリティをめざした工夫、実践をしていくことが学生に対する実習の質の担保になると考えた。

 そこで修文大学看護学部看護学科(以下、本学)では、実習対象学生が状況判断のもと、「学内での実習」と「自宅からのオンラインによる遠隔実習」のいずれかを選択できるようにした。その実施にあたっては、学内でも在宅でも同様の実習ができるようにするために、Web会議システムを用いた方法を考案した。本稿では、オンラインでリアルタイムに劇団員が演じる模擬患者とのコミュニケーションを実践した方法と、その効果について紹介したい。

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臨床との連携を強める

 2019(令和元)年10月15日に将来を担う看護師の教育の指定規則改正案である「看護基礎教育検討会報告書」1)、2020(令和2)年10月30日には2022(令和4)年4月1日から適応される「看護師等養成所の運営に関する指導ガイドライン」の一部改正2)が公表され、別表3の「看護師教育の基本の考え方、留意点等」の教育の基本的な考え方のなかに「科学的根拠に基づいた看護の実践に必要な臨床判断を行うための基礎的能力を養う」という言葉が表記された。この臨床判断に必要な基礎的能力は机上だけで育成することはできず、卒業後の人材育成の充実を図るためにも、臨床との連携は不可欠である。

 今回と次回の2回にわたり、卒業後も看護師として働き続けることのできる看護師を育成したいと強く願い、松下記念病院(以下、記念病院)の看護部と共同してきた私たち教員の挑戦を紹介する。前半である今回は、学校という場における教育連携の実際について述べる。

連載 ナーシング・リープ 看護教育を一歩前進・1【新連載】

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この連載では、私がこれまで出会った「教育に関するキーワード」を1つ選び、理論家や文献から得た知識をご紹介しながら、等身大の目線で看護教育への応用を考えていきます。小さな一歩でも、日々積み重ねていけば大きなリープ(跳躍)になるという希望を込めて。

連載 発達障害など、対応が難しいと感じる学習者への教育・支援・1【新連載】

学習者支援とは 川上 ちひろ
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本連載では、教育者が対応に難しさを感じる学習者に対しての、教育・支援のあり方のヒントをお伝えします。ところで、看護の教育や支援のゴールはどこでしょうか。国家試験の合格でしょうか、就職できることでしょうか。筆者は、「学習者支援のゴールは、多様性のある学習者が生きがいをもって社会で役割を果たせることへの支援」と考えます。理想論ではありますが、対処ではなく、そうした支援をめざし、Q&Aの形式にてできるだけのアイディアをご紹介します。

連載 教育哲学を使って考えてみよう・1【新連載】

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私たちがいつの間にか当たり前だと思い込んでしまっている事象を、立ち止まって考えてみる。教育哲学を実践する連載です。答えではなく、新たな問いへ。あなたをいざないます。

連載 看護教員のICT活用教育力UP講座・4

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連載のねらい

IoT(Internet of Things)やAIなどのデジタル技術によりさまざまな知識や情報が共有され、新たな価値が創造される社会となりました。医療においても、病院、診断・治療、健康・生活システムにICTが導入される時代へと進んでいきます。看護学生が看護実践能力とともに情報活用能力を身につけることができるように、まずは私たち教員がICT活用を進めていきませんか?全12回の連載により看護基礎教育での「ICTを活用した授業設計」の習得をめざします。

*本連載の動画や資料を視聴するためにはQRコードを読み取る必要があります。QRコード読み取りの詳細は第1回をご確認ください。

連載 「食べたい」をめぐって・10

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「食べたい」の禁止系

 「あの、わたし糖尿病なんですよね。さしあたり、食べちゃダメなものってなんですか」

 数えたわけではないけれど、初診の外来で最も聞かれることの多い質問はこれだろう。ただでさえ話が長くなりがちな初診の外来で、この質問にどう答えるべきか、どこまで踏み込むべきか、いつも躊躇する。一見するとなんでもない質問のようだが、この質問が出る状況そのものが、1つのややこしい問題であるような気がしている。

