看護研究 52巻7号 (2019年12月)

特集 拡がる看護研究の未来

川口 孝泰
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 弊誌では折に触れ,看護研究の意味や意義,そしてこれからの展望について考えてきました。本号では,これまで看護界の一線で活躍されてきた川口孝泰先生(東京情報大学)のご企画とご協力により,看護研究が現在置かれている状況と,今後めざすべき未来を探っていきます。

 ご存知のように,ここ30年ほどでわが国の看護系大学数は急増し現在では250を超え,また,日本看護系学会協議会に参加する学会も47学会を数えるようになりました。数多くの学術論文が発表され,保健医療福祉分野を問わず,看護学はさまざまな学問とのコラボレーションを果たしながら,さらなる学際性や国際性の進展をめざし,幅広い方向に進化を遂げています。そこで本特集では,看護学のこれまでの学術研究の推移を現状分析・俯瞰しながら看護学の現在地を確認し,未来に向けた研究の方向性を考えます。看護学の礎を築き,発展を支えてきた主要学協議会,ならびに個々の専門領域で研究を推進し,常に時代を先取りして看護学の進展を導いてきた研究者の視点から,それぞれの歩みと果たしている役割,これからの看護学の使命について提言いただいています。

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1970年代—看護系学術分野のターニングポイント

 看護学を取り巻く現状は,「情報社会(Society 4.0)」から,サイバー空間(仮想空間)とフィジカル空間(現実空間)を高度に融合させたシステムにより,社会的課題の解決をめざす「超スマート社会:Society 5.0(人間中心の社会)」へと大きく変化しようとしている(https://www8.cao.go.jp/cstp/society5_0/index.html)(図)。筆者が看護学を学んだ1970年代においても,今日の社会変革を迎える状況と同様に,「情報社会(Society 4.0)」の到来に向けた新しい科学の方向性を示す多くの学術への問いかけがあった。その時代を顕す象徴的な著述として,看護学を学ぶ者にも馴染み深いトーマス・クーンの『科学革命の構造』(中山訳,1971)が挙げられる。クーンは「科学を哲学する」という立場で,人間の見方や考え方の前提が変化することで,新たな科学の扉が拓くことをパラダイム論によって論じた。この考え方は多くの科学者や哲学者に影響を与え,ニューサイエンス,ニューエイジサイエンスなどとも呼ばれたムーブメントにも連動していた。

 このような科学を哲学する動きは,哲学の分野に,「科学哲学」という新たなジャンルをもたらした。日本では,村上陽一郎氏や浅田彰氏などがその代表的な研究者である(村上,1979;浅田,黒田,佐和,長野,山口,1986)。この背景の中で,本誌『看護研究』も本年で52巻となり,この時期に産声を上げた雑誌として看護研究の発展を支え,多くの斬新な企画や,海外の看護研究事情を紹介し,その後の日本の看護界に大きな貢献を果たしたと考えられる。

これからの看護研究のために—主要学協議会の取り組みから

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はじめに

 日本看護系大学協議会(Japan Association of Nursing Programs in Universities;JANPU)(http://www.janpu.or.jp/)は,前身である「看護系六大学協議会」が,1974年(昭和49年)に発足したことに始まる。その名の示すようにわずか6大学からのスタートで,その後は10校の時代が10年あまり続いたが,1990年代に入り急速に看護学士課程の設立が加速し,設立から45年を経た2019年4月現在,会員校数は283学部教育課程註1となった。また,修士課程を有する大学は183校,博士課程を有する大学は101校で,CNS/NPの教育課程を含む大学院は,109校となっている。2019年4月現在の学部入学定員はおよそ2万5,000人で,全看護師養成機関の総入学定員の約4割を占めるに至った。2018年度の第108回看護師国家試験では,大学卒業者の国家試験の合格者は全合格者の36%を占める,2万618人であった。

 2010年には本協議会は一般社団法人となり,より社会的な役割と責任を担う団体となった。本法人の定款(http://www.janpu.or.jp/outline/rules/)には,「本法人は,看護学高等教育機関相互の連携と教育によって,看護学教育の充実・発展及び学術研究の水準の向上を図り,よって人々の健康と福祉へ貢献することを目的とする(定款第2条)」とある。また,この目的を達成するための事業として,1)看護学教育に関する調査研究,2)看護学教育の質保証・向上,3)高度実践看護師教育課程の推進,4)看護学教育に関する政策提言,5)看護学の社会への啓発活動,6)看護学関連団体並びに国内外の諸機関との相互連携及び協力,7)その他,本法人の目的を達成するために必要な事業と規定している。現在は,8つの常設委員会と,3つの臨時委員会を中心に事業を展開している。

