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生きた経験を未来につなげるための一冊
医療者に特化し、最新の海外文献が盛り込まれたメンタリングを解説した翻訳本はこれまでになかっただろう。かつ、従来の「メンター」に向けられた心得だけでなく、メンタリングを受ける側の「メンティー」に向けての心構えまでを網羅しており、『医療者のための成功するメンタリングガイド』というタイトルにも納得だ。先日、突然とある看護大学の学生さんから連絡が来た。将来看護師になりたい、留学もしたい、両方実現している私の話を聞きたい、とのことだ。早速オンライン上で話し、まっすぐな思いと情熱に心を動かされたと同時に、自分が提供できる情報もコネクションも、すべて惜しみなく彼女に活用してもらいたいと思った。それが、私のなかで初めて「メンター」の役割が芽生えた瞬間だ。メンティーからメンターへの転換期を迎えようとしている私にとって、絶妙なタイミングでの本書との出合いに感謝したい。
看護の世界でメンタリングという用語はあまりなじみがないかもしれない。プリセプターシップという一般的に病院で活用されている指導方法や、「指導者さん」と呼ばれる看護学生を指導する教育者など、看護の現場でなじみのある手法は多々あるが、メンタリングはそのどれとも異なる。本書を読了して感じた他との大きな違いは、メンタリングには互いに取捨選択できる権利があるということだ。著者によると、「メンターを引き受ける前に、メンティーになる人を慎重に吟味したほうがよい。その人物の成功の手助けをするということは、あなた自身の時間と個人的なエネルギーを犠牲にする、ということなのだ。だからこそ、軽々しく決断すべきでない」(Chapter 1、p.6)とある。逆もまたしかりで、メンティーも誰にメンターを依頼すべきかを吟味する必要がある。一見すると全員のメンターを引き受けないのはやや冷たく感じるかもしれないが、本書を手に取ればこの言葉の意味が理解できる。メンターになるということは、責任を伴い、支え合うという契りを結ぶことでもある。安易にメンターにならない、というのは誠実の表れだと感じた。本書には、メンタリングとの誠実な向き合い方が随所にちりばめられている。この新しいメンタリングという関係性が看護にも取り入れられれば、看護師としての熟練した知識や技術を次世代につなげるだけでなく、看護師のキャリアや選択肢が開けてくるという無限の可能性が広がるのではないか。
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