特集 生活をゆたかに
よい文章・悪い文章
長谷川 泉
1
1本社編集部
pp.34-38
発行日 1961年1月10日
Published Date 1961/1/10
DOI https://doi.org/10.11477/mf.1662202251
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文章は生きものである
文章は人間が自分の考えや感情を他の人に伝えるために文字をかりて表現したものである.したがつて,そこには約束があつて,その約束を理解している人にだけ通用する.その約束は,人種が違つたり,国が違つたりすれば変わる.そればかりでなく,同じ人種であり,同じ国であつても,その約束が時代とともに変わるということもある.人の作つた約束であるから,変えようと思えば変えることもできるし,また変えようと思わなくても,自然に変わつてしまうということもある.人間が作つて,通用させているものであるから,その主体である人間が変われば,その約束も変わり得る.つまり,文章は生きていて変えうるものであり,また変わるものである.決して一定不変のものではない.
文法というものがある、これは,ことばの機能を分析して体系づけたもので,いわば上述の約束の集大成のようなものである.ここで「ことば」という語を使つたが「ことば」と「文章」は同じではない.ことばは必ずしも文字をもつて定着されたものだけを指すのではない.日常私たちの会話「おはようございます.」「今日はお天気がいいですね.」と口から出る,音声をもつて一つのまとまつた考えをあらわし,意志を表現する機構が「ことば」である.
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