助産婦雑誌 38巻12号 (1984年12月)

特集 分娩看護管理

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 妊娠の成立から分娩までのおよそ280日における妊産婦の生理的変化は他に比較すべきものがないほど大きなものといえる。まず受胎に始まり,小さな生命は日一日と着実な成長をとげていくが,その成長を支えるものは胎盤であり,またその胎盤を栄養するものは子宮であり,母体そのものである。そして分娩予定日周辺期を迎えて陣痛が発来し,半日程度の経過をもって分娩は終了する。その分娩に際して,産婦が陣痛による疼痛時に弛緩するための呼吸法や分娩第II期の怒責の問題,分娩時における子宮の循環動態や産婦のとる体位と子宮血流との関係,さらには胎児仮死の際に母体へ投与する酸素の効果など,分娩をとりまく生理的な諸現象について,これから検討していくことにする。

分娩管理への看護的視点 関根 龍子
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はじめに

 最近の産科領域へのME機器の導入にはめざましいものがあり,周産期医療の発展に大きな貢献をもたらしている。

 母体や胎児のもつ危険な因子をいち早く正確に把握できるという点で,ME機器の導入は,母児の安全な管理のために不可欠なものであることはいうまでもない。しかし,ここで再確認しておかなければならないのは,ME機器はあくまでも助産婦が産婦を診察する際の1つの手段であり,助産婦の観察対象は,ME機器ではなく,産婦であることを忘れてはならない,ということである。

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はじめに

 ロジャーズは,「人間行動の理解にとって重要なのは,その人の生活をとりまく環境でもなければ,事件でもない。最も重要なのは,これらの環境や事件をその人がいかに認識するかということである1)」と述べている。

 行動を決める決定的要因は,その個人の知覚の場(perceptual field)である。──その人自身によって見られるままの(as viewed by the personhimself)その人間と彼の世界になってくるということである2)。ロジャーズによれば,感情や体験が自己概念に矛盾するとそこに否認が生まれる3)。あらゆる不適応は,誤った体験の結果である。この誤った体験は,健全な自己実現的パーソナリティの自然の発達を妨害するものである4)。 ロジャーズの自己概念理論によれば,不適応行動とは,情動的および生理的反応にもとづく自分自身の評価と他者の評価との間の葛藤の結果である。このような葛藤を生じる情況下に置かれれば,いつも不安をおぼえ,その人は,そういう場面で傷つきやすく,これを無意識的に脅威と感じるのである5)

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はじめに

 観察とは何か。岡部は,単に目でみるだけでなく,看護者としての専門知識をもち,心をよせて見守りつづけることである,とのべている。また,分娩時に助産婦が「母子にとってよりよい看護」を行なっていくには次の2点が重要であるとのべている。第1点は,母子の生命の安全に視点をおいた即時的・即応的な判断力(cureに視点をおいた看護),第2点は,母子の自立に視点をおいた長期的・指導的な援助のための判断力(careに視点をおいた看護)である,と。

 このCureとcareの基本となるものは助産婦の観察力・判断力・実践力であるといえる。そして,その良否は,母子の健康度,ひいてはその人の将来をも大きく左右するほどの意味をもつものであることを自覚しなければならない。今回は,既知の分娩時の観察をふまえて私たちが臨床で実際に行なっている母体・胎児情報収集,特に胎児モニタリングの実際についてのべていきたい。

分娩時異常出血と救急対策 舘野 政也
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はじめに

 分娩時大出血の予知は,特別な場合たとえば血液疾患などの場合は別として,不可能であるといってよい。しかし,産科ショックといわれるもののなかで,もっとも大きなウエートを占めるものは弛緩出血,前置胎盤,早剥および子宮破裂などの分娩時の大出血である。最近,超音波による胎盤の位置確認や胎盤後血腫などの診断が可能になり,出血に対する準備ができるようになったが,これらは分娩例のごく一部であり,大部分の分娩例では分娩時大出血を予知するわけにはいかない。

 また,産科出血の原因は複雑多岐にわたっており,分娩前の種々のチェックが必要となってくる。分娩直後の大出血には血清フィブリノーゲン量の多寡も関与することは事実であり,このフィブリノーゲン量は赤沈値と相関することから,赤沈値によってフィブリノーゲン量の推定,ひいては分娩時出血の予測がある程度可能である。しかし,分娩時出血には他の要因も大きく関与するので,原因の究明も必要であるが,その対策はさらに必要である。以下,分娩時出血の原因と対策について述べてみたいと思う。

