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はじめに
看護研究の傾向を俯瞰して把握する取り組みは,これまでに看護研究全体を対象とした調査(片平,2006;小林,工藤,北島,山辺,2007;志茂,2008)および領域を限定して調査した調査(川口ら,2000;川口ら,2006;田中ら,2011;中戸川,出口,池田,2008)により行なわれてきた。これらの取り組みは,各文献を研究領域,研究デザイン,研究対象,著者所属等に関して量的に分析することで,その後の看護研究のあり方を検討するものであった。
これらの取り組みにおける研究領域分類は,看護研究の専門家が策定した分類基準によって実施されてきた。そのため,研究領域における実際の研究活動の活発さや,領域の研究活動に関わる研究者の数などは反映されず,研究者が自律的に形成する研究グループの把握までには至ってこなかった。また,日本看護系学会協議会が2001年に23学会で発足して以来,2016年には44学会と1年に1学会を超えるペースで増加したことに表われているように,看護研究に関する学会の数は近年になって急速に増加した。そのために,先行研究がなされた時点では学会数が現在ほど多くなく,看護研究の各学会の立ち位置に関する分析は正確には十分ではなかったとも考えられる。
今日,看護学は急速に研究が進み,また情報化の進化とともにそれらの文献情報も容易に得られるようになったことで,文献による看護分野における研究領域形成の分析が可能となっている。そのための手段の1つが,ネットワーク科学の分野で行なわれている共著者ネットワーク分析である。
ネットワーク科学は,情報学を中心とする学際的な学問分野である。ネットワーク科学では,グラフに関する数学の理論であるグラフ理論をベースにし,世の中のさまざまな事象を,構成要素とその関係からなるネットワークとして捉え,その構造や機能を研究対象とする。ネットワーク科学における共著者ネットワーク分析とは,研究者をノード(節点・頂点)とし,論文の共著関係をエッジ(枝・辺)として研究者同士を結ぶことでネットワークとして扱い,研究分野がもつ全体的な傾向や研究者グループを洗い出す手法である。学術論文の共著者と共著関係によって構築される共著者ネットワークは,研究者同士のコラボレーションを表わしたものであり,この分析は研究者の自発的な研究活動によって形成された研究分野を概観するための有効な手段となる。このような分析手法は,科学計量学の一手法としても知られており,これまでにさまざまな研究分野において共著者ネットワークの分析が行なわれている(Fonseca, Sampaio, Fonseca, & Zicker, 2006;Newman, 2001;Newman, & Girvan, 2004;篠田,2011;杉山,大崎,今瀬,2006)が,筆者らの知る限り,看護研究に関して行なわれたものはこれまでになかった。
そこで本研究は,看護研究の共著者ネットワークに対し,近年広く利用されているコミュニティ検出アルゴリズムであるLouvain法(Blondel, Guillaume, Lambiotte, & Lefebvre, 2008)を用いたコミュニティ検出を実施し,看護研究者のコラボレーションによる研究グループの傾向とその形成過程を明らかにし,今後の看護学の方向性を探ることを目的とした。また,特に歴史的に看護研究を推進してきた「日本看護研究学会」と「日本看護科学学会」を取り上げ,両学会が看護研究の専門性の形成に果たした役割についても分析する。
これによって,以下のことが期待できる。まず,Louvain法を用いたコミュニティ検出により,看護研究における研究グループの自動的な検出が可能となり,その規模や関連性が定量的に評価できる。次に,研究者同士のコラボレーションによって自己組織的註1に形成された研究者グループの特徴を洗い出すことによって,看護研究全体を俯瞰的に把握するための新たな視座を得ることができる。また研究グループ形成に寄与した論文誌の役割を明らかにすることで,今後の学会の有り様や研究活動の方向性に関する示唆を得ることができる。
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