連載 コミュニケーションの「困った」をスキルで解決!・10

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看護大学での最後の実習を終えた4年生のIさん。実習では終末期のがん患者さんを受け持ちました。実習を終えたところで、教員は学生1人ひとりと面談をすることにしました。面談の内容は、実習を終えた感想や実習中に整理できない気持ちや問題があれば、希望に応じて一緒に話し合って解決していく、というものでした。

面談のなかで、Iさんは実習を終えてみて達成感がない、結局私には何もできなかった、と話しました。こんなことではこれから病院で働くことができない、働く自信がなくなってきます、と少しうつむきながら伝えてくれました。

連載 看護教育×法律相談 知っておきたいトラブル対応のポイント・13

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事例

 実習を行っている病棟に、外国人と思われる褥婦が入院しています。その女性は先日救急搬送されてきて、赤ちゃんは早産でした。片言の英語でしか会話ができないため、名前を伺うのがやっとで、その他の情報についてはまだ確認できていないそうです。自分のことをなにも話さないので、病院職員の間では不法滞在のおそれもあるのではないかと、うわさが広まりつつあります。

 ある学生はその様子を見て、自分が職員だったら、一般市民としての通報義務と、専門職としての患者さんの守秘義務のどちらを優先すべきか迷ったようです。確実な証拠もないのに通報をしたら、患者さんを犯人扱いすることになってしまうのではないか、とも心配しています。

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目次

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生きた経験を未来につなげるための一冊

 医療者に特化し、最新の海外文献が盛り込まれたメンタリングを解説した翻訳本はこれまでになかっただろう。かつ、従来の「メンター」に向けられた心得だけでなく、メンタリングを受ける側の「メンティー」に向けての心構えまでを網羅しており、『医療者のための成功するメンタリングガイド』というタイトルにも納得だ。先日、突然とある看護大学の学生さんから連絡が来た。将来看護師になりたい、留学もしたい、両方実現している私の話を聞きたい、とのことだ。早速オンライン上で話し、まっすぐな思いと情熱に心を動かされたと同時に、自分が提供できる情報もコネクションも、すべて惜しみなく彼女に活用してもらいたいと思った。それが、私のなかで初めて「メンター」の役割が芽生えた瞬間だ。メンティーからメンターへの転換期を迎えようとしている私にとって、絶妙なタイミングでの本書との出合いに感謝したい。

 看護の世界でメンタリングという用語はあまりなじみがないかもしれない。プリセプターシップという一般的に病院で活用されている指導方法や、「指導者さん」と呼ばれる看護学生を指導する教育者など、看護の現場でなじみのある手法は多々あるが、メンタリングはそのどれとも異なる。本書を読了して感じた他との大きな違いは、メンタリングには互いに取捨選択できる権利があるということだ。著者によると、「メンターを引き受ける前に、メンティーになる人を慎重に吟味したほうがよい。その人物の成功の手助けをするということは、あなた自身の時間と個人的なエネルギーを犠牲にする、ということなのだ。だからこそ、軽々しく決断すべきでない」(Chapter 1、p.6)とある。逆もまたしかりで、メンティーも誰にメンターを依頼すべきかを吟味する必要がある。一見すると全員のメンターを引き受けないのはやや冷たく感じるかもしれないが、本書を手に取ればこの言葉の意味が理解できる。メンターになるということは、責任を伴い、支え合うという契りを結ぶことでもある。安易にメンターにならない、というのは誠実の表れだと感じた。本書には、メンタリングとの誠実な向き合い方が随所にちりばめられている。この新しいメンタリングという関係性が看護にも取り入れられれば、看護師としての熟練した知識や技術を次世代につなげるだけでなく、看護師のキャリアや選択肢が開けてくるという無限の可能性が広がるのではないか。

新刊紹介

INFORMATION

基本情報

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看護教育
62巻1号 (2021年1月)
電子版ISSN:1882-1391 印刷版ISSN:0047-1895 医学書院

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