 さて,本特集テーマである「看護研究」に対して,本協議会はどのような立場で関わってきたか,また関わっていくのか。定款の目的に照らすと,「看護学教育の充実・発展および学術研究の水準の向上を,教育機関相互の連携と教育によって貢献すること」であると考える。本稿では,看護学研究や看護学研究者を支える基盤を,看護学教育の質保証を通して整えていくことという観点から,1)看護系大学教員の確保と人材育成,2)看護学教育の質保証,3)政策提言および他団体との連携の3点について述べる。

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 私は現在,日本学術会議第二部会員ならびに日本看護系学会協議会会長を務めている。双方の活動を通じて,「いまこそ,看護学が社会にプレゼンスすべき時」であると切実に感じている。この考えに至った背景や取り組むべき課題について述べる。

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 一般社団法人日本看護研究学会(https://www.jsnr.or.jp/)の活動は,前身の4国立大学連絡協議会まで遡ると,2019年で50年目を迎えたことになる。当学会の主要活動事業である学術集会は,第1回目を1975年に徳島大学で行なって以来,今年8月には第45回目を大阪国際会議場において開催し,多くの皆さまのご参加を頂くことができた。このような今日を迎え,当学会が辿り来た道を顧みれば感慨深いものがあり,改めて先達の熱情とご尽力,そしてご苦労に思いを馳せ,謹んで感謝申し上げる。また,当学会へ日頃よりご支援いただいている皆様へ,この誌面を拝借して御礼を申し上げ,これからも変わらぬご支援をお願い申し上げる。

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はじめに

 筆者は,日本で看護師として臨床経験を積んだ後に米国の大学で疫学を勉強し,研究職として滞在した。そして帰国後は,疫学を活用できる量的研究を模索し,研究領域を広げていった。本稿では,認知症高齢者における徘徊の研究をベースに自身の研究を振り返るとともに,その中で得た知見やこれからの研究のあり方について考えていく。

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看護学における現象学的研究の位置づけ

 本特集において,質的研究,とりわけ現象学的研究が看護研究を支える根幹,および看護の独自性の根幹を形づくってきたとことについて紹介してほしい,と依頼を受けた。「根幹」という言葉が,現象学的研究のある側面を言い表わしているのであれば,まずは,いかなる意味で根幹となっているのかを考えてみたい。それは同時に,看護研究における現象学的研究の位置づけについて考えることにもなるだろう。

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現象学と看護学の接点

 「現象学(phenomenology)」という言葉は,かつて多くの看護師にとって耳慣れない,どのような字を書くのかもわからない(高橋,1985)ものであった。また,「現象学」という言葉自体が難しさを伴うこともあり,あえて使わないでいたこともあったようだ(早坂,1984)。しかし現在,看護学において現象学という用語は広く知られており,看護研究の一般的な質的研究方法にもなり,この方法を用いた多くの研究が報告されている。

 「現象学」は,20世紀初頭にフッサール(Edmund Husserl, 1859〜1938)によって創始され,その後,ハイデガー(Martin Heidegger, 1889〜1976)やメルロ=ポンティ(Maurice Merleau-Ponty, 1908〜1961)等々に批判的に受け継がれてきた哲学である(榊原,2007)。批判的継承と多様な展開の結果,現象学は「事象そのものへ!」という根本精神こそは受け継ぎつつも,独特の展開を遂げてきた(榊原,2011)。日本において現象学が最初に紹介されたのは1911年,哲学者の西田幾多郎によると考えられている(高橋,1985;渡邉,渡邉,高橋,2004)。

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川口 看護学は,ここ30年ほどでかなりの発展を遂げました。現在では数多くの学術論文が発表され,さまざまな学問とのコラボレーションを果たしつつ幅広い方向に進化を遂げています。この対談では,看護学のこれまでの学術研究の推移を俯瞰し,未来に向けた研究の方向性と,さらなる発展に向けた鍵を探っていきたいと考えています。特に,現今求められている学際性や国際性に焦点を当て,これまで積極的に他領域との融合を試み,国内外問わず数多くの研究成果を生み出されている真田弘美先生のお話を伺いながら,ともにいろいろと議論できればと思っています。

