保健婦雑誌 17巻1号 (1961年1月)

特集 生活をゆたかに

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 野良着にまで浸みわたつた文学

 短歌や俳句の結社は,どのくらいあるのだろうか.ずいぶんと多いに違いない.短歌をつくる友人がいて,ある結社の主宰者の作品をしきりにほめていた.私は,短歌にも俳句にもそれほど心をひかれない.それで,友人のほめた歌人のことももちろん知らなかったが,ある時,別の結社の主宰者である歌人にあつた時,ふと友人の言葉を思い出し,友人の推す歌人のことを聞いてみた.すると意外なことに,その歌人は,私のいつた歌人のことを少しも知らなかつた.

 こんなことを書いたからといつて,私には,何も,歌壇論や歌人論をするつもりはない.私は,ただその時私の感じたこと,つまり,わが国の人人の間に短歌や俳句がいかに広く浸みわつているかということをいいたかつたのだ.その一つの例として,私は,このエピソードを書いたのだ.

飾ることの意味 沢野 久雄
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 装えるひと

 仕事場をホテルに持つようになつて,もう2年を越えてしまつた.月のうち20日余りは,東京京橋の「第一ホテル」で1人ぐらしである.

 こんなに永く1つホテルで暮らしていると,そこで働く人びととも,次第に親密になつてしまう.フロントにいる女性たち,エレヴエイター係りの少女,グリルのひと,あるいは各階のステインョンにいるメイドさん,—一体,1,300の部屋を持つホテルに,何百人の女性が働いているのか私は知らないが,会えば大抵は目礼をかわす.立ち話しぐらいする人も,少くない.が,困ることがある.ホテルの外で彼女らに行き会つた時だ.

濫読・粗読・精読 野田 宇太郎
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 <週刊誌の氾濫とその影響>

 書物の出版部数では日本は世界でも屈指の出版国ということになるらしい.しかしそれは量のことで,書物の内容となる質はどうであろうか.おそらく世界でも最低に近いのではあるまいか.量の統計は出しやすいが,質の統計はその国の文化状態で計るよりほかはないので,私はまだそう統計表などを見たことがない。

 たまたま列車の客となつたり,飛行機の客となつたりして,他の客が何を読むかと注意していると,ほとんど例外なしに週刊誌を読みはじめる.中には一人で四,五冊の週刊誌を次々にめくつては置き,めくつては置くのがいる.飛行機では日米取り混ぜのそうした雑誌をスチュアデスが持つてくる.

人生に賭ける 田岡 典夫
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 ◆一言,前口上を

 さてさて困つたことになつたものであります.本誌の編集子のH君から"賭けとがめつさ"という題のもとに短文を書けとのこと.私は文筆をもつて世を送つているものでありますから,書けといわれると,よほど気に入らぬ相手でないかぎり書くのは義務だと心得ております.まして,H君は私の親友で,そして,碁敵です.そのお役に立つことなら,なんでも喜んでするのですが,こんどばかりは閉口しました.

 困る理由はいろいろあります.第一に弱るのはそれが"賭けとがめつさ"というものであることです.私は勝負ごとは好きすでが"賭け"ということにはあまり熱意がない.かりに賭けをすることがあつても,それは第二義的興味でしかありません.また"がめつさ"という言葉は,意味はわかつていますけれども,私のヴォキヤブラリイには落ちついていない言葉です.

上手なおしゃれ 戸川 エマ
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 「上手なおしやれ」について書けという御依頼を受けて,私は大変困つております.おしやれというものはなかなかむずかしいもので,私など齢50に近くなつても,いまだに妙な格好をしたりして,息子や娘に笑われているような次第で,みなさまにとやかく申上げる資格もないのですが,まあ自分のことは棚にあげて,常日頃感じていることを書き並べてみることにいたします.

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 ここでいう趣味とは何を指すのでしようか?

 「あの人の趣味は良い」とか「悪い」とか,よくいわれますけれど,いつたい趣味とは何を指していうのでしよう?普通,趣味の良い点は次のような言葉で表現されるので,そこから考えてみましよう.

  このみの良い服装をしている.

訪問のエチケット 原 奎一郎
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 先方の都合を考える

 よその家を訪問するのは,他人の生活の中へ足を一歩ふみいれることですから,まず自分の都合はあとまわしにして,先方の都合を先に考え,かりにも自分ひとりの都合で,相手の迷惑もかえりみず,勝手なとき,勝手な用事でノコノコ出かけていつたりしないように注意したいものです.

 その意味から,訪問の日取りや時間は,なるべく前もつて相手と打ち合わせておきたいものです,もつとも,これは原則として心得ておけばよいことで,ごく簡単な用事とか,玄関ですむような用談のときは,いちいち事前に打ち合わせをするにもおよびません.しかし,こうして気軽に立ち寄つた場合でも,相手が何か手ばなせない仕事で忙しそうにしているとか,来客が立てこんでいるとかいう場合だつたら,長居は無用です.さつさと引きあげて,ゆつくりたずねるには,また別の日をえらぶようにしなければなりません.