特別記事 誌上講演

21世紀へ向けての助産婦の役割 近藤 潤子
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 教育の領域では,卒業後10年,20年先に学習者が必要とする能力を育成することの重要性が強調されています。助産婦教育にも同じことがいえるとすると,助産婦教育の課題はますます大きなものになると思います。

 ところで,今から8年前,中近東諸国の看護レベルを引き上げ,ひいてはその保健事情を改善するために日本はなにかできないか,ということで,エジプトの看護教育を含む保健事情調査に参加したことがあります。その調査からは,保健事情の改善には「保健婦・助産婦・看護婦を強化することが先決である」という結論が得られました。というのも,調査時点でのエジプトの乳児死亡は1,000人中150人,今から2年前で1,000人中90人,日本では現在1,000人に7人を割ったところですから,最初の調査の段階では,実に日本の20倍もの乳児死亡がみられたからです。赤ちゃんは,下痢からくる脱水で至極かんたんに死んでゆくのです。

グラフ

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 私が夫の仕事の関係で生まれ故郷の福片県芦原町に戻ったのは,早16年前.愛育病院に再就職して12年めを迎えた今秋には,長女も嫁ぎ,肩の荷をおろした安堵感といくばくかの寂寥感を味わう昨今であるが,助産婦というやりがいのある職をもっていることへの感謝の念も改めて湧いてくる.4代めの助産婦はとうとう生まれなかったが,今回本誌編集部の求めに応じて,祖母,母,私と3代続いた助産婦の姿を皆さまに紹介させていただくことになった.

連載 ペリネータルケア・24

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はじめに

 近年の進歩した周産期医療や看護を考える場合,次の3つの時代的な変化を無視することはできない.すなわち,

 (1)現代は人為的に受胎が調節されたり成立する時代であること,(2)高度技術が医療に導入されて子宮内の胎児の形態ないし解剖学的な構造はもちろん,生理・生化学的機能からさらに行動学的評価まで可能となってきたこと,またそれを映像化できること,(3)出産が家庭から施設とくに病院という環境に移ってしまったこと,などである.これらのことを考慮して,最終回は周産期医療と看護の今後の課題を概略の形で述べるものである.

連載 助産婦のための臨床薬理・9

時刻分娩学[2] 柳沼 忞
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時刻分娩学の大きい課題

 前号において,陣痛開始の時刻あるいは分娩の時刻に,ほぼ24時間の周期性があることを解説した。そして,これが子宮の収縮性を高めるエストロゲンと,それを抑制するプロゲステロンの血中濃度の比の周期に関連するかもしれないことを示した。しかし,陣痛開始または分娩時刻の周期性の原因は,さらに多くの研究によって解明されなければならない。これが,当面している時刻分娩学の大きな課題であり,この解決が,前述したように,陣痛開始時刻または分娩の時刻の予知,陣痛誘発の適切な時刻の決定,あるいは早発陣痛の適切な治療につながると考えられる。

 ここでは,最初に陣痛開始に関係のある子宮の収縮性の日内リズムと胎児に存在する日内リズムについて説明したい。

私と読書

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退院後の障害児──育児・家族関係・地域社会の問題に多くの示唆

 "ちゃぼとひよこ"のぎれいな絵が表紙に印刷されていて,見事な配色ときめ細かな線に目をみはります。そして,次のような言葉が本の扉うらに記されていました。

 『外国にも知られる,日本の在来種"ちゃぼ" は,美しい羽毛をもつ小型で可憐な鶏です。 卵をかえすのも,子育ても上手です。 弱い子を心をこめて育て,子どもといっしょに 育ちたいと願う私たち親の会のシンボルなので す』

研究・調査・報告

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はじめに

 妊婦管理には,健康診査と保健指導のもとに行なわれるという,他科にない特色がある。つまり,妊娠週数に応じた問診・診察・検査および計測により,妊娠経過,合併症および偶発症の有無を観察することができ,それに基づいて妊婦の管理が行なわれるわけである。