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はじめに

 看護研究の傾向を俯瞰して把握する取り組みは,これまでに看護研究全体を対象とした調査(片平,2006;小林,工藤,北島,山辺,2007;志茂,2008)および領域を限定して調査した調査(川口ら,2000;川口ら,2006;田中ら,2011;中戸川,出口,池田,2008)により行なわれてきた。これらの取り組みは,各文献を研究領域,研究デザイン,研究対象,著者所属等に関して量的に分析することで,その後の看護研究のあり方を検討するものであった。

 これらの取り組みにおける研究領域分類は,看護研究の専門家が策定した分類基準によって実施されてきた。そのため,研究領域における実際の研究活動の活発さや,領域の研究活動に関わる研究者の数などは反映されず,研究者が自律的に形成する研究グループの把握までには至ってこなかった。また,日本看護系学会協議会が2001年に23学会で発足して以来,2016年には44学会と1年に1学会を超えるペースで増加したことに表われているように,看護研究に関する学会の数は近年になって急速に増加した。そのために,先行研究がなされた時点では学会数が現在ほど多くなく,看護研究の各学会の立ち位置に関する分析は正確には十分ではなかったとも考えられる。

 今日,看護学は急速に研究が進み,また情報化の進化とともにそれらの文献情報も容易に得られるようになったことで,文献による看護分野における研究領域形成の分析が可能となっている。そのための手段の1つが,ネットワーク科学の分野で行なわれている共著者ネットワーク分析である。

 ネットワーク科学は,情報学を中心とする学際的な学問分野である。ネットワーク科学では,グラフに関する数学の理論であるグラフ理論をベースにし,世の中のさまざまな事象を,構成要素とその関係からなるネットワークとして捉え,その構造や機能を研究対象とする。ネットワーク科学における共著者ネットワーク分析とは,研究者をノード(節点・頂点)とし,論文の共著関係をエッジ(枝・辺)として研究者同士を結ぶことでネットワークとして扱い,研究分野がもつ全体的な傾向や研究者グループを洗い出す手法である。学術論文の共著者と共著関係によって構築される共著者ネットワークは,研究者同士のコラボレーションを表わしたものであり,この分析は研究者の自発的な研究活動によって形成された研究分野を概観するための有効な手段となる。このような分析手法は,科学計量学の一手法としても知られており,これまでにさまざまな研究分野において共著者ネットワークの分析が行なわれている(Fonseca, Sampaio, Fonseca, & Zicker, 2006;Newman, 2001;Newman, & Girvan, 2004;篠田,2011;杉山,大崎,今瀬,2006)が,筆者らの知る限り,看護研究に関して行なわれたものはこれまでになかった。

 そこで本研究は,看護研究の共著者ネットワークに対し,近年広く利用されているコミュニティ検出アルゴリズムであるLouvain法(Blondel, Guillaume, Lambiotte, & Lefebvre, 2008)を用いたコミュニティ検出を実施し,看護研究者のコラボレーションによる研究グループの傾向とその形成過程を明らかにし,今後の看護学の方向性を探ることを目的とした。また,特に歴史的に看護研究を推進してきた「日本看護研究学会」と「日本看護科学学会」を取り上げ,両学会が看護研究の専門性の形成に果たした役割についても分析する。

 これによって,以下のことが期待できる。まず,Louvain法を用いたコミュニティ検出により,看護研究における研究グループの自動的な検出が可能となり,その規模や関連性が定量的に評価できる。次に,研究者同士のコラボレーションによって自己組織的註1に形成された研究者グループの特徴を洗い出すことによって,看護研究全体を俯瞰的に把握するための新たな視座を得ることができる。また研究グループ形成に寄与した論文誌の役割を明らかにすることで,今後の学会の有り様や研究活動の方向性に関する示唆を得ることができる。

連載 集まる つながる 広がる 若手研究者のバトン・9

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若手研究者は,今日も看護の未来に向けて疾走中。

ここはそんな同じ目標を抱く者同士が,ぷらっと立ち寄り語り合う場所。

誌面をフィールドに,思いをバトンに乗せて語り継いでいきます。

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目次

看護研究 第52巻 総目次

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基本情報

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看護研究
52巻7号 (2019年12月)
電子版ISSN:1882-1405 印刷版ISSN:0022-8370 医学書院

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