生活のスイッチ 小林 富美栄
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 "新しい洋服作つたのよ"

 "新しい洋服作つたのよ,みたいと思わない?""ハンドバックを買つたから見にいらつしやい.今日提げてきたのよ"こんな電話を友達にかける.電話をかけながらすごく楽しいのである.しかし誰にでもこう呼びかけるのではない.洋服を新調したことに私同様に価値感を感ずる友達だけに限る、こんな友達は,私のかけた電話に10倍もするような感動を送つてくる."洋服ばかり作つて,貴女ぜいたくね.いくらも着るのがあるじやない"もしもこういう返事が電話の向うでしてきたら,私のたのしい気持はいつぺんにつぶれてしまう.

 "また洋服作つちやつた.割に厚手のウールでね,一寸高いけど""へえー 貴女今度は何が原因なの,癪の種は何なの,ききに行つて上げようか""そう近日中にね.でも作つたらスーッとしてしまつた"

よい文章・悪い文章 長谷川 泉
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 文章は生きものである

 文章は人間が自分の考えや感情を他の人に伝えるために文字をかりて表現したものである.したがつて,そこには約束があつて,その約束を理解している人にだけ通用する.その約束は,人種が違つたり,国が違つたりすれば変わる.そればかりでなく,同じ人種であり,同じ国であつても,その約束が時代とともに変わるということもある.人の作つた約束であるから,変えようと思えば変えることもできるし,また変えようと思わなくても,自然に変わつてしまうということもある.人間が作つて,通用させているものであるから,その主体である人間が変われば,その約束も変わり得る.つまり,文章は生きていて変えうるものであり,また変わるものである.決して一定不変のものではない.

 文法というものがある、これは,ことばの機能を分析して体系づけたもので,いわば上述の約束の集大成のようなものである.ここで「ことば」という語を使つたが「ことば」と「文章」は同じではない.ことばは必ずしも文字をもつて定着されたものだけを指すのではない.日常私たちの会話「おはようございます.」「今日はお天気がいいですね.」と口から出る,音声をもつて一つのまとまつた考えをあらわし,意志を表現する機構が「ことば」である.

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 夫婦の関係は結婚という契約によつて成立し,夫という一人の男と妻という一人の女との,死にいたるまでの愛情を保証し合うことを基礎としている—あるいはそうあるべきだと,たとえばキリスト教は規定している.夫婦生活,家庭生活は,この規約の上に安定するのが常態である.

 ところが現代人,第一次・第二次の世界大戦を経て,現代人の生活は上述したような安定をいつも保つことが難しくなつてきた.これには社会学的な,あるいは心理学的な原因—それも単純ではなく複雑に作用し合う原因があつて,このようなバランスの破綻をきたす結果となつたのだと思われる.それは当事者の各自,夫なり妻なり,あるいは夫も妻も,いちがいに責められない場合も,たびたび見られるようである.戦前からの古い道徳律の定規を当てはめて,きびしく責任を問うには,あまりに複雑であり,デリケートであるのではないだろうか?

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 相川理恵子ちゃんは生後1年6カ月,身長も体重も標準以上の元気な赤ちゃんだったが,保健所の乳児検診で両側の先天性股関節脱臼が発見された。それから,お母さんと理恵子ちゃんの涙ぐましい努力の日がつづく。—手おくれになれば一生涯ビッコになってしまう先股脱を救う道は,いまのところ早期発見と早期治療以外にない。しかもそれについての正しい知識は,必ずしも十分に普及しているとはいえない。

 「東京都の調査では27人に1人の高率で,無差別に先股脱の赤ちゃんが生まれている。地方によってはさらに高率を示している。そしてほとんどは女の子だ。だが現在の医学では予防できない。出生後なるべく早く発見して治療すれば,ギプスをはめる必要もなく,特殊なおむつをあてるだけで直ってしまう。発見の遅速で,苦痛も手間も費用も段違いに手軽にすませられる」と,日本公衆衛生協会の内野総一氏は語っている。

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 千葉県国府台にある国立精神衛生研究所では,「精神衛生法第7条に定める精神衛生相談所,保健所または公立精神病院において,精神衛生の業務に従事している者に対し,再教育を実施して精神衛生技術者として必要な資質の向上を図り,これによつてわが国の精神衛生の向上に資する」という目的から,下記3種の精神衛生セミナーを実施している.

 1.社会福祉学科

ニュースコーナー

辺地の実情を訴える,他
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 医療施設に恵まれない辺地では保健婦の仕事は重要な意味をもつている.北海道の保健婦は790人,定員の半数にもみたない実情.以下はその座談会から拾つた辺地の衛生状態とその悩みのアラカルト—.

 ◆疾病率は農村よりも漁村の方が高く,農村では高血圧,神経痛,結核,カツケの順に多く,一方漁村は結核がトツプ.漁村では半年もフロにはいらないものがあり,そのため子供に気管支炎が多い.

保健婦の手紙

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 学院を卒業して一年,現実の職場の中で苦しんでいる二つのお手紙を紹介致します.悩みの形にはいろいろあります.また悩みの種類もいろいろあるようです.そこから,手さぐりで何かを【つか】み成長していくのだと思いますが,こうした方々を,はげまし,そして早く軌道にのせて上げることのできるような御返事がほしいと思います.返事をお待ちします.