 当院では助産婦が妊婦計測を行なっており,より早く異常経過を予知しなければならない立場にある。そこで,本研究では,超音波診断法その他のME機器の発達に伴い過小評価されているきらいのある子宮底長測定が,果たして胎児発育の診断の目安となりうるかどうかを統計学的に考察した。また,子宮底長測定により早期にIUGRを予知した2症例について,その経過を報告する。

産科内分泌学入門・21

糖尿病合併妊娠 安水 洸彦 , 加藤 順三
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 ブドウ糖は胎児の発育に最も重要なエネルギー源である。そこで,妊娠時の母体はみずからの糖代謝機構を変化させ,児に十分なブドウ糖を供給できるよう適応していく。

 このため,逆にいえば妊娠母体は糖尿病が発生しやすい環境にある。非妊時にはまったく糖尿病のない婦人が,妊娠中は血糖負荷テストで異常値を示したり,時には臨床的に明らかな糖尿病を発症することはしばしば観察される。

トピックス

第25回日本母性衛生学会開かる 本誌
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 第25回日本母性衛生学会(勝島喜美会長)が,10月18,19の両日,東京簡易保険郵便年金会館において,2,000余名の学会員の参加を得て盛大に行なわれました。母性衛生学会25年の歴史のなかで初めて助産婦職の会長が主宰する学会とあって,特別講演,シンポジウムなど学会運営の全般にわたって助産婦の活躍が目立った学会でした。

 一般演題は母子保健医学・看護の全領域にわたって合計234題,ここでも助産婦の発表が多数を占めていました。とりわけ注目を浴びたのは「母子保健における各職種の役割と協力」と題したシンポジウムで,産婦人科医・小児科医・助産婦・保健婦・ケースワーカーが各職種間の協力のあり方をめぐって真剣な討論をくり広げました。なお,次回は関場香(岡山大教授)会長のもと,60年10月17,18の両日,岡山市で開催されます。

My Point of View

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 そもそも,ラマーズ法が臨床的に日本に導入されたのは,10数年前のこと,外国人夫妻または国際結婚をした日本人を対象とする,ごくプライベートな出産教育クラスの指導者の行動力によります。麻酔分娩が主流のアメリカにおいて,その反動としてうまく女権拡張運動の波に便乗する形で胎動した自然分娩運動は,その当時,草の根運動から脱け出てようやく組織化が軌道に乗ったところでした。アメリカにおいてすら,当時は「進んだ」「物わかりの良い」一部の医療専門家にしか受け入れてもらえなかったのが実情です。

 しかし,在京アメリカ女性はグループパワーを戦力に,怖じず憶せず,一部の日本の産科医療体制に迫りました。グループの中心人物は,ASPOの出産教育者のライセンス取得を目指して勉強中の一児の母親でした。精力的に夜は自宅で外国人夫妻向きに出産クラスを開き,出産マニュアルを作成し,依頼があれば妊産婦の味方役として夜間のお産にも付き添いました。他のメンバー3人は,医療にも看護にも関係のない学部出身の大学卒でした。が,日本の施設分娩を体験し,体験者としてのアドバイス役という以上の才覚と情熱があり,他人の出産に関心があるという点では,単なる仕事欲以上の心根の優しさをうかがわせもするヤング・ミセスです。

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 第7回周産期医学国際シンポジウムのもう1つの話題は超音波断層診断に関してで,奇形診断ではいかに妊娠早期にそれをみつけるかなど多くの話題がありました。何といっても,ホビンズ教授はこの分野での第一人者ですから,彼の示したきれいな断層写真のスライドには会場からため息がもれたほどでした。小さい胎児の手指の合指症までがすばらしいエコーの映像で妊娠初期に診断されていました。エコーによる胎児奇形をいかに妊娠週数の早期に診断できるかという点にポイントが当てられていました。

 今までは,妊娠17〜20週ぐらいで,胎児の奇形をチェックするために,全妊婦をスクリーニング的にみる方法がよいとされていましたが,もっと早くから多くの奇形が発見されており,妊娠12週頃でも,かなりそれが可能だという事実も示されていました。また,そのためには,かなりよい器械と優秀な技師が必要だということもわかりました。

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基本情報

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助産婦雑誌
38巻12号 (1984年12月)
電子版ISSN:2188-6180 印刷版ISSN:0047-1836 医学書院

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