 卒業して一年,ふとうつろな時間を迎えることの多くなつたこの頃です.

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 ヨーロツパの国々は,それぞれ隣国の刺激を受けることによつて,日進月歩の母子保護制度の改善がみられるが,国際的刺激の少ない島国日本の現状は—本年,国際小児センター主催の社会小児科学講義に出席した筆者に,フランス,イタリアの母子保健の制度と事業のあり方を聞いて,今後の公衆衛生活動のあり方について考えて見よう.

 フランス,イタリアでの小児保健事業を紹介するようにとの御依頼であつたが,小児保健と母体の保健が表裏一体であることを考えて,母子保護事業について述べてみたいと思う.小児保健上,遺伝学,優性学,胎生学のような出産前の因子研究が重視されている欧州では,母体と小児の保健は別々に取り扱かわれず,いつも母子保護という一単語に表現されている事に強い共感を覚えたためでもある.

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 I.A婦長の指導性—事例—

 ある保健所のA婦長は,どちらかというと神経質で,保健所業務には非常に几帳面であつた.そのため,何か懸案事項を決めるには,部下の職員全部をよんで何回も集団討議し,そのうえで話をまとめるという方法をとつていた.しかし,その事項が重要であろうがなかろうが,いつもそういう方法をとつたため,一部の部下からは不満の声がでた.それは,一つのことに取りかかると他のことが全く無視され,仕事が渋帯するという理由に基づくものであつた.

 ある日,A婦長は部下のBさんに「事務の処理方法がどうもスムーズでないようですから,これこれの方法で処理するように考えて,文書や記録に関する一連の処理手続を作つてください」といつた.そこでBさんは,その指示に従つて,いろいろと調査,研究をし,約2週間の後立派に処理手続を作つた.そこで,例のごとく集団討議にかけ,皆の希望意見を入れて,2,3の点を改正し,それを禀議書にしてA婦長に渡しておいた.Bさんは,自分の作成した手続が今後,自分達の基準になれば,苦労のかいがあつたという気持で,内心得意でもあつた.ところが,何日たつても決裁になつてこないので,例の「文書処理手続について」という件名の禀議は,どうなつているのかA婦長に問いただしてみたところ,「多少疑問の余地があるので,いま手許にあります.もう少し検討させてください」という返事だつたので,その時はおとなしく引きさがつた.

循環器系の疾患 松浦 十四郎
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 さいきん死亡原因の第1位にのしあがり,大きくクローズアップされてきた成人病,しかし流行を追うような気持ちで,それと取り組んではならない,必要なのはその重要性の深い認識と,抜本的な治療対策なのである.

 すでに2回にわたつて,消化器系疾患,呼吸器系疾患について解説しましたが,今回は最近注目されている成人病のうち,とくに問題となつている高血圧や心臓疾患の含まれている循環器系の疾患について検討してみましよう.

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 新しい年を迎えたからといつて,すぐさま新しい波が押し寄せるわけではないが,年改まれば人の心もおのずから改まるのが常で,そこに清新な夢をはらむ展望がひらけないでもない.1961年の公衆衛生は,まず母子衛生と成人病の二つの大きな問題に直面しているようである.従来惰性で動いてきたような公衆衛生行政を,どうしたら活発に発展させることができるか.新春放談ではないが,各界の先生方にそれぞれ大いなる夢をまじえたご意見をうかがつてみた.

コンタクトレンズ(21)

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 チヤタレー夫人はわいせつではない—D・H・ロレンスの「チヤタレー夫人の恋人」をめぐる本国イギリスの裁判は,本書を無削除で出版することを許した.無削除版の「チヤタレー夫人の恋人」はペンギン・ブックス社から,まず20万部出る.ペンギン・ブツクス社は,無削除の「チヤタレー夫人の恋人」の完本を印刷して倉庫に積んであり,その上での裁判であつたからだ.

 削除本は,ほんものの「チヤタレー夫人の恋人」ではない.そのような信念があるから,無削除の完本で世に送り出すか,全くの絶版か,そのような決意のもとに出版社はチヤタレー裁判に臨んだのである.かつて,わいせつの判定をくだされて公然と世に出ることができなかつた「チヤタレー夫人の恋人」は,大手をふつて世に送り出されることになつた.

表紙の写真

大阪の中之島にて
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 中之島の肥後橋と云えば,大阪市の中心地.

 水の都,といわれる大阪には数え切れない程の橋があるが,ここ肥後橋は,文字通り,大阪のメーンストリート近くにたちならぶビルデイングが心持ちけむつて見えるのは.やはり産業の隆盛を示すゆえんであろうか.水の都は,日々に煙の都に移りつつあるとか.それだけに保健婦の果さなければならない役割もまた拡がりつつある.沢山のビルからは,冷房病とか,神経症とかの新しい病気を持つた人々が,夕方の街にはき出されてゆくのである.

基本情報

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保健婦雑誌
17巻1号 (1961年1月)
電子版ISSN:2185-4041 印刷版ISSN:0047-1844 医学書院

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